新武将の野望in恋姫†無双 ROTA NOVA 作:しゃちょうmk-ll
呂範の突然の弟子入り宣言だったが、あたりには血やらモツやら骸やらが散乱しており落ち着いて話すこともできぬということでひとまず場所を移す。
少し進んだ先で夜半の川のほとりに腰を据え改めて話を聞くこととなった
「さて、弟子にしてほしいということだったが己れから指南を受けたいということでいいのかな? 建築、弁舌、鉱山、算術、礼法一通り身に着けているぞ」
「いやいやもちろん武術っすよ!さっきのアレすごかったっす!並みいる敵をバッサバッサ切り倒していく感じで!」
「教えてやってもいいがあれは剣聖と称された方の起こした新陰流の究極奥義、そうやすやすとは身に着けられるものではない」
「じゃあどうやったら身に着けられるんすか?こう滝に打たれながら精神統一とかするんですか?」
「己れを倒すごとに奥義を一つづつ教えてやろう。安心しろ手加減はせん、全力で潰す」
「安心できる要素がどこにもないっす!教える気あるんですか!?」
「未熟なものに秘技はおしえられん。大丈夫、サクサク行けば1年以内に体得できるさ」
秘技を習得するためには師匠を倒さねばならない。剣客、剣豪クラスの相手ならばなんとかなるが剣聖相手となると一回勝つのだけでも運ゲーとなる。
ガード不可だったり全画面攻撃だったりな究極奥義を稽古で連発してくるなど戦国の剣豪たちは基本容赦ない
そんな相手と戦うには装備を整えたり別の秘技を学んだり色々と準備が必要となってくるが今の呂範ではタケマサから秘技を習得するのはほぼ不可能だ。
先ほどのタケマサの大立ち回りを見ていた呂範は彼我の戦力差を鑑み、秘技を教わるのは現実的ではないということを実感している
「ぶ、武術はちょっとあたし向きじゃない見たいっす・・・」
「まぁ気を落とすな、人間武術だけではない。例え腕っぷしが弱くても別のことで身を立てればいいではないか」
「そ、そうっすよね。大丈夫・・・あたしは強い子、こんなところで挫けないっすよ・・・」
やや気落ちした呂範をしり目にタケマサはこれからのことについて考えを巡らせていた。
後漢の時代と一口に言っても歴史は長い。道すがら聞いた話では洛陽の都では宦官と官吏が争っていたり官位が金で売り買いされようといているとかいないとか。さらにどうやら華北のほうでは年々気温が下がりだしているそうだ。
中央政権の腐敗と権力闘争による官位の形骸化、それに加えて食糧難の兆し・・・どっかで聞いたような状態である。どう見ても乱世にリーチかかってます本当にありがとうございました。
戦国時代と同じく三国時代もどうやら小氷河期であったらしく、黄河の流域である華北ではその影響が大きかった。曹丕の時代には九州と同緯度にある淮河が冬季に凍り付いたという記録もある。
確かこれから朝廷の悪政、黄巾の乱、群雄の割拠、董卓の台頭、それから何やかんやあって蜀、魏、呉の三国鼎立、最後は晋が統一を果たすという流れであった気がする。
兵法書は読んできたが詳しい情勢の動きなどは把握しきれていない。迂闊なところに仕官しようものならどんな巻き添えをくらうことか。
そんな状況でこれからどう動いていく・・・?
今まで生きてきた日本とは時代も土地も違うので勝手がつかめず頭をひねる。仕官するにも商売するにも土地勘がなければ話にならない。
だがとりあえずは何よりも優先しなければならないことは・・・
「なぁ子衡殿、どこかで茶を手に入れたいのだがなにかあてはないか?」
「茶ですか?あたしみたいな娘がそんな高級品手に入れる伝手なんて持ってるわけないっす。あたしら庶民には縁の遠いものですよ~ 襄陽についたら手に入るんじゃないですか、お金あればですが」
そうだ茶だ、最優先事項である。
茶は素晴らしい。飲んで良し、嗅いで良し、飲ませて良しの三拍子に加えて朝廷との交渉もしやすくなるし極めていけば茶室に敵将を拉致監禁も可能という万能の外交手段となる
憎まれ口をたたき何かと喧嘩売ってくるライバルや親密度の上がりにくい無欲な連中も茶をふるまえばあっという間に親密になれる。月に一度は配下の者たちに茶を振る舞い家中の結束を高めたものだ。
中には茶を好まず、”妖怪茶飲んでけ”などと揶揄する心無い者もいたがある日を境に酒を飲めない体質になり芸術品に凝り始め茶の魅力に気づいていった。
”はい!拙者は疑いようもなく茶が大好物でござる”としきりに呟くようになったが見事な心掛けだと感心するがどこもおかしくはない
まさしく茶は万能の飲み物だ、これから生きていくうえで欠かせない
まず茶の入手こそ第一課題であり、何事にも優先されるべき課題なのだが後漢の時代の茶は飲用ではなく薬用として用いられており高価で庶民が入手することは困難である。
無一文の武将と田舎から出てきた呂範は茶を買うような大金など当然持ち合わせてはいないし交易しようにも元手がない状況ではどうしようもない。
ならばやることは一つである。
「とりあえず山籠もりだ」
「は?」
事態を把握できぬままの呂範の首根っこをつかみ、襄陽近くの野山につくなり川辺の日陰を見つけると、”ここを野営地とする!”といわんばかりに呂範の荷物を物色し一通り道具をそろえて彼女の文句を聞き流しながら薬草採取を行う。
幸運なことに多くの薬草が自生しており使えそうなものを一通り呂範に伝え、逃亡防止のため自らは拠点で生薬を加工する作業を行い、ついでに彼女に医学の指南を行うこと早十日と少し。
そんなこんなである程度数がそろったので作成した生薬とついでに作った各種薬を背負い襄陽の門前までやってきた。
「う~、あと少しで襄陽ってとこで山に連れてこられひたすら草集め・・・そこから草やら石やら獣の肝やら角やらなんやらを煮たり干したり潰したり・・・」
「これが飯のタネになるのだ、文句ばっかり言ってないで少しは我慢してくれ。簡単ではあるが傷薬の作り方も教えてやっただろう」
「確かに役には立ちそうですけど・・・ うぅ服にあの独特な何とも言えないような臭いが染みついてるっす」
「医学が少しは身についた証拠だ、よかったな」
「よくないっすよ~こんなのうら若き乙女の体からしていい臭いじゃないっす~ これ絶対洗っても取れないやつだぁ」
「ほらほらがんばれ、もうあんなに近くではないか」
「重いっす~臭いっす~なんだかみじめっす~」
文句を垂れながらもついてきているの彼女はなかなかに丁稚気質がある。
呂範としてもタケマサが人の話を聞かない上に行動力は人並み外れているというのは痛感していた。しかし一応薬草に関する知識は教えてくれたし採取の最中に熊やら狼やらと遭遇した時もどこからともなく現れて救ってはくれた。
そして弟子入りの際に真名は預けたが、”自分はまだ真名の重みを理解しきれていない”と自分のことを陽花と呼ぶことはない。異国人ではあるがそこらへんは誠実なようだ。
若い男女だというのに自分に見向きのしなかったという点については思うことがないでもない。あと作業中になぜか3~4人に分身していたのは疲れからの見間違いだと思いたい。
呂範の恨み節に相槌を打ちながら門前に差し掛かると少し様子がおかしいのに気が付く。夜も明け市場が開く時間であるというのに人通りもまばらで活気がない。
「ねぇねぇ守衛さん、こんな時間なのに何でこんな人通りが少ないっすか?精進日かなんかっすか?」
「む、なんだお前たち知らんのか。今ここ襄陽では流行り病が起きていてな・・・ 人々は町にこもって出てこんのだ。 私だって仕事で仕方なくこうして立っている」
「は、流行り病っすか。好都合っちゃ好都合ですけど・・・」
「ん?その匂いとその荷物、お前たち薬を売りに来たのか? 紛い物つかませようとしてもそうはいかん、華佗先生の目はごまかせんぞ」
「人聞きの悪いこと言わないでください!正真正銘まっとうな薬ですよ! んで華佗先生ってのは誰なんすか?」
「疫病が流行りだしてからこれ幸いと藪医者やら薬売りやらが集まってきてな、どいつもこいつも胡散臭いこと言って金をだまし取ろうとしていたんだが華佗先生ご一行が現れて詐欺師共を懲らしめてくださったんだ」
「へ~立派な方っすね~」
「それからここにとどまって治療をしてくださっているのだがいかんせん手が足りていないという状況だ。薬を売りたいのならまず華佗先生のところに行ってみるといい」
「あい分かった、それではまず華佗先生を訪ねてみることにしよう。ところで守衛殿、今ここで流行っている病はどのような症状なのかな?」
「主に高い熱が出て次第に衰弱していきひどくなると手足のしびれが出てくるな。華佗先生はこの通りをいって右手側に見えてくる楼で診療を行っていらっしゃる」
「よくわかりました。それでは行こうか子衡」
城門を後にし襄陽の通りを歩く、人の通りも少なく閑散としている。
それにしても華佗ときたか。神医とよばれ嘘か誠か、腹を割って直接臓腑を治療したという逸話を持つという。明から来たやたら熱血な医者も彼がいきてその技を後世に伝えていたなら歴史は変わっていたであろうと言っていた。
薬といってもあくまで気血を整え本人の免疫を高めることしかできず、手遅れになるまで弱っていたり臓腑がダメになっている場合は手の施しようがない。
万能薬である反魂丹は強力だが患者の体にかける負担も大きく使いどころが難しい。
それゆえに神医・華佗の治療とは言ったどのようなものであろうか、非常に興味深く楽しみである。ただ商売敵になるようなら相応の対処が必要かもしれんが
「やたら好戦的な顔してますけどもめごとは起こさないでほしいっすぅ~」