遊戯王 Link AXEL "Gold"   作:ヴァーチャル

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第1話 ビギニングゴールド!

 近年デュエル犯罪は増加の一途を辿っていた。その中でも猛威を振るっていたのが「デュエルウイルス」だ。このウイルスに侵された者は正気を失い、デュエル依存症になる等の様々な症状に見舞われる。この病から完治したものはいまだかつていない。

 この現状を打破するために日々働く者。人は彼らを、セキュリティーと呼んだ!

 

「アヒャヒャヒャヒャーーっ! 行くぞ、恐竜族最強モンスター、『二頭を持つキングレックス』を召喚!!」

「く、くそっ、セキュリティの犬がぁっ! これでも喰らえ、『落とし穴』!」

「無駄だ。カウンタートラップ『ギャクタン』! これで落とし穴は無効となり、私のバトル! 喰らえ!!」

 

 セキュリティーの男はDホイールというバイク型のデュエルディスクに乗って、逃走中の犯人を追っていた。対して追われている犯人はDチャリという原チャリ型のデュエルディスクに乗っていた。ここではバイクと原チャリでは馬力の差は歴然──無論例外もあるのだが──、今回の場合は格の違いは明確であった。

 

「ジャスティススタンプ!!」

 

 正義の一撃が犯人を打ち倒した。

──ピーポーピーポー──

 救急車が鳴り響く。それは悪の断末魔でもあった。

 

「う、うわ……ヘブン様ぁ……うわぁーっっ!!」

「うるせぇ! 逮捕だ!」

 

 犯人が連れ去られていった。

 手際良く犯人を制圧した先輩へ憧れの視線を送る少年がいた。彼はセキュリティーのデュエル部隊に最近配属された中卒で、可愛い顔をしていた。

 

「くぅ〜! やっぱ先輩は半端無いぜ! 恐竜コンボの冴えがスゴい!!」

「遊旗か。ふっ、あんまり褒めるんじゃねぇぜ。それほどでも……」

「それほどでも……?」

「……あるけどな! アヒャヒャヒャヒャァーっ!!」

「アハハハハ!!」

 

 談笑しながら帰る途中、遊旗は知ってる顔を見かけたのでそっちに話しかけることにした。先輩は先に帰った。

 

「よぉ、アリス。今日も可愛いな」

 

 遊旗が話しかけたのは幼なじみで今春からデュエルアカデミア高等部に通い始めた少女、アリスであった。

 

「な、なに言って……ゆ、遊旗は仕事帰り?」

「いやーまだちょっと仕事あってさ。でも明日はばっちりだぜ!」

「そ、そうなんだ。ふ、ふーん」

 

 アリスは何人かの友達と一緒に帰るところだった。友達のひとりが話に入ってくる。

 

「遊旗くん、こんにちはー。明日って?」

「やぁ友達ちゃん。明日は新しいデュエルシステムの落成式があるだろ?俺とアリスのふたりで行くんだー」

「ちょ、ちょっと遊旗……」

「えー、アリス遊旗くんとデートするんだー! マジうらやまー!!」

「バっ、ちが……!」

 

 アリスは慌てふためく。友達にはデートのことは伏せて

 

「デートじゃない!! デュエリストとしての勉強です!!」

 

 もとい、勉強のことは伏せていた。なぜ伏せていたかと言えばそれは読者の想像に委ねるより他になかった。

 

「そ、それに私は別に遊旗と一緒じゃなくたって……べ、別にいいし……」

「えー、そんなこと言わないでくれよー。俺、アリスと遊べるの超楽しみにしてたんだからさ!」

「え、えっ……あっ……う……?」

 

 アリスは赤くなり、モジモジしだす。遊旗が怪訝な顔で彼女の顔をのぞきこむと、彼女はもっと赤くなった。

 

「さ、ささ、さっきから可愛いとかデートとかずっと一緒だよとか、そんなこと友達の前で……羞恥心ないの!?」

「ずっと一緒は言ってねぇけど」

「……あ」

「ま、思ってはいるけどな。俺はアリスとずっと一緒にいたい。ずっと、ずっとな」

「ゆ……遊旗……っ!」

 

 アリスの頭からボンっ!と、思考回路がショートした音がなる。そして次の瞬間、彼女は走り出していた。

 

「うわぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!!!!!」

 

 少女は走りだす。その足で。何も恐れずに。その育ちかけながらも豊かな胸を揺らし、風を切り裂き、闇を切り裂き、夜空とかも切り裂き、まぁ今昼なんだけどなんか色々切り裂き、光の速さで駆け抜ける。未来へっ!続くこの道を!

 

「Going my way!切り開いてゆけぇぇっ!!!」

 

 

 

 置き去りにされた友達はポカンとなる。

 

「い、今のは一体……っ!?」

「あはは。アリスはあぁなることよくあるからさ」

「え、そ、そうなんだ。でも、遊旗くんも大胆なこと言うよね」

「アリスといるとテンション上がっちゃってさ、つい思ってることそのまま言っちゃうんだよな。悪いクセだなー」

「あ、こっちも重症なパターンのやつか」

 

 アリスがカードを落としたようだったので、遊旗はそれを拾い、ヒラヒラとさせながら笑う。

 

「アリスはおっちょこちょいだけど良い奴だからさ、仲良くしてあげてね友達ちゃん」

「はーい。じゃ、私も帰るね。お仕事頑張って」

「おう! 気をつけてなー!」

 

 友達と別れたあと、遊旗は道に座り込んでいるボロボロのジジイを見つけた。絶賛徘徊中の物件なのではと思った遊旗はセキュリティーとして人間として、声をかけることにした。

 

「なんだよジイさん。こんなとこで寝てたらダメだぜ。俺セキュリティーだからさ、帰れないなら送るぜ?」

「黄金の……伝説の龍……」

「え?」

 

 ジジイのたわごとだと普通なら思うところだが、遊旗はその卓越した決闘者としての直感から、それをただのうわごととは思わなかった。

 

「黄金の龍……絵本で見たことある! 一億年前にいた、最強のドラゴン!!」

「青き龍は勝利をもたらす。しかし赤き竜がもたらすのは勝利にあらず、可能性なり。そして、黄金の龍がもたらすもの、それは、新たな伝説なり!」

「新たな……伝説……!」

 

 ジジイの語り口の厳かさもあってか、その言葉は遊旗の胸に来るものがあった。感銘を受け、目を輝かせる。

 

「すげぇ! いつか会ってみたいぜ、黄金の伝説の龍!!」

「それはお主のデュエル次第なのじゃ。これを」

「?」

 

 渡されたのは、真っ白なカード。見たことのないカードは星の数ほどあれど、何も書かれていないカードというのは普通ない。

 

「全てのカードはこの白紙の状態から、カードの中に埋め込まれているクリスタルによってテキストが記され、使えるカードとなる」

「じゃあ、こいつは生まれる前の卵ってことか」

「そうじゃ。クリスタルにはいまだ謎が多い。どうすれば強力なカードが生まれるのかは分かっていないのじゃが、確かなことがひとつだけある」

「確かなこと……」

「カードは、信じる者の想いにのみ応える。全ては、決闘者の闘う意思次第ということさ」

 

 遊旗は感動していた。号泣していた。必死に涙を拭い、潤んだままの目でジジイを探す。

 

「うぅっ!! ジイさん、俺……ん、あ、あれ?いない?」

 

 ジジイはいなくなっていた。しかし興奮冷めぬ遊旗は、叫ぶ。

 

「ありがとうジイさん! 俺、このカードを、持ってる全部のカードを、一生大事にするっ! ありがとうーーーっっ!!!」

 

 

 一方その頃。

 

「ふふふ。困りますねぇ」

「ふ、ふぇぇ……」

 

 先輩──遊旗の先輩である──が路地裏で、ピエロのような人物に絡まれていた。このふたりは先ほどまでデュエルをしており、内容はピエロの完勝だった。

 

「敗者は罰ゲームを受けなければなりません。なのに逃げようとするなんて、無粋というものですねぇ」

「や、やめてくれ……!」

「我々組織の邪魔をするセキュリティーにお灸を据えて差し上げようと言う試みでしたが、まさかこんな無粋で弱い御仁をつかまされるとは。まるで張り合いがない。ま、次の彼はもうちょっと良いかもれませんので、そちらに期待しましょうかねぇ」

「わ、私には妻と子どもがいるんだ……!」

「しかし、約束は果たさなければなりません。あなたが勝ったら私は出頭、私が勝ったら罰ゲーム、デュエル前に決めた約束をねぇ。」

「あ、明日は久しぶりの日曜日なんだ……!」

「では、罰ゲーム!!」

 

 ピエロのデュエルディスクから先輩のデュエルディスクに、件のウイルスが送り込まれる。先輩はディスクを外そうと必死にやる。それは素晴らしい攻撃でしたぁ。だが、しかし、まるで全然!外れるにはほど遠いんだよねぇ!

 そして、ウイルスが彼を蝕んだ。

 

「ほげぇぇぇぇぇぇっっっっ!!!!!」

 

 

 その日の夕方、セキュリティー内はえらい騒ぎになっていた。えらい騒ぎの内容は3つある。

 1つ、デュエル部隊の隊員たちから、デュエルウイルス発症者が続出。デュエル犯罪取り締まりのプロたちが同じようなタイミングで何人も感染したようであることから、思わず油断してしまうような相手からウイルスを送られてしまったと考えられる。

 2つ、システムにハッキングされた形跡があり、調べてみるとデュエル部隊のDホイールが勝手に持ち出されていたことが分かった。Dホイールはそのスペックの高さゆえに兵器にもなりかねないシロモノなので、これは警戒すべき事態であった。

 3つ、ウイルスで正気を失った隊員たちがDホイールに乗り、街で破壊行為をしているという通報が何件も届いていた。つまり、まぁ、そういうことである。

 

「だけど俺は帰庁が遅れたことが幸いして無事なのであった」

 

 無事だった遊旗は街を駆ける。仲間の救出、そして住民の避難のために。

 彼はアリスに電話してみるが、出なかった。彼女は強いデュエリストだから安心かと思ったのだが、あまり楽観はできないという事実に直面する。

 

「くそっ、あいつにも何かあったのか……ちっ、誰か見つかれ!」

「やぁ」

 

 そして、その人物と出会った。

 

「……先輩」

「遊旗かぁ。ちょうどいいやぁ、デュエルしようぜぇ! アッヒャッヒャッヒャァッ!!!」

「先輩……!」

 

 先輩は変わり果てていた。ヤバい人みたいな笑い方をするようになったし、目も血走っていて不健康を感じさせる。

 遊旗は辛かった。犯罪に加担させられ、生き恥をさらしている先輩を見るのは辛かった。そんな彼のディスクのモニターに、新たな映像が映し出される。

 

「ハロー、金色遊旗くん」

「あ、あんたは?」

 

 それは先輩を倒したピエロであった。素顔を晒さなくても伝わるその表情の邪悪さは、常人のそれではなかった。新米とはいえセキュリティーの一員である遊旗はその直感で、話している相手の危険性を理解していた。

 

「私の名はヘブン。そこの彼を洗脳している者です。どうぞお見知り置きを」

「な、なんだと!? 先輩やみんなを元に戻せ!!」

「ではデュエルを。あなたが勝ったらワクチンを差し上げます。負けたら、そうですねぇ、あなたにもウイルスに感染していただきましょうか」

「いいだろう。勝負だヘブン!!」

 

 怒りの絶叫が響く。しかし道化師はその怒りを受け流す。

 

「いえいえ、勝負するのはワタクシではありません。そこの先輩さんですよ」

「な、なに!?」

「ご安心ください、ワタクシ、約束は守る方ですので。では、お後がよろしいようで」

 

 道化師は、さっさと映像を切ってしまった。そして次の瞬間、遊旗のDホイールがデュエル待機状態になる。先輩のDホイールから、デュエル申し込みのアクセスが来ていたからだ。セキュリティのDホイールである遊旗のそれはシステムが頑強なので、ハッキングされることはない。デュエルに応じるかどうかは、遊旗自身に選ぶ権利がある。

──俺は……──

 勝ってもヘブンが約束どおりワクチンを渡すとは限らない。負ければウイルスに感染し、永遠にヘブンの操り人形になるだろう。

──先輩……──

 そして何より、尊敬する先輩とこんな形で闘いたくなかった。こんなものは、デュエリストの闘いではない。誇りも亡い、信念も亡い、ぶつかりあう魂亡き、虚しいデュエル。それでも。

 

「……あなたは俺の夢だった。強くて優しくて家族想いで、最高のデュエリストだった」

「ひひひ……」

「そんなあなたを、俺は取り戻す。この町も守ってみせる。俺の命に懸けて! それがセキュリティーとして、デュエリストとしての俺の使命だ!!」

「アヒャヒャヒャヒャァッ!!」

「あなたを倒すっ! 行くぞ!!」

 

 遊旗はセキュリティの制服を脱ぎ、腰に巻き付ける。渇いた風が二台のDホイールに絡まり、流れて、この街を走り抜ける。それに続くように、ふたりのデュエリストが今、風となった。

 

「「デュエル!!」」

 

 

 

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