パンでは無いです、番外編です。
カントー四天王事件から約一年。
その襲撃によって破壊されていた街々もほぼ修繕が完了され、人々は活気を取り戻していた。
そしてそんな街の一つ、トキワシティ郊外の森、トキワの森にて。
「それで、相変わらずクリアとは音信不通なのか」
「……はい、元々連絡先とかも交換してありませんでしたし」
肩を落として呟くイエローにレッドもどう声を掛けていいくか分からずポリポリと頬を欠いた。
その傍では二匹のピカチュウ、レッドの"ピカ"とイエローの"チュチュ"が仲良く木に登ったり、軽く電撃を飛ばしたりして遊んでいる。
「まぁ、そう心配する事も無いんじゃ無いか? あいつだって相当の腕のトレーナーだし」
「レッドさん一年前の事忘れてませんか……?」
「は、はは……」
ジト目で返され確かに何も反論する事が出来ないレッド。
一年前の事件の時、というよりイエローが旅立ったそもそもの原因がこのレッドだった。
彼が四天王に負け、行方を晦まさなければ元々あの冒険は無かったはずなのだ。
「……はぁ」
「まぁまぁ、気にしたって仕方無いんだし、何の音沙汰も無いっていうのはむしろ何も無いって事だと思っていいと思うぜ」
スオウ島で別れたっきり、しかも何の挨拶の言葉も無しにイエローはクリアとここ一年会っていなかった。
時折レッドや、ブルーに相談を持ちかけてみるもクリアの足取りは一向に掴めないでいたのだ。
レッドの言う通り、分かりやすく言うと"レッドの時のピカ"の様な異変が無い現状はクリアもどこかで元気にやっていると思っていいだろう。
だけどそれが長く続くとも限らないし、もしかしたら本当に何かトラブルに巻き込まれてるかもしれない。
一人で無茶するクリアを散々見てきたイエローは、そんな彼の事が心底心配だったのだ。
「……今頃、どこで何してるのかな、クリア……」
トキワの森の一角で、ポニーテールの少女がそんな呟きを吐いた丁度同じ頃。
所変わって、薄っすらと雪が積もるその場所で、寒さに震えながら一人の少年が一匹のポケモンと共に駆け足で街へと向かっていた。
「あー寒い寒い寒い寒い! だから俺はいい加減街の方へ引っ越そうって再三言ってんのに!」
そう文句を垂れながら走る少年の傍ら、並走するポケモン、イーブイはそんな少年の様子に苦笑いを浮かべている。
「あん? なんだよV、そりゃあお前はこの辺気に入ってる様子だから苦じゃないだろうけどさ」
むっ、としてVと呼ばれたポケモンに少年が言って、そして次に少年は怒る事も拗ねる事もせず、ニッと笑顔を作って、
「まぁどうでもいいさ生活環境なんてものは! よーしV、こうなりゃ街まで競争だぜ! 負けたら"いかりまんじゅう"驕りな!」
「ブ、ブイ!?」
一気に加速して少年、クリアは駆けていく。
トキワの森で彼の身を案じるイエローの気持ち等ホンの少しも彼には届いていないらしい、今この瞬間をクリアは心から楽しんでる様だ。
そして遅れながらもVも加速して、一瞬でクリアを追い抜いていく――。
――さて。
時は遡って、これより先はまだワタル達四天王とクリア達が戦っていた頃の話。
キクコのゴーストによって一度は絶命したクリアだったが、冷たくなった彼の前に現れた謎の虹色の巨大ポケモンによってその命は繋ぎとめられ、そして新たに
一匹の暴れ者の話である。
「ん、どうしたねぎま?」
倒れていた小さな森から出発して、彼等はその頃クチバシティへと向かっていた。
情報収集の為に歩みを進める彼等だが、今のクリアは外にはねぎまとヤドンさんを外に出して歩いている。
出来る限り会ったばかりの彼等をボールから出して、今後の為に更にポケモンとの絆を深めようというのである。
そんな時だった、共に歩いていたねぎまが彼に一枚の羽を手渡して来た。
不審に思いながらもクリアはその羽を受け取って、
「……虹色に輝く、羽……こんなものどこで拾ったんだよ」
鮮やかな虹色の塊を受け取ってクリアが尋ねると、ねぎまはその大きな羽で元来た道を指し示した。
――無論、そんなジェスチャーじゃ到底分かるはずも無い。
「……虹色、となると多分俺が倒れてた場所か?」
その輝きに見覚えがあったクリアがねぎまに尋ねると、ねぎまは首を縦に振って答える、どうやら当たりらしい。
虹色の羽、そして思い出されるは自身が死んだ時の事、虹色に輝くポケモン、思い当たるのは一匹の伝説のポケモン。
――だがやはり、推測の域は出ない。
(……イエローには悪いけど、あの時俺の事を見ていたエースとVの記憶を見てもらおう、ついでにねぎまの事も)
まずは確証が欲しかった、だからとは言わないが、とりあえず当面の目標はイエローとの再会、その為にクリアは今日も歩いていた。
そして懐に"にじいろのはね"を忍ばせてねぎまと共に歩いていると、
「……あれ、ねぎま?」
気づくとねぎまの姿が見えなくなっていた――今のクリアの傍にはヤドンさんしかいない。
キョロキョロとクリアは辺りを見回すが、ねぎま目印のあの目立つ"ネギ"がどこにも見当たらない。
「ついさっきまで、ねぎまは確かについて来てたよな?……一体どこに……」
そう言い掛けた時だった。
ドンッ!っと何かがぶつかる音がクリアの耳に届き、瞬間クリアは走り出す。
消えたねぎまと謎の異音、そしてこのタイミング、もしかしたらねぎまに何かあったのかもしれない、そうクリアは考えたのだ。
――ちなみにヤドンさんは勿論歩いていたが、気にせずクリアは走る、どうせ後から追いついてくろうと。
「っ、ねぎま!」
走った先に、確かにねぎまはいた。
その確認にとりあえずホッとして、そしてすぐにねぎまが相対している敵へと視線を向ける。
そこにいたのは一匹のメノクラゲだった、妙に生傷が痛々しいメノクラゲ。
「メノクラゲって……珍しいな、ここは海から結構距離あるはずだけど」
近くに小さな川程度ならあるが、タウンマップの表記には"道路"と表記されてる様な場所である、勿論"水道"の様な大量の水場は存在しない。
そうクリアがメノクラゲの存在に首をかしげていると、敵のメノクラゲが動く。
その二本の触手のうちの一本をねぎまへと突立てて来たのだ。
「ねぎま"いあいぎり"!」
咄嗟にクリアは指示を出し、ねぎまの
そしてその触手の先、針の様なものがある事に気づいてクリアは今メノクラゲが出した技が"どくばり"である事を確認して、
「"どくばり"、"どく"状態になったら面倒だな……ねぎま、オニドリルの時みたく一瞬で決めろ!」
そう言ったクリアにねぎまは首を振って了承した。
再びすれ違い様の一太刀、何故このメノクラゲが襲ってきたのかは分からないが、それで早々に勝負を決めてさっさと旅に戻ろうというのだろう。
そしてメノクラゲの"どくばり"が再度ねぎまへと迫り、ねぎまもまた
「やったか」
やはりねぎまの技の速さの方が早かった。
メノクラゲの"どくばり"よりも先にねぎまの"いあいぎり"が決まったのは誰の眼から見ても明らか、それで勝負が終わるとクリアは思っていた――が、
「っ何!?」
まるで何も無かったかの様に動いたメノクラゲの"どくばり"がねぎまに直撃する。
その動作にはねぎまの一撃を本当に食らったのかさえ疑わせる程のもの、ダメージの一切を感じさせない軽やかな動きでねぎまへと攻撃を仕掛けてきたのだ。
そして運が悪い事にも、ねぎまが苦しそうな表情を浮かべている、どうやら"どく"の追加効果を受けてしまったらしい。
「ッチ、戻れねぎま……ってヤドンさん!?」
仕方無しにクリアがねぎまをボールへと戻した直後、ねぎまに変わって、いつの間に追いついていたのかヤドンさんがメノクラゲへと近づく。
「ヤドンさん何やって……!」
その進撃を止めようとするクリアにヤドンさんは何も言わずに親指を立てて見せた、その行動に何か意味でもあるのかとクリアはひとまずヤドンさんの行動を見守る。
そしてヤドンさんは無言でメノクラゲに近づいた。
見詰め合う二匹、奇妙な緊張感が辺りを包み――数秒後、何故かメノクラゲにも親指を立てて見せるヤドンさん。
今度は口元辺りから"どくばり"を放つメノクラゲ、モロに受けるヤドンさん、そして当たり前の様に毒に犯される。
「本当に何やってんだよヤドンさん……」
呆れながらクリアはヤドンさんをボールに戻し、
(今度はちゃんと俺が指示してやらなきゃダメだなこりゃ)
今回の反省を次回に生かすべくそう考え、視線は再びメノクラゲへ。
「……よぉお前」
少しだけその場に硬直してみるが、メノクラゲがクリアを襲う事は無かった。
その事実を確認したクリアは、一つの確信を持ってメノクラゲに問いかけ――た時だった。
何者かの手によって、ピッピの
一瞬その人形に気を取られ、攻撃を放つメノクラゲ。
そしてその瞬間、クリアはその何者かに腕を捕まれ、草陰へと引っ張り込まれる。
「……いきなり何しやがる」
「なっ、それが助けて貰った恩人に対する返事かよ!?」
クリアを引っ張り込んだのは極一般的な帽子と短パンが特徴的な少年だった。
不機嫌そうに少年に呟いたクリアに、むしろ少年の方が驚いている。
「まぁいいや、俺は"たんぱんこぞう"!」
(…まんまだな)
「お前もあのメノクラゲに襲われていた口だろ?実は俺もなんだよ」
どうやらこの短パン小僧の少年も、先のメノクラゲに襲われたらしい。
それからクリアは大人しく短パン小僧の気がすむままに彼の話を気く事にした、それでクリアに直接的な損害がある訳でも無いのだし、という理由で。
――聞けばあのメノクラゲ、ここらに通りかかるトレーナーに無差別に襲い掛かっているらしく、被害が多発してるらしい。
しかも面倒なのがあのメノクラゲが中々の実力者でしかも成長途中だと言う事――何度か捕獲の為に集団で追い詰めたりもしたらしいが、その度に死線を掻い潜り、あのメノクラゲをただ強くするだけに終わってしまっていた事。
そしてこの短パン小僧の少年はそんな噂を一蹴して、ならば自分が捕まえてやろうと意気込んで来たはいいものの、物の見事に反撃されてやられてしまったらしい。
「ほら、俺のレアコイルを!」
そう言って短パン小僧はもう戦闘不能になってしまったレアコイルを見せた。
タイプ相性では有利なはずだが、何度攻撃を受けても倒れないそのタフさに彼のレアコイルはやられてしまったらしい。
「っな、これであのメノクラゲの恐ろしさが……」
「……まぁそんな事はどうでもいいんだけどさ」
「どうでもっ!?」
レアコイルを見て本当に心から興味無さ気なクリアに、長々と説明したのが馬鹿らしくなる短パン小僧だが、そんな彼にクリアは口元を歪めてから言う。
「……あのメノクラゲ、には興味がある」
「え……ってまさかお前も挑戦するつもりか!? やめとけよ、手持ち全員戦闘不能にされちまうぞ!」
「と、言うとお前もされたのか?」
「当然!」
胸を張って答える所じゃない場面である。
クリアもそんな事を思いツッコミそうにもなるがグッと堪えて、
「……じゃあ、今まであのメノクラゲと戦った奴は全員……」
「あぁそうだ! 全員戦闘不能にされてしまったんだよ!」
「その割には、元気そうで何よりじゃないか」
「……何?」
クリアの言葉の意味が理解出来ない短パン小僧だったが、すぐに腰を上げたクリアに彼は慌てて、
「ちょっと待て! 言っても聞かない様だし何ならこれを持って行けよ!」
「これ?」
「"どくけし"だ、必要だろ?」
「……そうだな、サンキュー」
彼から投げ渡された"どくけし"を持って、クリアは再びメノクラゲの下へ向かう。
そしてすぐにメノクラゲは見つかった、先程と同じ所で何もせずただ突っ立っている。
「よぉメノクラゲ」
そんな彼に、彼は声を掛ける。
ジロリとクリアへと視線を移し、メノクラゲは再びクリアと体ごと向き合った。
「お前を、"捕まえ"に来たぜ!エース!」
短くそう言ってクリアはエースを繰り出す。
身構えるメノクラゲ、色違いのリザード、エースもまた戦闘態勢をとる。
タイプ相性ではむしろ不利、そんな事はクリアも重々承知だが、しかしあえてエースを出した事にはクリアなりの理由があった。
「エース! "ひっかく"!」
エースの爪がメノクラゲへと直撃した。
しかしメノクラゲは怯まない、むしろ"どくばり"による反撃を行ってきた、まさに予想通りである。
「毒? んなもん熱処理で"消毒"してやんよ! "ひのこ"!」
エースの"ひのこ"がメノクラゲの"どくばり"をかき消す。
そしてそのままダイレクトに"ひのこ"を受けるメノクラゲ、しかも――、
「追加効果、"やけど"を負ったな……いい傾向だ畳み掛けろエース!」
更に"ひのこ"を連発するエース、ダメ押しにと"やけど"によるダメージもメノクラゲに負荷をかける。
塵も積もれば山、しかもいくら水タイプと言えどこれだけ攻撃を食らえばダメージも相当なものだろう。
――相当なもののはずだが、"ひのこ"の雨を、やけど状態のままメノクラゲは突き進んで来て、
「マズッ! エース一旦離れ!」
クリアが言い終える前にメノクラゲの"どくばり"がエースに突き刺さる。
同時に"どく"状態となるエース。
そして今度はメノクラゲの方がダメ押しとばかりに、
「"バブルこうせん"……! エース!」
メノクラゲの"バブルこうせん"がエースに直撃した。
タイプは炎に水の攻撃で相性最悪、しかも予想以上にメノクラゲの"バブルこうせん"は威力が高かった。
攻撃力に自信を持つエース程では無いが、少なくとも平均的以上にはこのメノクラゲもそこそこの攻撃の力を持っているらしい。
そのダメージで一気に体力を持っていかれるエースだが、だが倒れない。
むしろ目付きを更に鋭くさせ、ギリギリのとこで踏ん張り、そしてメノクラゲを睨む。
「エース」
そんな彼の様子に、クリアは言う。
「お前がずっと悔しい思いして来たのは俺も知ってる、だからこのバトルに俺はお前を選んだんだぜ」
クリアはさっきの短パン小僧から貰った"どくけし"を使って、ねぎまやヤドンさん、果てはPやVも使っても良かった――だがそこであえて、炎タイプのエースを選んだ。
ここ最近エースに溜まっていた
最初にクリアがエースと会った時、彼は敵だった。
次に四天王のカンナと対決した時、エースには目晦まし程度の役割しか無かった。
野良バトルでは活躍していた彼も、ここ一番の勝負所では実力不足だった――そんな状況を彼は一番嫌っていたのだ。
「俺は何度でもお前に期待するぜエース」
クリアの言葉がエースに届く。
積み重ねてきた経験の種が一気に芽吹いていくのをエースは感じ取る。
「……というかさ、もうそろそろのはずなんだよな、レベル的にも」
一方のクリアにはクリアで確信があった。
エースの進化、翼を手に入れるタイミングはもうそろそろのはずだという確信が。
「お前は俺のチームの"エース"だぜ、そしてエースは期待に答えるものって、昔から決まってるものだろうよなぁエース!」
飾った言葉はエースには不要、必要なのはそのままの言葉。
そのままのクリアの思いを、考えてる事をエースにぶつける。
それでいつも、勝負所でのエースはクリアの思いを汲み取ってくれてきたのだから。
そして直後に、クリアは貰った"どくけし"をエースに使って何の負荷もかかる事が無い状態として、
「行くぜエース"かえんほうしゃ"!」
進化して"リザードン"となったエースの"かえんほうしゃ"がメノクラゲを襲った。
"ひのこ"の時とは段違いの攻撃、圧倒的な力、そしてメノクラゲがよろめくのを確認してクリアは空のモンスターボールを取り出して、迷わずボールをメノクラゲへと放るのだった。
「いやぁまさか本当にあのメノクラゲを捕まえるなんてなぁ!」
別れ道、そこまでは一緒に歩いてきた短パン小僧が別れ際にクリアにそう言った。
クリアもクリアでその言葉には適当に返答しつつ、短パン小僧が完全に歩いていくのを確認してから、
「……さてと、まずは出て来いメノクラゲ」
先程ゲットしたばかりのメノクラゲをボールから出す。
そして出てきたメノクラゲを見てクリアは、
「……やっぱりな、お前まだまだ余力を残してやがったな」
傷つきながらも、その傷だらけの体をしっかりと支える二本の触手を見てクリアは呟く。
そう、このメノクラゲはまだもう少しだけ余力を残していた、進化したエースの攻撃を受けてなお、その体力は尽きていなかったのである。
「しかも、だ……お前はトレーナーのポケモンと戦ってもトレーナーには"指一本"触れなかった、そうだろ?」
答えなんか気にしていない。
今クリアが行ってる事は単なる穴埋め作業、これまで見聞きした情報を改めて整理する為だけの作業だ。
「その傷跡の多さと人間には手を出さなかったってとこからして、大方武者修行的な何かだろ、つーかそれしか考えられないんだけど?」
そう問いかけるクリアに、予想外にメノクラゲは一度だけ触手を縦に振る。
その動作に驚き、クリアは内心湧き上がる嬉しさを自覚しつつ、
「まぁ別に悪い奴じゃ無いんだろうし俺は一向に構わないけど、お前が嫌なら俺はお前を無理に連れて行く事はしない」
その言葉はメノクラゲにとって予想外だったのだろう、それもそうだ、必死になってゲットしたポケモンにそんな言葉をゲットした直後言うトレーナーは中々いないはずだ。
「だけどもしお前が良いなら実は一緒に来て欲しいんだよねこれが……何たって俺が今から戦うのは"四天王"っていうカントー最強のトレーナー軍団なんだから」
"最強"、その単語にメノクラゲがピクリと反応する。
元々生傷作って自らトレーナーに勝負を挑む程に戦いに飢えていたメノクラゲだ、その強さを強者相手に試したいと思っていても何ら不思議は無い。
「だけど俺はお前を……って、もう答えは決まっているか」
言わずもがな、クリアを見上げるメノクラゲの視線は真っ直ぐにクリアを捉えていた。
嫌なら今すぐにでもクリアの下からこのメノクラゲは去っているだろう、それがクリアを見つめたまま動かないという事は――、
「……っま、これからよろしくな……ってニックネームはどうしようかな」
言いかけた所でクリアは考え込む。
これまでクリアのポケモン達のニックネームはほんの五秒程で各自決まってきた。
だから今回も大体五秒程経って、適当にクラゲからとって"フラゲ"とつけそうになるクリアだったが、
「……へ、何でお前身体光ってんの?」
言う直前、メノクラゲの全身が光、巨大化して、そして生傷が勇ましい正に歴戦の勇者とも言えそうなドククラゲにメノクラゲが進化したのだ。
その展開には流石にクリアも驚愕して、
「……へー、さっきまで気づかなかったけどお前隻眼なんだな、カッコイイな……よし、海の悪魔って意味で"レヴィ"にしよう、よろしくなレヴィ!」
カッコイイとか言っておいて悪魔である。
だがその意味をこのドククラゲは正しく理解していないし、"レヴィ"という名も悪くは無い、割と気に入った様子のレヴィだったが――不意にで触手の一本をクリアの腰へと伸ばした。
その触手の先をクリアが目で追うと一個のモンスターボールへとたどり着き、そしてその中身を確認して、
「……まさかお前、せっかく進化したからまたエースと今度は対等に戦いたいなんて言うんじゃないだろうな?」
コクリと頷いたレヴィを、クリアは無言でボールへと戻す。
「はいはいまた今度なレヴィ……今はクチバに急がなきゃいけないんだ」
お前の毒を食らったねぎまとヤドンさんを回復させる為にもな、と呟き足して、そしてクリアは走り出す。
四天王に挑む為の六体のポケモンと共に、イエローがいるという事実を知らないクリアは、こうしてクチバへと急いで向かっていったのである。
もしこの出会いが無ければ、偶然イエローとクリアが出会う事も無かっただろう。
人生何が転機になるかは分からないものだ。
このメノクラゲ、レヴィの様にもしかしたらクリアが知らず知らずのうちに接している人物が、もしかしたら何らかの重要人物だったりするのかもしれない――。
――そして時間は現代へと戻る。
「……結局驕らされる羽目になるのか」
「ブイ!」
というかどう足掻いてもクリアの驕り確定である、Vはポケモンだ。
美味しそうに"いかりまんじゅう"を頬張るVを眺めつつクリアは一度ため息をつく。
Vとクリアは半分ずつに分けられた饅頭を頬張りつつ、帰りの家路についていた。
クリアが饅頭を一個しか買わずに半分ずつに分けている理由は単純、金が無かったのだ。
それというのも、ここ最近はクリアも数ヶ月前まで程至る所を歩き回っていた訳でも無く、収入源も無い為手持ちの財産が乏しかったのである。
「はぁ……そろそろ寒くなって来たな」
吐く息の白さを確認してクリアは空を見上げる。
歩を進める毎に濃くなっていく雪景色を眺めながら、一人と一匹は歩く。
スオウ島でイエロー達と別れたクリアは、その時彼等が呟いた通りジョウト地方へやって来た。
その時の彼の予定では、とりあえず腕試しついでの修行としてジョウトのジム全てを撃破してジョウトのバッジ八つを手に入れた後、カントーへと帰りつもりだったのだが――、
「……よしついた、じゃあ行くぞV」
買い物袋を提げたクリアがVに問いかけVも鳴き声で答えた。
そして彼等は目の前に広がるクレパスの様な地面に横に広く開いた穴、その中へ躊躇無く飛び込む。
一見自殺行為にも思えるその行動、ちょっと前まではクリアもエースやレヴィに手伝って貰ってこの穴を降りたり上ったりしていたが、上がり下りに丁度使えそうな出っ張り部分を壁に見つけてからはこれも修行の一環と、その頃からクリアは身一つでこの危険地帯を行き来していた。
だが今のクリアは――最初こそよく失敗していたが――余裕の表情で跳ねる様に下へと下っていき、Vもクリアにしっかりついてくる。
「寒い! 早く中入ろうV!」
下まで降りたクリアは寒さに身を震わせながら崖下にそびえる、巨大なかまくらの様な建物の中へと入っていく。
入った瞬間、気温は通常程度の過ごしやすいものとなり一先ずの安堵を浮かべるクリア。
そして足元の氷の床を慣れた足取りで滑っていき、すぐに向こう側までたどり着いたクリアだが、そこで何やら金属音の様な音が鳴り響いている事に気づく。
「この音……また氷像作ってんのかあの爺さんは、まぁ売りに行く時はエース達に手伝って貰うとして……」
音が鳴る方へクリアは足を進め、そしてたどり着く。
そしてそこにいたのは小柄で車椅子の様な物に乗った一人の老人だった。
「帰って来たのか、クリア」
作業の手を止め、老人はクリアに向かい言う。
そしてクリアもいつもの様に買ってきた食材等が入った買い物袋を掲げて、
「はい! 弟子一号クリア、ただ今帰還しましたぜい師匠!」
「……だから私は君の師匠にはならないと、いつも言っているのだけどね……」
笑顔でイーブイを連れて買い物から帰って来た"自称弟子"の少年に向かって、いつもの様な小心者な態度で、チョウジジムジムリーダー"ヤナギ"は呟くのだった。
という訳でレヴィとの出会いでした。
まぁ単なるバトル馬鹿と意気投合したってだけの話ですが――。
ラストで驚いて頂ければ作者的にはもうお腹一杯です。
一応伏線としてはカンナ戦の時のカンナの台詞とVのめざパのタイプとか、次回からジョウト編になるのでどういう経緯でこうなったのかは(覚えていれば)書くと思います。
ではでは、マンボーでした。
……というか何で今日はこんなにお気に入り登録件数が急激に上がっているのだろうか(歓喜と困惑の表情で)。
追記:カントー編十四話までのキャラプロフィールを活動報告の方で纏めてみました。