武芸者が幻想入り   作:ㅤ ْ

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第52話

「うーん」

 

「どうなさいましたか?」

 

何が気になるのか小さく唸る主にメイドは尋ねた。

 

暇つぶしに外出し博麗神社へと向かう林道を歩く三人組、日傘を差した小さな体躯のレミリアを先頭にレミリアの三歩左後ろをメイド服の咲夜、右後ろを礼服の川上が歩いていた、飛ばずに徒歩の移動であった。

 

レミリアは外出する際は徒歩の場合も多かった、外の世界を地面から感じながらの散歩もまた好きだったからだ。

 

もっともそもそも飛んでしまうと川上が同行出来なくなるのだが。

 

「今日は暑いわね」

 

そんな事を何となしにレミリアは呟いた。

 

「夏ですからね、今日は雲りですから日差しは辛くはないですが」

 

そういいつつ咲夜は空を仰ぐ雲空の上では日はサンサンと照っている事だろう、普段は涼しげな咲夜も歩いていて僅かに汗ばむ。

 

「少し休みますか?」

 

「大丈夫、もう直ぐだしね」

 

まぁ、後三分程で神社は見える、休憩を挟むほどの事はない。

 

しかし日傘を差しているレミリアはまだいいだろう、この暑さの中でメイド服では咲夜も辛いだろうが彼女は少なくとも表情にそれは出さない。

 

しかし、もっとも辛いのは黒尽くめの男川上だろう、ふと川上はこの暑さの中どんな表情をしているだろうと咲夜は彼の方を振り向く。

 

「……あれ?」

 

「どうかしたの?…あ」

 

後ろの従者の怪訝な声に向き直ったレミリアもまた足を止めた。

 

三人はいつの間にか二人になっていた、そこにいるべき男がいない、もともと気配が希薄だから居なくなっていたのに気づかなかった。

 

ふたりは辺りをゆっくりと見渡しあの男は見える範囲には居ないと確認すると、そのまま互いに目を合わせ

 

「しかしこうも暑いと霊夢もだれているかも知れないわね」

 

「霊夢がだらけているのはいつもの事ですわ」

 

互いにあえて居ない川上には触れず歩き出した。

 

どうせ放っておいても別にくだばりそうもないのだ、レミリア、咲夜共にそう思っていたためか、いや、咲夜は一旦レミリアと神社に向かってから迷子の川上を探そうと思っていたが。

 

ともあれ一人減ってた一行だが何事もないように神社へと進む。

 

 

 

 

一方博麗神社では博麗霊夢が掃除を終えた境内の石畳に打ち水をしていた、パシャリと桶から水を撒き霊夢は一息つく。

 

これで少しは温度も下がるだろうと霊夢は考える、もっとも彼女自身の顔色は暑さに参っているようには見えない、あるいは纏っている変則的な巫女服が通気性がいいのかも知れない。

 

そしてふと鳥居の方に顔を向ける、石段を登ってくる僅かな音に気付いたのだ、誰だろう?霊夢は思った、魔理沙を始めとして神社に現れる人妖は結構居るが石段からではなく空から飛んでくる者が多い、空を飛べぬ人里の者か?それも珍しい、しかし、妖怪が現れる事より普通の人間が現れる事のほうが珍しいとは神社としてはどうなのか。

 

珍しい参拝客か招かねざる客か客でもない人外か。

 

果たして石段を登ってきたのは黒い服を纏った若い男であった、しかも帯剣している。

 

人間のようだが人里の人間にも見えないが、霊夢は思った、というか何処かで見た事があるようなとも。

 

男は鳥居をくぐり軸のぶれない歩みで境内に入ってきた、男の顔をみるとやはり見覚えある据わった眼。

 

「こんにちは」

 

「こんにちは」

 

そして霊夢が男の挨拶に返答した所で男が少し前に神社に来た外来人だと思い出した。

 

そういえば魔理沙に連れて後川上がどうなったか等は魔理沙から聞きもしていないし霊夢は知らなかった。

 

「お久しぶりね、お元気そうで何より」

 

「お陰様で」

 

霊夢の社交辞令的な挨拶に、そう川上は返す、特に今の川上の現場に霊夢のお陰という事は無かったが。

 

「今日はどうしたの?素敵な御賽銭箱はあちらよ」

 

「特にどうしたという訳ではない」

 

賽銭箱云々は流し川上は端的にそう言った。

 

「用も無しに来たという訳じゃないでしょ」

 

「そのまさかだ」

 

川上は口の端を軽く上げて皮肉げに少し笑い、煙草を咥えた。

 

霊夢は空を仰ぎ一つ息を吐いた、会うのは二度目だがどうも取っ掛かりがないというか掴み所がないというか、霊夢は思った。

 

「冷やかし?」

 

「違う、用があるのは俺ではない、俺はただの付き添いだよ」

 

煙草に火を点けつつ川上は答える、しかし付き添いといいつつ川上一人にしか見えない。

 

「貴方一人で付き添いなのか?」

 

「何故か先に着いた」

 

「付き添ってないわねそれ」

 

のんびりと煙草を吹かす川上に霊夢は突っ込む、もしかしてこの人はアホなのだろうか、そんな事を思った。

 

「結局誰の付き添いなのよ?」

 

「今来る」

 

端的に答え川上は自分が上がってきた石畳を後ろ手に示す、違わず少しして誰かが上がってくるのを霊夢を感じた。

 

「あ、川上いたよ咲夜」

 

「そのようですね」

 

果たして境内に現れたのは日傘を差した幼き外見の吸血鬼とその従者のメイド長。

 

「……あいつらか」

 

小さく霊夢は呟く、この男中々厄介な連中に関わっているらしい、レミリアが人間と関わるとは意外、でもないか、などと霊夢は考える。

 

「ご機嫌よう、霊夢」

 

「はい、こんにちは、この暑い中ご苦労なことね」

 

挨拶の言葉をかけたレミリアと黙礼する咲夜に労いとも皮肉ともとれる返礼をする霊夢。

 

「川上、ちゃんとついてこなきゃ駄目じゃない」

 

「すまない」

 

窘める咲夜に対しタバコを携帯灰皿に揉み消しつつ一言で川上は済ませた。

 

「取り敢えず暑いし上がらせてもらいましょ」

 

「そうするか」

 

そういいつつ霊夢の了承も待たず三人は中へと歩き出した。

 

一つ溜息だけつき何も言わず霊夢も後に続いた。

 

 


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