ポケットモンスターCLEAR   作:マンボー

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ジョウト編突入、今回はそのプロローグ的な話です。


ジョウト編
十六話『vsウリムー 始まりは氷の中から』


 

 

「V! "でんこうせっか"!」

 

 クリアの指示の元(イーブイ)の"でんこうせっか"がウリムーへと向かう。

 対するウリムーは"こなゆき"で対抗、襲い掛かる"こなゆき"を、Vは右に左にと左右に揺さぶり避けウリムーとの距離差を一気に詰めていく。

 

「行けぇV、突撃ッ!」

 

 Vが避け、ウリムーの"こなゆき"が氷の(フィールド)に当たって少しずつ冷気の煙が立ち込めていく、そんな中Vは射程距離まで詰め寄ると、軸足に力を入れてジャンプし最後の"こなゆき"をかわした。

 

「……と見せかけて"めざめるパワー"!」

 

 そして"でんこうせっか"を最後まで完遂せず、即座に次の技へと変更する。

 "めざめるパワー"、最大の決め技をVはウリムーへと発射した。

 氷タイプのエネルギー弾は煙の中、ウリムーのいる場所へと真っ直ぐに進み、そして直撃した。

 

「っよし! クリーンヒッ……ってあれ?」

 

 初めてまともに攻撃を食らわせる事が出来た事に歓喜するクリアだったが、煙が晴れていくその場所にはもうウリムーはいなかった。

 消えたウリムー――Vも慌ててその姿を探しており、クリアも消えたウリムーの行方を目を凝らして調べて、

 

「ッ! マズ」

 

 先程までウリムーのいた場所、その場所にポッカリと空いた小さな穴を発見してすぐにクリアは叫ぼうとするが、その声はカァン!という大きな音に遮られた。

 対戦相手――クリアが師匠と呼ぶヤナギが思い切りその手に持つ杖で床を叩いたのだ。

 直後、Vの足元の氷の床に亀裂が入り――下から吹き上がる"ふぶき"にVは戦闘不能に陥るのだった。

 

 

 

「また負けちまった……」

 

 床に空いたウリムーによって空けられた穴を修繕しつつクリアはボソリと呟く。

 先程までの戦いは公式的なジム戦、今日クリアはヤナギにジム戦を申し込んでいたのだ。

 ――と言っても大体一週間に一度程、断るヤナギに何とか頼み込んでそのペースで彼はヤナギに挑み、そしてその度に敗北していた。

 

「……っと大体こんなものか、じゃあ後は頼むよデリバード」

 

 真似事レベルで適当に補強して、クリアは傍に立つデリバードに言った。

 この様な作業ももう手馴れたものなのだろう、デリバードは一度頷き"ふぶき"を撒き散らして床を瞬間的に凍らせた。

 その技のパワーの強さにクリアも最初は驚いたものの、今ではそれも見慣れた光景、クリアはデリバードに礼を言って、

 

「つーかさぁ、お前のご主人本当に強すぎるんだよなぁ、その秘訣を俺に教えてくれるようお前からも頼んでみてくんない?」

 

 ニッと笑って両手を合わせるクリアだが、当のデリバードはそっぽを向いてジムの奥へと帰っていく。

 そんなデリバードにクリアは一度深くため息をついて、自身もデリバードの歩いた方向へと進んでいった。

 

 

 

 そもそもクリアが何故このチョウジジムにいて、そしてヤナギを師匠と呼んでいるのか。

 それは遡る事約一年前、彼がジョウトへと来た当初の事である。

 四天王との決戦、そしてカモネギ(ねぎま)と別れてすぐに、彼はジョウトへとやって来ていた。

 目的は一つ――ジョウト地方全てのバッジを手に入れる事――腕試しと修行がてらにそう目標立てて彼はジョウトの地を踏んだのである。

 当初は遅くて数ヶ月でカントーへと帰る予定だったがその予定はすぐに崩れ去った。

 

 彼が最初に挑んだジム、このチョウジジムでヤナギと出会ったのがそもそもの原因。

 

 ジム戦を挑み、その力の差を大差の敗北で見せ付けられる事によって、クリアの意思は固まった。

 

『……で、弟子にしてくださいっ!』

 

 そう頼み込んだ彼にヤナギは静かにこう答えた。

 

『すみません、他を当たってください』

 

 ――それでも引き下がらず、今はジムに住み込んで、勝手にジムトレーナーを勤めながら今に至る。

 最初こそジムにすら入れてくれなかったヤナギだったが、クリアの必死の説得によって傍に置く事位は了承していた。

 というより恐らくいつまでも帰らないクリアに呆れたのか、体の良いお手伝いさん位に思っての行為なのだろう。

 

 チョウジジムの立地場所は非常に悪い、行き着くまでが過酷過ぎてクリアが来て以降一人も挑戦者が来てない事がそれを裏付けている。

 そんな場所では街への買い物すら一苦労である、それをクリアは引き受けてその他雑務もクリアがこなす様になっていた。

 本人も修行の一環とプラス思考に考えて、その見返りとして最初の一回以外は断られていたジム戦も、週一ペースならと引き受けて貰えている。

 

 そんな毎日を過ごしていたクリアも、何も一年かけてこのジムにいた訳では無い。

 ジムに入れて貰える様になった最初の方、まだジム戦を断られていた時、

 

『そんなにジム戦をして欲しいのならまず、ここ以外の全てのジョウトジムを周って来なさい、私以外のジムバッジ全てを手に入れる事が出来たなら、もう一度ジム戦をしてあげますよ』

 

 その言葉で、クリアは数ヶ月程ジョウトを渡り歩いた時期があった。

 そしてヤナギの言葉通り、どうにか七つのバッジを手にチョウジへと戻ったクリアは――瞬殺された。

 ジムを出た当初より幾分かマシになってた彼の実力を、彼がジムを出た時よりも遥かに強くなってたヤナギに瞬殺されたのである。

 

『本人は臆病者と言うけど、自分を低く見積もる強者程怖いものは無いね』

 

 チョウジジムジムリーダーについて質問して来たとあるトレーナーに対するクリアの回答である。

 年老いた自分に挑んで来る挑戦者が怖いから、だから準備は怠らない、その結果底なしの力を手に入れたのがヤナギである。

 結果挑戦者(クリア)をボコボコにしておいて、いまだこんな事を言うのがヤナギ老人なのだ。

 ちなみに、ヤナギ本人からあまり自分の事は語らないで欲しいとクリアも頼まれている為、クリアに質問して来たトレーナーにはこんな回答位しか答えられなかったのだが。

 

 そんな彼を、クリアは師匠と呼んでいる。

 その圧倒的な実力はクリアにとって理想の近い存在。

 

 四天王ワタル戦で、数々の奇跡が無ければクリアは何も出来なかった。

 ワタルの様な絶対的な実力がある訳でも無く、イエローの様に作戦を立てる事も出来ない。

 

 イエローはグリーンの手ほどきを受けて強くなった、なら自分も誰かに指導して貰えれば強くなれるはずだ。

 

 そう考えた時期にたまたま出会った予想を遥かに上回る実力者、それがヤナギであった、ただそれだけの話なのだ。

 

 

 

「なー、ししょー? いい加減俺にバトルの極意的なアレを教えてさっさと隠居しちまおうぜー?」

「だから何度も言っているだろう、私は弟子はとらないと……」

「その台詞、聞き飽きましたぜししょー?」

 

 ヤナギのラプラス、ヒョウガに乗ってグデーっとだらけた状態のクリアはヤナギにそう提案するも、いつもの様にバッサリとその提案は却下される。

 ヒョウガもヒョウガでクリアを背中に乗せる事に抵抗は無いらしく、クリアの好きな様にさせている。

 

「なー? ししょー!ししょー!」

「……ヒョウガ、クリアを連れて出ていなさい」

「んな!? 師匠!?……ってヒョウガも従わないで! 話はまだ終わっ……ふが!?」

 

 上体起こして反論しようとするクリアに、すかさずデリバードが自身のプレゼント袋をかぶせる。

 突如目の前が真っ暗になり軽く混乱状態に陥るクリアをデリバードが抑えて、ヒョウガが一人と一匹を背中に乗せてヤナギの仕事場から出る。

 そして騒がしすぎる少年が連れ出されるのを確認して、ヤナギは再び仕事に戻る。

 金槌が氷を砕く音だけが部屋に木霊する、時折部屋の外からは、

 

『おいこの野郎デリバード何しやが……あ、何プレゼント? それはどうもありがとう!……って爆発物寄越すんじゃねぇよ!』

 

 なんてまた騒がしい声が聞こえて来るが、ヤナギは耳には入れない様、聞こえない様に作業に集中する。

 彼の膝元のウリムーは転寝し、外ではパウワウ達も混ぜて本格的にクリアとポケモン達が軽くバトっている様子だ。

 

 そんな平和な空間に、一本の通信が入る。

 

 

 

『……という事です……首領』

 

 一旦作業の手を止め、通信に耳を傾け、そしてヤナギは二、三言指令を渡して、

 

『了解しました……新首領……仮面の男(マスク・オブ・アイス)様』

 

 "ロケット団"のシャムという女の言葉を聞いて、チョウジジムジムリーダーヤナギは静かに微笑む。

 クリアが一度も見た事が無い、冷たい笑みを浮かべて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日が経ったある日の事だった。

 

「……オーキド博士?」

ふぁい(はい)ひょっと(ちょっと)用事があいまひて(ありまして)!」

 

 頬一杯におにぎりを溜め込みながらクリアはヤナギに言った。

 珍しく目を薄く開くヤナギに気づかないまま、クリアは口の中の握り飯を飲み込んでから、

 

「実は俺カントーではオーキド博士のとこで世話になってたんですけど、思えばロクにお礼も言わないままここにいるんですよね今……だからちょっと会いに行って来ます」

 

 それはつい最近クリアも知った事だが、大人気ラジオ番組にオーキド博士が担当する番組があり、その収録で度々博士がジョウトへと赴いているというのだ。

 そしてそうと分かればクリアは黙っていない、昨日のうちに支度を済ませたクリアは朝一番、朝食の席で『ちょっとお使い言って来る』的な軽いノリでヤナギにそう切り出したのだ。

 言われたヤナギもいつもならクリアがどうしようが彼の知った事では無い――が今回はタイミングが悪かった。

 

「まぁ一週間あれば戻って来れると思いますし、その時はまたジム戦頼みますね師匠!」

 

 早々に朝食を食べ終え流しに持っていき手早く後片付けするクリア。

 今のクリアにヤナギへの警戒心は皆無、後ろから速攻をかければ難なくやれるだろう。

 

「……道中は気をつける様にな、近頃は"色々"物騒な事だし……それと私の事は」

「それはロケット団事件や四天王事件の事を言ってるんっすかししょー?……それに分かってますよ! いつもの様に師匠の事は誰にも言いませんよ!」

 

 洗い物を終え、クリアはゴーグルをはめ、ボールをセットし、リュックをからってジムの入り口へと向かう。

 

「あ、靴紐解けてる……」

 

 出入り口前でクリアは腰を屈める。

 またと無い絶好の機会、今ここでクリアを止めねば、もしかしたらヤナギの指令の一つが失敗してしまうかもしれない。

 クリアの実力は、一番多く彼と戦ってきたヤナギが一番良く知っている。

 

 ――そしてヤナギの指がボールに触れて、

 

「……っじゃ師匠!」

 

 瞬間、クリアはヤナギの方へ振り向いた。

 

「ちょっくら行って来ます!……ジムに帰って来たらまたジム戦申し込むんで、その時は覚悟してくださいねっ!」

 

 笑顔でそう告げて元気良くジムを飛び出していくクリア、そして彼はいつもの様に自力で崖を登り始めて。

 無言で彼を見つめるヤナギの視線を受けつつ、そしてあっという間に彼の姿はヤナギの目から完全に消えるのだった。

 

 

 

「っふ、まぁいい……邪魔する様なら消してしまえばいい」

 

 クリアの姿がヤナギの視界から消えて少し経ってから、ヤナギはクリアの消えた方向を眺めながらそう呟く。

 チョウジジムジムリーダーヤナギという人物は、氷の仮面を被る。

 躊躇してる暇なんて無い、もうじき長年待ち望んだ大事な時期が来る。

 目的さえ達成出来れば、彼はそれで良かった、それ以外に望むものなんて無い。

 ――望むものなんて、今の彼には"たった一つ"しか無いのだ。

 

 クリアという少年が消えた直後。

 そして仮面の男(マスク・オブ・アイス)、を名乗る老人は行動を再開する。

 

 




最近日刊のランキングに載ってた事に気づいた、もしかしてお気に入り急増の原因ってこれだったのかな。

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