武芸者が幻想入り   作:ㅤ ْ

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第41話

今眠りのなかにいる川上。その彼の意識は浅い闇の中にいた。

 

 これは彼の睡眠の一種のボーダーである、もしこの闇の中に沈む睡眠中の彼に敵意を持つ者や攻撃が加えられれば即座に川上は気付く。彼を包む闇が『教えてくれる』のだ。

 

 川上を包む闇が引いていき逆に光へと変わっていく、彼の意識は浮上し目覚めようとしていた。

 

 ──ふと違和感。

 

 (こんな暖かい目覚めは‥‥何時以来だ?)

 

 目覚め際の彼の意識が自分自身よく意味の分からない蒙昧な疑問を発したと同時に川上は目覚めた。

 

 

 

 うっすらと開かれる彼の特徴的な暗くしかし研ぎ澄まされた刃物のような眼、眼に映るのは朝日が満ちた自室そして天井にいくつか浮かんだ空間の歪み、歪みのほうはやはり空間を弄るという咲夜の行為で多少は無理が来ているのだろう。まあ僅かなものだしどうせ川上にしか視えないモノだろうからたいして問題ないだろう。

 

 ベットの上から身を起こそうとして右手側が引っ張られるような感覚。みるとアニスが川上の腕を抱いてスヤスヤと眠っていた。そういえば昨日は二人で呑んでいたが酔いが回ったアニスが此処で眠ってしまったのだったと川上は昨夜の記憶を辿る。

 

 同じベットに眠ったのは川上の判断だったが(というより自分は別の場所で寝るという発想がない)まさか右腕を抱え込まれ、つまり封じられてのんびり寝てるとは、川上は思わず自嘲した。

 

 (暖かいと感じたのはこいつか)

 

 そう自分の腕にしがみ付くアニスの腕を取りながら川上は思った。アニスの外見どおりの子供特有の高い体温のためそう感じたのだろう。

 

 それだけだ。

 

 アニスは静かな寝顔で眠っている。川上は眠るアニスの幼い身体を『視た』。

 

 眼に映る愛らしい少女の寝姿、その眼に映る像に頭の中で被るように植物の姿がアニスに重なって視えた。可憐で素朴な矢車草の蒼い花。

 

 妖精とは自然の具現でありていに言えば自然そのものだと川上は聞いた。ならば川上の視た矢車草こそが妖精としてのアニスの本質だったかもしれない。

 

 「‥‥‥」

 

 どうでもいい事か、そう思い川上は両切りシガレットを取り出し吸い口をテーブルでコンコンと軽く叩くと火を点けて煙を吸い込むとふー、と紫煙を吐いた。

 

 再びタバコを口元に運ぼうとしたところで部屋の扉がノックされた。

 

 「川上、もう朝食の時間よ」

 

 咲夜の声だった。朝食の時間が近いので川上を起こしにきたのだった。しかし川上は喫煙中の為か咲夜のノックに答えない。

 

 「入るわよ」

 

 そう一声かけて咲夜は室内に入る。

 

 「なによ、起きていたのなら返事くら‥‥い‥」

 

 そういいながら咲夜は見てしまう、ベットに腰掛け着流し姿で悠然とタバコを燻らせる川上にその彼のベットでスヤスヤ眠る幼いアニスの姿を。

 

 「あの、ねぇ、川上。別に個人の趣味にどうこう言うつもりもないけど、そんな幼い娘を手篭めにするのはどうかと思うわ」

 

 「お前は何を言っているんだ?」

 

 なにかを勘違いしている咲夜の妄言にやっぱり無感情に突っ込む川上。

 

 「それにその娘は私の部下だし大事にしてくれないと」

 

 「安心しろ別になにもしちゃいない」

 

 「‥‥本当に?」

 

 「昨夜一緒に呑んでな、しかし酔いつぶれてそのままここで眠ってしまった」

 

 若干疲れたような投げやりな口調で説明する川上。短くなったタバコをもみ消す。

 

 「‥‥それならいいわ。それよりそろそろ朝食だから準備が終わったら食堂まで来なさい」

 

 咲夜はそれだけいって勘違いが恥ずかしかったのか若干赤面しつつさっさと退室してしまった。川上は一応起こすべきかと考えアニスに手を伸ばす。

 

 「起きろ朝だ」

 

 「ん~あさ~?」

 

 川上の声に反応し身を起こすアニス。しかしその表情は苦い。

 

 「ん~頭がいたいよぅ」

 

 昨日は結構なペースで量も呑んでいたからこうなるのも当然か川上はそう思いながら、水差しからグラスに水を注いでアニスに差出す。

 

 「飲め」

 

 「うん、ありがとー」

 

 そういって水を一息に飲むアニス。

 

 「気分はどうだ」

 

 「う~ん、頭が重いし身体がだるいし、喉が渇くし気持ちがわるいよぅ」

 

 典型的な二日酔いの症状だった。川上は無言で水差しから水を注いでやった。アニスはゆっくりコクコク飲む。

 

 「つらいならもう少し寝ていろ。それで楽になる」

 

 二日酔いに対する一番の治療法は水分補給となにより睡眠、それがわかっているゆえそう川上は言った。

 

 「でもおしごとが‥‥」

 

 アニスもメイドとしての矜持はあるようだ。自分の役割を全うしなければと自分の体調を圧して声をあげる。

 

 「この館のメイドの数が明らかに過多なことから見てなんの問題もない。むしろ少しくらい減ったほうが館的にはいいくらいだろう。そんなに気になるなら俺からメイド長に休ませるよう伝えておこう」

 

 「でも‥‥」

 

 「寝ていろ」

 

 川上の感情の篭らないしかしつよい言の葉に結局従いもそもそタオルケットにくるまるアニス。

 

 「自分の許容量を越える酒は呑まない事だな」

 

 「ごめんなさい、でも‥‥楽しくて」

 

 「なにがだ」

 

 三白眼を向け川上は問う。

 

 「あなたと一緒にいるのが楽しくて‥‥それで呑みすぎちゃったの」

 

 すこし赤面してアニスはそういう。確かに場の雰囲気やノリで呑み過ぎるというのは良くあることかと川上は思った。

 

 「寝るのなら自分の部屋に帰るか?」

 

 「うぅん、ここで寝ていい?」

 

 そう上目使いにタオルケットから出したすこし赤い顔で聞く。

 

 「好きにしろ」

 

 そう答え刀を手に取り立ち上がりクローゼットへと向う川上の背中に安心してアニスは眼を瞑る。川上は着ていた着流しを脱ぐとクローゼットに納められた使用人用の礼服に着替える、最後にベルトに刀を差して身支度は終わりだ。

 

 「じゃあな」

 

 「うん、お仕事頑張ってね」

 

 そうアニスと最後に言葉を交わして川上は食堂に向った。

 

 

 

 「あらおはよう川上」

 

 食堂の上座には朝から珍しくレミリアが鎮座していた。その川上はレミリアを持ち前の冷たい眼で一瞥して──

 

 「おはよう」

 

 簡潔に朝の挨拶を返して席に座った。そんな川上に何が可笑しいのかくくっと含み笑いを漏らすがそんなレミリアの反応にも彼はどうでもよさげな表情は変わらない。

 

 「メイド長」

 

 「なにかしら」

 

 「メイドが一人病欠だ」

 

 「あらそう」

 

 川上の律儀な報告はあっさり終わった。

 

 その日の朝食はレミリアもいる為かスープにパン、人肉のスペアリブと朝から重めのものだったが川上は美味しくいただき、咲夜に淹れてもらったコーヒーで食後の一服をしていた。

 

 「メイド長」

 

 そんな時川上は切り出した。

 

 「一つ頼みがあるのだが──」

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