ここはどこだろうか?俺はどうなんたんだろう…。
ここは何も見えない、何も聞こえない…。
身体が動かない、何も感じない。
意識が沈んでいく、深い深い闇の中に……。
…………
………
……
アクセルの街正門では、ダクネスがモンスターと激しい戦闘が繰り広げられていた。2匹のモンスターを相手にクリスを庇いながら攻撃を防いでいた。
1体のモンスターがダクネスと交戦すると、もう一体がクリスの方に向かって襲いかかる為、強引に相手を突き飛ばしてクリスを庇う。
2対のモンスターに挟まれた状態で戦っている為、モンスターからに逃げることも出来ずにいた。
「はあ…はあ…クリス、無事か!」
「私は大丈夫だけど、ダクネスが…」
頑丈さに自信のあったダクネスだが、度重なる攻防の結果所々負傷し始めた。どっちの敵が襲ってくるか分からず防戦一方の状態が続いている為、体力も限界に近かったが、その目はまだ諦めてはいなかった。
「私は平気だ。しかし、街の皆んなが…」
自分の事よりも他の人を気にするダクネス。
なぜ他の冒険者が助けに来ないのか…それは現在正門でもモンスターの侵入を全力で防いでいるからだった。
「押せーー!絶対にいれるなよ!」
「盾が壊された!誰か、替わりの盾を持ってこい!」
街に進行してきたモンスターは全部で7体。その内4体はめぐみんとクリスの奮闘で倒せたが、残り3体も残っていた。その内2体はダクネスとクリスの2人と戦闘しているが、残りの1体は街に侵入しようと正門前で交戦していた。
その街に危険が襲っている中、一組の男女が口論していた。
「おい、アクア!お前が連れてきたんだから、お前が何とかしろ!」
「嫌よ!私は女神なのよ、癒すことは出来るからあんたが何とかしなさいよ!大丈夫、カズマが死んでも私がちゃんと生き返らせてあげるから、潔く逝来なさい」
「このダメ神がーーー!」
原因を作り出した本人は、安全な街の奥で和真と口論していた。その光景を周りの冒険者は冷たい目で訴えていたが、本人には届かなかった。
一方ダクネスの戦況は芳しくなかった。2体のモンスターと闘いながらクリスを庇っているため、防戦一方の状態が続いていた。
更に度重なる戦闘によってダクネスの剣は刃がボロボロになり、刀身にはヒビが入っている。寧ろ良くここまで耐えたと誇っていい剣だったが、遂に限界がきてしまった。
再び襲って来たモンスターを剣で受け止めた時、剣が真っ二つに折れてしまった。
「っ、しまった!」
「ダクネス!」
攻撃を防ぐ武器を失った相手を見逃すはずはなく、今度は2体同時に襲って来た。剣を折った1体はダクネスが素手で受け止めたが、もう1体は真っ直ぐクリスの方に向かって突進して来た。
「…逃げろ、クリス…っく…」
徐々に押され始めたダクネスは立っている事すらできず膝をついている状態だった。いつまで敵を押さえていられるか時間の問題なのは誰が見ても明白だった。
「……」
ダクネスの後ろに立つと、腰に差してあるダガ―をクリスは抜いた。
「なっ、何をしてるんだクリス!は…早く…逃げろ…」
顔を横に振るクリスは、自分に向かって突進してくる敵を睨みつける。
敵との距離が徐々に縮まる。巨大な相手を構え迎え撃つクリス。
遂にクリスの目の前まで近づいた時異変が起きた。
突然モンスターが動きを止め苦しみ出したのだ。唸り声を上げ、もがき苦しみ始めたモンスターは身体から異物を吐き出すかのように口から何かを吐き出した。
べちゃっと地面に吐き出されたのは、先ほど捕食された海斗だった。
「カイト!」
動かない海斗にクリスは急いで駆け寄り、安否を確認しようと抱き上げる。仰向けに倒れている海斗の姿を見たクリスはその異常にすぐに気付いた。海斗の身体は捕食される前の攻撃で手足の骨が折れたはずが、その手足が元に戻っていた。
「(どうして?あの時確かに折れた……!何っ、この魔力!)」
海斗の姿に注意がそれていたクリスに再びモンスターが襲い掛かって来た。気付くのが遅れたクリスに巨大な口を大きく開け捕食しようと襲ってきた。
回避は不可能、間違いなく捕食される…クリスは目を固く閉じた。しかし幾ら経っても痛みは無かった、クリスはそっと目を開けると海斗が立ち塞がっていた。
「……嘘…」
クリスの目の前では先程まで意識なかったはずの海斗がモンスターの攻撃を片手で受け止めていた。
モンスターは受け止められた事に一瞬怯むが再び捕食しようとするが全く動かず、必死に抵抗するがびくともしない。
「………」
無言で敵を押さえつける海斗はもう片方の手で拳を握り、そのままモンスターを殴り飛ばす。殴られたモンスターはその巨体と質量を無視し、まるでボールのように吹き飛ばされていった。
「なっ!」
吹き飛ばされた敵を見て開いた口が閉じないクリスは、後方に殴り飛ばされ痙攣しているモンスターから目が離せずにいた。一方海斗は一切の感情を出さず静かに佇んでいた。
「………」
海斗は無言のまま後ろを向く、そこにはダクネスが敵の攻撃に耐えているが徐々に追い込まれていた。その姿を見て静かに剣の柄に触れる。そして、
「……」
今度はダクネスが抑えていたモンスターに斬りかかる。縦一閃、海斗の一撃でモンスターは両断されそのまま絶命した。
だが同時に持っていた剣にヒビが入りそこから刀身が真っ二つに折れてしまった。
両断されたモンスターを見て驚嘆するダクネス、一方海斗はあれだけ苦戦したモンスターを倒したにも関わらず歓喜の言葉一つも無く黙ったままだった。
「すまない、助かった…。カイト?」
いくら呼んでも返事がないため、不思議に思ったダクネスは海斗に近く。そこで初めて海斗の身に起きた変化に気付いた。
今の海斗の瞳は黒く濁っていて、両手には漆黒の痣が広がっている。何より額には先程まで無かった紋様が浮かび上がっていた。
「カイト、どうしたんだカイト!」
「………」
ダクネスが何度も呼んでも返事は無く、無言のまま立ち尽くす。
その時正門にいたモンスターが体を反転させダクネス達の方に向かってい行った。
「おい、そっちに行ったぞ!」
突然の警告に声が聞こえた方に振り向くと正門にいた1体がこちらに接近して来ていた。更に、先ほど吹き飛ばしたもう1体もこちらに向かって突進して来ていた。
「…まずいっ、クリス立てるか?カイト、いい加減返事を……?」
ダクネスが振り向くとそこには海斗の姿は無かった。慌てて探すがダクネスだがモンスターの悲鳴と地響きが響き渡る。
急いで振り変えると、そこではモンスターを素手で殴り飛ばす海斗の姿があった。
ダクネスは加勢に行こうと駆けだそうとするが、クリスがそれを制止した。
「何をするんだクリス。早く助けに行かねば」
クリスは顔を横に振ると黙って海斗の方を向いた。
慌ててダクネスも海斗がいる方を見ると、そこでは二対一という不利な状況で圧倒的な力で捻じ伏せる海斗の姿があった。
一撃、二撃、三撃…連撃を打ち込みモンスターを捻じ伏せる海斗。反撃の隙を与えず、瀕死のダメージ負わせると再び後方に吹き飛ばした。
その直後、入れ違いにもう1体が海斗に突進してきたが、それを軽々とかわす。背後に回り込み再び襲ってくる敵を今度は受け止める、その手は敵を逃がすまいと力を込める。
危険を感じ取ったモンスターは摑まれた手から逃れようと必死にもがくが、逃れる事は叶わない。右手に持った折れた剣に腕に有った漆黒の痣が移動する、痣は形を変え1本の剣に形を変えた。大きさ・形は普通の剣と変わらないが、そこから発する魔力と威圧に目の前にいるモンスターは恐怖に震える。
何の躊躇いも無く振り上げられた一撃は、鉄の強度を持つはずの体を切り裂く。上半分がズルリと滑り落ち、そのまま動かなくなった。振り上げた腕を下すと、剣に纏っていた漆黒は再び腕に戻った。
戦闘は終わったかに見えた…が、モンスターの叫び声がまだ終わっていない事を告げた。
先程殴り飛ばしていたモンスターが再び突撃して来ていた。その姿は既にボロボロで満身創痍だが、そうなった獣ほど危険なものはない。『窮鼠猫を噛む』と言うことわざがあるが、当にその状況だろう。
砂煙を上げ、最速最大の一撃を込めた体当たりは、当たれば四肢を引き潰す威力はあるだろう。これが最後の攻防になるだろう、周りで見守る冒険者が息を呑む。
海斗は接近してくる敵を迎え撃つ為身体を反転させようとするが、左腕がその場から動かないため移動できない。動かない左腕を見ると、そこには切り殺したはずのモンスターが海斗の腕に噛み付き動きを止めていた。身動きが取れなくなり、敵の攻撃を避ける事が出来なくなったが、海斗は焦る素振りを見せない。
高速で接近してくる敵の方を向き、左腕に力を籠める。ゆっくりとモンスターが地面から離れ、左腕に噛み付いたまま持ち上げる。
そして目の前まで近づいて来た瞬間、左腕に噛み付いたモンスター諸共地面にむかって叩き付けた。地面が割れ、断末魔を上げるモンスターは地面に深々と突き刺さり二度と動き出す事はなかった。
モンスターが討伐されたと判った瞬間、歓声が上がった。見守っていた冒険者やギルド職員がその勝利を称えていた。
だが海斗は戦いが終わると、まるで糸が切れた人形のように倒れた。それを見たダクネスが急いで駆け寄る。
「カイト!しっかりしろカイト!」
意識の無い海斗を抱きかかえると、そのまま門の向こうに運んで行った。
その姿を静かに見つめるクリスは誰もいなくなったその場所で呟く。
「……カイト、君は一体…」
だが、その問いに答える者はいない。
その後、第二波のキャベツがアクセルの街に向かって来た為、冒険者達はキャベツの収穫に汗を流したのだった。
「「「「「「かんぱーい!」」」」」」
俺達はギルドの食堂で祝杯を上げていた。俺達以外にもここにいる冒険者の多くが、今日の成果を讃えあっている。
その為食堂は満席状態、ウエイトレスは引っ張りだこである。勿論、俺達のテーブルにも沢山の料理が並んでいる。それを我先にと料理にかぶり付くアクアとめぐみん、行儀が悪いが今日は無礼講である。
「どうして、ただのキャベツ炒めがこんなに旨いんだ。納得いかねえ」
一方和真は文句を言いながらも、キャベツ炒めを食べている。
確かにキャベツと戦うために異世界に来た訳ではないのだが、美味いものは美味いのである。
「別に美味いならいいじゃないか。あっ、そこの唐揚げ取ってくれ」
俺は唐揚げを受け取り次々と平らげていく。キャベツはクエスト中沢山食べたのでしばらくは見るのも嫌になりそうだ。
その頃女性陣は今日の健闘をお互いに称え合っていた。
「それにしても、流石クルセイダーね。あのモンスターの攻撃をあれだけ耐えるなんて、凄いじゃない」
「私なんてただ固いだけだ。それよりもめぐみんの魔法は凄まじかったな!あのモンスターを、爆裂魔法の一撃で吹き飛ばしていたではないか」
「ふふ、我が必殺の爆裂魔法の前において、何者にも抗う事など出来ません!」
「ああ、是非一度あの一撃をくらってみたい…」
自分の魔法を褒められて胸を張るめぐみん。一方ダクネスは、爆裂魔法の一撃を受けた自分を想像して頬を紅く染める。
「アクアの働きも見事だったではないか。あれだけいた怪我人を一人で癒すとは」
「まあね、皆んなを癒すアークプリーストなら当然の事よね」
その怪我の半分は自分のせいで襲われたモンスターによる負傷のなので威張ることでは無いのだが…。
「ところで、私の教えた盗賊スキルは上手く使えた?」
クリスの質問に、和真は食事の手を止め頭を抱えた。
「まあな、クリスの教わったスキルのおかげでキャベツを沢山収穫できたが…俺はこんな事のために覚えた訳じゃないのに!」
「あはは、まだ上手く使えただけ上出来だよ。なにせ、私がせっかく教えたのに使いこなせない子もいるからね?」
悪戯っぽく笑いながら俺の方を見るクリス、幸運値に左右されるスキルはどうも俺には向いていないようだ。
「別にいいだろ、人間得意不得意があるんだから」
俺は新たに注文した鶏肉に手を伸ばし、ガツガツと食べ始めた。それを見ためぐみんがキャベツ料理を差し出して来た。
「カイト、肉ばかり食べてないで野菜も食べないとだめですよ」
「野菜はもう十分食べたからもういらない」
「まあ、あれだけ食べればね…」
「「「「???」」」」
2人の反応に疑問を持ったのか、首を傾げる。
「そう言えば、どうして2人は一緒に行動していたんだ?」
和真の質問にどう答えるか迷った。間違っても命の危機に晒されたから、などと言えない。実際脅迫されていたが、本人の前で言えば後で何をされるか分かったものではない。
「その…なんだ、いろいろあってな。今回のクエストは一緒に受ける事にしたんだ」
「そうそう。たまたま一緒にいる時に放送があったから、成り行きで組んだだけで…」
「ふーん。で、それでその後何があったんだ?」
興味を持ったのか3人が俺達の方に詰め寄って来た。俺とクリスは互いの話を合わせながら、ダクネスと合流するまでの事を話した。途中アクアが怒り出して、酒を飲み出したが概ね間違った事を話してはいない。別にあの時アクアが襲われていたのを見捨てた訳ではないのだ。
「…そんな事があったんだな」
「だが、流石にキャベツを食べてレベルアップさせるのは…」
「無理がありますね。ちなみに幾つ食べたんですか?」
和真、ダクネス、めぐみんの順に感想を言ったが、今思えば我ながら馬鹿な事をしたとしみじみ感じる。
「俺は5玉から覚えてない……」
「私は2桁を超えた辺りから数えてないかな…無言でキャベツを食べながら片手で水を出している姿は、ちょっと見ていられなくて…」
「そう思ったなら、ポーションくれよ!」
「だって勿体なかったんだもん」
「「「………」」」
返答に困った3人はお互いの顔を見合わせて、呆れた様に溜息を吐いた。
「せめてドレッシングが在れば、食べやすかったんだが」
「そう言う問題ですか!」
激しくツッコミを入れたのはめぐみんだった。別にボケた訳では無いのだが、激しく否定された気分だ。
「そもそも、キャベツは丸ごと食べる物ではありません。ちゃんと切ったり料理して食べる野菜であって、果物のように丸ごとは普通は食べませんよ!」
めぐみんの言っている事に、皆が揃って頷く。確かに普通は料理してから食べる物であって、丸噛りは普通はしない。
「でも、俺結構野菜の丸噛りはするよ」
「「「「え?」」」」
この場にいる全員から?マークが出る。
「ほら、一人暮らしだと色々大変だからつい食事を適当にしちゃう時があって…。外食とか弁当を食べてるとお金が直ぐに無くなっちゃうんだよ。だから、お金がない時とかは自炊していたんだけど…。その…最初は切ったり料理したりしてたんだけど、段々切るのも面倒になって、最後は野菜をそのまま丸噛りす形になって…」
「「「「………」」」」
俺の私生活を聞いた途端絶句する一同、口を開けたままの人や同情の眼差しで見る人もいる。まあ、一人暮らしならこんなもんだし、別に今更なので特に気にしていないのだが。
「…君、いつからそんな生活してたの?」
恐る恐る聞いてくるクリス。そんなに驚く事だろうか?
「えーと確か、学生寮にいた時からだったから………あれ?」
俺は言葉に詰まった。どんな寮なのかどんな所なのかは思い出せるが、そこにいた時のエピソードを思い出そうとしても全く思い出せない。まるで記憶に穴が空いたようにそこだけ思い出せなくなっていた。
「ん?どうしたの?」
「…いや、何でもないよ。…まあ、かなり昔からこんな生活だったから俺としては今更だな」
「…そうなんだ。…その、なんか困った事があればいつでも教会に来てね」
「そうだぞカイト、困った時は一緒にエリス様に祈りに行こう、なっ?」
クリスとダクネスが何故宗教勧誘の話にもっていったのかは疑問だが、別に今は毎日三食普通に食べているので問題ない。学生時代は自分で学費と寮費を稼ぐ必要があったし、社会人になるとアパートの月々の支払いなどバイトを頑張ってやっていても意外とお金が貯まらない。この世界ならの馬小屋で住む事前提で計算すると約月数千エリスで済むが、日本なら賃金、ガス、電気、後税金などで何万も引かれるためバイトではかなり辛かった…。呼吸するのに税金を取るような世界で生きて来た俺にとって、この世界に来てからは三食屋根があってお金もそれなりに溜まる今の生活はそれ程苦労しない。
「…まあ、海斗の私生活は置いといて、あの時はよくあの時生きてたよな」
「あの時?…ああ、食われた時か」
「本当ですよ、心臓止まるかと思いましたから…本当に無事でよかったです」
本気で心配してくれためぐみんには申し訳なく思ったが、ほんと良く生きてたな俺。
「全く、あの時はダメかと思ったぞ。…しかし、あの時の戦い振りは見事だったな。まるで別人の様だったぞ!」
「………」
賞賛するダクネスの隣で深刻な顔で見つめるクリス。俺はあの時の事を俺は憶えていない、捕食された所までは憶えているが、気付いたらベットの上に寝ていたので後から話を聞いた時は驚いた。
「あれは一体何だったんだろうな?」
ダクネスの話を聞いた後、俺は身体の隅々まで調べてみたが、ダクネスの話で聞いた腕と額の黒い痣と紋様は、何処を探しても見つけられなかった。分かっているのは俺の身に何かが起きた、ただ事実だけが残っただけだった。
正直その話を聞いた時、周りは俺の事どう思ったのか不安になった。俺は恐る恐る聞いてみたが、その答えは、
クリス:「確かに凄い力だったけど、制御も出来ない力に頼っちゃダメだよ。力に溺れて身を亡ぼす人はたくさんいるから…」
和真:「いいよな海斗は…俺もお前みたいな凄い力が欲しかったな~。…どうしてこんな駄女神を選んじまったんだろう」
めぐみん:「カイトには封印された力が眠っているんですよ!きっとその力が解き放たれた時、この世に大いなる災いが(省略)」
ダクネス:「私が何度呼んでも答えてくれなかった時は、凄く不安になったのだが…その、放置プレイと言うのも悪くは無いな」
アクア:「別に気にする必要なんて何もないわよ。それよりもお酒とおつまみの追加注文を…」
まともなのがクリスしかいない。真面目に考えた俺が馬鹿に思える程、このパーティーは癖の強い集団だった。
俺が落ち込んでいると、まともなクリスが励ましてくれた。
「まあ、気にしたって仕方ないよ。そんな事より早くしないと料理が冷めちゃうよ」
確かに冷めてしまうと美味しさも半減してしまうし、これ以上悩んでも仕方がない。俺は再び料理に手をつけるがあの事が頭から離れなかった。そんな時だった、
「なあアクア、あのモンスターって何て名前だったんだ?」
現在酒を浴びるように飲んでいるアクアが、和真の質問に半ば呆れるように答えた。
「あんた、そんな事も知らないの?ひっく。仕方ないわね、私が教えてあげるわ!あらゆる野菜や果物に化け、畑を蹂躙する特別指定モンスター…」
ごくりっと喉を鳴らす和真、俺も耳を傾ける。
「その名も、《メタモン》よ!」
「ブーーーーーー!」
盛大に吹き出す和真、正直俺も吹き出すところだった、あぶね...。
「汚いわね、確かこの名前を付けたのも何処かの日本人って話よ。姿を変えるモンスターと言ったらこの名前だって言ってつけたみたいね」
アクアの言葉に頭を抱える和真。確か他の日本人も転生してこの世界に来ているらしいけど、もうちょっとまともな人を選んでほしい。
「そっそう言えば、この唐揚げは、何て名前の鳥なんだ?カエル以外の唐揚げを注文したけど、こんな柔らかくて美味い肉は久しぶりだな」
この世界に来てからは、肉と言えばカエル肉ばかりだったので久しぶりのまともそうな肉を食べた。めぐみんが唐揚げを1つフォークで刺しておいしそうに食べる。
「この肉ですか?これは《カモネギ》と言うモンスターです。このお肉もおいしいですが、持っているネギも美味しいですし経験値も豊富なため、一石三鳥のモンスターです」
再び噴き出す和真。和真の気持ちも分かるけど…一体誰が付けたんだ。
「ちょっ、カズマ何やってんよ!そんなにツボにハマったの?バカなの?」
「ばっ、バカとは何だこのッ……」
その後和真とアクアの言い争いが続いたが、それ以外は特にトラブルはなく…まぁ多少周りから苦情がきたが楽しい時間が続いた。
和真は少し嫌がったが、ダクネスを正式にメンバーに加える事になったので、その歓迎会も含めて盛り上がった。盛り上がったのだが、流石に疲れが残っていたので皆早めに帰ったのだがアクアは1人で二次会を始めていた。
俺は帰る前にアクアに聞きたい事があったため、少し酌に付き合う事にした。
「なあアクア、異世界に来る時に記憶が無くなる事ってあるのか?」
「記憶?そ~ね~、この世界に送る前にちょ~と頭の中をいじるから、中にはパーになっちゃう人もいるからね~」
既にだいぶ出来上がっているアクアは、だいぶ言葉が崩れていたが質問に答えてくれた。アクアの話をまとめると、異世界に来る前にこの世界の言語・言葉を認識出来るように脳に負荷を与えるため、運が悪いと後遺症が出るらしい。
つまり俺の記憶に穴があったのはその可能性が高い、現にある一定の事を思い出そうとしても穴が開いたように思い出せないでいる。
「まぁ記憶何ていつか戻るでしょ!そんな事よりお酒が空っぽよ、すみませーん!お酒の追加お願いしまーす!」
「まだ飲むのかよ…明日がきつくなるぞ…て聞いてねえし。仕方ない、もう少し付き合ってやるよ。すみません〈バーニャエール〉追加をお願いします」
確かに今気にしたって仕方ない事だ、無いものは無いなだから幾ら足掻いても戻っては来ないのだから。それに俺はこの酔い潰れそうな女神を天界に連れて帰る必要があるから、ついでにその時にでも記憶を戻してもらえばいいだけの話だ。神様なら出来ないとは言わせない、俺はそう思いながら酒をグイッと飲んだ。
その後俺達は店が閉じるギリギリまで飲み続けた結果、アクアは外で盛大に吐いていた。既に見慣れた光景だが、何故学習しないんだ?
「なんであんたは平気なのよ~、うっ」
ゲロゲロしているアクアには済まないが、俺は酒に強いのだ。かなり飲んでも酔わないのは自慢だが、一度だけ失敗した事があるのは秘密だ。
俺は気分の悪そうなアクアを引き連れて馬小屋まで連れていった。
こうして長い長い一日がやっと終わったのだった。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
キャベツの収穫ネタでここまでかかるとは思わなかった…。
次回はどのあたりを書こうか検討中です。