武芸者が幻想入り   作:ㅤ ْ

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『知識』


第11話

 「よー、いきなり剣を抜いた時はどうなるかと思ったが流石だなぁ」

 

 

 幻想郷、紅魔館門前。門番を戦闘不能に追いやった川上に魔理沙はそう賛辞を送った。

 

 

 

 「上手くいったから良かったが正直ぎりぎりの綱渡りだった。もう御免だな」 

 

 タバコをゆっくりと吸い紫煙を吐きながら川上はそういう。勝負はあっけなくついたものの何か一つ違えば地に伏せていたのは自分かも知れなかった事を川上は自覚していた。

 

 

 「しかし美鈴に棒手裏剣を投げたのはいつどうやったんだあれ?」

 

 

 「手の内に最初から握りこんでおいて斬りこむ振りして打っただけだ」

 

 

 川上は何でもない事のように言うが手の内に剣と一緒に手裏剣を握り込みフェイントを兼ねた斬撃の動作で標的に手裏剣を打ち当てる。それを実戦レベルであっさりこなすのはあまり武器術や体術は専門ではない魔理沙にも超高等技術だというのは想像出来た。

 

 

 「どうだ、何なら私と一緒に妖怪退治の仕事でもするか? お前が前衛をやれば効率よく戦えそうだぜ」

 

 

 魔理沙は川上の白兵戦の実力を買っているのかそんな提案をする。

 

 

 「いや、仕事をするかどうかは別として門番も倒したのだからとっとと此処に来た要件をすませないか」

 

 「おっと、そうだな、じゃあ図書館に行くぜ」

 

 

 早く終わらせたがっているやる気のない川上の台詞に魔理沙は当初の目的を思い出し図書館に向かう事にした。

 

 

 短くなったタバコを投げ捨て川上は館に入る魔理沙に続く。

 

 

 

 「なんか、随分広い印象を受けるな」

 

 

 館に侵入し魔理沙と廊下を歩きながら川上は思った事を口に出す。

 

 

 「あぁ、ここのメイドが空間を弄って中を広くしているらしいぜ。迷わないようにな」

 

 

 

 「ふぅん」

 

 

 魔理沙の返答、空間を弄っている等という色々規格外な現象を聞かされた川上はやっぱりどうでもよさそうだった。

 

 

 「お前は本は読む方か?」

 

 

 「あまり読まないな。まぁ面白い知識が得られる本等は読んでて面白いと思うが」

 

 

 魔理沙の質問に川上はそう答える。

 

 

 「そうか、ならお前でも楽しめる本がここにもあるかも知れないぜ」

 

 

 「そうか」

 

 

 なるべく川上の興味をそそろうと魔理沙はしたのかも知れないが川上はやっぱりテンションが上がり切らなかった。

 

 

 

 魔理沙はむぅ、と小さく呻き、中々気難しい奴だな、等と考えた。

 

 

 ――そんな二人を見つけた一人の存在がいた。

 

 

 なんて事はないこの館に人員過多ではないかという程雇われているメイドである妖精の一人だ。

 

 

 そのメイド妖精は魔理沙と見慣れない男を見付けて大して仕事をしない妖精としては珍しく館の者としての責務を果たそうとした。まぁ、単なる気まぐれかも知れないが。

 

 

 

 「しんにゅーしゃだー!」

 

 

 メイド妖精は侵入者を追い出そうと、子供程しかない身の丈を越える大きな槍、ランスを構えて突進してきた。狙いはメイド妖精にとっては謎の男、川上か。

 

 川上はちらりと突進してくるメイド妖精を見ると魔理沙の襟首を掴む。

 

 

 「ぐえっ」

 

 

 そして自然な体の動きで魔理沙と自分の立ち位置をクルリと入れ替えた。つまりメイド妖精が川上へと突っ込んでくる射線上に魔理沙が立てられた事になった。ありていに言うと魔理沙が川上にとっての盾である。

 

 

 「って! うおわっ!」

 

 

 いきなり目の前に槍を構えたメイド妖精が迫ってくる事になった魔理沙は慌てポケットからマジックアイテムのミニ八卦炉を取出し構え中太の高熱量のレーザーを放ち、すんでの所でメイド妖精を吹っ飛ばし事なきをえた。

 

 

 

 「殺す気かッ!?」

 

 

 自分を盾に使った川上に思わず魔理沙はそういう。しかし

 

 

 「いや、少なくとも俺に殺す気はない、その気があったのは俺じゃなく今のメイドだろう」

 

 

 

 しれっと川上は何でもない事のように言う。

 

 

 「こういう奴なんだぜ‥‥」

 

 

 やっぱりぶっ飛んだ所のある川上に魔理沙はげんなりする。もっともこの幻想郷ではこんくらいトんでる奴の方が多いくらいなのだから魔理沙も慣れてるといえば慣れていたが。

 

 

 「‥‥もういいぜ、図書館はそこだ」

 

 

 「あぁ」

 

 

 若干疲れたように魔理沙がいい川上を伴って図書館に入っていった。

 

 

 そして川上が見る事になった図書館は凄まじいまでの面積を誇るものであり等間隔に並べられた巨大な本棚にこれまた膨大な量の蔵書が納められていた。これは凄いな、流石の川上もここまでの規模とは思わなかったのかそう思った。

 

 

 

 「こっちだ、常に引き籠もってる魔女がここにはいるからな」

 

 「さぞかし本の虫の魔女だろうな」

 

 

 「間違いじゃあないぜ」

 

 そんな事をいい魔理沙と川上の二人は図書館を歩く。その先には少し開けたスペースがあり、本等の雑多な物が山積みにされたテーブルがありその前に椅子に座った一人の少女が本を読んでいた。

 

 

 

 「あれが引き籠もりの本の虫か」

 

 

 「そうだぜ」

 

 

 「‥‥なんか今失礼な事言われた気がしたんだけど」

 

 

 二人のやりとりに魔女は本から目を外し二人の方をじろりと見る。その紫がかった眼は川上と同じく半眼で正面や上を見る時三白眼がちになっていた。もっとも彼女の場合視力が悪いせいでそんなジト目がちになっているのだが。

 

 「よー、パチュリーまた遊びにきたぜ」

 

 

 「本を盗みに来た、の間違いでしょ。遊びにくるのはいいから持っていった本をたまには返してよ」

 

 

 「まぁ、気が向いたら返すぜ」

 

 

 そういう彼女が気が向く時が果たして魔理沙が生きてる内にあるのだろうか。

 

 そこでパチュリーは川上に目を向ける。川上もパチュリーに目を向けていたので二人の感情を現さない目が合った。そして二人は互いに互いを観察する。魔女―――パチュリー・ノーレッジは川上の着ている服、目付き、身につけてる刀、佇まい等をみて外来人と判断した、ただし得体の知れないとつく。川上はパチュリーの外見を観察した。深い紫の長い髪に月を模した飾りのついた帽子を被っている。服はローブのようなゆったりとした服を身につけており体格が分かりにくい、が顔の血色や呼吸のリズムをみるとあまり健康そのものとも思えない。しかし纏う空気は一般人とはやはり違うか、川上はパチュリー観察しそう思った。

 

 そして二人は同時に視線を切った。

 

 

 「まぁ、いいわ小悪魔はいる?」

 

 

 パチュリーは川上については言及はせずにこの図書館の司書係を呼んだ。

 

 

 「はい、お呼びですかパチュリー様」

 

 呼ばれて現れた司書は赤い長髪にシャツに黒いベストとスカートを着て頭と背中にコウモリのような羽のついた少女だった。小悪魔だなんて名前というよりただの種族名だな、川上はそう思い誰にも気付かれないよう冷笑を浮かべた。

 

 

 「お茶を三人前用意してちょうだい」

 

 

 一応川上も数に入っていた。

 

 

 「はい、わかりました」

 

 小悪魔は用意の為に奥へと歩いていく。

 

 

 「おっ、気が利くな、サンキュー」

 

 

 「ありがとう」

 

 

 

 二人は各々礼を言いながらパチュリーと同じく机の前の席につこうとして――川上は背負ってる野太刀が椅子にぶつかってしまい座れなかった。ぬぅ、と唸り何とか椅子の隙間から拵を通して座れないかと試してみるがどうも上手くいかない。

 

 

 「‥‥背中から外して立て掛ければ」

 

 

 見かねてパチュリーが川上に初めて声をかける。

 

 

 「そうするか」

 

 

 結局川上は背中から野太刀を外してテーブルに立て掛けた。しかし比較的長身の川上が背負っているとあまり感じられないが立て掛けられてると刀の長大さが目立った。

 

 

 「やっぱりそれ持ち歩くの邪魔なんじゃないか?」

 

 「俺もそんな気がするが俺が使える武器の中でこれが白兵戦では一番だからな。身につけてないと心もとないんだよ」

 

 

 そう魔理沙に答えながら川上はタバコを取出し火を付ける。するとパチュリーが本から目を離さないまま指先を川上に向けた。

 

 

 「水克火」

 

 

 小さくパチュリーが呟くと川上がくわえていたタバコがジュッと音を立て火が消える。紙巻きの半ばまで濡れてしまいもう吸えないだろう。

 

 

 「‥‥図書館は禁煙」

 

 

 パチュリーの言葉にぬぅ、と唸り濡れてしまったタバコを握り潰してポケットに戻した。やはり紙媒体である本を保管する図書館で煙はまずかったのか、もっともここの本はパチュリーの魔術によってそう簡単に痛まないように保護されていたが。

 

 

 それにパチュリーの持病が喘息という事もありタバコはここでは良くないのだろう。川上がそれを知るよしもなかったが――いや、川上はあるいはパチュリーの持病をわかっていたのかも知れないが、現に先程パチュリーを観察していた時に彼女の呼吸に喘息の症状の高い笛のような音‥‥喘鳴が僅かに混ざっていたのを川上は耳ざとく聞き取っていた。

 

 

 「お待たせしました」

 

 

 トレイにポットとカップを三脚乗せた小悪魔が戻ってきて、カップを置くとポットから濃さが均一になるように三脚のカップに少しずつ回し注ぎ、満たされたカップを三人の前に置いた。

 

 

 「ありがとう」

 

 

 「ありがとう」

 

 

 「サンキュー」

 

 

 三人各々礼をいい紅茶に手を付けた――


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