新武将の野望in恋姫†無双 ROTA NOVA 作:しゃちょうmk-ll
文章量がいい感じになったのでとりあえずあげます。
場面は少し遡りその日の早朝、船員同士の鍛錬ということで自身も船室から甲板に上がろうとするタケマサを呼び止める者がいた。
「あの旦那様、ご報告しておきたいことが・・・」
「ああ千寿、頼んでいた物資の確認は済んだのか。何か問題でも?」
低めの身長、あめ色の髪を緩めの三つ編みでまとめ肩に流しているこの女性は闞沢、字を徳潤と言い大和屋経理部門の人間である。
航海中の物資の管理を担っており血の気が多くネジの外れた人間が多いこの商会の中で数少ないまともな分類に入る人材だ。
連日連夜不眠不休で活動し続けるタケマサを気遣い滋養強壮に効く飲み物を差し入れするできた女性だ。
その出所は不明でタケマサをもってしても掴み切れない流通ルートと華佗をもってしてもわからない原材料を除けば、であるが。
本人に聞いてもにこやかに話をそらし、作っている場面を誰も見たことがない。彼女の部屋から夜な夜なガチャガチャと不審な音がするというミステリアスな一面のある女性である。
「これを見ていただけませんか?食料の備蓄量なんですけど・・・」
実を言えばこの男、城に金がなくて困ったことはあっても兵糧が無くて困るという経験は忍びだった時を除きほとんどない。
武士にしろ海賊にしろ、金策は自分でやって部下に兵糧購入させれば早々足りなくなることはない。
国主となり複数の城持ちとなれば後方拠点から輸送するなり米を転がすなりすればよい。
城攻めでも自分が率いるのであれば最大限持っていけば足りなくなるということはまずない。撤退の理由は基本的に城が固すぎて自身が病気になるか忍者と海賊の援軍わんこ蕎麦に心が折れるかのどちらかである。
なお、忍者の場合は兵糧の確保が強奪か脅し取るかの二つしかなく、気が付けば悪名がえらいことになるので注意が必要だ。
さて襄陽から外海経由で洛陽までの道の大凡3/5を終えた現在。初航海ということもあり余裕をもってかなり多めに食糧は積み込んでいた。
「どれどれ、は・・・?」
はずであった。
「で?それで俺がこうやってわざわざ煙たい思いまでして魚を焼かにゃならんと?」
「まぁまぁそういわずに高瀬くん。これも仕事のうちですよ。」
「そーだよ。“魚釣りなんぞ性にあわーん!”って竿ほっぽり出したのは高瀬じゃないか」
このままだと食糧が持たない。その報告を受けたタケマサは比較的時間のある会計部門の人間に食糧確保のための釣りを指示した。
ついでに組み手中に事故に備えている華佗や漢女2人も釣りしながら待機、ということに相成った。
「うるさい桃蘭!だいたいもとはと言えば命姫のせいdボバッ!」
ガチコンッ♪
「いいからエビを焼くんだよ、エビを。高瀬や、手が止まっているよ。」
大和屋の主だった人員の多くは荒事専門の戦闘要員が多い。とはいっても全員がそう、というわけではなく頭脳労働専門の人間もいる。
先ほどタケマサに報告を挙げた黄緑色の服が眩しい闞沢。
ぶつくさ言いながら七輪で魚介類を焼いている灰髪に眼鏡の高瀬、と呼ばれた少年は法正、字を孝直。
釣り糸を垂らしているのは桃蘭とよばれた馬良、字は季常。はねた桃色の髪に二つの黒いリボン、腰まで伸ばした三つ編みに人懐っこい笑みを浮かべ大変かわいらしい見た目をしている。がこれでも荊州の名門、馬家の出身であり漢女の間で笑って釣りができる猛者だ。
そしてそれらを日傘のもとで悠々と眺め、獲れたての海の幸に舌鼓を打つのは費禕、字を文偉という。濡羽色というのだろうか、艶のある黒髪を背中辺りまでのばし上等な黒色の着物に身を包んだ女性である。一つ一つの動作に品があり、気位の高く上品な印象を受ける。
親を失った法正、高瀬を引き取り育てたのはこの女性であり、どこからともなく取り出したゲートボールスティック状のもので頭をシバキあげる動作も堂に入っている。
「それにしても命姫さん。なんていうかその、健啖家なんですね・・・」
「素直に大喰いと言えばいいよ千寿。」
千寿は命姫の後ろに積み重なった皿の山を見上げ冷や汗一つ。
「いやはや、生魚は抵抗があったが醤に生姜をとかせば臭いも気にならんものだね。こちらの味噌というのも見た目で食わず嫌いしておったが青魚と煮つけるとまっことうまい。」
何を隠そう食糧の大半を消費したのは彼女でありその細い体のどこにあれだけの質量が詰まっているのかは全くの謎である。
出港以来彼女の食事量と運動量を見てきたが隠れて運動しているわけでもなくどこで摂取したものを消費しているのか見当もつかない。
命姫が今食べているサバの味噌煮に使われている味噌はタケマサが個人的に用意していたものだ。流石に積み荷に手を出されてはかなわない、ということで慌てて引っ張り出してきた。
ちなみに刺身にはワサビだろ、と思う方もいるかもしれないがワサビの大まかな原産地は日本と東ヨーロッパであり2世紀ごろの中国には存在しない。恋姫時空、と言ってしまえばそれまでであるが。
「えっと、なにかこう体型を維持する秘訣とかっていうのはあるんでしょうか・・・?」
「おや紫苑と桔梗、あぁ益州にいたころの知り合いと同じようなことを聞くんだね。なに好きなように食べ好きなように過ごす、それが長生きの秘訣というものだよ。」
なんのことなげに茶をすする命姫とこめかみをヒクヒク、ぎこちない笑いを浮かべる千寿。質問の内容から返答後のリアクションまで非常に似通ったものであったそうな。
ところ変わって戦闘部門。いざ組み手を行おうとしたときにちょっとした問題が発生していた。
「さて、組み手をするにあたりどうせなら組合わせを変えた方がいいだろう。」
「まぁオレは別に構わないんだが・・・」
「私もかまいませんよ先生。しかしちょっと約一名不穏な方がいるようですが・・・」
後部甲板にいるのはタケマサ本体、杏命、朱燐のほかに、
「(こ、これはまさしく神が与えた好機!令さんとは同じ組になれないとしても太ももが眩しい杏命ちゃんに令さんに勝るとも劣らないナイスバディな朱燐さん!厳のおっさんと色々物足りない小蘭ちゃんもいるが確率は2分の1!)」
徐盛、字を文嚮。つんつんと跳ねた髪に赤い鉢巻をまいたやんちゃそうな青年である。何というか圧倒的なスケベっぽさというか三枚目くささが漂っている。現在も鼻息荒く鼻の下を伸ばしてよからぬことを考えているのが見て取れた。
「(グフフフ、組み手に事故はつきもの!あんなとこやこんなところにタッチしちゃっても、それはしょうがない事故なのだぁ!お、落ち着け大樹。ここは冷静に、冷静になれ。あくまで、あくまで自然におねぇちゃん達と同じ組になれるよう非の打ちどころのない完璧な理論を形成せねば!)」
「(ってなことを考えてるんでしょうね大樹のやつ。ほんと、良くも悪くも成長しないやつね)」
令と呼ばれたのは賀斉、字を公苗。赤橙色の艶のある長髪を後ろに流しているスタイルの良い女性である。南部の人間に言えることだが全体的に露出が多く派手目な印象を受ける。
襄陽では商人の護衛兼用心棒のような家業を営んでおり仕事は完璧だがその分ふんだくるというアコギな商売で有名であった。徐盛はその助手であり彼の伸びた鼻の下からいつでもドツけるよう得物に手をかけている。
「ワシもおつむの出来は良うないと思うが若いときでもあそこまでバカじゃあなかったぞ。(まぁ男として気持ちはわからんでもないが)」
厳と呼ばれたのは文欽、字を仲若。大柄でやや長めの髪を後ろで一纏めにしている中年ぐらいの男、とはいっても童顔であり実年齢より若い印象をうける。
一番の特徴と言えばその得物である身の丈ほどもあろうかという大弓の両端に槍の穂先がついている弭槍(はずやり)。
本来弦が切れたり矢を打ち尽くした等の非常用のものである。弓はしなり、槍は突き通すという相反する性質のため扱いには高い技量が求められる。
「なんかすっごくバカにされたような。この苛つきをどこにぶつけてやるべきか・・・」
そしてシャドウボクシングでキレのいいジャブを放っているのは文欽の娘の小蘭。
首元までのばした赤髪に小柄な身長。ぱっちりと開いた目に人懐っこく人を引き付ける爛漫さが感じられる。
両手には鉄甲をつけており右手には武骨な短剣が取り付けられた攻防一体の武器を操り、幼いながらその素質は船員の中でも頭一つ抜けている。
まぁ発育はあまりよろしくないようで同年代の少女よりもむn「誰が洗濯板に立体二次元だってぇ!?」…小柄で可憐な、今後の成長が楽しみな少女である。
「すっごいむかつく。誰でもいいから殴り飛ばしたい感じ。」
「まぁまぁ小蘭ちゃんももう少ししたら大きくなるわよ」
小蘭に視線を合わせるためにややかがんだ令。
谷間が強調され小蘭の不機嫌度と大樹の鼻の下の長さがアップ。
「そうだぜ。そんな心配しなくてもそのうち勝手にでかくなるもんさ」
あくびをしながら大きく伸びをした朱燐。
同じく小蘭の不機嫌度と大樹の鼻の下の長さがアップ。
「こういうのは親の血統、というものが大きいと聞いたことがありますね。厳さん、奥さんはどうだったのですか」
小首をかしげる杏命。足を組み替え短いスカートが揺れる。
今回は大樹の鼻の下の長さのみアップ。
「あ、それはだな・・・」
小蘭の母は彼女が幼いころに亡くなっており厳が男手一つで育てた大事な娘である。そして彼の妻は何というかその、大変慎ましやか女性だった。とだけ記述しておく。
大事な娘の今後の成長についてある種残酷ともいえる未来予想図を告げることへの大きな抵抗があった。が自分をまっすぐに見つめる娘に対して何と声掛けすべきか見当もつかない。
ポンッ
「お前はお前。それでええじゃないか。」
「それってどういう意味よお父さん!!」
ゴスッ!!
内角をえぐるような肝臓打ちが決まり崩れ落ちる厳。腕白でもいい、元気に育ってくれるなら…。その顔はどこか満ち足りていた。
慌てて飛び出る救護班。
「なんて正確な一撃なんだ!力を収束させ的確に内臓にダメージを与え、横隔膜の痙攣で呼吸がままならなくなっている!このままでは命に関わるぞ!」
「うむ、やはりここは人工呼吸が必要じゃな!」
「よく見るといい男じゃなぁ~い///あたし、胸がキュンキュンしちゃうわぁ~ん」
「・・・っはぁ!!娘の愛が重いって、ギャァーワシに近寄るなー!!」
ムッチュー ギャァー フンヌゥー ノワァァー チーン・・・
なお一命はとりとめたものの精神的疲労により本日はリタイヤとなった。
開始前から負傷者が出るという波乱の展開に組み分けがまたややこしくなった。
杏命と朱燐、令と大樹、厳と小蘭は共にいた期間が長く同じ組にするのは避けたい。
また大樹は訓練にかこつけてセクハラ→撃退→折檻というコンボが簡単に予測できたため厳と組ませるつもりだったが彼は小蘭の乙女心により撃沈。
ならば彼の守備範囲外の小蘭と組ませるというのも不安が大きい。
曲がり間違ってフォークボールに手を出すようになっては今後さらに手に負えなくなる。
退場を通り越してそのまま現行犯逮捕である。
ならばどうするかというと
「というわけで己れにいい考えがある。」
「なにがいい考えだぁっー!!いきなり人を簀巻きにしといてなんなんすかぁー!?」
この大樹という男、戦闘においてはいくつかの問題がある。
まず令とコンビを組んで戦うことが多かったため陽動、援護、攪乱など補助的立ち回りは大の得意だが自身が主体となって切り込んでいくことにはてんで慣れていない。
また回避や逃走などは並みの武人では掠らせることもできないが自ら攻撃するための動きが体に染みついていないという身体能力と格闘技能のアンバランスさが目立つ。
そしてド素人の頃から令に連れられて自身よりも格上と戦ってきたことから相手に勝つことよりも自身が生き延びるための立ち回りが染みついてしまっている。
令自身はまともな師匠に師事し基礎を身に着けた上での立ち回りであるため多少の無茶をしても切り抜けていくことができた。
しかしそれについていった大樹には基礎となるべき根幹がない状態で戦い抜き現在の歪な成長を遂げてしまった。
まぁ見かねた令が基本の立ち回りを教えようとしたことはあったがセクハラに走ってしまいそれどころではなかったという自業自得な理由があったのだがそれは置いといて。
「(こんな有り様で今まで生きてこれたのだから才能はあるはず、たぶんきっと。うむ。)」
非っ常に不安である。
タケマサにとってもここまで自身の人物眼が信じられないのは初めての経験であった。
「まぁ聞け大樹よ」
ゴニョゴニョかくかくしかじか
「このわたくしめにお任せください旦那様!!」
「(自分で言っといてなんだがこいつほんとに大丈夫か・・・)」
非っ常に不安である。大事な事なので2回言いました
「んでどうするつもりなのよ。前に私が稽古つけてあげようとしたらろくなことにならなかったわよ。」
「まぁ見てろ。臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前 傀儡の術」
「へ?」
ガクリ
タケマサの行動を怪訝そうに見ていた大樹であったが九字を切ったあたりで糸が切れたように白目を剥いてうつむいてしまった。
タケマサがかけた傀儡の術。それは越後長尾家お抱えの忍び、軒猿の里に伝わる最奥忍術である。
手練れが用いることで視線を合わせる、身体的接触などファクターをはさむことなく相手を視界に収めるだけで一方的に相手を支配下に置くことができる恐るべきものであり、一度術をかけられれば物言わぬ傀儡として操られることになる。
乱戦時や一対多の状況下では非常に有効な忍術であるとともに護衛を伴う重要人物の暗殺に適した忍術である。
三河松平家の守屋崩れや豊後大友家の二階崩れなど戦国の著名かつ不可解な暗殺事件にはこの術が関わっているとも噂されているが真実は闇に葬られている。
「え、ちょっあんた何やったの!?」
「なに、これは傀儡の術と言ってな、しばらくの間相手の体を思うがままに操る術だ。義理堅い者や理性的な相手にはそうそう効かんのだが、まぁ相手が相手だし」
「なら納得だわ。」
「そりゃしょうがねーな。」
「理性的とは一番程遠い人ですしね」
「大樹さんならしょうがないかな~」
全会一致であった。
誤字や表現のご指摘等ございましたらどしどしお願いいたします。
次回はいつになるだろう・・・