「•••さぁ、知らないわ」
急に川上の技量を問いかけられた霊夢はそうとしか言えなかった、せいぜい腕は立つんだろうなと思ってはいたが。
「そう、なら知りたくない?」
どうもレミリアは新しい玩具もとい使用人の能力を見せたくてたまらないらしい、子どもっぽい考え方だ。
「つまり何がいいたいの」
霊夢は聞き返すが一応話題のトピックである川上は自分は関係ないかのようにと茶を啜っていた。
「川上、霊夢と立合いなさい」
いきなりレミリアは川上に命じたが。
「面倒」
「右に同じ」
川上、霊夢、両者に切り捨てられた。
「……」
レミリアは何か言おうとしたが言葉にならず、助けを求めて咲夜を見た。
咄嗟に主の意にそう為この場をどうすべきか咲夜は頭を回転させる、川上と霊夢に手合わせさせればいい、しかしどこか似通った気怠げな雰囲気の二人をどう動かす?川上は強くいえば何とかなるか?霊夢はどうする?川上の力量を見せるだけなら自分が霊夢の変わりに手合わせの相手になるか?
2、3秒の内にそれだけ考えた咲夜が言ったのは。
「私も見たいです」
もう少し上手い事が言えないのか私は、確かにみたいけど、咲夜は自分を恥つつ次に何を言うべきか考え
「いいじゃない、相手してもらいなさい霊夢」
言ったのはここには居ない人物だった。
「…紫?」
「貴方最近稽古不足でしょう、まして体術の稽古なんて相手が中々いないのだからいい機会じゃない」
声はすれども姿は見えない、その甘く、妖しい声は霊夢に立ち合うよう言っていた。
「なんでわざわざそんな事しなきゃならないのよ」
霊夢は相手が姿を見せない事には得に言及せず言い返した。
「有事の際に備え稽古は出来るときにするのが博麗の巫女ですわよ」
声はそういうと霊夢は反論を諦めたのかふぅと息を吐いた。
しかしもう片方の川上は話を聞いているのかいないのか咥えタバコで眠たげにぼんやりしているだけだ。
そしてとりあえず成り行きに任せる事にしたのか、言い出しっぺのレミリアと咲夜はリンゴを齧りつつ静観している。
「せっかくだから余興として勝ったほうは景品を取る、なんてどうかしら?」
姿なき声がそういうと川上の目の前が裂けるように空間が小さく割れた、異常な現象にも川上は顔色を変えない。
しかし空間の割れ目から古ぼけた鉄の端のようなものが覗きそこに刻まれた字を見て川上の眼の色がにわかに変わった。
「本物か?」
「正銘ですわ、貴方好みでしょう?」
呟くような川上の問に声は何処か楽しげに答える。
川上が霊夢に目線を向けると二人の目が合った。
「…しょうがないわね」
霊夢がそう呟くと川上は吸いさしのタバコを携帯灰皿で消して右手に刀を持ち立ち上がった。
「外でやりましょう」
霊夢も立ち上がり言う。
無言で川上は頷き霊夢と共に部屋を出た。
「さて、面白いものが見れそうね」
「えぇ」
最後の一欠のリンゴを口に放り込みレミリアも立ち上がり、咲夜も後に続いた。
博麗神社境内に五人の人間が集まった。
霊夢はただ突っ立っているだけに見えるが纏っている空気に微塵の隙もない、博麗希代の天才は武芸とて並ではない。
川上は眠たげで何処をみているかよくわからない目で緊張しているのか何を思っているのかよくわからない、玉砂利が敷かれた地面を確かめるようにジャッと一回踏んだだけだ。
レミリアと咲夜は木陰で二人を見ている、レミリアはこれが見たかったのだろう嬉しげに笑みを浮かべ、咲夜はレミリアに日傘を差しもう片手に川上から預かった刀を抱えている。
そしてつい先ほど暇つぶしにきたらしい霧雨魔理沙はいい見せ物だという風に賽銭箱の上に腰掛け見物している。
「もう、さっさと終わらせるわよ」
霊夢が挑発じみた台詞を言うが彼女の場合他意はなく素で言っているのだろう。
「咲夜、予想は?」
楽しげな口調でレミリアが従者に問いかける。
「難しいです、霊夢は勿論ですが、川上も達人です、力量が高すぎるもの同士だと勝負は拮抗するかも知れません」
咲夜はそう前置き
「それでもあえて言うなら川上です」
そう言った。
「そう」
クスクスとレミリアは楽しげだ。
「お嬢様なら結果もわかるのではありませんか?」
運命を視て操る自らの主に咲夜は問う。
「言ったでしょあの子に関しては視えないと、だからこそ面白いのよ」
レミリアはそういい笑った。
川上は始める前の一服かちょうど最後の一本のタバコを取り出し火をつけソフトバックをクシャリと握り潰し懐に納めた