前回までのあらすじ。
「……凌牙」
「璃緒……」
兄と妹が見つめ合う。その距離は日常会話ではありえないくらいに近い。互いの吐息を感じられるくらい、近く、近かった。だから、凌牙が璃緒に当たっても仕方がなかった。
「……!」
妹は少し驚いたように目を見開く。しかしすぐに嬉しそうに目を細め、頬を染め、欲張りな兄に触れる。
「お、おい璃緒……あ、あぁっ!?」
「こんなにピクピクして……凌牙ぁ」
璃緒の手が動く。愛情の高鳴りが、ふたりの体の触れ合う箇所で起こる。妹の細い指が兄を弄び、兄の熱が妹を焦がす。それは、愛の交わりだった。
「凌牙……私でこんなになって……」
「……し、しょうがねぇだろ……俺は……お前のことが……その……」
ふたりは一糸まとわぬ姿だった。そして、そのまま抱き合う。となれば、互いの大切な場所が重なり合うのは必定と言えた。兄妹の小さな喘ぎ声が響いた後、大きな音と共に、妹が兄をベッドに押し倒した。そして、兄の上に座る。
「あっ……あぁっ……!」
「璃緒……あ……これが……璃緒の……なっ……か……」
「……はっ……あぁ……凌牙……こんなに……あつい……!」
「り、璃緒が……あったかい……から……っ……!」
「凌牙……ぁっ……お、おにいちゃんっ!!」
「……う……うあぁっ!!」
「あ……あんっ……あ……好き……あぁぁぁっ!!!」
これは、禁断の愛に目覚めてしまった兄妹のものがた
「全然違うわ! 俺はサファイアドラゴンをリリースし、『紅蓮魔闘士』をアドバンス召喚!」
「えー」
正直愛の物語の方が見たかったと思っているアリスをよそに、紅蓮の魔闘士が現れる。攻撃力は2400。紅蓮魔闘士はターンに1度、墓地の通常モンスターを特殊召喚できる。その効果により、サファイアドラゴンが攻撃表示で復活し、そして、魔闘士の巨大な剣が海竜兵へ迫る。
「単調な攻撃だな。ため息が出るぞ。俺に通じる道理はない! トラップカード、『砂塵のバリア ─ダスト・フォース─』!!」
「なに!?」
その名の通りの砂塵のバリアが、遊旗のモンスターたちの視界を奪い、その動きを封じる。ダストフォースは攻撃モンスターを裏守備にし、裏守備にしたモンスターの表示形式の変更を封じる。遊旗の場の3体はこれで身動きがとれない。
「ターンエンドだ。だが、まだ俺には使えるモンスターゾーンが2カ所あるぜ!」
「ならば、俺のターン、魔法カード『地盤沈下』! 貴様のモンスターゾーンを2カ所、使用不可にする!!」
「なにっ!?」
「これは上手い! モンスターゾーンは全部で5カ所だけど、モンスター3体を裏守備にされて、今2カ所が使えなくなったから、これで遊旗のモンスターゾーンは全部埋まった。つまりもう新しいモンスターは出せない。遊旗の攻撃は封じられた」
「アリスがマジで可愛いということは、これを狙ってダストフォースを!?」
「当然だ。貴様の攻撃は強力ではあるが直線的に過ぎる。だからこんな策にハマるのさ」
新海は得意げで、遊旗は悔しそうだった。しかし遊旗はこのロックを打ち破る術を既に見出していた。それは、地盤沈下の除去か、裏守備で固定されてるモンスターをなんらかの方法で場から退けることである。そしてそのための手段が彼のデッキにはあった。
「それはアドバンス召喚。モンスターをどかしつつ上級モンスターを出せる。でも……」
「上級モンスターは強力ではあるが、リリースが必要という点から、デッキに多く入れるにはリスクが伴う。さて、紅蓮魔闘士を使った今、お前の手札にさらなる上級モンスターはあるかな?」
「……ちっ、俺に上級を使わせるために守備力の高いモンスターを壁にしたのか……!」
そんなものは無い!と遊旗の顔には書いてあった。もうちょっとごまかそうぜとアリスは思った。新海も思った。新海の場に奇妙な機械の人形が出現する。
「『クラスター・ペンデュラム』を召喚。こいつは召喚したとき、相手モンスターの数だけトークンを特殊召喚できる。3体のペンデュラムトークンを特殊召喚。カードを1枚伏せてターンエンド」
「……今度は遊旗のモンスターの数によって効果がパワーアップするカード。これは……」
「……まさか……!?」
「どうした?クラスターペンデュラムの攻撃力は100。次のターン、ゴールデンレジェンドを出して攻撃すれば貴様の勝ちだぞ。ククッ、フハハハハハ!!」
この自信、伏せカードが罠であることは明白であった。しかし遊旗の心を揺さぶったのは罠ではなく、ここまでの流れ全体であった。遊旗の顔に冷や汗が流れる。
──俺の手が、全て読まれている……!?──
ここまでの流れはあまりにも完璧だった。遊旗の行動全てが、新海にとって有利に働いてしまっているという事実。新海の目を見やれば。
「……ククク」
その目に映っていたのは自身と余裕だった。新海は、ここまでの流れ全てを読んでいる。自分はここまでいいようにされているだけだった。遊ばれていると言っても過言ではない。そう、遊旗は理解した。しかし。
「ここで、諦めるかよ! ドローっ!!」
「来るか……」
「……ターンエンドだ」
「はっ!」
新海は苦笑する。俺を失望させるなよとその顔は言っていた。
「貴様……俺を失望させるなよ?」
「実質2回言った!」
「何度でも言ってやる。俺は俺を失望させるやつが嫌いだ。せいぜい俺に嫌いになられるなよぉ!!」
日本語いかれてるだろと思いながらも、遊旗は現状のマズさはしっかりと理解していた。新海の場にはトークン含め5体のモンスターがいる。そしてそれら全てはアドバンス召喚のリリースには使えないとかそういった制限もないので。
「『冥界の宝札』。モンスター2体以上をリリースしたアドバンス召喚を行ったとき、俺はカードを2枚引ける」
「これは……」
「 トークン2体とクラスターペンデュラムをリリースし、『神獣王バルバロス』召喚っ!!」
荘厳な獣が現れる。その手の槍には尋常ではないパワーが宿り、大気が震える。大いなる力の来訪を、その場にいた誰もが予感していた。
「な、なにが来る!?」
「バルバロス特殊能力。このカードは3体リリースで召喚することが可能であり、そうした場合、相手の場のカード全てを破壊する」
「なっ!?」
「消え去れ!!」
それは嵐だった。遊旗の全てをただただ喰らい、足早に立ち去って行く嵐。その晴れ間に獣の足音が響き、その槍が伸びる。
「これで貴様の場はがら空きになった。さらに冥界の宝札の効果でドロー。そして、行くぞ、バルバロスのダイレクトアタックっ!!」
「くっ!!」
駆ける獣。否、それは獣にあらず。神の獣の王であった。威風堂々たる王者の一撃は。
「トルネード・スパイラルッ!!!」
獲物を決して逃すことはない。遊旗の胸に突き刺さった槍は、彼のライフを大きく削る……と、思われたが。
「手札から、『速攻のかかし』の効果を発動していた」
「攻撃を防ぐカードか。ターンエンド」
新海は感情を露にせずに遊旗を見下ろす。失望しているのか、遊旗の出方をうかがっているのか。いずれにしても、新海の絶対的優位に変わりはない。それは観衆の反応からも明らかであった。バルバロスの攻撃力は3000。それを単体で超えられるモンスターなど一般には知られていないし、さっき新海が使った『団結の力』のような攻撃力アップのカードを使おうにも、そもそもこの団結の力だって簡単に手に入りはしない。
ならば、遊旗が新海に勝つ手段などないのではないかと誰もが思った。しかし、遊旗アリス新海の脳裏には、単体性能のみでバルバロスを倒しうるモンスターの存在が浮かんでいた。
「……俺のターン、モンスターを守備表示。カードを2枚伏せ、ターンエンド」
「2枚、だと?」
新海はここではじめて顔をしかめた。遊旗が今のターンでドローしたのは1枚。その1枚を引いてすぐ伏せるのはまぁ分かるのだが、彼はカードを2枚伏せた。つまりその2枚の中の最低1枚以上は前のターンから手札にあったカードということになる。ここから導きだされる答えは3つある。
1つ、今ドローしたカードによって新たにコンボが成立した場合。1枚では意味のなかったカードが今引いたカードによって意味を持ったというパターンだ。
2つ、バルバロスのような魔法罠破壊カードを警戒し、キーカードを手札に温存していたというパターン。新海にとってみればこれが最も面倒かつ腹立たしいパターンだ。自分の戦術が見透かされていたということになるのだから。
3つ、上の2つのパターンに見せかけるためのブラフ、つまり伏せても意味のないカードをとりあえず伏せたというパターン。これならば警戒の必要など無いが、果たして遊旗はそんなハッタリをかけてくる性格なのか。新海は思考を巡らせてみるが。
「ダメだ、よく考えたら貴様のことなんざ何も知らねぇ!!」
「へへっ、さぁどうする?」
「ちっ、ならば攻めて貴様の手の内を晒すまで! トークンと海竜騎兵をリリースし、『フレイム・オーガ』を召喚!!」
さっきまでの考察は何だったのかと思わざるをえない脳筋思考によって、全裸の炎の鬼が現れる。どれくらい裸かというと、それはもう全裸である。全裸といえば、裸で見つめ合う兄と妹というのはなかなかオツなものである。具体的に言うと。
「もういいわ!フレイムオーガを召喚した時、俺はカードを1枚ドローする。さらに冥界の宝札の効果でドロー。そして、 バルバロスで守備モンスターを攻撃! 消え失せろぉっ!!」
「消えるのは、そっちだ! 『マジックアーム・シールド』っ!!」
「なんだとぉっ!?」
「あれは、相手のモンスターを奪い、攻撃を奪ったモンスターに引き寄せるカード! ということは!」
「その攻撃はフレイムオーガは受けるぜ。同士討ちだ!!」
上級モンスター同士のぶつかりあいは、凄まじい衝撃だった。新海は怒りに燃えていた。自らの最強クラスのモンスターがいいように使われ、同士討ちにされたのだ。このバトルはフレイムオーガが遊旗の場に移ってから行われたものなのでライフが減るのは遊旗の方であったが、それでも、デュエルの流れを変えるには十分。
「だが、俺にはまだ攻撃力3000のバルバロスがいる」
その流れに抗い、自らの優位を消して崩さない、それが王者の闘い方。一瞬揺らごうとも、その堂々たるあり方が崩れることはない。
「攻撃力だけじゃデュエルには勝てない。カードの絆で突き崩す!」
自らの流れをつかみ取るべく、あがいてあがいてあがき抜く。それが挑戦者の闘い方。どんなに兄妹な、もとい、強大な壁が立ちはだかっても、そのあり方が崩れることはない。
「ならば突き崩してみろ。カードを1枚伏せ、ターンエンド」
「あぁ! 行くぜ、『創造の代行者 ヴィーナス』を召喚!そして特殊能力を発動!」
ヴィーナスはライフ500を払うことで手札またはデッキから『神聖なる球体』を特殊召喚できる。遊旗は1000ライフ払って球体を2体出す。地盤沈下があるのでこれ以上は出せないが。
「『馬の骨の対価』。俺の効果モンスター以外のモンスター1体を墓地に送って2枚ドローする。そしてこれでモンスターゾーンが空いたから、球体をもう1体出す!」
「ふん、俺のバルバロスを倒せるカードは引けたか?」
「いや。だからもう1枚使うぜ、馬の骨の対価! 球体を墓地に送って2枚ドロー」
遊旗の手札が3枚になる。そしてその中から放たれる新たな一手によって、残る最後の球体が弾丸となり、バルバロスへ向かう。
「喰らえ、『ミニマム・ガッツ』っ!!」
「っ!?」
弾丸がバルバロスの胸を突き破り、その力の全てを奪う。それは、必殺の一撃。アリスは息を呑む。
「あれはモンスター1体と引き換えに相手モンスターの攻撃力を0にするカード……あんなレアカードをやつが!?」
「へへっ、これはもらったのさ。ヴィーナスのカードと一緒にな。そう、あれは月が綺麗な日だった。あの日、俺の決闘者人生は始まったんだ」
「それはさておき、ミニマムガッツにはさらなる効果があったな。このターン、バルバロスが破壊されたらその元々の攻撃力分のダメージを俺は受ける。つまり」
「ヴィーナスの攻撃力は1600。この攻撃が通れば、1600の戦闘ダメージと3000の効果ダメージで、俺の勝ちだっ!! 行け、シャイニングヴィクトリー!!」
ヴィーナスが走る。行けヴィーナス! 勝利の未来へレッツゴー!
「『威嚇する咆哮』!!」
獣の咆哮が、ヴィーナスを恐怖させ、その足を止める。よく考えれば、攻撃力100のクラスターペンデュラムを攻撃表示で晒していた以上トラップが無いわけがなかったので、この結果は当然とも言えた。遊旗も、攻撃を止められたことへのショックはさほど受けていない。むしろ、ショックを受けていたのは新海だった。
「……威嚇する咆哮が無かったら俺の負けだった、か」
「そうだな。でもお前は引いていた。さすがだぜ」
「ふ、ふふっ、フハハハハハハ! 許さんぞ貴様ぁっ!!」
「えぇー!? と言いつつ、カードを伏せてターンエンド」
しかし、バルバロスが健在であることは事実。新海の優位に変わりはなかった。しかし、デュエルの流れは遊旗に傾きつつある。それに抗うように、地に濡れていると言いながらも綺麗な斧を持った獣人が現れる。
「『ブラッド・ヴォルス』召喚! こいつは攻撃力1900。こいつで守備モンスターを片付け、バルバロスのダイレクトでジエンドだ。行けぇっ!!」
「トラップカード、『ゴブリンのやりくり上手』! 墓地のやりくり上手の枚数+1枚ドローし、その後手札1枚をデッキに戻す」
「そんなカードで俺の攻撃は止まらん!」
「あぁ。そこで、やりくり上手にチェーンしてさらなるトラップ、『強制終了』を発動っ!! こいつは自分の場の他のカード1枚を墓地に送ることで、バトルフェイズを終わらせる。やりくり上手を墓地に送り、バトルを終了だ!!」
「ちっ」
「その後、やりくり上手の効果を処理する。2枚引いて手札から1枚をデッキに戻す」
「これは上手い! やりくり上手のドロー効果は墓地のやりくり上手の枚数によってパワーアップする。だから遊旗はやりくり上手の効果が適用されるより前に強制終了のコストとしてやりくり上手を墓地に送っておくことで、ドローする枚数を増やした。チェーンのルールを活かした良いコンボね」
「可愛いぜアリス! そして!」
新海のターンが終わると同時に、遊旗の元に黄金の光が注ぐ。ヴィーナスと守備モンスター、上級モンスター召喚用のリリースが揃った今、現れるモンスターはやはりあのモンスター。天地鳴動し、光のカーテンが下りる。その中では、あまりに巨大すぎる影が蠢いていた。
「伝説を超え生まれる、新たな伝説! 黄金の光と共に生まれたて、俺の切り札っ!」
影が、カーテンを破り、咆哮する。それは猛々しく、そして美しい、黄金の龍。
「『ゴールデン・レジェンド・ドラゴン』っ!!」
筋骨隆々、威風堂々。その名の通り、黄金の武装をまとったその龍は、まさに最強と呼ぶに相応しいパワーを持っていた。その攻撃力は4000。
「やっとのお出ましか……伝説の黄金の龍!」
「散々やられたお返しだ、ド派手に行くぜ! バルバロスへ攻撃っ!」
黄金の巨体が舞う。質量感に反して、その動きは速く鋭い。翻弄される神獣王を、黄金のアギトが貫く。
「ゴールデン・ディスティニー・ジャッジメントっ!!」
そして放たれる、究極にして終局の一撃。黄金の光が、フィールドを眩き包み、相対する全てを破壊して行く。
「ぐぉぉぉぉっ!!」
新海を激しいダメージが襲う。無論、これはソリッドビジョンなので実際の痛みはない。しかし、ゴールデンレジェンドのクリスタルの力は、他のカードとは明らかに違った。これまで感じたことがないほどの圧迫感、高揚感、そして、自らのカードに生まれた新たな鼓動。
「喜んでいる……揺れている……俺のカード、俺のペンデュラムが! クククっ、ハハハハハハ!!」
「っ!?」
戦慄を、遊旗は得た。そして見た。新海の元で揺れ動きはじめる、巨大な振り子。その狭間に生まれる異空間。そこは。
「これより、リバースデュエルを開始する」
死が、覆る場所。
遊旗「ほーら、俺生きてたじゃん! なーにが遊旗死すだよアハハハハハハ!」
アリス「う、うん。でも、死にはしないにしても次回で負けそうだよね。切り札先に出しちゃったし」
遊旗「いやいやー、この流れで俺が負けるのは順当すぎてさすがに無いっしょー。面白くないっしょー。と、さりげなくプレッシャーをかけるのであった」
遊傑「どっちが勝っても別にいいけど、私の出番いつです?いや本当に」
アリス「いずれ分かるさ……いずれな」
新海「次回のリンゴはぁ! 俺のドラゴンナイトが今度こそゴールデンレジェンドを打ち破り、この長いデュエルに終止符を打つ! そして、物語はクライマックスへ……!次回、『最強! ビッグバンペンデュラム!!』お楽しみに、だ」
遊旗「おぉっ、珍しく内容通りの予告っぽい! 新海さんも成長したなぁ」パチパチ
アリス「もはや負けるって悟ってるだろこいつ」
遊傑「まったね〜」