武芸者が幻想入り   作:ㅤ ْ

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第31話

 ――結局あの後。

 

 もう寝たいと訴える川上だったがフランがそれを許すはずもなかった。

 

 しょうがなくじゃあ何して遊ぶのだと問う川上だったが、フラン自身も他人とする遊びは弾幕ごっこ以外はすぐには思いつかぬ様子だった。

 

 それで仕方なく川上が動き咲夜の元に再び出向くとフランと付き合って欲しい旨を告げると咲夜も暇ではなかったが、どうせ自分の仕事は自分の能力で時間を作っていくらでもこなす事は出来ると思い了承した。

 

 それから川上は眠気を押してフランと咲夜と共に咲夜から借りたトランプにて七並べや神経衰弱、大富豪といった比較的単純なルールのテーブルゲームに夜遅くまで付き合った。川上は実に作業の如くゲームをしていたがフランはこういう遊びは新鮮なようで中々楽しんでいたようだった。

 

 対称的な川上とフランに自身もゲームに付き合いつつ咲夜は含み笑いを漏らしていたが。

 

 深夜まで付き合わされた挙げ句にフランが川上のベットで丸くなってやがて寝息を立て始めた所でお開きとなった。

 

 咲夜はフランをそのままにして部屋を去っていってしまったので、川上はまだウイスキーの残るボトルを棚に戻し、寝る前の一服だけつけた。ベットはフランに占領されてしまったので自分はソファーで寝る‥‥等という考えにいたるはずもなく川上は丸まったフランの隣に横になった。無駄に広いベットは二人で一緒に寝ても余裕がある。川上は眼を閉じると直ぐに意識は眠りに落ちた。

 

 

 

 翌朝、川上はゆっくりと目覚めた。

 

 寝不足の為か普段から暗い色をしている眼がさらにどんよりと濁っている。

 

 ともかく眼を覚ます為タバコに火を点けた。ニコチンを摂取しつつ時刻を確認する。

 

 もう朝食の時間だった。

 

 隣をみるとフランは丸まったまま熟睡していた。その寝顔はあどけなく可愛らしいものだ。

 

 あるいは人によっては天使のような寝顔等というような愛らしさだったかも知れない。しかし実際はフランは吸血鬼という悪魔だったが。

 

 「妹様」

 

 川上が声をかけた。

 

 「妹様、朝食だ。いらないのか」

 

 肩に手をやり起こそうと声をかける。しかしフランの幸せそうな寝顔は崩れず起きる気配はなかった。

 

 ふぅ、と川上は紫煙まじりの息を吐く。

 

 まぁ、吸血鬼に朝早く起きろなんてほうがおかしいのだろう。川上はそう思い寝かせておく事にした。

 

 川上はフランの頬にかかる髪をそっと梳くと丸まったまま寝ている身体にタオルケットをかけた。

 

 静かに立ち上がり着流しを脱いで使用人服に着替える。ついでナイフ等の暗器の類の装備を整え愛刀をベルトに差し用意は出来た。ちなみに野太刀は目覚めたフランが勝手に触らないようにクローゼットに納めておいた。

 

 川上は部屋を後にし、洗面所で顔を洗った後食堂に向かう。

 

 今日の朝食の席は美鈴、小悪魔、咲夜、川上のメンツだった。例によって吸血鬼姉妹は朝は姿を見せない。というか妹のほうは川上の自室でぐっすりと眠っていた。

 

 また今日はパチュリーも欠席だった。魔女であるパチュリーは実は食事を取る必要がないので食事はただの嗜好品に過ぎなかった。故に食事の席には気分によって出たり出なかったりする。

 

 川上は相変わらず豪華な朝食を平らげ咲夜に煎れてもらった珈琲で一服していたがふいに口を開く。

 

 「メイド長」

 

 「何かしら」

 

 「今日の仕事は何をすればいい」

 

 川上は本日やるべき事の確認をした。

 

 「そうね‥‥」

 

 「昨日と引き続き掃除か?」

 

 「いえ、今日は図書館の方を手伝いなさい」

 

 「小悪魔、一人では大変でしょう」

 

 「え、はい。大変という程ではないですが川上さんが手伝って下さったら助かります」

 

 「決まりね。川上、今日は貴方は図書館の仕事の手伝いをお願いするわ」

 

 こうして川上の今日の仕事は決まった。

 

 「了解した」

 

 川上はそれだけ言って珈琲の残りを飲み干して席を立った。

 

 「ごちそうさま。先に図書館の方に向かってる」

 

 川上はそれだけ言って食堂を後にした。

 

 「今日は川上さんとお仕事ですね」

 

 「そうね、良くわからない所はあるけど要領は悪くないから上手く使ってちょうだい」

 

 笑っていう小悪魔に咲夜はそう返す。

 

 「私の仕事も交替要員として手伝って欲しいですよー」

 

 「貴方はその前に自分の仕事をちゃんとしなさい」

 

 美鈴の言葉を咲夜はあっさりと切って捨てた。

 

 

 

 

 川上は地下図書館への道をくわえタバコで歩いていた。

 

 廊下を歩む川上だったがふと血の匂いを鼻に感じた。割と濃い匂い、だが川上の歩くペースは変わらなかった。

 

 廊下の角を曲がった時どうやら匂いの元と思えるものがあった。通路の半ばに倒れ伏せたメイド服に身を包んだ一人の妖精、既に息は無いのかぴくりとも動かず血溜りの中で伏せていた。

 

 だが川上は死体を一瞥しただけで歩みを止めなかった。彼の靴が血溜りを踏みぴちゃりと音を立てる。

 

 そのまま廊下の次の角に差し掛かった瞬間、角から影が異常な早さで飛び出し川上に迫ったが川上は少し身をかわしただけで避ける。飛び出した勢いのまま影は床に倒れ伏せてしばらく痙攣していたがやがて動かなくなった。血が床に広がる。

 

 人影は黒衣に身を包んだ三十台後半くらいの精悍な男だった。首には十字架を下げている。その右手には短剣を握っていたが、彼の首は前から3分の2程が深々と斬られ即死している。

 

 川上は地下図書館への歩みを止めぬままいつのまにか抜いていた刀を拭い納刀した。

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