武芸者が幻想入り   作:ㅤ ْ

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『慈愛』


第16話

 ――紅魔館、川上は自分に割り当てられた部屋で一服していたが、短くなったタバコを携帯灰皿に入れるとやがて立ち上がった。

 

 この館には魔理沙と来ていたのだ、まずはここで世話になる事になった旨を魔理沙に伝えるべきかと川上は考えた。

 

 それが終わったら館の間取りの確認もするべきだろう。そう考え川上は部屋のドアから廊下に出た。まずは魔理沙を置いてきた地下の図書館へと向かった。

 

 

 

 

 ―――そして10分後未だに川上は廊下を歩いていた。

 

 広さ故にあっさり迷ったのである。そもそも図書館はどの方向かもわからずカンで歩いていたので当然の結果だろう。

 ここまで広いとせめて間取り図が欲しい所だ、川上はそう思った、後で咲夜に間取り図を求める事を内心決め、とりあえずどうするかと考えた。

 

 と、丁度よくメイドである妖精が通りかかったので声をかける事にした。

 

 「図書館は何処だ?」

 

 「あの角を曲がってずっと真っ直ぐいくと階段があるから降りるとあるよー」

 

 「ありがとう」

 

 

 川上は極めて簡潔に場所を聞き出し礼を言うとメイド妖精とすれ違い言われた通りに歩きだした。

 

 そしてメイドの言葉通り歩き階段を降りると扉があった。先ほど魔理沙と来た時に出入りした扉ではなかったが広大な図書館の出入口は一つではないのだろう。

 

 大きな扉を開け膨大な量の本棚と蔵書に溢れた図書館に入る。なんとか再び訪れる事が出来たようだ。

 

 が、しかし前回出入りした扉とは違うため先ほどとは当然全然違う地点であり図書館自体広大なので魔女や魔理沙がいたのは何処だったかやはり分からない。

 

 確か開けた場所だったと川上は考え例によって適当に足を進めた。

 

 

 

 

 ‥‥‥それから更に一時間後、川上は本棚に寄りかかりタバコをくわえつつ本を開いてた。

 

 物の10分で案の定図書館の中で迷子になりしょうがないので本棚から見つけた読める本を開きつつ休憩していたのだ。

 

 そして彼にとってその本が琴線に触れたのか初心を忘れて読みすでに一時間だった。

 

 ちなみに本は児童文学だった。

 

 

 「あら、貴方は‥‥?」

 

 そこに先ほどパチュリーと川上が会った際にも顔を見せた図書館の司書係等を勤めている小悪魔が顔を見せた。川上が吸うタバコの匂いが気になり様子を見に来たのかも知れない。

 

 

 「あの、魔理沙さんが困ってましたよ、いつの間にか居なくなったって」

 

 

 「すまん、後にしてくれ」

 

 

 小悪魔は魔理沙の様子を川上に伝えるが川上は既に何しに自分が此処にいるのか忘れさった返答をした。

 

 「え、でも‥‥あの」

 

 

 「いや‥‥そうだった」

 

 そこで漸く自分の用件を思い出したのか川上は本を閉じ、ついでに短くなったタバコを携帯灰皿に入れる。

 

 

 「すまない、それであの魔法使いはまだいるだろうか」

 

 

 「はい、パチュリー様と一緒にいます」

 

 「そこまで案内してくれるか? 戻って来たはいいが迷ってしまった」

 

 

 「はい、そういう事でしたら」

 

 

 川上の頼みを小悪魔は柔らかく微笑んで了承した。その曇りのない笑顔は人を魅力するという事で言うなればまさしく悪魔的と言えるだろう。

 

 対する川上は人を何とも言えない気分にしそうな暗い座った眼とやる気の見られない顔で宜しく頼む、と返した。

 

 「ではこちらです」

 

 

 そして小悪魔が先導する形で二人は歩きだした。

 

 

 「それでレミリアお嬢様にお会いしてどうでしたか?」

 

 

 歩きながら小悪魔は川上に話し掛けた。彼がレミリアのもとに行っていたのを知っているらしい。パチュリーに聞いたのか。

 

 

 「食事をご馳走になったな。後ここで働かないかと誘われたので世話になる事になった」

 

 

 「え、レミリアお嬢様が貴方を!」

 

 

 川上の言葉に小悪魔は驚きを見せた。レミリアが人間である川上を館の使用人に雇ったというのが余程意外だったのか。

 

 

 「あぁ、つまり俺は君にとって使用人の後輩と言う事になるのか、未熟者だが宜しく頼む」

 

 

 川上は同じ職場の先輩という事になるだろう小悪魔にそう形式的に挨拶した。小悪魔もとりあえず驚きを収めて返事を返す。

 

 

 「えぇ、もし何か困った事があったら何でも言って下さいね。お助けしますから」

 

 

 そう例によってふんわりと微笑みながら柔らかくそういう。人間に取ってこの館で働くというのは不安もあるはずだと気を使ったのかも知れない。

 

 しかし川上はやはり何処か気だるげな顔でありがとう、と形式的な礼を返しただけだった。小悪魔の笑顔が僅かに引きつった。

 

 とりあえず小悪魔は気を取り直して案内を続け、先程の魔理沙とパチュリーのいるテーブルがある空間まで程なくして着いた。

 

 

 「よー、やっと戻って来たか、レミリアの所行ってたんだって?」

 

 

 本を読んでいたらしい魔理沙は近いてくる二人に顔をあげ川上を認めるとそう声をあげた。

 

 

 「あぁ、少し話してたり食事をしていたりした」

 

 

 「あいつ、人間の食べられるものちゃんと出したのか? まぁいいや、私はもう帰りたいんだぜ」

 

 

 「それなら一人で帰ってくれていい。俺はここで世話になる事になった」

 

 

 その川上の言葉にちょうど椅子から立ち上がりかけていた魔理沙はずっこけた。

 

 「あいてて‥‥ここで世話になる!?」

 

 

 「働かないかと誘われて、住み込み可だというからな」

 

 

 「また、レミリアは思い切った事を考えるもんだぜ」

 

 やはり人間である川上をレミリアがスカウトするとは魔理沙も意外だったのか、この館も人手不足なのかね、等と呟いていた。

 

 

 「俺の服を君の家に置いてきてしまったが‥‥」

 

 

 「あー、いい、いい、そういう事ならどうせここにはまたくるから服は洗濯終わったら今度くるとき持っていくぜ」

 

 

 「そうか、この借りた和服もその時返す」

 

 

 「あぁ、わかったぜ。じゃあ私は帰るぜ、死なない程度に頑張れよ。またなパチュリー」

 

 「世話になった、ありがとう」

 

 

 礼をいう川上に魔理沙は気にするなとひらひらと手を振り図書館を後にした。

 

 そのまま川上は遠ざかる魔理沙に小さく「またね‥‥」と声を出していたパチュリーに向き直る。

 

 

 「ここで働く事になった。宜しく頼む」

 

 「えぇ、分かったわ」

 

 

 挨拶は僅か八秒で済んだ。

 

 そのまま川上は魔理沙の座っていた椅子に腰をかけると長く息をついた――

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