永遠亭の一室、そこで三人の男女が向き直っていた。
一人は黒髪に三白眼、腰に刀を差した男、紅魔館使用人川上。
一人は薄い紫のロングの髪に真紅の眼とヨレヨレのウサギの耳が特徴的な鈴仙・優曇華院・イナバ。
最後の一人は艶やかな銀髪を三つ編みに纏め、右半分と左半分で赤と青に分かれているという何とも形容しがたい服に身を包んだ八意永琳。
「で、何の薬が入用?」
永琳は初見から自分を見て妙な反応を示した川上には触れずに用件に入った。
川上も特に何も言わずに椅子に座ると懐から一枚の羊皮紙を取り出し永琳に手渡した。
「紅魔館の遣い、ね。あそこも新しく人を雇ったのね」
永琳はそこに書かれている処方して欲しい薬品とレミリア・スカーレットの署名を目を走らせて呟く。
「川上という、よろしく頼む」
「えぇ」
永琳は川上の自己紹介にどうでも良さそうに素っ気なく答え、自分は名乗りもせずに渡された羊皮紙にサラサラとペンで何かを書き加えて後ろに控えていた鈴仙に手渡した。
「今から処方する必要のあるものもあるわ、暫く待っていなさい」
「承知した」
「鈴仙、彼を客室に」
「わかりました」
永琳と川上、鈴仙はそう端的なやり取りを交わした、永琳はあまり無駄は好まないのかも知れない、ふと鈴仙は話し方が二人似通ってる気がした。
川上は鈴仙に促されて、失礼する、と一言残し退室した。
鈴仙を案内され川上は屋敷内を歩きつつ言った。
「あの薬師、腕がいいと聞いたが」
「そうですね、師匠は天才、という形容詞すら生温いような方ですから」
川上の言葉に鈴仙はそう答えた、鈴仙の口調はやや固いが師に対して敬愛を持っている事が伺えた。
そして幾ばくかの畏れ。
「そのようだな」
そう相槌を打ちつつ川上の口の端が釣り上がり冷笑が浮かべていたが、前を行く鈴仙は気づかない。
「薬に関しては何でも作り出せるようだな」
「そうですね…おおよそ薬ならどのようなものでも師匠なら作れてしまうでしょう」
そう雑談している内に客間の一室に着き、川上は通された。
「後ほどお茶をお持ちしますので」
そう言って鈴仙は立ち去った。十畳ほどの部屋に卓と座布団だけという簡潔な部屋を川上は一度見渡すと腰から焼けた刀を鞘ぐるみのまま抜いて右手に持つと座布団に正座に刀を右横に刃を自分に向けて置く。
川上は正座したまま静かに瞑目した。
鈴仙が茶の用意をする前に師である永琳から受け取った処方箋に記載された薬品、材料を薬品室に取りに行く途中だった。
「姫様」
「あら、イナバ」
廊下で出会い声を掛けた相手は、一人の小柄な女性だった。
墨を流したような艶やかな長い黒髪に切り揃えられた前髪、綺麗に整いつつ童のような愛らしさも感じられる顔には有るか無しかの微笑を浮かべている。
身を包むピンク色の服は胸元に白いリボンがあしらわれておりゆったりとして長い袖丈は手先を隠している。スカートは赤い生地でさらに下に白いスカートを重ねているようであるが、これも床につくほど長い。
それらの服装は洋装だが服全体に月に雲、桜に竹、紅葉など和風の意匠が凝らしてあり和洋折衷といったところか。
屋敷と同じく見る者に和の美を感じさせる女性だったが、それもそのはずこの人物が永遠亭の姫、蓬莱山輝夜だった。
「客かしら」
「はい、妙な男性ですが、薬を買いに」
問いかけに答えた鈴仙の言葉に輝夜は興味を抱く。
鈴仙は普段他人にあまり関心がないので、人間に何がしかの形容をする事自体珍しい。そう輝夜は思った。
「妙な殿方ね、どう妙なの?」
「それは」
「やはりいいわ」
答えようとした鈴仙は質問した輝夜自身に遮られ鼻白む。
「自分で見てくるわ」
「あっ、姫様!」
輝夜はそう一言いい、どこか眠たげな眼で一つ微笑むと咄嗟に出た鈴仙の制止も黙殺し歩き去っていった。
どうにも興味を抱かせてしまったらしい、長い時を生きる者にとっては好奇心ではなく、退屈こそが己を殺すものなのだ。
まぁ、問題はないだろうと鈴仙は思う、材料を師に届けた後の茶は二人分用意したほうがよさそうだ。
客間で正座のまま瞑目したまま静かに呼吸していた川上はゆっくりと眼を開いた。
「こんにちは」
開いた視界の横に川上が座る場所から斜の場所に女性が一人座り口元を長い袖口で隠し微笑んでいた。
女は突然にそこに居た、川上は眼を閉じていたが他の四感は人が近づく足音、襖を開ける音、近づく気配、そういったモノは一切なく唐突に、あるいは最初からのようにそこに居た。
「こんにちは」
挨拶を返しつつふと川上は似た感覚を思い出した、これと同じ事をやるメイドがあの館にも居たな、と。
「ちょっとお顔を拝見しても」
返答も聞かずにその女性、蓬莱山輝夜は唐突に川上の顔を両手で包み、ずいっと顔を近づけた。
吐息のかかりそうな至近距離から輝夜は川上の眼を覗きこんだ、彼女の茶色がかった黒い澄んだ瞳が川上の眼の奥を見据える。
対して川上は特に反応も示さない、輝夜と同じブラウンの瞳は輝夜の眼を見返して二人の視線がからまっている、ように見えるが違う、川上の視線は輝夜の眼に向いてるだけで焦点は定まっていない。
至近距離から見ると虚ろにも見える眼は何も見てはいないようで。あるいは全てを見ているのかもしれない。
「嫌な眼をしているのね」
「君は綺麗な眼をしているな」
輝夜は川上から顔を離し面白そうに感想を言い、川上はつらまなそうに感想を述べた。
「私は蓬莱山輝夜、この屋敷の主人、貴方のお名前は、剣客さん?」
「川上と言う、よろしく頼む」
「貴方みたいな武芸者は久しぶりに見るわ、御子神にちょっと似ているかも」
「ところで聞きたいんだが」
名乗り合った所で川上が切り出した。
「ここは禁煙か?」
懐からゴールデンバットのパックを取り出し軽く降りつつ聞いた。