「ちょっと、この方クルセイダーではないですか。断る理由なんて無いのではないですか?」
めぐみんは冒険者カードを見せながら、アクアと相談している。
一方和真は、その姿を嫌そうに見ている。これ以上変なのを入れたくない和真はダクネスの加入を嫌がっている。
「なあ、海斗。どうしたら諦めてくれると思う?」
「…お前も諦めが悪いな。確かにドМだが、悪い奴じゃないぞ。このパーティに足りなかった前衛が来てくれたんだ、俺は良いと思うけど?」
「…俺だって、前衛は欲し。でもな……仕方ない、この手で行くか」
和真は改めてダクネスの方を向いて話し始めた。
「ダクネス、どうしても君に伝えて置かなければいけない事がある。…実はな、俺達こう見えて、ガチで魔王を倒したいと考えている」
「うんうん」
和真の話に頷くアクア、天界に帰りたいアクアにとって魔王討伐は必須条件。俺も無理やりとはいえ、アクアを天界に返す必要があるので、不思議ではないが和真からこの言葉が出るとは驚きだ。
「…!」
「へー」
「そうなんですか?」
ダクネス、クリス、めぐみんの反応はそれぞれ違ったが、めぐみんに関しては加入前に話していなかったので、この際丁度いいかもしれない。
「そうなの、すごいでしょ!」
「めぐみんにはパーティーに入る前に話していなかったけど、事実なんだ」
「この先、俺達の冒険は更に過酷な物になるだろう。特にダクネス、女騎士のお前なんて、魔王に捕まったりしたら、大変だぞ!それはもうとんでもない目に遭わされる役どころだ」
「ああ、全くその通りだ!昔から、魔王にエロい目に遭わされるのは女騎士の仕事と相場は決まっているからな!それだけでも行く価値がある!」
「えっ!?…あれ?」
「えっ?…なんだ?私は何か、おかしな事を言ったか?」
…と、とりあえずこっちは後回しだ。
「めぐみんも聞いてくれ。相手は魔王。この世で最強の存在に喧嘩を売ろうってんだよ、そんなパーティーに無理して残る必要は…」
途端、めぐみんはテーブルをバンと叩いて立ち上がる。
「我が名はめぐみん!紅魔族随一の魔法の使い手にして爆裂魔法を操りし者!我を差し置き最強を名乗る魔王!そんな存在は我が最強魔法で消し飛ばしてみせましょう!」
机の上に上って、中二病宣言をするめぐみん。
(こいつもだめだ…、どうしよう、痛い子二人がむしろやる気に…)
「…ねえ、カズマ、カズマ…」
落ち込んでいる和真の袖を、アクアがクイクイと引いている。
「私、カズマの話聞いてたら何か腰が引けて来たんですけど。何かこう、もっと楽な方法とか無い?」
「…お前は一番やる気出せ、むしろお前が一番の関係者だろ…」
和真とアクアが揉めているのを見て、クリスは心配そうに言った。
「…まあ、冒険者なら高い目標の方がやりがいがあるけど、死なないよう気をつけてね。…私そろそろ行くね、有り金全部取られちゃったから適当に稼ぎたいし…。じゃあねダクネス、この人達と仲良くするんだよ」
そう言いながら、クリスは席を離れて行った。俺はクリスに返す物と聞きたい事があると和真に話し、後を任せてクリスを追った。
クリスは冒険仲間募集の掲示板の所にいた。
「クリス、君に聞きたい事があるんだ。…ちょっと二人っきりになれるかな?」
「んっ?もしかして、お姉さんとのデートのお誘いだったりするのかな?」
「デートのお誘いはまた今度…じゃなくて、大事な話なんだ」
「…うん、いいよ。じゃあ、さっきの場所でいいかな?」
俺が頷くと、俺達は黙ってギルドの裏手の広場に向かった。
そこは、さっきと同じで人通りはなく、二人っきりなることが出来た。
「…で、話って何かな?あの場所で言えないって事は、何かあるんでしょ?」
「…ああ。君に聞きたい事があるのは本当だよ。…でもその前にこれを返しておきたくてね」
俺はポケットから、あれを取り出した。そう、あの時クリスから『スティール』で盗んだあれである。
「流石に人前で返すのはどうかと思ってね…これ、君の…」
パットだよね、と言おうとした瞬間、俺の手から物が消えた。
よく見ると、クリスの手には先ほどまで俺が持っていたパットを両手で握りしめている。まさか、あの一瞬で盗むとは…。
「き、君!。どうしてこれを持っているの?」
頬を紅く染めながら、羞恥と怒りでプルプルしている姿からは、先ほどまでの余裕など微塵も感じられない。やはり皆がいない時に渡して正解だったようだ。
「ここで君から盗んだ物だよ。…まさかパットとは思わなかったけどね」
「うう…、そ、それで君は何が欲しいの?君も彼みたいに、タダで返すつもりはないんでしょ。知っての通り、今は一エリスもないからお金はまた今度にして欲しいんだけど…」
話が早くて助かる。
「俺はお金が欲しくて呼んだ訳じゃないから、安心しいいよ」
「よ、良かった…、身ぐるみ全部剥がされるかと思って心配したよ…」
どんな風に見えるんだ俺って?
「じゃあ、何が欲しいの?このダガー?」
クリスは腰に差しているダガ―を外して渡そうとする。確かに魅力的な交換だが、今欲しいのはそれではない。俺が欲しいもの、いや知りたいのは一つ…
「……女神エリス」
俺の一言で、持っていたダガーを落とすクリス。その額からは冷や汗が一筋流れているのを見て、俺の疑問は確信に変わった。
「実は君から盗んだ物を鑑定させてもらったんだ…、和真の盗んだ下着も含めて、ね。そしたら二つとも同じ名前が出たんだよ、〈女神エリス〉の名前がね…」
「……へ、へー。め、珍しい事も、あ、あるんだねー」
言葉とは裏腹に、額からは大量の冷や汗が出ており、目は完全に泳いでいる。
「〈女神エリス〉、確か幸運の女神だったよね。君の運の良さは十分見せてもらったし、まさかだとは思ったけど…君の態度を見て確信したよ」
俺の言葉に顔を青ざめるクリス、彼女には悪いけどこっちも命が掛かっている。この身にかかっている呪いを解く事ができる、その可能性が目の前にいるのだから。
「君、実は……」
…と、その時だった。
「緊急クエスト!緊急クエスト!街の中にいる冒険者の各員は、至急正門まで集まってください!繰り返します。街の中にいる冒険者の各員は、至急正門まで集まってください!」
街中に大音量のアナウスが響く。
先ほどまで静かだったこの場所でさえ、街中の住民の悲鳴や鳴き声が聞こえてくる。
「緊急クエスト?モンスターの襲撃か何かか?」
この街に住んでまだ日は浅いが、今まで一度もこんなアナウスが流れたことはない。
俺は本当にツイてない…あと少しで何か摑む事が出来たのに。今は自分の事より街の方が大切だ!
「すまない、クリス!この話はまた今度……クリス?」
正門へ駆け出そうとした俺の腕を摑むクリス。その顔は下を向いているので分からないが、振り解こうとしても彼女の方が力が強いので振り解くことが出来ない。
しばらく沈黙がしていたクリスが、小声で変な事を言った。
「…ねえ、海斗?このクエストの間だけ、私と組まない?」
「…え?何を言って…」
突然の提案に驚きが隠せなかった。初めて名前を呼んだ事といい、一緒に組む事といい何を言っているんだこの子は?
「だから、この緊急クエストの間だけ、私と組まないかって言ってるの」
腕を摑む力が強くなった気がした…
「だったら、みんなと合流しよう。二人より六人の方が…」
「わ・た・し・は、海斗と二人で組みたいなー」
摑まれている腕から骨が軋む音がしてきた。俺を見るクリスの顔は笑顔だが、どこか必死で何故か別の人物に見えるのは気のせいだろ…。
「それとも、お姉さんと組むのはイヤ?」
クリスはもう片方の手で、ダガ―の柄に手をかける。
「…分かった、今回だけ君と組もう…」
俺の返答に満足したのか、ダガ―からは手を引いた。しかし、摑んでいる腕は放さないままだった。
「うん、うん。素直な子は、お姉さん嫌いじゃないよ!」
「だったら、腕の方も放してくれると、うれしいんだけど?」
「逃げそうだから、だめ」
「…ソウデスカ」
結局俺は、クリスに腕を引かれながら正門まで向かう事になった。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
次回もよろしくお願いします、更新日程未定だけど…