<特別指定モンスター>
それは国又は団体などから賞金が賭けられているモンスターの事である。簡単にはいえば賞金首のことだ。
その全てのモンスターが強いからという理由ではないが、一癖も二癖もある危険な相手だ。
街や国に被害が出ている、モンスターの強さが異常で危険と判断された存在のため、討伐に成功した場合それに応じて賞金が支払われる。
討伐したモンスターによって違うが中には億の賞金がかけられているモンスターもいる。
さて、現在アクセルの街に近づいているモンスターは当に特別指定モンスターだという。既に多くの冒険者が正門に向かい避難していた。俺達も避難しているが、敵の移動速度が想像異常に早い。
ついに、砂煙を舞い上げ姿を隠していたモンスターが、遂に姿を現した。
数は7匹と少ないが、その姿を見た者は皆動揺していた。俺もその姿を見た瞬間、足を止めてしまう。
「何立ち止まってるの!早く走って!」
クリスの呼び掛けで我に帰る。俺は再び正門に向かって走り出す。
大きさは2m 以上で球体、速さは馬より速く、地面を滑るように移動している。このモンスターの一番の特徴は口だ。その巨大な口は牙も歯もないがギザギザになっていて、逃げ遅れたキャベツをバリバリと捕食している。
俺は走りながらクリスに問いかけた。今迫って来るモンスターの姿に見覚えがある…いや、何故逃げなければいけないかすら判らない。
「なあクリス、何で巨大キャベツが襲って来てるんだ?」
そう、遠くでキャベツを捕食しているのは間違いなくキャベツなのだ。メチャクチャ凶暴そうだが見た目はただの巨大キャベツにしか見えない。
「初心者は皆そう言うけど、あれの見た目はキャベツに擬態しているだけで危険なモンスターなんだよ」
クリスの説明によると、捕食する対象(野菜・果物に限る)に擬態して相手に近づき捕食する賢いモンスターらしい。通常数体から多いと30体ほどの集団で行動し、多くの農園や農家で被害を出しているモンスター。鉄柵程度なら押し倒してしまうため、城壁の無い場所では討伐以外の方法が見つかっていない。
最悪の被害としては100体を超える数が襲って来た事例も存在するらしい。その被害に遭った結果、討伐に来た冒険者が到着したときには村がまるごと消えていたとか……。
しかも見かけはただの巨大キャベツだがその防御力は鉄の硬度に匹敵し並の剣では傷すらつけられない。ギルドの討伐推定レベルは30以上を推薦しているため、駆け出しの冒険者が集まるこの街には討伐が困難なモンスターと言えるだろう。まるで日本にいた時やっていたゲーム、マ○オに出てくるワンワンのようだ。どこかに鎖は落ちていないだろうか…。
「それじゃあ、どうやってアイツらを撃退するつもりなんだ?」
討伐が無理なら籠城か、あるいは王都から救援要請をして討伐してもらうのか。どちらにしても俺達に出来る事はなさそうだが。
「あれはこっちから攻撃しなければ襲って来ないし、ここの城壁なら街の中に侵入される心配はないから、いなくなるのを待つしかないね。勿体無いけど、残ったキャベツは諦めるしかないね」
少し残念そうにクリスは食べられていくキャベツ達を見ていた。今こうしている間も複数のモンスターが、一か所に集まってキャベツをバリバリと食べている。
「そうだな、キャベツに注意がそれている間に避難を……?」
門の前に来た俺は、ふと何かを忘れている気がした。
モンスターの襲来…討伐困難な敵…それが一か所に集まっているこの状況……そして、ここまで避難してきて見かけなかったあの……!
「やばい!」
やばい!やばいやばいやばいやばいやばい‼この状況でこのタイミングで、やっちゃダメな事しようとする人物がまだ避難していない。
そう、めぐみんがいないのだ!
俺は急いでめぐみんを探すため身体を反転させるが、すべてが遅かった……。
「『エクスプロージョン』ッ!」
放たれた魔法は敵が密集しているど真ん中で炸裂し、そこにいた巨大モンスターとキャベツを爆裂四散させた。
魔法を放っためぐみんは、満足そうにその場に倒れた。
「ふっ、我が爆裂魔法の前ではどんなモンスターであろうと敵ではありません!…ああ、凄く気持ちよかったです…」
「凄いなめぐみん、あの《特別指定モンスター》を一撃とは……」
「よし、じゃあ俺達も避難するぞ!なあ、めぐみん一発撃って倒れるのは何とかならないのか?」
初めて見た爆裂魔法に驚いているダクネスの隣で、魔力を使い切って動けなくなっためぐみんを和真が背中に背負う。
「無理です。前にも言いましたが、爆裂魔法はその威力の強大さ故に消費魔力が大いため今の私では無理なのです。ちなみに、今上がったレベル分のポイントはすべて威力上昇に使います!」
「おいっ!」
めぐみんによってモンスターは討伐された…が、全部のモンスターを倒した訳ではない。倒せたのは3体、残りの内一体が先の爆発に気づき和真達の方に向かって突撃していた。残り二体の行方はというと…。
「いやああああああああ!来ないでええええええええ!」
アクアを追いかけていた。その手にはたくさんのキャベツを抱えており、全力で逃げている真っ最中だった。
「…よしっ、アクアは放って置いて俺達は逃げるぞ」
「いいのか?このまま放って置くとやられてしまうぞ?…そういう役目は私にして欲しいのだが…」
「いいんだよ、あいつは。とにかく早く逃げないと追いつかれるぞ」
ダクネスのドМ発言をスルーする和真。
だが、逃げるのが遅かったため敵がすぐ近くまで接近していた。
「ッ!このままでは追いつかれる。2人は先に行ってくれ、ここは私が食い止める!」
剣を抜き敵の方を向くダクネス。
「でも、お前鎧が…」
今のダクネスの姿は先のキャベツの猛攻で、鎧の大半を砕かれたため防具がほとんど着いていない。
「大丈夫だ!防具など無くても私は固い!だから安心して……」
逃げてくれ、と言おうとしたのだろう。敵が目の前に迫っているのに後ろを向くのは自殺行為なのだが、和真達の方を向いたため敵に背を向けてしまった。
「「…あっ…」」
和真とめぐみんの声が重なる。
敵はその隙を見逃すはずもなく、ダクネスに向かって口を大きく開き、そして…。
ガブッ!
頭から腰辺りまで食べられてしまった、正確には口の中に入ったと言った方が正しい。その光景は、ジャイアント・トードの時と全く同じだった。
「…逃げるぞ!」
めぐみんを背負ったまま走り出す和真。
「ちょっ、カズマ。ダクネスを見捨てるつもりですか!」
「あいつの犠牲を無駄にするな!」
「でもっ!」
捕食されながらも、必死に抵抗しているダクネスだが少しずつ飲み込まれている。普通ならかみ砕かれてもおかしくないのだが、持ち前の高い防御力のお陰でほぼ無傷だ。今なおガブガブされているがダクネスには甘噛み程度にしか効かないのだろう…、時折甘い声を上げているのは聞かなかった事にする。
「あいつなら大丈夫だって、だから俺達は……!」
その時、逃げる和真達の隣を一組の男女が横切った。その2人はそのままダクネスのいる方に駆けて行く。
「君は左を!私は右から攻撃するね!」
「了解!」
左右に別れ海斗は剣をクリスはダガ―を抜く。そして側面から同時にモンスターを斬りつけた。
しかし鉄の硬度を誇る敵にタダの剣が通じる事は無く、金属同士がぶつかる甲高い音が鳴り響く。
「流石に硬いな…」
剣を握る手が痺れる、全力で振り下ろした一撃のはずだったがその体には傷1つ付いていない。
「クリスッ、そっちはどうだ!」
「ダメ!ほとんど刃が通らない…。ッ、ダクネスを放しなさい!」
更に二撃、三撃と斬りつけるが効果は無くそうしている間にもダクネスを飲み込んでいく。
「くそっ、ならこれでどうだ!」
俺は手の平をモンスターの体に置いて有りったけの魔力を込める。
「くらえ、『ティンダー』ッ!」
手に平から松明くらいの炎が噴き出し、モンスターの皮膚を焦がす。驚いたモンスターはダクネスを吐き出して転げ回る。すかさずダクネスの元に駆け寄ろうとしたが、身体に力が入らない。どうやら魔力を限界ぎりぎりまで使ってしまった結果、体力まで削ってしまったようだ。
怒りに狂ったモンスターが、今度は俺の方に突っ込んで来た。
「…やばい…」
逃げようにも身体に力が入らず避ける事も出来ない。ダクネスと違いあれに噛まれたら間違いなくミンチになってしまう。必死に逃げようとするが身体は言う事を聞かない、敵はその大きな口を開けて近づいて来る…。
「伏せて!」
クリスはバックから1つのビンを取り出し、モンスターの口の中に投げ入れた。投擲されたビンを飲み込むと突然体が光り出し爆発する。
目の前には、内側から爆発した結果上半分が吹き飛んだ死体が転がっていた。
「無事か、どこか怪我はないか?」
「全く、心配させないでよね。…魔力切れを起こしただけみたいだね、良かった」
救出に来たつもりが逆に心配されてしまった。ダクネスはあれだけ敵に噛みつかれていたにも関わらず、服が破れただけでほぼ無傷だった。さすが上級職のクルセイダーなだけはある、最弱職の冒険者とは性能が違いすぎる。
「とにかく、今はここから離れないと。ダクネス、この子に手を貸してあげて」
「判った」
俺はダクネスに手伝ってもらい何とか立つ事ができた。
「すまない、なんか助けに来たのに逆に助けられたな」
「気にするな、それにお前が来なければ私はあのまま食べられていたかもしれないからな…。…その…ありがとう」
「うんうん、仲間の絆が深まったって感じだね!でもねダクネス、あんまり無茶しちゃだめだよ」
「うう……」
少ししょんぼりするダクネス、まだまだ言いたい事がありそうだが今は安全を確保する方が先だ。
何とか立つ事は出来たが、まだフラフラする。背負うかと聞かれたが、これ以上迷惑をかける訳にはいかない。何よりダクネスの疲労も顔に出ている、これ以上の負担は出来るだけ避けたい。まだ敵は残っているのだから…。
俺達は急いで正門に向かって走り出した。運良く後ろから追ってくる敵はいないため、安心して逃げることが出来る。
今ここで敵に襲われれば、逃げきるのは絶望的だろう。ダクネスは装備を失い、クリスはアイテムを切らし、俺は体力の限界だ。
「ところでクリス、さっき投げたビンは何だったんだ?」
俺は先程敵を爆散させた物が何なのか尋ねた。
「ん?あれは爆発ポーションだよ。あれってかなり高額なポーションだから1本しか無いの。だから次はないから注意してね」
あんな物騒な物を何個も所持している方が危険だと思うが……。
「ただのポーション1つであの威力かよ…。ちなみに、どこで買ったんだ?」
「えーと、《ウィズ魔道具店》だったかな」
あそこか……、あそこなら確かにありそうだが…いや、確かにあったな馬鹿高いポーションシリーズの中に。品質は上質だが癖のある品ばかり揃えているあの店ならの効果と言えるだろう。
助けられたので文句は言えないが、後で請求されないだろうか。
まあそれも、無事に戻れたらの話だがな……。
正門まであと少しの時だった、不意に後ろが騒がしくなった。女性の声でギャアギャアと叫んでいて、何故かイラッとくる叫び声だ。
「いいいいやあーーーーーーーー‼来ないでっ!来ないでよーーー!」
アクアの声だった。どうやら近くにいるようだが、今は振り返って確認している余裕がない。
「なんで私ばっかりなの!私女神なのに、日ごろの行いも良い筈なのに!」
日ごろの行いはともかく、敵さんの目の前で獲物を横取りしていれば襲われるのは普通だろう。その辺は知力が低いせいか、それともただの馬鹿なのか…。
どちらにしても、この状況をこれ以上問題を起こさないで欲しい。後でアクアの保護者である和真に一言文句でも言ってやる。
だが、ここで余計な事を考えたのがいけなかった。注意の散漫、敵感知の遅れ……何より油断がいけなかった。
アクアはギャアギャア叫びながら、俺の横を走って行き正門まで駆けて行った。その姿は所どころボロボロだが、それでも懐には大事そうにキャベツを抱えている。
異常に気づいたのは先頭を走っていたクリスだった。
「っ!逃げてカイト‼」
後ろを振り返ろうとしたが、その前に俺の身体に衝撃が加わった。ボキボキと何かが砕ける音と潰れる音が聞こえた。
「…?」
気づいたときは俺は宙を舞っていた。薄れ逝く意識の中で俺が見たのは、感覚の無い身体についている変形した手足。そして、俺を喰おうと口を大きく開けて待っているモンスターの姿だった。
意識が黒く染まるような感覚だった。宙を舞っていた身体は重力によって落ちて行き、吸い込まれる様にモンスターの口の中に落ちていく…そして。
バクッ……
……俺はモンスターに捕食された。
「カイトーーーーーー!」
「……そんな…」
助けようと伸ばしたダクネスの手が空を切り、クリスはその場に座り込んでしまった。
海斗を飲み込んだモンスターは、今度はダクネスの方を向く。
「よくも…、よくも私の仲間を!」
じりじりと近寄るモンスターに剣を抜く。ダクネスは柄を強く握りしめていたが、その手は僅かに震えていた。
その姿をあざ笑うかのように、次はダクネスを捕食しようと襲い掛かった。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
なかなか投稿出来なかったので、三週間ぶりの投稿です。
今回もオリジナル要素が多いため最後まで書きたかった…。
次回はキャベツ収穫イベントの最後まで書きたいなあ、投稿予定は未定だけど…。