武芸者が幻想入り   作:ㅤ ْ

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第22話

  ―――紅魔館川上私室

 

 

 川上はノックの音で意識を浮上させた。

 

 「朝よ、起きなさい」 

 

 ドアの向こうから咲夜の声、どうやら起こしにきたらしい。

 

 「今、起きた」

 

 「そう、ならそろそろ朝食だから食堂までいらっしゃい」

 

 そういい残しドアの向こうから気配が消えた。移動したのだろう。

 

 川上はベッドから身を起こすと濁った目でベッドサイドからタバコを取り一本くわえて火を点けた。

 

 ゆっくりとニコチンを馴染ませながら側に置いておいた刀を手に取りおもむろに抜き放つ。

 

 

 青白い光を放つ透き通った刃をしばらく眺め川上は刃を鞘に納めた。今の行為にはなんの意味があったのか朝の装備の点検なのかあるいはただの鑑賞なのか。

 

 川上が紅魔館に来てから1日が立っていた。昨日は自由に休めと言われていたので川上は夕食後割と早く眠ってしまったのだが、今日からは仕事を割り振られる事になっている。

 

 言ってみればこれが川上にとって勤務1日目なのだが本人は寝起きに気だるげな目をしてタバコを吹かすばかりで特に緊張感等は見せない。どうやら彼はそういう感情とはあまり縁がないらしい。

 

 

 しばらくして短くなったタバコをもみ消すと彼は打刀一振りのみ腰に差した。野太刀は部屋に置いたまま部屋を出て食堂に向かった。

 

 そして昨日と同じように食堂に入るとパチュリーと小悪魔、美鈴のみが既に席に着いていた。

 

 「おはよう」

 

 「おはようございます」

 

 「あぁ、おはよう」

 

 軽く挨拶を交わながら川上は席に着く。彼は館の主とその妹の不在に疑問を述べる事はしなかった。どうでもよかったのかも知れない。

 

 ちなみにレミリアとフランの二人は日が昇る頃に眠りについたので朝食には不在だった。

 

 川上が席に着くとすぐに咲夜の給仕により料理がテーブルに並ぶ。吸血鬼姉妹が朝食の席に出ないのは咲夜も了解の事らしい。

 

 食事は卵に大豆らしき煮豆、ベーコンにソーセージ等、イングリッシュブレックファストとでもいうべきものだろうか。朝から豪勢ではある。

 

 「頂きます」

 

 川上含め各々そう言いつつ朝食に口をつける。やはり味も悪くない、この館の食事事情は充実しているようだ。川上はそう思った。

 

 味わうのもそこそこに川上はやはり誰よりも早く自分の食事を平らげると、今日はさっさと席を立たずふと考えるような素振りをみせた。

 

 「メイド長」

 

 唐突に川上は声をかけた。

 

 「何かしら」

 

 食事の手を休めて涼しげに咲夜は聞き返す。

 

 「コーヒー」

 

 川上は脈絡なくコーヒーを所望した。

 

 「‥‥砂糖とミルクは?」

 

 「いらない」

 

 そう川上が答えた瞬間には川上の前にコーヒーカップが湯気を上げていた。

 

 「どうぞ」

 

 「ありがとう」

 

 川上はそう礼を言いながらカップに口を付け熱そうにしながら少しづつ飲む。彼は単に食後にコーヒーが欲しくなっただけらしい。

 

 そして川上のつい昨日来たばかりの外来人とは思えぬ奔放な振る舞いにもはやなんとも思わなくなってきた紅魔館のメンバーだった。

 

 「それと貴方は今日から仕事だけど」

 

 咲夜は川上に話を切り出した。

 

 「貴方はその時手を必要としてる所で働いてもらうけどとりあえず今日の所は私を手伝ってもらうわ。食事が終わったら玄関前ホールで待っていなさい」

 

 「わかった」

 

 川上は咲夜の言葉を受け残ったコーヒーを飲み干して席を立った。

 

 「お先に失礼させてもらうごちそうさま」

 

 そういって川上は食堂から出ていった。

 

 「彼に何をさせるの?」

 

 「適当に館の雑務等を」

 

 パチュリーの疑問に咲夜も漠然とした答えを返す。

 

 「勿論パチュリー様が手を必要としているなら彼を向かわせますが?」

 

 「いえ、今日の所は特に用事もないわね。小悪魔で間に合っているわ。まぁ必要があったらその時は貸して貰うわ」

 

 「御随意に」

 

 食事を終えた咲夜は何となく普段は飲まないコーヒーを自分でいれ飲んでみた。

 

 「珍しいわね」

 

 「えぇ、たまにはと思いまして」

 

 独特の香りと苦味のある液体を飲みながらやはり自分も主であるレミリアやパチュリーと同じように紅茶の方が好ましいと思った。

 

 

 

 

  ―――紅魔館玄関前ホール

 

 川上は壁に寄りかかったまま喫煙していた。細く長い紫煙を吐く。

 

 咲夜に言われた通りにホールで待機の体制に入って10分程になる。彼は半分程吸った紙巻きを携帯灰皿に入れるとそのタイミングを狙ったように咲夜が唐突に川上の少し前に出現した。しかし狙ったとしたらタバコを消す所を見計らって出現した咲夜か、それとも咲夜が出現するのを見越してタバコを消した川上か果たしてどちらだったのだろうか。

 

 「貴方には使っていない部屋の掃除を頼むわ」

 

 いきなり現れいきなり核心から入った。

 

 「わかった部屋の掃除だな」

 

 「館の西側の部屋、やれるだけやって頂戴。道具はここを出てすぐの倉庫にあるから、昼になったらまた呼ぶわ。質問は?」

 

 「ない。初めていいか?」

 

 「構わないわ。それではお願いするわね」

 

 軍隊のような簡潔なやりとりだけして咲夜は去って行った。

 

 川上も早速言われた仕事を初める為動き‥‥ださずに懐からゴールデンバットを取出し火を点けた。

 

 とりあえず仕事前に一服つける事にしたらしい川上は少ない窓をあけて外の空気に当たりながら紫煙を吐いた。

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