武芸者が幻想入り   作:ㅤ ْ

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『空虚』

『虚無』


第137話

 その日、レミリアの私室に珍客が訪れた。

 

 八雲紫。先日に引き続き二度目の訪問である。服装は先日の紫色のドレスではなく、ゆったりとした白い服の上に紫色の前掛けを重ねて着た中華風の衣服だった。ちょうど彼女の式の八雲藍の服装によく似ている。

 

 その場にいるのは川上を除けば先日と同じレミリアと咲夜の三人であった。

 

「また来たのね。で、今度は何を企んでいるの?」

 

 咲夜を後ろに控えさせ、豪奢な椅子に腰掛けて頬杖をついたレミリアは、ソファーに座った紫を見据えて明らかに歓迎してない様子で言った。

 

「度々申し訳ありませんわね。ただこの館の主である貴女には報告の義務があると思いまして」

 

 紫はそう言って、一応客扱いとして咲夜に出された紅茶に口を付けた。

 

 そのいつもの紫の口元の不吉な微笑みを見て、咲夜は内心嫌な予感を覚えた。

 

「……聞こうじゃない」

 

 レミリアも同じものを感じたのか少し間を置いて言った。

 

 前回の話の内容が内容である、今回もロクな話じゃないのは目に見えていたが。

 

「端的に言いますと、先日の一件もあって里の反妖怪の組織の方々が明確にこの館を狙い、攻めてくる事になりましたわ」

 

「あらそう」

 

 紫が告げた事実にレミリアは一言で返した。

 

「どうでも良さそうですね」

 

「実際どうでもいいのよ、攻めてくるなら勝手にすればいい。私の城に無断で入る不届き者にはこちらも相応の歓迎をするだけなのだから」

 

 涼しい表情で何でもないように言って、レミリアは紅茶を一口飲んだ。

 

「貴女ならそう言うと思いましたわ。ただ、こちらとしてもこんな反乱ごっこされても困りますし放っては置けませんの」

 

 クスリと不吉な笑みを深めて言う紫の様子を観察しながらレミリアも返す。

 

「まぁ、貴女の立場ならそうでしょうね」

 

「今回は幻想郷のバランスを崩しかねない自体として、博麗の巫女(・・・・・)が動きました。」

 

 紫は紅茶のカップをソーサーに置いて、それを告げた。レミリアの目が少し見開かれた。

 

「霊夢が、か。それは御愁傷様ね」

 

「そしてもう一つ」

 

 一つ間を置き区切った紫にレミリアは怪訝な表情を浮かべたか、紫はそれを言った。

 

「博麗の巫女が排除する対象はもう一人(・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 博麗霊夢は森の中に静かに降り立った。

 

 腕や脚、首が身体から生き別れになった死体。腸管や内蔵を溢しさらに消化器の内容物までぶちまけた死体。凄まじい断末魔の表情を浮かべた死体。地面はそんな数十人分の死体と人体のパーツに内蔵が散らばり様々な体液が染み込んでいる。

 

 そんな惨劇の跡を霊夢は無表情に一瞥して確認する。

 

「残ったのは、あの人ね」

 

 ポツリと独り言を言うと、霊夢はピリッとしたものを感じてその方向を見据えて森の中を歩んでいった。

 

 惨劇の場から外れ、霊夢は暫く歩く。そして夜の暗い森の中で開けた所に出た。

 

 周囲の梢の間から注ぐ淡い月明りの下でその男は静かに佇んでいた。

 

 夜の闇の中でも一際昏い三白眼が蒙昧に霊夢を見据えていた。地味な黒衣は濡れたように僅かに艶を持ち月明りに映えた。実際服はほぼ余すところなく濡れていた、返り血で。

 

 両切り煙草を咥え、まるで霊夢を待っていたかのように濃密な屍臭を纏い立つその男は、川上その人であった。

 

 川上はプッとシガレットを地面に吹き捨てた。

 

「今晩は」

 

 川上の開口一番は挨拶だった。霊夢は歩みを進めて川上から少し距離を開けて立ち止まる。

 

「今晩は」

 

 そして挨拶を返す。霊夢という少女は他人に対する無頓着さからくる傲慢なきらいはあるが仮にも神職、礼儀知らずではない。

 

「博麗の巫女として端的に告げるわ」

 

 挨拶を交わすと霊夢は話を始めた。川上は黙って聞いている。

 

「外来人として貴方はやり過ぎた。紅魔館に立場を置きながら里の人間を殺しすぎている」

 

 成る程と川上は思う、確かに今し方5、60人は殺してるのだから否定出来ない。

 

「外来人が幻想郷の人間を殺す、なんてされたら困るのよ。ここは人と妖怪により微妙なバランスを保った世界。人が人を殺し始めたらそれが崩れる」

 

「それで?」

 

 ここに来て初めて川上が口を挟んだ。霊夢は何処か白けているようにすら見える態度で続ける。

 

「幻想郷を管理する者として、貴方を排除するわ」

 

 ふっ、と川上は小さく鼻で笑った。

 

「もっともらしく言っているが要は殺すという事だろう」

 

「要約すればそうなるわね」

 

 皮肉げな川上に霊夢はあっさりそう返した。

 

「人を殺す事をどう思う?」

 

 唐突に川上が問いかけた。どこか彼らしくない問答だ。

 

「別にどうも」

 

 霊夢は態度を変えず即答した。

 

「必要があれば殺すだけよ」

 

 その答えを聞いて川上は思わず小さく笑みを漏らした。秋めいてきた風が二人の間に吹いて森の中を梢を揺らした。

 

「管理だの、バランスだのと尤もらしく言っているが、君は本当はどうでもいいんじゃないか?」

 

 口元の笑みは消えて、無表情に戻った川上が霊夢に問いかけた。

 

「君自身には特に思う所はない。だから何となくやっているだけ」

 

「そうだとしてそれがどうしたの」

 

 川上の指摘に、霊夢は淡々と答えた。

 

「それにそれは貴方の事じゃないの?貴方には何もない。ただ結果的にここにいるだけ」

 

「そうだとしてそれがどうした」

 

 霊夢の返す刀にやはり川上もあっさり言った。

 

 ふ、と小さな息はどちらが漏らしたのか。

 

『別にどうでもいい』

 

 その言葉は霊夢と川上から異口同音に放たれた。

 

 妙な気分だった。生まれて初めて共感を覚える人間に出会ったような、そんな心地。

 

 ここに第三者が居れば、二人が鏡写しの鏡像のように見えたかも知れない。

 

「ねぇ」

 

 きっと一人切りだったから

 

「何だ」

 

 寂しさなど理解できなかった。

 

「私達、出会い方が違えばいい連れになれたと思わない?」

 

 らしくもなく霊夢が口を滑らした。しかしおかしな事だろうか、恐らく生まれて初めて他人とは思えぬ共感出来る相手が目の前にいるのだから。

 

「その答えは君自身分かっているだろう」

 

 そう、理解者に会えたという

 

「そうね」

 

 錯覚。

 

「意味のない仮定だ」

 

 川上は言い切った。

 

 川上はわかるのだ、自分の事だから。霊夢もまたそれを分かっていた。相手が鏡像であるならば

 

 人は理解し合えない(・・・・・・・・・)。相手はそれだけは信じていると。

 

 

 お互いらしくもなく口が軽くなり無駄話を応酬したが、それも終わりである。

 

 ここで二人が出会った意味は一つ。殺す事。

 

 二人の間に吹いていた風は何時しかやんでいた。

 

 風断ちぬ、いざ逝きめやも———




ラストまで後二〜四話くらいでしょうか
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