冒険者ギルドについた俺たちは、ある人物を探していた。ギルドの中にはクエストの相談をする者や朝食を取る者、働くウエイトレスや受付の役員など多くの人が集まっていた。
俺は周りを見渡して、目的の人物を見つけ出し声をかけた。俺が探していたのは皆から荒くれ者と呼ばれている人だ、俺はおっちゃんと呼んでいる。
おっちゃんは俺が来る事が分かっていたのか、笑いながら答えた。
「よう、朝から来るとは珍しいな。また俺に聞きたい事でもあるのか?」
男は手に持っていた飲み物をグイッと飲みきる。
「ああ、食事中にすまないな。少し相談したい事があるんだが大丈夫か?」
俺は普通にこの人と話しているが、めぐみんは少し引いていた。無理もないだろう、異世界広しと言えこの男の格好は周りの人とは明らかに違っていた。男の姿はモヒカンで顎髭は濃く、服装は半裸に肩当てとサスペンダーというこの異世界の住人の中でも二人といない個性的な人物だ。一度見たら忘れられない人物だろう...
正直、俺も初めて会った時は、めぐみんと同じ反応だったので気持ちは分かる。
「ああ、構わねえぞ。ところで隣にいる嬢ちゃんは坊主の仲間か?」
俺は坊主と呼ばれる程若くないのだが...まあこの世界に来て体が縮んではいると説明しても信じてもらえないだろう。冒険者カードにも十五歳となっている為、実はあなたと同じ歳なんだと言ったところでからかっている様にしか聴こえないだろう。面倒は避けたいので、坊主のままで今はいいだろう。
「嬢ちゃんではない、我が名はめぐみん。紅魔族随一の魔法の使い手にして、最強の攻撃魔法爆裂魔法を操る者」
「ガハハハ、なるほどな嬢ちゃんは紅魔族だったのか。しかも爆裂魔法を使えるとかスゲーじゃねえか」
おっちゃんの反応に満足したのか、胸を張るめぐみん。まあ実際爆裂魔法の威力は破格だが、使った後は地面にダイブしてしまう為、駆け出しがお手軽に扱っていい魔法ではない。このままではこの子の将来が心配なのでこれ以上おだてないで欲しい。
話が脱線しそうなので、俺は本来の目的を簡潔に伝えた。
「実はな、おっちゃん、今日はスキルについて聞きに来たんだ。何か戦闘に役立つスキルって何かないかな?」
俺の質問におっちゃんは直ぐに答えてくれた。
「ほう、ならお前さん武器系のスキルはどうだ。」
話を聞くと、このスキルを習得すれば剣を振ったことの無い人でも真面に扱えるようになるそうだ。ただし、スキルは覚えただけでは駄目らしい。スキルや魔法は積極的に使っていかないと上達しないものらしい、つまり熟練度のようなものがあるのだ。
現在使っている武器は片手剣だと伝えると、おっちゃんは知り合いのパーティーを紹介してくれた。突然のお願いにも関わらずここまでしてくれるおっちゃんに頭が上がらない。
「ガハハハ、気にするな坊主。困った時はお互い様だ、坊主も困った奴がいたら助けてやれよ」
なんて素晴らしい心の持ち主だ、どこかの女神に聞かせてやりたい。もっとも、あの女神が聞いたところで「私には関係ない、そんな事よりもっと私を甘やかしてよ」っと言いそうだ。
その後、俺は教えてくれたパーティーからスキルを無事教えてもらう事ができた。もともと片手剣のスキルだけのつもりだったのだが、「俺のスキルはどうだ」とか「私の魔法も見せてあげる」など習得予定のないものまで見せてくれた。せっかくなので習得したが、流石に中級魔法のコストは高い為、今回は習得を先送りにした。
「なあ、めぐみん、やっぱ他の魔法は覚える気は無いのか?」
「ありません、私のスキルポイントは魔法威力上昇と高速詠唱に回しているので、スキルポイントなんて残っていません。あっても覚える気なんてありませんけど」
この返答は予想していたが、なぜ爆裂魔法なのだろうか?この世界には数多くの魔法は存在するし、めぐみんの素質なら他の魔法も習得はできるだう。
めぐみんは誰かに爆裂魔法を教わって習得したのだろう。誰に教えたのか知らないが、恐らくその師匠に憧れたて習得したのだろう。
ネタ魔法として有名な魔法を、わざわざ選んで覚える奴なんてそうそういない。けして、爆裂魔法を覚えれば胸が大きくなると言う都市伝説を信じている訳ではないはずだ。
もしそうなら今直ぐ一般常識を叩き込む必要がある。
「そう言えばカイト、先ほど初級魔法を習得していましたね。あれは戦闘には役に立たない為、習得する人は少ないですが良かったんですか?」
「んー、まあ必要ポイントが各1ポイントだし、まあ良いかなって思ってな...」
本音はせっかく魔法が使える世界なら、是非魔法を使ってみたい...などと言う理由では無い。魔法は使えて嬉しいが本命はこの魔法は生活に絶対必要だからだ。
この世界には日本の様に水道もガスも電気も充実している訳ではない。金さえあればそう言った魔道具があるらしいが、俺達の様に馬小屋生活の冒険者には手に入らない代物だ。それこそ家を建てるだけの金が必要になるだろう。そこで初級魔法が役に立つ。
この魔法があれば、最低水と火には困ることはなくなった。朝井戸から水を汲む必要も、ちょっと火が必要な時にも役に立つのだ。神器持ちのチートなら必要ないが、今の俺は一般人に毛の生えたような人間だ。世界の平和より、明日自分が生きているか分からないのが現実なのだ。
「ところで、これからどうしますか?お昼までまだ時間ありますよ」
「どうするか、めぐみんは何処か行きたい所とかあるか?」
「......一件、行ってみたいお店があります......」
めぐみんが行ってみたいお店は、町の中心から離れた場所にあるそうだ。そのお店にはいろんな噂があり、今まで行きたかったが一人では不安だったらしい。俺としても、興味があるお店なので是非行ってみたい。
噂はいろいろあるが、ある人は、昔は凄腕のアークウィザードで武闘派だったと言う。またある人は、働けば働くだけ赤字になるポンコツ店主だと言う。またある人は、並んでいる商品がイカれている物ばかりだと言う。他にも噂があるが、正直行きにくいお店なのは間違いない。
しばらく歩くと目的のお店があった、見た目は普通のお店だ。看板には〈ウィズ魔道具店〉と書いてある、思っていたイメージより普通だ。外見だけならここは喫茶店ですと言われれば、信じてしまう程のお店だった。
「…きっとお店の中が凄いんですよ…行きましょう」
一体どこのダンジョンに挑むつもりなのだろうか、恐る恐る扉を開けるめぐみん。その後に俺も店内に入る。
「いらっしゃいませ、ウィズ魔道具店へようこそ。ゆっくり見て行って下さいね」
笑顔で出迎えてくれる店員…まあ噂なんて所詮こんなものだろう、挨拶してくれたのは一人の女性だった。長い茶髪が印象的で、優しそうな店員さんだ。
「…えっと、あなたはこの店員さんですか?…もしかして店主さん…ですか?」
「はい、私がこのお店の店主、ウィズと言います。…ええっと、このお店は初めて来てくれたお客様ですね。お店の商品は自由に見て頂いても大丈夫ですが、中には危険な物もあるので気をつけて下さいね」
「ありがとうございます。俺は海斗、隣にいるのがめぐみんです」
簡単な自己紹介をした俺は、店内を見て回った。棚には色とりどりのポーションや見ただけでは分からないアイテムまで並んでいる。折角だし回復ポーションの一つでも買っていこう。
「あの、回復ポーションはどれになりますか?」
「回復ポーションですね、でしたらこれになります」
ウィズは棚の中から一本のポーションを取り出した。色は赤いポーションで、素人の目では他の違いが全く分からない。
「このポーションはすごいんですよ、飲めば瀕死状態からでも即全回復する商品です。…ただ体力のステイタスが低い人が飲むと、回復量に体がついていけず逆にダメージを受けてしまいます…」
つまり栄養を与えすぎた植物が枯れてしまう現象なのだう、ちなみに値段は100万エリス。効果は凄いが、とても買える値段ではない。
「…すみません、他の回復アイテムはありますか?」
「ええっと…このアイテムなんてどうですか?」
その後ウィズからオススメされた商品は、確かに凄い効果が期待できるアイテムだが、デメリットがでか過ぎるものばかりだった。特に、飲むと回復する代わりに状態異常が起きるとか意味が分からない。あと、値段が高いものばかりだ。とても駆け出しの冒険者が買える物ではない。
「…ごめんなさい、普通のポーションを下さい…」
「すみません、私のお店にはその…そういった物は置いてないんです…」
「…ソウデスカ…」
噂は本当だった、棚一つでこの調子ならこのお店にあるすべてがとんでもアイテムの可能性がありそうだ…
そういえばめぐみんは何の商品を見ているのだろうか?俺が振り向くと、そこには棚に飾られている商品をじっと見つめているめぐみんがいた。
そこは数こそ少ないが、剣や杖など武器が飾ってある棚だった。めぐみんはその中にある一本の杖を見ているようだ。
「この杖が気になるのか?」
「…はい…酒場の情報で、このお店に凄い杖があると聞いたので…」
話している間もずっと杖を見ているめぐみん、随分と気に入ってしまったようだ…ちなみに値段は50万エリス、これを買うにはジャイアント・トードを100匹倒さないと届かない金額だ。もちろん今これを買うだけのお金は無い。
「それはマナタイト製の杖ですね、純度の高いマナタイトを使用した一品で…値段は高いですが良い商品なんですよ」
「そうなんですか…でもすみません、今はお金が少ないので…」
「気にしないで下さい。このお店に来てくれる人のほとんどが、何も買わずに見ていくだけなので…でも商品の値段は高いですけど本当に品質は上質な物ばかりなんですよ」
果たして飲むとダメージを負う物が、本当に良い物なのか?
「それにしても商品の品質ってどうしたらわかるんですか?俺にはどれも同じに見えるのだが…」
「何を言っているのですか、見てくださいこの杖を!この魔力溢れるマナタイト…この杖で爆裂魔法を撃てばどれ程の威力になるか…」
目をキラキラさせて説明するめぐみんだが、俺には全く分からない。
「めぐみんさんはアークウィザードなんですね。魔法使いは魔力に敏感ですから…カイトさんの職業は何ですか?」
「…冒険者です…」
「…えっと…すみません…」
何故謝ったのだろうか?冒険者のイメージがそんなに悪いものなのか?確かに才能ある人間からすればそう見えてしまうのだろう…
「…気にしないで下さい、慣れているので…ところで他のアイテムでも分かる物なんですか?」
「はい、私は鑑定スキルなどを持っているので、見れば大抵の物はすぐ分かりますよ。このスキルのお陰で、良い商品を入荷出来て助かっていますし、せっかくですから覚えて見ませんか?」
「それじゃあ、お言葉に甘えて…よろしくお願いします」
今日初めて会った人に、まさかスキルまで教えて貰えるとは思わなかった。とても優しい人なのに、商品のセンスが壊滅なのがとても残念だ。
ちなみに、めぐみんが欲しがっていた杖は、残念ながら購入は先送りにしてもらった。流石に借金までして買おうとはしなかったので、こう言った常識は持っていて安心した。
時刻はもうすぐお昼になる、俺達は二人と合流するため冒険者ギルドに向かった。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
次回更新も未定です…