武芸者が幻想入り   作:ㅤ ْ

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『武人』


第93話

 深い森に覆われた山。

 

 幻想郷においては個人主義の妖怪達にしては珍しく、妖怪達が社会を築きその拠点としている通称妖怪の山。

 

 まだ陽の高い午前中、山に開いた長く続く参道を歩く二人組がいた。

 

 やや小柄な体躯に白黒のエプロンドレスに身を包みトンガリ帽子という出で立ちで、緩くカールした金髪で幼さを残した愛らしい顔に飄々とした笑みを浮かべ。身の丈ほどの箒を担いで歩いている少女は霧雨魔理沙である。

 

 比較的長身に、地味な黒い長袖の洋服を着込み。ベルトに刀を差して背中に五尺を超える反りの浅い野太刀を背負い。黒髪に黒い眼、整ってはいるが坐った三白眼が近寄りがたい酷薄で昏い印象を与えてしまう顔付きに眠たげな表情を浮かべて歩いているのは川上である。

 

 今日は風が吹いており過ごしやすい。晩夏の秋めいた風は涼しかった。

 

「道は外れるなよ、ここの奴らは細かい事をいちいちうるさいんだ」

 

「あぁ」

 

 川上は妖怪の山にあるという守谷神社に興味を持ち参拝に来ていた。魔理沙は暇つぶしも兼ねた案内役であった。

 

 妖怪の山の妖怪達は他者に排他的である事で有名であり、基本的に部外者が山に立ち入る事は許さない。

 

 一応守谷神社の参拝客の為の特別な措置として決まった参道に限り部外者の通行を許している。

 

「神社がもう一つあるのはいいが、これで参拝客など来るのか?」

 

「まぁ、参拝出来なくはないが、実際客は殆どこないらしいぜ。まぁ、わざわざ山に立ち入ってまで来る物好きなんかそうそういないだろ」

 

 川上の言葉に魔理沙はあっさりとそう言った。実際参道が開けてるとはいえわざわざ妖怪達の本拠地に立ち入り険しい道を踏破してまで参拝するほどの信者などまずいないだろう。

 

 参道といえど歩きやすく整備なんて全くされていない道だったが、魔理沙も川上もその手の道行は慣れているのか足運びに淀みは無かった。

 

「霊夢の所の神社も大概だが、こっちの神社の参拝客は絶望的らしいぜ。もっとも山の妖怪達に結構信じらてるらしいが」

 

「へぇ」

 

 魔理沙の解説に川上は気の無いあいずちを打った、そして懐からゴールデンバットを取り出しつつ言った。

 

「その神社は確か何といった?」

 

「守谷神社だ」

 

 守谷神社、守谷。何か引っかかるような、そんな事を思いつつ川上は咥えた紙巻に火を点けた。

 

 歩きつつ一服吸った所で、川上は左腕を出して魔理沙を静止した。

 

「どうした?」

 

 魔理沙が聞いたのと同時に参道の脇の森から白い人影が飛び出し、二人の前に立ち塞がった。

 

 約五間の距離を置いて進行方向に立ったその人物はショートカットというには長い白い艶のある髪をしており、頭には獣の耳、さらに山伏風の帽子を乗せている。眼は赤く童顔で愛らしい顔立ちだが、浮かべる表情は鋭く、どこか精悍さも感じさせる。

 

 やはり白い上着は腋が空いており、二の腕に独立した袖を着用しているのは風祝の東風谷早苗に近い。スカートは黒地に縁が赤のダンダラ模様となっており秋の紅葉を思わせるような意匠だった。腰には煌びやかな太刀拵の一振りの太刀を佩いており、小刀も一振り差していた。

 

「お前は、確か……椛か?」

 

 魔理沙は突如として立ち塞がった相手の名——白狼天狗の犬走椛の名を呼んだ。

 

「何の用だ?別に山に押し入るようなつもりはないぜ」

 

 驚きから気を取り直した魔理沙がどうにも剣呑な雰囲気を発する椛にそう告げる。

 

「貴女に用は無い」

 

 魔理沙には一瞥もくれずに椛は返答した、彼女は魔理沙などではなくずっとただ一人を見ている。最初から。この山に入った瞬間、いやそれ以前から。

 

 椛の視線の先にいるのは紫煙を浮かべて蒙昧な眼をした川上だった。

 

「こうして相見えるのは初めてと言うべきか二度目と言うべきだろうか」

 

「そちらから出向いてきてくれた事に感謝する。いつかの蛍の光の中のせせらぎでの挑戦、確かに受けさせて貰う」

 

 川上はぼんやりと思いを巡らす。そう言えば誰か見てるから戯れに挑発的な仕草をした事があった。そう言えばこちらの方角だったかと川上は思った。

 

「おい、ちょっと待て!この山で揉めたらこっちがタダじゃすまないぜ」

 

 魔理沙は慌てて割って入った。天狗は妖怪の山で縦社会を築いている種族である。目の前の椛は哨戒役の下っ端と言えど手を出したら面倒ごとになるのは想像に難しくはない。

 

「心配無用。今私は公人としてここに立っているのではない。私人として、一匹の天狗として、一人の武人として貴方の前に立っている!」

 

 かつて川上が戯れに近い考えでした行為。それが犬走椛という天狗の、いや武人の何かに触れてしまったのか。

 

 椛の声には嘲りや怒りと言った色は無かった。強い意志の籠った張りのある少し低めの響き。

 

「おいおい、はいそうですかと間に受ける奴が」

 

「京八流、犬走椛!一手所望す!」

 

 抗議しかけた魔理沙の言葉を遮り椛は声を川上に向け張り上げた。

 

 椛の右手が豪奢でありながら振るうのに差し支える邪魔は省いた麗しい外装の太刀に手がかかり、ゆっくりと太刀を抜いた。

 

 抜いちゃったよ。魔理沙は眼も当てられずそう思うしかなかった。面倒ごとになった、何とかこの場を納められないか、とそこまで考えて悪い予感がして振り返った。

 

 悪い予感が当たり魔理沙は帰りたくなった。川上は既に抜刀を済ませていたのだ。

 

 プッと川上は短くなった煙草を吹いて踏み消して言った。

 

「承知した」

 

 椛が初めて小さく笑みを浮かべた。少女らしく愛らしい笑みとはかけ離れた攻撃性から来る笑い。

 

 椛は太刀をゆっくりと取り上げて、八草に構えてると言った。

 

「——征くぞ」




この物語での椛は盾とダンピラ装備じゃなく。太刀を佩用してます。
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