武芸者が幻想入り   作:ㅤ ْ

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『向上』


第6話

 幻想卿にある博麗神社

 

 

 「よー、霊夢遊びに来たぜ!」

 

 

 そういいつつ神社の客間に上がってきたのはブロンドのやや癖のある髪を持ち、白と黒のエプロンドレスに黒いとんがり帽、ご丁寧にホウキまで持っているという典型的な魔法使いといった格好をした少女だった。

 

 

 「魔理沙‥‥また面倒な時に来たわね」

 

 

 やってきた普通の魔法使い――霧雨魔理沙に対して霊夢はそう言う。

 

 

 「なんだ、来ちゃまずかったか。ん、こいつは誰なんだぜ?」

 

 

 魔理沙は座ったまま和室の壁に背中を預け寝息を立ててる男――川上をみて疑問を漏らした。

 

 

 「今日来た外来人よ。何かおかしな奴でね、ここに来たのに帰るつもりがないみたいだし、いきなり眠り始めるし」

 

 

 そう疲れたように霊夢は言う。

 

 

 「はぁん、変わった奴なのか?」

 

 

 魔理沙は眠っている川上を観察する顔は伏せられていてよくわからないが、女と思えるくらいに体つきが細く黒基調の服を纏っている。そして寝ながらも二振りの刀を抱えている、その内の一振りは魔理沙の身の丈を越える程の尺の刀だった。

 

 

 魔理沙は男の服に付いた赤茶色の物に気付く、乾いた血だった。

 

 

 

 「確かに面白そうな奴だな、こいつ男だよな? なんか血みたいなのが付いてるが大丈夫なのか」

 

 

 

 「確かに体つきは細いけど男よ。血はここにくるまでに妖怪に襲われて逆に斬った返り血だそうよ」

 

 「へぇ、弱そうなのに、妖怪を倒したのか、面白いな」

 

 

 そういいつつ魔理沙の目は川上が抱えてる刀に奪われている。蒐集癖のある魔理沙にはその刀が魅力的に見えたのだ。それに魔理沙は一部で泥棒と言われる程手癖が悪い、この刀なら売り払えばいい金になるのではないだろうか、思わずそんな事を魔理沙は思った。

 

 まぁ、いくら何でも勝手に刀を売るのは‥‥と思いつつ、ちょっと見せてもらうだけならいいか、と魔理沙が刀に手を伸ばす。そして野太刀の拵えに手が触れた瞬間――

 

 

 「うぁッ!」

 

 

 瞬時に覚醒した川上にその手を取られ畳に叩き付けられるように投げられた。さらに取られた手と腕を絞るように極められる。

 

 「痛たたたた! 痛い痛い! 痛い! ギブ、ギブなんだぜ!」

 

 

 極められてるのは腕の間接のはずなのに自分でもどこが痛いのは良くわからない程の激痛が腕全体から肩口を襲い魔理沙は堪らずタップする。

 

 

 「‥‥あんたたち何やってんの?」

 

 

 お茶を飲みつつその光景をみて霊夢は呆れていた。

 

 「‥‥ん、なんだお前は」

 

 

 川上は遅れて魔理沙に問いかける。どうやら完全に覚醒していた訳ではなく無意識での反射的行動だったらしい。 

 

 

 「わ、悪かったから離して欲しいんだぜ」

 

 

 魔理沙がそういうと川上は極めていた腕を解放する。しかしその佇まいに隙は見当たらなかったが。

 

 

 「今寝ている俺に何しようとしたんだ?」

 

 

 「ちょっと刀を見せてもらおうと思っただけだぜ」

 

 極められてた腕を軽く振って具合を確かめながら魔理沙はいう。凄まじい激痛だったにも関わらず解放されると意外にも腕は何ともなかった。

 

 

 「そういう事は寝ている間に勝手にじゃなく俺に許可を取ってからにしてくれ」

 

 

 「わかったんだぜ、しかし寝ていたのに何でいきなり反応出来るんだ?」

 

 

 

 「いくら寝ていても他人に触れられたら気がつくだろう?」

 

 

 「少なくとも私にはあんな反応無理なんだぜ‥‥」

 

 魔理沙はげんなりとそういう、ここまで隙のない人間も始めてだった。

 

 

 

 「おはよう」

 

 川上は霊夢に相変わらず寝むたげな目を向けてそう挨拶する。

 

 

 「お茶貰えるだろうか?」

 

 

 川上のその言葉に霊夢は湯飲みにお茶を注いで渡す。

 

 

 「ありがとう」

 

 

 起き抜けで川上は愛用の両切りタバコに火を付け紫煙を吐いた、そして合間にお茶に口を付ける。

 

 

 「あぁ、良く寝た」

 

 

 大きく気持ちよさそうに伸びをしながら川上は言った。

 

 

 

 「腹減ったな‥‥」

 

 

 そして伸びが終わると共に呟く、川上はこちらの世界に来てから食事を取っていないのだから無理は無かった、もっとも川上の場合多少の期間食事を取らなくともある程度は活動できるが。

 

 

 

 

 

 「確かになんか変な外来人なんだぜ‥‥」

 

 

 魔理沙はマイペースな川上に呆れたように言う。

 

 

 

 「まぁいいや、私は普通の魔法使い、霧雨魔理沙なんだぜ、あんたは?」

 

 

 

 「俺は普通の武術家、川上だ、よろしく、しかし‥‥」

 

 

 ふと、川上が自己紹介の後に何か言い淀む。

 

 

 「なんだぜ?」

 

 

 「いや、霧雨魔理沙って名前がなんかいいな、語感というか、いい名前だ」

 

 

 「ん、そう‥‥か?へへ照れるぜ」

 

 

 

 川上はおそらく感じたままを口に出したのだろう、しかし魔理沙は若干嬉しげだった。

 

 

 「貴方武術家なの?」

 

 自己紹介を聞いていた霊夢が突っ込む。

 

 

 「あぁ、まぁ武術家と名乗れるような正道の者では俺はないが一応武術は修めている」

 

 

 

 「ふぅん、だから刀をもっているのか?」

 

 

 魔理沙は川上の二振りの刀を見てそういう。

 

 

 

 「俺がここに来た時何故か刀も一緒に置かれていただけだがな、まぁ、確かに俺は刃物の扱いが一番得意なんだが」

 

 

 川上は短くなったタバコを携帯灰皿に入れながら言う。

 

 

 

 「妖怪を斬ったんだって?」

 

 

 魔理沙は妖怪を倒した事について聞いてみた。

 

 

 「向こうが俺を殺して喰うって言ってきたからな、間抜けな妖怪には退場願った」

 

 新しいタバコに火を付けつつ川上は言う。

 

 

 

 「間抜けな妖怪?」

 

 

 「だって食べる獲物に対してお前を殺すから覚悟はいいか? なんて忠告する奴はただの馬鹿だろう?」

 

 

 

 「は、ハハッ! それはそうだな!」

 

 

 

 「相手が間抜けだったから助けられたな」

 

 

 平然とそういいながら川上は紫煙を吐く。

 

 

 

 「なんかお前は外から来た人間なのに余裕があるんだぜ?」

 

 

 「まぁ慌てて事態が良くなる訳じゃないんだから、だったら余裕をもっているほうが幾分ましだろう」

 

 

 そういう川上の佇まいは余裕というよりどうでもよさげな雰囲気がある、霊夢はそんな事を思った。

 

 

 「ところで空腹だから何か食料を貰えないだろうか?」

 

 

 一応異常な事態にある状況で食事が取れずに体力を失うのはまずい、川上はそう思って言った。

 

 

 「ないわよ、こっちは自分の分の食料を確保するのでいっぱいよ」

 

 

 余分な食料がない霊夢はそう言った。

 

 

 「胃で消化出来るならネズミでもなんでもいいのだが」

 

 

 「どんだけ雑食なんだぜ‥‥」

 

 

 川上の主張に魔理沙は思わず突っ込む。

 

 

 

 こんな事ならあの妖怪に少年の死体を分けて貰えば良かったか、川上はそう後悔しつつ呟き、それを聞いた霊夢と魔理沙はとんでもない事を聞いたような気がしたがスルーする。

 

 

 「そんな事より帰らないなら貴方これからどうするつもりなのよ?」

 

 

 「別にどうもしないが?」

 

 

 霊夢の疑問に川上は何の主体性もない答えを返す。暖簾に腕押し、そんな言葉が霊夢の頭によぎった。

 

 

 「じゃあ今日の所はとりあえず家にくるか? 食事くらいは出すんだぜ」

 

 

 何となく川上の事を面白い奴だと気に入った魔理沙がそう提案する。

 

 

 「じゃあ世話になる」

 

 

 川上は即答した。


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