武芸者が幻想入り   作:ㅤ ْ

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『』


第5話

 幻想郷にあるどこか寂れた雰囲気のある神社。

 

 

 

 その神社の縁側で一人の少女がお茶を飲んでいた。

 

 少女は紅白の服を身に付け、それは脇が大きく空き二の腕部分に独立した袖を着けた変わったデザインの服だった。この神社の巫女だろうか?

 

 

 巫女と思わしき少女は手をかざしながら太陽を見上げる、強い日差しだった。

 

 「今日もまた暑いわね」

 

 そういって巫女は太陽から視線を下げる。見ると石段を上って鳥居をくぐり闇を纏ったルーミアとタバコを吹かす男が境内に入ってきた所だった。

 

 

 「あれはルーミアと‥‥外来人ね」

 

 巫女は男をみてそう呟く。男は黒基調の上下の洋服を着て腰と背中に袋に包んだ長物を身に付けている、一目見て人里の人間ではない。さらに巫女の眉がひそめられた、男の服は黒いので少し判りづらいがその上着と袖は赤く染まっている。あれは血だ、巫女はすぐそう気付いた、男自身がここに来るまでに負傷したのか、あるいは他者の血か?。

 

 また、ルーミアと一緒に行動してる外来人というのもまた異質だった、また面倒そうなのが来ちゃったわね、そう巫女は小さく呟いた。

 

 

 「あれがここの巫女だよ」

 

 

 「そうか」

 

 境内に入ってきたルーミアが巫女を縁側の巫女を指して男にそういう。用があって来たのだろうに男の返答は何故かどうでもよさそうな響きがあった。

 

 

 「じゃあ私は帰るね」

 

 

 「あぁ、案内ありがとう」

 

 

 案内を終えて引き揚げようとするルーミアに男は礼を言う、何処か形式的な礼だった。

 

 

 「うん、今度会ったら一緒にご飯でも食べようね」

 

 

 そう言ってルーミアは飛び去って言った。一緒に食事に誘うくらいだからルーミアは案外男を気に入ったのかも知れない、もっとも彼女の言うご飯とは人肉かも知れないが。

 

 

 

 男が巫女に向き直る。その眠たげな三白眼に見据えられた瞬間、巫女は直感的に目の前の人間が何処かおかしい事に気付いた。

 

 

 「こんにちは」

 

 

 そんな男の第一声は平凡過ぎる挨拶だった。

 

 

 「‥‥えぇ、こんにちは、貴方は外来人ね」

 

 

 巫女はやや面食らいつつも挨拶を返し確認した。

 

 

 「あぁ、そうらしい。一度此処を訪ねた方がいいと思ったので、訪問させて貰った」

 

 

 そこで巫女は男が自分のお茶を物欲しそうに見ている事に気付いた。男は結構長く森を彷徨ったり殺されそうになったので逆に殺したりで多少消耗していたのだ。

 

 

 「とりあえず詳しい事は中で、お茶くらい出すわ」

 

 「ありがとう」

 

 

 男は礼をいい巫女に連れられ和室に入っていった。

 

 

 「‥‥で、ここの事は分かっているの?」

 

 

 

 「大体はあの妖怪に聞いた」

 

 

 巫女の問いかけにお茶を一息で飲み干しお代わりを所望しながら男は答える。

 

 「ふぅん、意外ねあのルーミアが外来人の世話をするなんて」

 

 

 巫女は男に急須でお茶のお代わりを注ぎつつ言う。

 

 「あぁ、たまたま俺と会う前に食事していたようだから機嫌が良かったのだろう」

 

 

 俺はお代わりのお茶に口を付けつつ言う

 

 

 

 「‥‥そう、遅れたけど私はこの博麗神社の巫女をやっている博麗霊夢よ」

 

 

 「そうか」

 

 

 「‥‥貴方は」

 

 

 「ん?」

 

 

 「いや、貴方の名前」

 

 

 「‥‥あぁ、俺は川上という、よろしく」

 

 

 少し遅れて自分が名乗るべきタイミングだと気付いた男、川上がそう名乗った。タバコの箱を取出し小さく左右に振って暗に吸っていいかと許可を求めながら。

 

 

 「そう、川上ね、吸うのはいいけど灰皿がないわよ」

 

 

 川上は問題ないと携帯灰皿を取出しタバコに火を付けた。いきなり異界に放り込まれた外来人としては何とも緊張感がないというかやたら自然体な男だ、霊夢はそう思った。

 

 

 改めて川上を見てみる。目付きの悪い三白眼といい血に濡れた上着といい見た目は危険な香りしかしない、しかし川上からは何処か投げ遣りな印象を受けるが。

 

 

 

 そして座布団に座る川上の左隣に置かれてる長い包みとそれより遥かに長い包み、その中からは長い年月を生きた物独特の霊気が発しられてるのを巫女である霊夢は感じていた。あれは間違いなく年代物の刀だ、霊夢は思った。

 

 

 長大な刀とそれより短い刀なんて何処ぞの庭師を霊夢は思いだした。あんな刀ただの人間が扱えるのか。

 

 

 「貴方のその服の血は?」

 

 

 とりあえず霊夢は川上に付いている血を指摘した。

 

 「ここに来るまでに化け物に襲われて腕を一本持ってかれた」

 

 

 そういう川上は勿論両腕が健在だった。

 

 

 「本当は?」

 

 

 「襲われたから殺した」

 

 川上は平然と言った。

 

 

 「‥‥そう」

 

 

 外来人が妖怪に襲われたら大抵食料になってしまうことが多く、無事というのも稀なのに川上は返り討ちにしたと言う、単なる一般人とは違うようだ、霊夢は思った。

 

 

 「その刀で斬ったの?」

 

 「これは釣竿だ」

 

 

 やはり平然と嘯く川上だったが霊夢に睨まれ「そうだ」と認める。

 

 

 「まぁいいわ、で、貴方は帰るの? 帰るのなら結界を開くけど?」

 

 

 「いや、帰らない」

 

 

 「‥‥なんとなくそう答えそうな気はしてたけど、なんか面倒だから帰りなさいよ」

 

 

 「何かここには行っておいた方がいいみたいなスポットはあるだろうか?」

 

 

 「人の話を聞きなさいよ! 観光地じゃないのよ!?」

 

 

 まるで柳のようにこちらの話を受け流す川上に霊夢は思わず突っ込む。何となく人間を相手しているというより基本的に自分本位なこの幻想郷の妖怪を相手している感じに近いような気がしてきた。やはり最初におかしい人間だと感じたのは間違いじゃなかったようだと霊夢は思った。

 

 

 「帰らないならどうする気なのよ。言っとくけど家には置かないわよ」

 

 

 

 「そうだな、とりあえず‥‥」

 

 

 川上は左隣に置いてあった二振りの刀の包みを取り去る。中からは打刀拵に入れられた野太刀と打刀が出てくる、刀を取り出した川上の行為に霊夢は内心身構える。川上がどう動いても対応出来るように。

 

 しかし川上は二振りの刀を抱えるようにして壁に寄り掛かり言った。

 

 

 「少し寝る」

 

 

 「‥‥は?」

 

 

 思わず霊夢は間の抜けた声を出してしまうが川上はそのまま目をつぶる。

 

 

 「寝るって‥‥ちょっと」

 

 

 霊夢はそう声をかけるが川上はもう答えなかった。本当に眠り始めたらしい。

 

 

 「なんなのこいつ‥‥」

 

 霊夢は多少困惑する、ここまで変な人間は彼女にとっても珍しかったのかも知れない。

 

 

 霊夢は一つため息をついた。とりあえずしょうがないしばらく寝かせておこう、そう思い自分の分のお茶のお代わりを煎れた。


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