武芸者が幻想入り   作:ㅤ ْ

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第13話

 紅魔館内部、地下図書館

 

 メイド長の十六夜咲夜は自身の『時間を操る程度の能力』を利用し時間を止めてから川上の横に立ち時間停止を解除するという形で対外的に見ればまったくの唐突に川上の横に現れた。

 

 「お客様」

 

 

 「なんだ?」

 

 唐突に現れ声をかけてきた咲夜に驚きも見せずに川上は応じる。しかし咲夜が現れた瞬間腰に差した刀に添えた左手が極小さな動きで鍔を親指で押し上げ刀身を鞘から僅かに抜く――鯉口を切っていたのを咲夜は見逃さなかった。

 

 

 「初めまして、私はこの紅魔館でメイド長を務めています。十六夜咲夜です」

 

 「初めまして、川上という。宜しくお願いする」

 

 まずは軽い自己紹介から挨拶に入った咲夜に川上もそう返礼する。

 

 なおパチュリーは咲夜の突然の乱入にも興味無さげに本を読みつつ紅茶に口を付けていた。

 

 

 「川上様、ですね。実はこの館の主君であるお嬢様が貴方に会いたいと」

 

 

 「ここの主、確か‥‥吸血鬼だとかいう?」

 

 

 「はい、吸血鬼で有られるレミリア・スカーレット様です」

 

 

 「何故?」

 

 咲夜の言葉に川上はわざわざ自分に会いたいという吸血鬼の真意を問う。

 

 「お嬢様は『面白そうだから』と仰ってました」

 

 

 「そうか、それは仕方ないな、面白そうなら」

 

 そう川上は疲れたように言う。つまり川上を呼びつけた事に大した理由は無いらしい。いや、面白そうだから、とはむしろ大した理由なのかも知れない。

 

 「お嬢様のお部屋までご案内します。ついて来て下さい」

 

 

 「わかった」

 

 暇だからまぁいいかと川上は思い、残った紅茶を飲み干しカップをカチャリとソーサに置き立ち上がった。その際さりげなく鯉口を切っていた刀を納め、立て掛けてあった野太刀も手に取る。

 

 そこでふと、今まで反応を見せなかったパチュリーが本から咲夜に目を向けた。

 

 

 「‥‥レミィ、暇なの?」

 

 

 

 咲夜は微妙な苦笑いでお茶を濁した。

 

 川上が野太刀を紐で背負い終わると咲夜は言った。

 

 「では、行きましょう」

 

 「あぁ」

 

 そういい、二人は連れ立って図書館を後にした。

 

 一人取り残されたパチュリーは小悪魔を呼び紅茶のお代わりを頼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――紅魔館廊下

 

 

 図書館を出た二人は咲夜が先に歩き先導し川上がその三歩やや斜め後ろを歩く。

 

 前を歩く咲夜をぼんやりと川上は観察していた。歩みながらも体の軸がまるでブレず足の使い方も踵から着地し爪先に重心移動し踏み切るという歩みは彼女の靴からまるで足音がしなかった。その歩法だけみても咲夜が体術に熟練しているのが川上にはわかった。

 

 もっとも川上本人の歩みも全くの無音だったが。

 

 「ちょっといいか?」

 

 

 「はい、何でしょうか?」

 

 

 足を止め咲夜に問い掛けた川上に咲夜はそう応じる。

 

 

 「3分だけ待ってくれないか? 一服だけしていきたい。もしかしたらこれが最後の一服になるかも知れないしな」

 

 

 川上は窓を指差しそういう。単にタバコが吸いたかったのだろうが最後になるとは本気で言っているのか冗談かその気楽な口調から判断がつかない。

 

 「わかりました。そこまで急ぐ必要もないので、どうぞ」

 

 

 「ありがとう」

 

 

 川上はそういい廊下の窓を開けタバコを取り出し火を付ける。ゆっくりと両切りタバコを燃焼させ風味を楽しみながら窓から軽く身を乗り出すように空をぼんやりと眺めた。

 

 その姿を見ながら咲夜は思う。先ほど図書館では時間停止で川上に接近した瞬間彼は鯉口を切ったこと、そして今はこちらに背を向け悠々とタバコを吹かしてる。

 

 隙がないのか隙だらけなのか咲夜からしても良く分からない男だった。タバコを吹かしつつ空を見上げるけだるげな横顔からも何を思っているのかも読みとれない。

 

 この男がお嬢様と会っていったいどうなるかもよく分からない。どうか失礼がなければいいが。

 

 川上は携帯灰皿を取り出し、短くなったタバコをもみ消し灰皿に入れた。

 

 

 「待たせた、行こうか」

 

 「はい、こちらです」

 

 

 そして二人は再び歩きだし三階の一室、ドアの前で立ち止まった。どうやらここが吸血鬼の主の部屋らしい。

 

 「お嬢様、お客様をお連れしました」

 

 

 咲夜はドアをノックし中の吸血鬼――レミリア・スカーレットにそう報告した。

 

 「え、客! 誰!?」

 

 

 そして中から帰ってきた答えは幼い女の子の素っ頓狂な声だった。まさか彼女は自分で川上を呼び付けた事を忘れていたのか?

 

 

 「‥‥いや、先ほどお嬢様が面白そうだからお連れしろと言った方ですよ」

 

 

 咲夜は若干呆れまじりにそういう。

 

 

 「‥‥あぁ! そう、もちろん覚えていたわよ。とにかく入りなさい」

 

 

 レミリアはやっと思い出したのかドア越しに威厳を取り繕いながら入室を許可した。

 

 

 「どうぞ」

 

 

 咲夜はドアの前から身を引いて川上に入室を促す。どうやら川上本人から部屋に入れということらしい。

 このドアの向こうにいるのは妖怪としても特に強力な生物である吸血鬼、川上はそう聞かされていた。

 

 しかし川上に気後れは無かった。何故なら相手は吸血鬼でも川上は人間、人間こそが地上を支配する生物の頂点だと川上は理解していたからだ。

 

 相手がどれほどの化け物でもこちらも人間として相応の威厳を見せるべきだ、そう思った川上は初登場こそが肝心だとドアを颯爽と押し入ってスマートに入室をしようとして‥‥

 

 

 バンッ!とドアに顔面から華麗に激突した。

 

 なんて事はない、そのドアは押し開けるのではなく手前に引いて開けるべきだったのだ。

 

 川上は打った鼻っ柱を押さえ蹲る。それを見ている咲夜は無表情を装っているが口の端が僅かに失笑を浮かべているように見えるのは果たして気のせいか?

 「‥‥一体何やってるの?」

 

 

 中々入ってこず、さらにドアになぜか衝撃が走った事からレミリアが中から疑問をもらす。

 

 なんとか痛みから復活した川上は顔を上げる。人間の尊敬を保つだとか柄でもない事を考えた結果最初の一手でケチがついてしまいもはや彼はどうでも良くなってしまった。

 

 

 「失礼する」

 

 

 川上は今度こそドアを開けごく普通に入室した。

 

 室内は広く全体が紅い色を基調とした豪華な部屋、その部屋の真ん中に吸血鬼は立っていた。

 

 吸血鬼――レミリア・スカーレットは背は子供そのものの低身長、ピンク色の衣服に身を包み、背中からは蝙のような大きな羽が生えている、髪は短めな水色かがった青にナイトキャップのような帽子をかぶっている。特徴的なのは眼で吸い込まれそうな深紅の光彩はいかにも魔的な光を放っている。

 そのレミリアが冷笑を浮かべながら川上を見て言った。

 

 

 

 「ようこそ人間。私が夜の支配者たる吸血鬼、レミリア・スカーレットよ」

 

 

 「はじめまして、俺はただの人間の川上だ」

 

 

 

 これが吸血鬼と人間の出会いだった――

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