武芸者が幻想入り   作:ㅤ ْ

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『好奇』


第19話

 紅魔館三階――

 

 

 

 大体三階の探索も終えた川上はそもそも間取りの確認もいいかと思い始めた。飽きてきたとも言える。

 

 手に持っていた間取り図に懐に納め踵を返した。

 

 その時唐突に川上の後ろにメイド長、十六夜咲夜が現れた。川上は僅かに刀の鯉口を切り少し振り向き咲夜を感情の読めない眼で見据える。

 

 

 「生きていたのね」

 

 

 咲夜は川上を確認するなりそういった。

 

 

 「死んでいたほうが良かっただろうか?」

 

 

 川上はそう皮肉ともつかない言葉を返す。

 

 

 「いえ……先程凄い物音がしたから、妹様に殺されたのかと思って」

 

 

 「……あぁ、あれか」

 

 

 咲夜の言葉に川上は今思いついたように呟いた。

 

 

 「言われた通り挨拶したのだが死ぬかと思った。あれにはもう少し言葉というコミュニケーション法を教えたほうがいいかもな」

 

 

 川上は殺されかけたとは思えぬ程なんでもよさそうに言った。

 

 

 「そうね……そのコミュニケーション法は妹様に貴方が教えてくれると助かるのだけれど」

 

 

 「善処する」

 

 

 丸投げする咲夜に川上はやる気があるのがないのかわからない返事をした。

 

 

 そして川上はそのまま歩き出した。何気ない動作でタバコを取出しながら。

 

 「これからどうするの?」

 

 

 その川上に咲夜は問う。

 

 「特にやる事もなくなったので適当に寛がせてもらう」

 

 

 「そう、夕食の時間になったら呼ぶからそれまで適当にやってて」

 

 

 「わかった」

 

 

 そうお互いに会話を切り上げると咲夜は時間停止を利用し移動したのかその場から消える。それを見届ける事もなく川上もタバコに火を付けつつ歩き出した。

 暇潰しにまた図書館にでも行こうかと考えながら。

 

 

 

 

 

 

 それより少しさかのぼり紅魔館二階廊下――

 

 

 川上に弾幕を展開したフランドール・スカーレットは面白がってるような笑みを浮かべつつその場にいた。

 

 半ば本気で川上を壊すつもりで放った弾幕、しかしそこには弾幕により床の抜けた廊下しか残っていなかった。

 

 無論川上が跡形もなく消し飛んだ訳ではない。彼は自らに放たれた妖力弾を全て掻い潜り、そしてその弾幕によって抜けた廊下から粉塵に紛れてとっとと下の階に離脱して難を逃れていた。

 

 

 「やっぱり壊れなかった」

 

 

 フランドールは心底楽しそうにそう呟いた。

 

 

 「それに私に傷を付けた人間は本当に久しぶりね」

 

 フランドールは川上の刀で切り裂かれた自分の胸元を見る。もう斬られた胸の肉は傷痕一つなく再生していたが薄い生地の服は切り裂かれたままだった。切れ目からフランドールの雪のように白い肌をした薄い胸が見える。

 

 「今度会ったらまた一緒遊ぼうかな」

 

 

 フランドールは直感的に思った。川上は自分にとって面白い人間だと。また遊べる事を楽しみにしていた。

 

 とりあえず斬れてしまった服を着替える為にフランドールは部屋に戻る事にした。その足取りは軽かった。

 

 

 なお、この時破壊された廊下の床の修繕の為咲夜を初めとしたメイド達の仕事が増える事になるのだがそれはまた別の話だ。

 

 

 

 

 

 紅魔館地下図書館――

 

 

 間取りの確認も終えやる事がなくなった川上はここに舞い戻ってきた。

 

 そしてその肩にはまた先程のメイド妖精が乗っていた。川上の肩はそのメイドにとって体の良い休憩用ベンチ代わりなのか?例によって川上は勝手に自分の肩を占領するメイド妖精に何も突っ込まない。

 

 いい加減館の構造も把握した川上は迷わずパチュリーのいるテーブルまで歩いてたどり着いた。

 

 「また来たのね」

 

 

 「あぁ」

 

 

 本を読んでいたパチュリーは目線だけで川上を確認するとそう言った。それに川上もぞんざいな返答を返す。

 

 パチュリーは何故か肩に乗っているメイドに関してはスルーしたようだ。

 

 川上は自分の肩に乗るメイド妖精を脇に手を入れ下ろし席に座らせた。そして自分も背の野太刀を外し隣の席に着く。

 

 「お茶」

 

 

 「……何?」

 

 

 「お茶をくれ」

 

 

 やや図々しく紅茶を所望する川上にパチュリーは特に何も言わず小悪魔を呼ぶ。呼ばれるとすぐに小悪魔はその場に現れた。

 

 

 「あれ?川上さん、館の探索の方はもういいのですか?」

 

 

 小悪魔は戻ってきていた川上にそう言う。

 

 

 「大体の構造は把握した。だからとりあえずもうやる事がない、お茶をくれるか?」

 

 

 「そうですか、お疲れさまです。お茶今お煎れしますね」

 

 

 柔らかい笑顔でそういい小悪魔はお茶の準備に取り掛かった。なんとも人を癒すような雰囲気だった。仮にも「悪魔」と名が付いているのにどうなのだろう、川上はぼんやりとそんな事を思った。

 

 そしてお茶の準備の為に一旦立ち去る小悪魔の背中に例によって気だるげな眼を向ける川上のその眼をパチュリーは目ざとく見咎めた。

 

 

 「……貴方、その眼何を見ているの?」

 

 

 「何って、まぁ色々見てるな」

 

 

 パチュリーの要領の得ない問いに川上も無難な答えを返す。

 

 

 「もしかして貴方の眼、魔眼の類?」

 

 

 パチュリーには川上の眼が見えざるものを見ているように感じられたのかも知れない、魔女としての感だろうか?

 

 

 「魔眼とは?」

 

 

 「簡単に言えば眼を合わせた相手に簡単な術をかけたりするものよ。ただ、貴方の場合何が人と違うものを見ているような感じがしたからそれとはまた違うけど」

 

 

 「ふーん、まぁ眼を合わせただけで相手をどうこう出来るなんて眼は少なくとも俺にはないな」

 

 

 川上はやはり感情の読めない声色でパチュリーの問いに言葉を返す。

 

 

 「でも、貴方の眼は人と違うものを視ているんじゃない?」

 

 

 「さぁね、そもそも自分が見ているものが本当に他人が見ているものと同じものなのか違うものなのか、なんて誰にもわからないだろうからな」

 

 

 川上はそう煙に撒くような事を言った。

 

 

 「まぁ、それもそうなのかもね」

 

 

 パチュリーはそれ以上の言及は諦め本に眼を落とした。

 

 

 「お待たせしました」

 

 

 戻ってきた小悪魔がポットから暖めておいたカップに紅茶を静かにそそぎ川上と何故かいるメイド妖精にも律儀に配った。

 

 

 「ありがとう」

 

 

 「ありがとー」

 

 

 そう川上とメイドを同時に礼をいいメイドは紅茶に口をつけ川上はテーブルの上の本を適当に手に取る。煎れたての紅茶は川上には熱すぎる為冷めるのを待つつもりだった。

 

 

 「また何かありましたらお呼び下さい」

 

 

 小悪魔はそう言い残してまた去っていった。川上は手に取った本に眼を通すがその本はまた奇妙な言語で書かれ読めたものじゃなかった。

 

 しかし、川上は読めない本に眼を通しながらパチュリーに問う。

 

 

 「今何時くらいだ?」

 

 

 「16時過ぎね」

 

 

 「そうか……早いな」

 

 

 川上はぼんやりとそういう。

 

 

 「夕食の時間は?」

 

 

 「19時前後よ」

 

 

 「ふぅん」

 

 

 まだ時間があるな、川上はそう思いながら紅茶に手を伸ばした。一口に含むがまだ紅茶は熱く口の中を焼きそうになり川上は顔にしかめた――


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