ポケットモンスターCLEAR   作:マンボー

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ようやく決着……長かった。


十四話『vsワタル 決着』

 

 

「レッド! やっぱり無事だったのね!」

「命は拾った様だな……」

「は、はは……何とかね」

 

 一方その頃、三人の図鑑所有者が久しぶりに顔を合わせていた。

 本当に久しぶりの再会、といってもだからといって呑気に話すなんて暇は今はまだ無い。

 こうしている今も、上空ではイエローとワタルが戦っているのだ。

 そして――、

 

「ん、あれはクリア?」

「え? どこ? ていうか何でレッドがクリア知ってるの?」

 

 まだ一応は中、だけどスッポリと開いた天上の穴からそれは見えた。

 レッドの視線を追ったブルーとグリーンもクリアの姿を見つける。

 今正に、クリアはねぎまと共に空を飛び、ワタルとイエロー達の所へと向かう所だった。

 人一人分のハンデがあるにしては速いと言えるスピードで飛んで雲の中へと入るクリアとねぎまを見て、

 

「どうやらお喋りしてる暇は無い様だ、早く外に出よう」

 

 そのクリアの姿にまだ戦いは終わって無い事を再確認した三人は、共に出口へと向かう。

 

 

 

 ワタルとイエローの戦いは続く。

 絶対にワタルを止める、皆を、クリアを守る為の力は欲したイエローは、一つの決意を胸に、そしてそれを言葉にする。

 

「キャンセルボタンはもう押せない……イヤ、キャンセルボタンはもう押さない!」

 

 瞬間、イエローのポケモン達の体が発光し始める。

 暖かで眩しい、"進化"という名の光を。

 

「ボクは力が欲しい! 皆を守る為の力を! 大事な人(クリア)を守る為の力を!」

 

 羽の生えたピーすけがイエローの背中に張り付き、まるで翼の様にイエローの体を宙に浮かせる。

 そして変化はピーすけ同様、ピカと元から進化していたラッちゃん以外のポケモン達、オムすけ、ゴロすけ、ドドすけ達にもその波紋は広がった。

 

「ワタルーーー!」

「イ、イエローーー!」

 

 進化したイエローのポケモン達が、ワタルのポケモン達とぶつかった。

 互いに拮抗した力のぶつかり合い、だがしかし、バタフリーに進化したピーすけはイエローの背中にいる、戦闘に参加出来ない。

 つまりリザードン含め手持ちが六体いるワタルとは、数の上で差があったのだ。

 

「えぇい! リザードン"かえんほうしゃ"!」

 

 ワタルのリザードンがイエローのピーすけを狙う。

 もしここでピーすけをやられたら、イエローは再び空中を飛行する手段を失う、それはつまりイエローの負け、いくらポケモン達が成長を遂げていても、トレーナーが空中から投げ出されればどうしようも無い。

 まぁそれも――もしもの話。

 

 

 

「ッ! リザードン!?」

 

 リザードンが一瞬体勢を崩し、その隙にイエローは攻撃から逃れる。

 

「なんだ、今影の様なものが……もう一度だリザー」

 

 ワタルが言いかけたその時、再び茶色の影がワタルのリザードンを襲った。

 リザードンもリザードンで、何が起きたか分からないらしい、そして続く第三撃目。

 

「今っ! 一瞬見えたぞっ! 何か鳥ポケモンの様だったが、だが今のスピードはなんだ!?」

 

 うろたえるワタル、勿論イエローのポケモンじゃない、イエロー本人も驚いている。

 ならば誰か――?

 

「……主役は」

「はっ!?」

「遅れて……」

「この声…」

 

 ワタルに続きイエローも声のする方を振り向く。

 と、同時に"そらをとぶ"がワタルのリザードンにクリーンヒットする、今度こそ大きく弾かれるリザードン。

 だがワタルの眼はそこには無い、巨大な鳥ポケモンに座るその人物に視線は集中している。

 

「……登場する、ってな!」

「クリア!? また貴様か!」

「クリア!」

 

 驚く二人だが、この後二人は更に驚く事になった。

 先程の影、鳥ポケモンのカモネギ、通称ねぎまが凄まじいスピードでクリアの周りを十度程旋回してから彼の傍へと降り立ったからだ。

 

「さっきのはあのカモネギ、だと!?」

「……き、君って凄く速いんだねねぎま……」

 

 いつもの様にネギ(クキ)を掲げて笑顔でイエローに返事をするねぎま。

 その様子からして、もう完全にトラウマは克服した様だ。

 そしてトラウマを克服したという事は、ねぎまが持つ"最大の武器"を存分に発揮出来るという事になる。

 

「行くぜねぎま、もう一度だけ"こうそくいどう"だ」

 

 クエッ!と返事をして、フワリとねぎまが浮か――んだと思った瞬間、ワタルとイエローの丁度間を"何か"が通り抜けた。

 その"何か"は十中八九、というかねぎまなのだが、通り抜けたと思った瞬間にはねぎまはもうクリアの傍へと飛来する。

 規格外の速さ、それこそがねぎまの持つ最大の長所である武器――。

 飛べないハンデで封印されていた力が今一度、四天王最強のドラゴン軍団相手に振舞われる。

 

 

 

「っく! ハクリュー! 此方も"こうそくいどう"だ!」

 

 目には目を、速さには速さを――といった所か。

 それも二体のハクリューは同時にねぎまを襲う、雷と嵐の合わせ技。

 だがそれは同時に先程の戦いの借りを返すチャンスが出来たという事だ、倒れたヤドンさんの存在もありねぎまは逆に二匹のハクリューに闘志を燃やし、更に更に速くなっていく。

 

(向こうはねぎまに任せて良さそうだな……)

 

 そう判断したクリアはねぎまから視線を外す。

 直後ねぎまの"いあいぎり"がワタルのハクリューの一体を捉えた、そして更に畳み掛ける様に旋回しねぎまは相手へと向かう。

 一発一発は小さくても、積もれば大きなダメージとなり、しかもねぎまに攻撃を当てるのは容易な事では無い。

 

「ハクリュー! "はかいこうせん"!」

 

 今日何度目になるのか、ハクリューの光線がねぎまにヒットする――が、その影は揺れて消える。

 "かげぶんしん"、逆に攻撃を仕掛けたハクリューに"そらをとぶ"が決まった。

 

「……良し、P! V!」

 

 視線はねぎまへは戻さない。

 クリアはもうねぎまを主力達を支えるサポートの一体とは考えていなかった。

 正真正銘の本命、一匹でもワタルのポケモンと同等に戦える強者。

 それが今のねぎまだった。

 

 

 

「……ギャラドス!」

 

 新たなにピカチュウ()とイーブイ《Ⅴ》を出したクリアにワタルはギャラドスを向かわせる。

 これまでのワタルなら、クリアのPとVに等目も暮れなかっただろう、しかしエースにレヴィ、ヤドンさん、そしてねぎま。

 これまでの戦いから、クリアのポケモンに弱者はいない、そしてこの二匹もどうせ油断ならない、そんな考えをワタルの中に生ませていた。

 

「っく! P"こうそくいどう"から"たたきつける"! Vは"スピードスター"!」

 

 だが実際にはこのPとVだけは元からレベルが低いポケモンだった。

 他四体と比べその力量差ははっきりしている。

 案の定、PとVの攻撃は簡単にギャラドスに弾かれた、そしてギャラドスの"ハイドロポンプ"が二匹へ向かって、

 

「オムすけ!」

 

 イエローがすぐさま助っ人に入り、オムすけの"れいとうビーム"がギャラドスの"ハイドロポンプ"とぶつかり合う。

 その一瞬で、クリアはPとVの二匹を抱え、どうにか攻撃の射程内から退避する。

 直後さっきまで二匹がいた場所に激突する水流弾。

 

「大丈夫クリア!?」

「あぁサンキューイエロー、助かった」

「良かった……ッ、ピカ! "10まんボルト"!」

 

 安堵して早々イエローはピカに支持を出し、走る。

 今もまだ戦いは続いている、クリアのねぎまもまた二体のハクリューを相手に互角の勝負を繰り広げている。

 

「……P、V」

 

 そんな中、余裕なんて無いはずの状況で、クリアは二匹のポケモンに向かい合う。

 

「正直、お前等のレベルじゃワタルのドラゴン軍団には到底敵わない」

 

 あえて残酷な真実を打ち明けるクリア。

 これまでの四匹は、曲がりなりにもレベル自体は高かった。

 ねぎまも飛べなかった時は実力の半分も出せていなかったが、今では全力で戦って、そのレベルの高さを示している。

 だがPとVは、この二匹はまだまだ成長途中、さっきまでの進化前のイエローのポケモン達とそう変わらないレベルなのだ。

 

「今ならイエロー達もいるし、ねぎまも全力を出せる様になった、もう頑張る必要は無いんだぞ?」

 

 提案された選択肢は実にシンプル。

 これ以上の増援は別に必要無い、戦いたくなければボールの中で休んでいろ。

 遠まわしの戦力外通告と同等なのだが二匹は、

 

「ッピ!」

「…ブイ!」

 

 その提案を拒否し、ワタルのポケモン達に向き直る。

 先程まで戦っていたギャラドス、今はオムすけが戦っているがそのギャラドスへと向き直る。

 その様子を見て、

 

「っま、お前等ならそう言うと思ったよ」

 

 フッと笑った。

 元々勇敢なPはともかく、Vまでもそんな返事をした事にクリアは一切驚く様子も無く、分かっていたという風に告げたのだ。

 

「皆が、エースとレヴィにヤドンさんにねぎまが、あそこまで必死に戦ったんだ、お前等だけが休んでる……って訳じゃダメだもんな……それにお前等も、活躍したいだろ?」

「ピカ!」

「ブイ!」

 

 その時だった、クリアの貰った図鑑から"音"が鳴った。

 その音は三人の図鑑所有者が揃った時に鳴るアラーム音ともまた違う音。

 そのアラーム音をクリアは無言で切って、

 

「クリア! この俺の手で、貴様との因縁に決着をつけてやる!」

 

 現れたワタルとプテラへと視線を移す。

 同時にPとVもワタルの方を向いて、Vだけがクリアの前へ出た。

 自身に訪れた"変化"にVも気づいたのだろう。

 

 辺りが少しヒンヤリと涼しくなった気がした。

 

「プテラ! "はかいこうせん"!」

 

 一切の容赦も無くワタルのプテラが"はかいこうせん"をクリア達へと撃つ。

 イエローはカイリューの相手をしてるらしく応援は間に合わない、ねぎまもハクリュー達の相手で手一杯の様だ。

 つまり、舞台は整えられたのである。

 

「ったく、もう"はかいこうせん"は聞き飽きたっつーの!V!」

「ブイ!」

 

 冷たい冷気がVの全身を包み込む、身体が発光し、そのエネルギーはVの口元へと集められた。

 

「タイプは"氷"! 威力は"最大"! 食らえよ"めざめるパワー"!」

 

 次の瞬間、Vの"めざめるパワー"がプテラの"はかいこうせん"を弾き、そのままプテラへと直撃した。

 そう、ポケモン図鑑のアラーム音はVが新たに習得した技を知らせる音だった。

 "めざめるパワー"、その名の通りVが持つ"可能性の一つ"を形として外に出した力。

 

「っふ、やはりお前は油断ならん!」

 

 プテラはまだかろうじて体力が残ってるらしい、一旦Vから離れ体勢を取ろうとするが、

 

「ピカ!」

「っく、プテラ!」

 

 ピカの"10まんボルト"がワタルのプテラに迫る。

 直撃した!――一瞬そう思ったが、プテラはかろうじてその攻撃を避ける。

 そしてかわされた攻撃はそのままの軌道で、

 

「危ないクリア!」

「ッピ!」

 

 クリアへと向かっていくが、クリアを庇う様に"10まんボルト"とクリアの間にPが割って入る。

 勿論、電気タイプが電気タイプの技を受けたからといってノーダメージという訳では無い。

 そこには確かにダメージが存在し、レベル差の高いピカの攻撃ならばそのダメージは油断ならない物のはずだ。

 

「平気かP!?」

「ピ……」

「……P?」

 

 だがPはダメージが無い所か、むしろ――。

 

 

 

「P、大丈夫だったかな……でも今はワタルを!」

 

 後でPに謝ろうと内心呟き、イエローはワタルを見る。

 ピーすけの羽で空を舞い、ワタルの竜の光線が空に光の軌跡を描く。

 イエローはピカと共にワタルと戦い、そしてピカの心に触れ、またピカも閉じていたその心を開き始めていた。

 

「……ワタルを止めるには、バッジのエネルギーを更に超えるエネルギーをぶつけて吹き飛ばすしか無い……クリアァ!!」

「……了解だイエロー、P!」

 

 クリアが叫び、Vに変わってPが前に出る、瞬間まるでその次の行動を予想していたかの様にねぎまがクリア達の元に飛来する。

 クリアはねぎまに捕まり、またPとVもねぎまの背に乗る。

 これでスピードはかなり減速し、通常程度の速さしか出ていないが、最早そんな事クリアには関係無かった。

 

「イエロー! だったら俺達のエネルギー、お前に託すぜ!」

 

 クリアが言って、ねぎまが丁度イエローの付近を通過した時Pがイエローの元へ飛んだ。

 Pに触れ、クリアの考えも同時に理解したイエローは驚きながらクリアを見る。

 すると、クリアは一度だけ親指を立てて返答し、そしてVとねぎまと共にワタルのドラゴン軍団へ突っ込んだ。

 

「V! "めざめるパワー"!」

 

 イエロー達の為のほんの些細な時間稼ぎ。

 その僅かな時間が、この戦いに最大の勝機をもたらす。

 

「クリアァァァァ!」

「叫び過ぎだぜコノヤロォォォォ!」

 

 ワタルとクリアがぶつかる。

 "はかいこうせん"と"めざめるパワー"がぶつかる。

 リザードンが、ハクリューが、カイリューがねぎまを捉えようと躍起になる。

 

「……分かったよP、君とクリアを信じる」

「ピ!」

 

 そんな光景を見て、イエローは意を決した様に言う。

 

「ピカ! 最大パワーで"P"に"10まんボルト"!」

 

 ピカの"10まんボルト"がイエローの指示通りPに命中する、が肝心のPは痛がる所か、むしろ久しぶりの感覚に嬉しそうに気持ち良さそうにしていた。

 

 ――Pは電気技が使えない、ただしその表現には正確には語弊がある。

 正しくは"電気技を使う為の発電能力が無い"、過去に酷使された影響で発電能力を失ったPだったが、だからといってその放出方法を無くした訳では無かったのだ。

 ただ元の電気が空だっただけ――それが今、ピカによる電撃攻撃という最高級の電力を貰っている。

 元が空だからだろう、生きていく為にPについた"電気攻撃を無効にし、更に強力な形で自身の電力へと変換する"能力(ちから)、特性"ひらいしん"の様な能力だが、この時点ではそんな言葉はまだ無い。

 

「いくよP、ピカ!」

 

 イエローの準備が終わるのを見計らってクリアもイエローの元へ戻る。

 そしてそれを追って来るワタル。

 クリアはイエローの横に立ち、そして、

 

「P!」

「ピカ!」

 

 声を合わせて二人は叫ぶ。

 これまでの戦いに終止符を打つために。

 

「"100まんボルトォォォォォォォ"!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここはどこだろ

 森の中で起きて最初にそう思った。

 あれ、スオウ島は?ワタルは!?

 つい先程までの激戦が嘘の様に穏やかな光景、故郷の森。

 クリア?ピカ……ラッちゃん、二人を知らないかい?

 近くにいたラッちゃんにそう聞いてみたが、ラッちゃんは知らないという。

 おーいピカー?

 探してるうちに友達のポケモン達と出会った、進化してるって事忘れてたから最初は驚いた。

 あ、ピカ!

 だけどポケモン達に連れられた先にはピカがいた、やっぱりポケモン達は進化しても友達のままだった。

 あっ!待ってよピカ!?

 だけど呼びかけてみると、ピカは複雑そうな表情で振り返り、どこかへ行ってしまった。

 そういえば…ピカ、お前はレッドさんのポケモンだったものね。

 走った先にいたのはレッドさん、そしてピカがレッドさんのポケモンだったという事を再確認して、ボクは少し寂しい気持ちになったんだ。

 

 ――だけど。

 

 だけどもう少しだけ、今までみたいに――。

 

「っよ! イエロー! 相変わらず寝てんのな」

 

 そう願って変わらないポケモン達とピカと昼寝してる光景に浸った時、クリアの声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うん?」

「お、目が覚めたか?」

「ってうわぁぁ!? レッドさん!?」

 

 目を覚まして最初にイエローが見た顔はレッドだった。

 どうやらレッドのギャラドスの上に乗っているらしい、"なみのり"で海を渡ってる所を見ると、全員で帰宅途中の様だ。

 

「あ、あれ!? ワタルは!? あの大きなポケモンは!?」

「ワタルは君達が倒したんだよ、あの大きなポケモンなら西の方へ飛んでいったよ」

「君……達、そうだ! クリア! レッドさんクリアは!?」

「……えーと」

「レッドさん……?」

 

 ワタルと大きな鳥ポケモンの事に関しては快く説明してくれたレッドが言葉を濁した。

 そこに一抹の不安を感じるイエローだったが、

 

「……もう行っちゃったわよ」

「ブルーさん?」

「あいつ! 眠ったままのあなたを私達に預けて『ちょっと用事が出来たから任せた』って言ってね!」

「……へ?」

 

 ブルーの言葉に一瞬だけ呆気に取られるイエローだが、すぐに肩の力を抜いて安心しきった顔で、

 

「よ、良かったぁ~……」

「良かったって、またどうして?」

「だ、だってまたクリアに何かあったんじゃないかって思っちゃって……」

 

 レッドの問いにそう答えるイエロー。

 今回の旅で、クリアは何度も死に掛けていた――腹に穴が空いたり、死んだり、マグマに落ちかけたり――実際死んでた。

 だけどきちんと無事らしい、それが確認出来ただけでもイエローには朗報なのだ。

 

「……ねぇイエロー、もしかしてあなたクリアの事」

「え、なんですかブルーさん?」

 

 意味深な笑みを浮かべてイエローにそう言うブルーだが、肝心のイエローが言葉の意味を理解していない。

 

「クリアと言えばイエロー、眠ってる時クリアの名前呟いてたけど夢の中で会ってたりしたのか?」

「……え、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」

 

 レッドの何気無い一言が、今日一番のイエローの絶叫を生み出す。

 近くでゴルダックに乗るグリーンが凄く迷惑そうにしていたりもするが、回りの人間達は全く気にしない。

 

「ボ、ボボボボクそんな事を!? 夢の中、ってもうあまり覚えていないですよ!」

「そうなのか、何かピカの事呼んでるかと思ったら一言だけ『クリア……』って呟いてたぜ?」

「はぅっ!?」

 

 顔を赤くして俯くイエロー、どうしてそういう態度を取るのか分からないレッド、そしてその態度から色々と察した様子のブルー。

 

「はは、そうしてるとイエローもやっぱり女の子だな」

「レ、レッドさん! ボクはこれでも女……ってえぇぇ!? なんでレッドさんボクが女の子って知ってるんですか!?」

 

 今日のイエローはうるさいな、と静かにグリーンは思う。

 まぁイエローもレッドは自分の正体を知らないと思っていた為驚きもするだろう、見るとブルーも同じ様に驚いている。

 

「あぁ、スオウ島でクリアと一度会った時に聞いたんだよ、それでな」

「……え、じゃあもしかしてクリアもボクが女の子って知ってるの……!?」

 

 そして彼――否彼女の頭に浮かび上がる思い出ミュージアム。

 何か抱きしめられたり、泣いてるトコ見られたり、抱えられたり、肩貸して支えてやったり、というかもう色々と恥ずかしい台詞の応酬もあった様な気がする。

 それら全てを思い出して、イエローの顔は再び蒸気する。

 

「……えーと、イエロー? 多分あいつはこの事知らな」

「ど、どうしようレッドさん!? ボクしばらくクリアの顔見れないよ!!」

「落ち着いてイエロー! クリアは今ここにはいないわ!」

 

 状態異常で言うなら"こんらん状態"、難しく言うと軽く錯乱状態。

 ギャアギャアと騒ぎ立てる三人を尻目に、グリーンは唯一言、

 

「はぁ……うるさい奴等だ」

 

 ため息混じりに呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ワタルの、四天王達の起こした異変は少なからず野生のポケモン達にも変化を及ぼしていた。

 ポケモン達の大移動もその一つ、そしてクリアは今、その真っ只中にいた。

 大量のカモネギの群れ、スオウ島から少しだけ離れた小さな孤島、岩礁地帯で羽休めをしているカモネギ達の群れの近くに彼等はいたのだ。

 

「行きたいなら、行ってもいいんだぜ?」

 

 その大量のカモネギ達を見つめながら、クリアはカモネギへと言う。

 

 クリアがブルー達に言った用事とは正にこの事、生息数が少ないカモネギの群れと出会える確率は比較的低い、そんな機会をクリア達は偶然手に入れてしまったのだ。

 そして問題になるのがクリアのねぎま、元々は群れの一羽で、心残りも少なからずあるのだろう。

 クリアもそれは感じ取っていた、そして機会があれば、ねぎまを群れに帰してやりたいとも思っていた。

 

「……俺達の事なら心配いらないさ、別にお前なんざ居なくても、うちのチームは優秀だからな」

 

 手持ちは全て出している。

 ワタルとの戦いで、若干の体力回復は出来ていてもボロボロな面々、彼等もそれぞれ違った反応の仕方で、だけどしっかりとねぎまを見ている。

 

「どうする、いつまでも群れは待ってくれないぞ?」

 

 残るのか? 飛び立つのか?

 選択肢は二つに一つ。

 そしてそうこうしてるうちに、羽を休めていた一匹のカモネギが空に浮かぶ。

 続く様にバラバラとカモネギ達が羽ばたき始める。

 

「……行くのか?」

 

 ねぎまの目が今正に飛び立とうとする群れにいったのをクリアは見逃さなかった。

 そう問いかけた瞬間、ねぎまはまたしてもクリア達の方へ向きなおし押し黙る。

 ねぎまは昔とは違う、空を飛べる、むしろ群れのリーダーとなれる素質すら持ち合わせている。

 

「……ヤドンさん?」

 

 いつまでたっても答えを決めれないねぎま、クリアも別にどちらかに強制はしない。

 そんな中、ヤドンさんが前へ出る、ねぎまの前へと。

 そしてねぎまの体を、トンっと押した。

 

「……」

 

 その様子を黙って見つめるクリア。

 突然押され、半歩だけ後ろへ下がるねぎま、そしてヤドンさんは不意にねぎまに背を向けた。

 同時にPやV、エースやレヴィすらもねぎまに背を向ける。

 

「……やー」

 

 そう言ったヤドンさんの言葉が、勿論クリアには理解出来なかった。

 だけどクリアは小さく笑って、そしてクリアもまたねぎまに背を向ける。

 

 ポケモン達がそういう決断をしたのだ、クリアもまたポケモン達を信じてみようと思ったのだ。

 いつもポケモン達がそうしてきてくれた様に。

 

 一際大きな羽音が聞こえた。

 最後の一羽が飛び立った音だった。

 そしてその音を聞いて、少しだけ戸惑いを見せるねぎまだったが、その直後、ワタル戦での――ハクリュー達と戦ってる時の、ヤドンさんの敵討ちとして戦ってる時の表情を見せた。

 

「ックエ!」

 

 そしてねぎまは一度だけ敬礼、の様なポーズをとった。

 今だ背を向けるクリア達に、ヤドンさんに、例え見られて無くてもそんなポーズをとって、そして彼は大空へと羽ばたいた。

 風に乗って、空を切って、凄まじいスピードで群れのカモネギ達に追いつく。

 出会った瞬間こそは警戒されるも、むしろその実力の高さ、これまでの旅とワタル戦で培われたキャリアが生きたのだろう、すぐに群れに受け入れられ溶け込んでいる。

 

 西、大きな鳥ポケモンが飛び去った方角向けて、ねぎまは飛んでいく、仲間と共に。

 

「……寂しいものだな、別れって」

 

 そんな光景を見つめながら、ポツリとクリアは呟いた。

 そしてヤドンさん以外のポケモン達を全てボールに戻す、勿論ヤドンさんには"なみのり"をして貰うという役割があるから残したのだ。

 いつまでもねぎまの方向を見ず、背を向け続けるヤドンさんにクリアは呟く。

 

「涙はとっとけよ、次会う時の為にな」

 

 ヤドンさんの瞳にキラリと、透明な雫が見えた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっ、カモネギの群れとは珍しいな!」

「本当ですね……あれ?」

 

 ギャラドスの上でレッドが言ってイエローが同調する。

 グリーンもブルーもその群れに視線を向ける。

 カモネギ達は飛んでいく、西へ向かって。

 

「ん、どうしたイエロー?」

「いえ、その……きっと勘違いかもしれないんですけど」

 

 躊躇い気味にイエローは言う。

 もう一度だけ飛び去っていくカモネギ達を見つめながら。

 

「一匹、よく知ってる子と目が合った様な気がしたんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、そろそろ行くか」

 

 ねぎまと別れてから少し経ってからクリアはヤドンさんに言った。

 ヤドンさんは相も変わらず、何を考えているのか分からない無表情で佇んでいる。

 そして波の乗って、ニヤリと笑ってクリアは目的地を告げる。

 

「またさっきそこで拾ったこの"羽"、一枚目と二枚目で何か重要っぽいアイテムも揃った事だしさ」

 

 その手の中には二枚の羽が握られていた。

 一枚目はクリアが一度絶命し倒れていた場所、二枚目はさっきスオウ島で決戦後拾ったもの。

 

「"いかりまんじゅう"も食ってみたいし、行ってみようぜジョウト地方!」

 

 虹色に輝く羽と銀色に輝く羽を握り閉めて、クリアとヤドンさんは海を渡る。

 大きな鳥ポケモンとねぎまが消えた方向、西。

 目的地は――ジョウト地方。

 

 




とりあえずカントー編終了です。
Vは進化では無く技、しかもめざパ、でもイーブイにしっくり来る技だと思うんですよね、Pの設定も最初から頭の中にありました、えぇ最初からです、急ごしらえじゃないです断じて!
ねぎまとの別れも最初からの設定、ヤドンさんとは離れ離れになってしまいましたね、でも旅してるんだしこういう事もあると思います、出会いと別れと言いますし。

そして恐らく次は番外編を挟んで、その次からジョウト編に入りたいと思います――というかこの小説で一番やりたかった事が出来るのがジョウト編なんですよね…次にエメラルドの所かな、やりたい話が出来る箇所は。



ではでは、マンボーでした。
……イエロー可愛いよイエロー。

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