武芸者が幻想入り   作:ㅤ ْ

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第34話

 咲夜はメイド妖精の実働部隊に侵入者への警戒を呼び掛ける。

 

 それと共に自らが時間停止を利用し館内の潜伏出来そうな所を見て回った。

 

 結果咲夜自身は侵入者は発見出来なかった。恐らくはハンターは川上の殺した一人だけだったのか、あるいは他の人員は断念し館から既に撤退したのかも知れない。

 

 後は念の為メイド妖精達が警戒を続けておけば取り敢えず大丈夫そうだと判断した所で咲夜は気付く、そういえば主であるレミリアの無事は確認したが同じく吸血鬼であるフランドールの安否を失念していた。

 

 思い立ったがすぐに時間停止でフランドールの部屋まで移動し確認する咲夜だがフランドールはそこには居ない。一瞬焦る咲夜だったが、そういえばと思いだす。

 

 フランドールは昨夜川上の部屋で遊びながら寝付いてしまってそのまま彼に預けていたのだと。

 

 直ぐに川上の部屋に移動するとフランドールはベッドの上でタオルケットにくるまり静かに寝ていた。

 

 「妹様」

 

 ほっとして咲夜はフランドールの頬を起こさないようにそっと撫でた、咲夜の顔には安堵と愛情からくる柔らかい笑みが浮かんでいた。

 

 「安心しておやすみなさいませ」

 

 咲夜は静かにそう告げると川上の部屋を後にした。

 

 

 川上は気になった。

 

 小悪魔の手伝いで本を運んでは、小悪魔が整理するというスタイルで仕事を続けていた。

 

 小悪魔は手際よく所定の位置に本棚に本を戻していく。

 

 その小悪魔の背中。

 

 背中から生える黒いコウモリのような翼が気になった。

 

 見た目はコウモリのそれだ、レミリアの背のそれとも類似していた、しかし当然コウモリの翼等より遥かに大きい。

 

 移動する時等時折ぱたぱたとゆっくり羽ばたいているようにも見える。

 

 気になった。

 

 故に川上は手持ちぶさたな事も相まって本棚に向き直って作業をする小悪魔の翼に手を伸ばした。 

 

 「ひゃんっ!」

 

 不意討ちに翼に触れられた小悪魔は頓狂な声をあげ本を思わず取り落としてしまった。

 

 川上は翼の膜の貼ったようになっている部分に指を滑らせる。

 

 「あ、ん、だめ‥‥ですよ」

 

 小悪魔は翼に触れられるのがもどかしいのか顔を赤くして声を出す。その様が酷く淫媚に聞こえるのは彼女の元の種族がサキュバス故か。

 

 しかし川上は表情を変えず手で翼を少し撫でて手を離した。翼はちゃんと血が通っているのか暖かく、ごく細かい毛が表面を覆っているのかベルベットのような独特の手触りがした。思わずいつまでも触っていたくなるような手触り。

 

 「もう、いきなりどうしたんです?」

 

 もどかしさから解放されたのか小悪魔は川上に問いただす。

 

 「すまない、何となく気になったもので」

 川上は平然と返す。

 

 「もう、急に触ったら驚くじゃないですか。触りたかったらそう言って下さいよ」

 

 「わかった。しかし意外と気持ちいい手触りだった」

 

 川上は正直に感想を述べると小悪魔は恥ずかしかったのか少女のように顔を赤くしてうつむいてしまった。

 

 そんな小悪魔を尻目に川上は全然関係ない事を思っていた、眠い、と。

 

 彼は昨夜フランに付き合わされたせいで寝不足だったのだ。

 

 「仕事を続けよう」

 

 「そうですね」

 

 川上がそういうと小悪魔は笑顔でごまかしつつ落とした本を拾って整理を再開した。

 

 「何をやっているのよあの二人は」 パチュリーの目の届く場所でそんな事していた二人にパチュリーが思わずそう呟いた。

 

 

 それからしばらく作業を続けていた二人だったが小悪魔が顔をあげて言った。

 

 「とりあえず一段落ですかね」

 

 「そうだな」

 

 川上は頷いた。

 

 「そろそろお昼ご飯の時間ですから食堂に行きましょうか」

 

 「あぁ」

 

 二人はパチュリーの所まで戻ってきた。小悪魔がパチュリーを昼食にさそったが特に食べたくなかったのかパチュリーは断った。そして結局二人で食堂に向かう事となった。

 

 

 

 「でも川上さんは細身なのに力があるんですね」

 

 食堂への道を歩みながら小悪魔は川上にそう話しかける。

 

 「たまに言われる。筋肉の質の問題らしいな」

 

 一件細くても黒人のそれのようにバネに富んだ肉質というのは存在する。

 

 「それにお嬢様を狙うようなハンターを倒してしまうなんてお強いのですね」

 

 小悪魔は感心したように言う。

 

 「ついでだったから斬ったようなものだ、そんな大した事じゃない」

 

 川上は本心からそう思っていて、襲われたから躱しがてらついでに斬った、勝手に体が動いたとも言うが。

 

 「その刀いつも差してますし、剣術が得意なんですか?」

 

 「剣術もそうだが古武術の類いは一通り嗜む」

 

 「古武術って昔に作られた武術なんですか?」

 

 「日本が合戦の最中等に築いてきた戦闘術だな。昔の人間の知恵は凄いものだと学んでいてよく思った。現代でも及びも付かないような効率のいい操身術を考案したのが昔の人間だと考えるとな」

 

 少し饒舌な川上だったがそんな感じで雑談しつつ、食堂に入り昼食の席に着いた。まだ吸血鬼姉妹は寝ているのか不在だ。

 もう食事の準備は出来ていて、咲夜も席に着いている。

 

 「メイド長」

 

 「何かしら」

 

 珍しく川上から呼び掛けた。

 

 「例の侵入者は」

 

 「あぁ」

 

 咲夜は頷いた。

 

 「もう大丈夫でしょうね、館に侵入者はもう居ないわ、貴方も安心していいわよ」

 

 「そうか」

 

 自分から聞いておきながら川上は素っ気なく会話を切った。

 

 「良かったです」

 

 安堵を顔に滲ませつつ小悪魔も席につく。

 

 「お嬢様も妹様も無事だったしね」

 

 「今回は早い段階で川上が敵を斬ってくれて助かったわ」

 

 咲夜がそういうと川上は顔も向けずひらりと手を振る。大した事じゃない、そういう意味か。

 

 「じゃあ頂きましょうか」

 

 「頂きます」

 

 皆でそう挨拶して昼食は始まった。

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