武芸者が幻想入り   作:ㅤ ْ

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第57話

魔理沙は魔法の森にある自宅に一人帰宅した。

 

霊夢と川上の立合を見届けて、神社での皆のやり取りを最後まで見ずに誰にも何も言わず帰ってきた。

 

何故か酷く気に入らなかったのだ、あの勝負が。何故だろう、霊夢が負ければなんとなく面白いと思っていたし、そして期待通り霊夢の負けだった。

 

なのに何故彼女は苛つきに似た感情を覚えたのだろうか、魔理沙自身よく整理の付かない感情を持て余し、彼女は居間のソファーに身を投げるように横になり苛立しげに瞼を閉じ指で瞼を上から揉んだ。

 

ふと、彼女は立ち上がり部屋の片隅に置いてある自身の収集品の一つである刀掛けに掛けられた一振りの刀を手に取ると鞘を払った。

 

抜き身の白刃を暫く眺めると、魔理沙は柄を両手で握り上段に振りかぶり、思い切り振り下ろした。

 

その斬り下ろしは恐らく豆腐一つ斬れなかっただろう。魔理沙は刀線に刃筋を立てるという斬り下ろしの基本も出来ず、腕だけで振るったため刀を止める事も出来ず刀は流れて危うく床を打ちそうになった。

 

前振るった時もそうだった、それで魔理沙は刀を武器にする選択は切り捨てただのコレクションにした。

 

前にあの男はこの刀片手で綺麗に斬り下ろしたがやはり魔理沙には同じ事は出来ない。分かっていたさ、そう思いつつ刀を納め刀掛けに戻した。

 

魔理沙は部屋から奥へと繋がる廊下へと歩みを進めた。

 

魔理沙には霊夢のような才能も巫術もない、川上のような卓越した武芸の腕もない凡人だ。

 

魔理沙は廊下の一番奥のドア、自身の私室の前に立つ。

 

しかし凡人なりに魔理沙は考える、自身に出来る事さえ突き詰めれば。

 

魔理沙はポケットから鍵を取り出した、彼女は自宅を留守にする際も自宅の玄関には鍵を掛けないが、自身の私室だけは必ず鍵を掛けていた。

 

魔理沙の友人の霊夢は常に遥か高みを飛ぶ人間だった、誰も本当の意味で彼女と飛べる人間も妖怪も居なかった。

 

魔理沙は鍵を開けて私室に入り内側から鍵を掛けた。誰も入れた事のない彼女の私室は窓もないため薄暗い。

 

霊夢は努力らしい努力もしない、しかし彼女は天賦の才だけでその実力は人間の域を超えている。天才という形容詞すら霊夢を表すには生温い。そして本当は霊夢は恐らく誰も見てはいない。

 

魔理沙の私室は壁一面に全て本棚が置いてありそれらに魔法の研究用の資料だろうか、大量の様々な本が納められており、さらに床には本棚に入りきらなかったのか大量の本が決して狭くない部屋の三分の一以上の床に乱雑に積まれ埋めつくされていた。奥には机が一つ置いてある。

 

どこまで努力すれば魔理沙は霊夢に・・・魔理沙に取って霊夢は昔からの親友である。ギリ、と魔理沙は無意識に歯噛みをした。

 

しかし魔理沙が霊夢に向ける感情が単純に友情だけではないもっと複雑なものであると果たして何人が気付いているだろうか。

 

魔理沙は部屋のランプを灯した。

 

いつか見た星空、あの星を魔法でこの手にしたら、霊夢いる高さにも手が届くのではないかと、そう思ってしまったのだ。

 

部屋に明かりが灯るとふと部屋に違和感が浮かびあがる。本棚に納められた資料や文献は様々な厚さ、大きさ、装丁であり同じ本は一つとしてなかったが、床に積まれた本は全て分厚い黒い装丁の同じ本であった。

 

しかし、今日いつも遥か高みを飛ぶ霊夢が地の底を駆ける一人の男によって地面に堕とされた。

 

魔理沙は机の上の実験道具の一つ、試験管を手に取り茸から抽出し固めた固形物を入れ液体で満たしたそれがどのような反応を起こしているか注意深く観察する。

 

霊夢に取って体術だけで対抗するなんてボクサーが両腕を縛ってボクシングの試合をするようなモノだとは魔理沙も分かっている、しかし霊夢が川上に負けて期待していた愉悦はなかった。

 

魔理沙は実験の結果を机の上に置いてあった本に書き記し始めた、その本には魔理沙が書き記した茸のスケッチや細かい特性、実験の詳細などが書かれていおり、魔理沙の研究用ノートである事が伺えた。

 

そのノートは分厚い黒い装丁の本だった。

 

魔理沙の私室の床の半ばを埋めつくして積まれてる大量の本と同じものだった。

 

果たして誰が信じるであろうか、その数百の本は全て魔理沙の半生をかけて記した研究結果を纏めたノートだった。

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