武芸者が幻想入り   作:ㅤ ْ

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第131話

 その日、十六夜咲夜は買い出しに出ていた。

 

 いつものように人里で手に入る食料や生活必需品を買い足し。ついでに道具屋などで何か面白いものはないかと見て回り。昼食を食事処で摂る。

 

 これも咲夜にとって仕事の一環ではあるが、何だかんだで羽を伸ばせる時間である。こうして外にたまにでるのも気晴らしになり好きだった。

 

 昔は人間は嫌いだったが、幻想郷の人里では馴染みの店の店主や多くの人と顔見知りになり人懐っこく挨拶を交わし軽く雑談にも興じる。

 

 異端の奇術を使い、血に汚れ、悪魔に跪く咲夜を恐れも避けもせず当たり前のように接してくれる人々は多かった。そういえばあのめんこいお嬢ちゃんは最近みないけど元気かい?などと店の中年に聞かれ咲夜は思わず笑ってしまう。夜の女王レミリアの事を言っているのだ。

 

 地の底を這い、泥を啜る。地獄から咲夜を救い出したのは神ではなく悪魔だった。

 

 そうしてこのような人々と出会えた今の幸福に、悪魔(レミリア)に咲夜は感謝をしていた。

 

 そうして、必要な買い出しを終えて咲夜は里を出て帰宅の途に着く。紅魔館とは対して離れておらず、徒歩なら三十分な道だ。飛べばもっと早く、能力を使えば対外的な移動時間は零となる。

 

 しかし、咲夜は飛ぶ事もせずに道を歩いた。林の中で立ち止まった。

 

 人里にいた頃からずっと、段々と強くなっていく背中にピリピリと感じていた敵意。恐れ、嫌悪が混じった、咲夜にとっては懐かしいものだった。

 

 これを放っておいて持ち帰るわけにもいかなかった。

 

「私に何か御用でしょうか」

 

 咲夜が背後に冷たく硬い声色で丁寧に告げると、男達は姿を現した。

 

 咲夜は目線を走らせ数える。多い、両手の指では足りない。見えるだけで15、いや16か。

 

 敵意は膨れ上がって明確な殺意に近いレベルで咲夜に向けられた。まさか、本気で殺し合うつもりで。そう咲夜は考えた。

 

 平穏な日々で咲夜自信も少し平和ボケがあったのかも知れない。咲夜は自嘲する、あの子を見習うべきだなと。

 

「こちらが言いたい事は一つだ」

 

 先頭に立った三十代後半と思わしき男が言った。

 

「紅魔館に清水と名乗る男がいるだろう、その男を引き渡して貰いたい」

 

 咲夜は首を傾げた、何の事だと考えて、ピンと来た。偽名?川上の事か?

 

「何の事でしょう?」

 

 しかし、咲夜は何もわからぬと応じた。

 

「白を切る必要はない。黒い洋装。刀と長刀の二口。気味の悪い目付きをした男。あんた達の所にいるはずだ」

 

「何か勘違いしているのでは?紅魔館に清水という人物は居ませんが」

 

 男の追求に咲夜は、相手の言う清水が間違いなく川上の事だと理解したがしかし、毅然と、冷静に答えた。嘘ではない。その男を咲夜は知ってはいるが、少なくとも清水いう男は紅魔館には居ないのだから。

 

 この連中は単純に川上に対する敵視だけで動いてるわけでは無さそうだ。咲夜はそう思った。何故なら先程から咲夜に向けられる皆の害意、悪意はある種純粋だからだ。咲夜はこれをよく知っていた。川上はどうも面倒な連中の恨みを買ったらしいと理解した。

 

 片方が詰問し、片方は否認するという状況を破ったのは別のまだ若い一人が発した一言だった。

 

「しらばっくれるな!穢れたコウモリ妖怪のい」

 

 彼の言葉は最後まで発する事は無かった。言い切るより先に咲夜の投げ打った銀のスローイングダガーが彼の眉間を貫いて即死させたのだ。咲夜が主人を愚弄する者を生かしておく訳も無かった。

 

 どさり、と一人が倒れたのを見てもあまりに一瞬の出来事に皆何が起こったか把握するのに数瞬かかった。悠長な話である。咲夜がその気ならこの時点でもう全滅していただろう。

 

「貴様……」

 

「清水という男は知らないし。仮に居たといても貴方達に引き渡す理由も義理もないわね」

 

 気色ばむ男達の前で悠然と髪をかきあげながら咲夜ははっきりと言った。

 

「帰りなさい。それとも土を還る?」

 

「話合うなんざ最初っから馬鹿馬鹿しかったな」

 

 咲夜の言葉に応じて。男達の皆刀や合口、槍を抜き臨戦態勢に入った。

 

「てめえらみないな人間の癖に妖怪共のいいなりになるような屑共がいるのが悪い。てめえの首を宣戦布告の狼煙代わりにしてやるよ」

 

 その言葉に咲夜は応じる何処では無かった。何故なら本来ならもう終わってるはずなのだ。くだらない口上を述べてる男の後ろに時間停止で移動して能力解除と共に刺殺。すぐにまた時間停止して次の男の後ろに移動し解除し刺殺。これを機械的に15回繰り返して終わりなのだ。

 

 なのに……

 

「何を、したの?」

 

 止まらない。能力が使えない。いつも当たり前のように使っている腕、その腕の動かし方が急にわからなくなったように能力が回らない。

 

「ご自慢の奇術はどうやら確かに使えなくなったようだな」

 

 男の一人が優位を悟り顔をニヤけさせながらそう言った。

 

「……どういう絡繰かしら?」

 

「どんなすげぇ手品だってタネが割れてりゃ大した事はねぇと思わないか?てめえは奇術師としては三流もいいとこってことよ」

 

「そしてこっちはタネは明かすつもりはないぜ!」

 

 その言葉と共に一人が咲夜に向かい刀を振り上げて躍りかかった。敵の生命線である能力さえ封じたいま、彼我の戦力比は1:15勝ちは確実である。

 

 そう皆考えていた。

 

 躍りかかった男はダガーの投擲でカウンターで喉を貫かれた。その時にはもう狼のように飛び掛った咲夜のナイフがさらに二人の男の喉を食い破った。

 

 3人が血飛沫を上げて倒れ伏せる中頬を返り血で染めた咲夜は左手に銀のダガー。右手にステンレススチールのハンティングナイフを構えてて悠然と立っていた。口元に氷のような笑みを浮かべて。

 

「タネを封じれば奇術師は何も出来ないとでも思った?」

 

 咲夜が告げた。残りの男達は総毛だった。ヤバいと。

 

「例えタネが割れていても驚かせるのが一流。一流の切断奇術、御覧頂きますわ」

 

 能力を失ってもなお折れぬ。諸手に狼の牙を煌めかせて咲夜は地を蹴った。

 

 長物を持つ男達の攻撃。咲夜は鋭いフットワークで囲まれぬように動きながら、剣をそのしなやかな体捌きでかわしながら距離を詰めざま相手を切り刻んだ。槍使いが近づいてきた所を左のダガーの投擲で首を貫く。

 

「うちの猫の動きに比べれば欠伸が出るわね」

 

 言って、咲夜は一人の鳩尾を一突きにする。一人、また一人とやられていく。異能を奪えば能力者など取るに足らないと考えた男達の短絡的思考であった。

 

 十六夜咲夜の戦力も、彼女を育んだ骨子も確かに生まれ持っての能力だったかも知れない。

 

 しかし十六夜咲夜の人間性は決してそのような所にはない。

 

 だが、戦力はちゃんと揃えておいたのは男達にとって幸いであっただろう。

 

 数に物を言わせた波状攻撃は時間停止を行えぬ咲夜にとって一瞬たりとも油断出来ぬ綱渡りだったのだ。そしてほんの一瞬の息の切れ目。

 

 一人が低く薙ぎはらった槍の穂先が咲夜の膝下を割った。

 

 幸い深くはなかった、しかし一瞬足は止まってしまった。横合いから斬りかかってきた男に咲夜は咄嗟に左に構えていたナイフを投げ打ち倒したが、後ろから組みついてきた男に地面に引きずり倒された。最後の予備ナイフに手を伸ばそうとしたが捕まれうつ伏せに潰されたまま腕を捻り上げられて完全に極められた。

 

「終わりだ」

 

 その時に残っていたのは僅かに三人である。咲夜は聞こえないように舌を打った。あと僅かな所で不覚を取った無様。

 

「それで、どうするの?」

 

 絶対絶命の状況で咲夜は笑みすら浮かべて自身の背中にのしかかる男に聞いて見せた。

 

「ハッ!指先からあんた自身のナイフで切り刻みながら死ぬまで犯すってのはどうだ?」

 

「いや、とりあえず生かしておいた方がいい。吸血鬼との交渉材料になるはずだ」

 

 人の男が言った下劣な提案に、咲夜を拘束に成功した男が冷静に反論した。

 

「こいつがどれほど重要視されてるかによるが、指や耳を切り落として見せれば反応で解るだろう」

 

 まさに絶対絶命。咲夜は完全に固められておりこれ以上の抵抗は、例え能力が使えても腕を捻り上げられてる以上無理だ。

 

 無論この場に都合良くヒーローが通りすがる、などと物語のようなことが起こるはずもない。

 

 しかし

 

 都合良く通りすがった訳でもなければ

 

 ヒーローでもないその男は

 

 現れた

 

 ピクリと反応したのは咲夜を拘束した男だ。煙草の匂いだった。

 

 顔を上げると一人のダークスーツに身を包んだ男が咥え煙草でこちらに歩いて来ていた。

 

 レミリアに咲夜の後を追えと命じられた川上であった。

 

 黒服に背中と腰に刀を差した男をみて、その場の三人の男の顔色が変わった。

 

「背中の野太刀に黒い洋装!」

 

「清水か!?」

 

 

 咄嗟に咲夜の上にのしかかっていた男は咲夜の腕を極めたまま立ち上がり、咲夜を川上に向け自分の目の前で固め技をかけ動けなくした。腕を極められ重心を浮かされて咲夜は小さく呻いた、男は柔に長けているようだ。

 

「やっぱりこいつの所だったか」

 

 川上の目線が周囲の死体を一通りなぞった後、咲夜を見たのを確認して男が言った。

 

「よりによってこのタイミングで……」

 

「落ち着け」

 

 一人が川上を前に狼狽えかけた所で、咲夜を拘束した男は冷静に言った。

 

「むしろ都合がいい。鴨が葱を背負ってきた」

 

 そう言って男は片手で巧みに咲夜を固めたまま、片手で合口を抜き咲夜の喉元に突きつけた。残りの二人が刀と槍を構えその両脇に立つ。

 

「ふ、ふふ」

 

 その行為に思わず咲夜は笑いを零してしまった。男は若干怪訝な顔をした。

 

「馬鹿な人……」

 

 咲夜は小さく呟いた。この男の行動、川上に対して咲夜を盾にするまでは——もっとも今の川上の斬撃に人一人など紙切れ程度の盾にもならないが——まぁ、いいだろう。

 

 だが、武器を相手に向けず盾に向けて(・・・・・)どうするのだ?まさか、この男は川上に対して咲夜を人質(・・)として利用するつもりなのか?

 

 馬鹿馬鹿しい。馬鹿馬鹿しすぎて咲夜が笑うのも無理はないだろう。あの男を前に武器を相手から外すという愚。

 

 どうやらここで死ぬ事になりそうだと咲夜は理解した。彼が斬る相手の前に立っていればどうなるかなんてわからぬ道理が無い。

 

 まぁ、少し

 

 多分ないだろうけど、助けてくれるんじゃないかという期待が自惚れだと分かってはいるけど。

 

「この女と一緒に来ても」

 

  らう。とでも続けるつもりだったのか、男は言い切れず吹き飛ばされ、合口が宙を舞った。瞬きの間に距離を潰した川上の前蹴りが盾の咲夜ごと(・・・・)炸裂した。使った技法は透かし、浸透勁。エネルギーは咲夜を貫き、背中で密着していた男の腹に伝わった。その透かしの蹴りを直撃された咲夜は苦悶の声も上げずにその場に倒れ伏した。

 

 即座に抜刀、右の男の眉間を深々と切り下げ脳を破壊した。同時に、左手が左の男の首を掌握。指が男の喉仏の軟骨を潰して引き剥がした、窒息し、左右の男はほぼ同時に倒れた。

 

 川上は落ちてきた合口を左手で掴み取ると。地面で悶絶している咲夜を盾にした男の顔を掴み、首に合口を当てると刃を鋸引きのように往復させて前三分の一程度切って立ち上がり、合口を捨てた。

 

 男は首から血を勢いよく零すが、頸動脈に達してない半端な傷故男の体は必死に呼吸しようとし、プピューッ!プピューッ!と詰まった笛のような音を立てた。血に溺れて窒息死するのが先か、出血によるショックが先か、そう長くはないだろうが意識のある男にとっては死ぬまでの時間は悪夢だろう。

 

 一瞬、失神していた咲夜は腹部を押さえながら顔を上げるともう終わっていた。自分も死んだかと思ったが急所を外したらしく蹴りのダメージは深刻なものでは無かった。

 

「立てるか」

 

 いつもの無表情で刀を拭いながら川上が聞いてきた。彼は手を貸しもしない。

 

「立てるわよ」

 

 そう言って咲夜は若干ふらつきながら立ち上がる。先ほどの三人を見る、一人はもう動いていない。もう一人は喉を掻きむしっていたが、窒息して顔が紫色になって動きが弱々しくなっていた、もう助かるまい。

 

 そして体をいも虫のように丸めたり反らしたりしながら出来損ないの笛のようになってる一人を見て流石に咲夜も若干引いた。

 

「あの、あれは止めを刺したほうが」

 

「必要ない」

 

 川上はもう興味がないという風に納刀を済ませ煙草に火をつけていた。咲夜は一つため息をつき、スペアのナイフを抜くと哀れな一人に自分で慈悲の剣を刺した。

 

「戻るぞ」

 

「その前に」

 

 踵を返しかけた川上に咲夜が呼び止めた。

 

「買物袋とって来てくれる?あそこ」

 

 咲夜の指差した先には少し離れた所に人里での買い出しの品が詰まった袋があった、結構大荷物だ。

 

 無言で川上は歩いていき袋を持った、その背に咲夜が言った。

 

「川上」

 

「ありがとう」

 

 これは流石に

 

 助けてくれたって、解釈していいのよね

 

 そう咲夜は思った。

 

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