コガネシティ。
ジョウトでも最大の歓楽街にして、夜闇の中でも常に輝くネオンが眩しい街。
街の中にはポケモンジムは勿論、百貨店やゲームセンター等の娯楽施設も充実し、そして今回この街を訪れた少年クリアの目的地でもある"ラジオ塔"もこの街に現存するのだ。
そして、行き交う人の波から少し離れた所、路地裏の様な場所にクリアはいた。
手持ちは
というのもクリアは人混みが好きでは無い、特別嫌いという訳でも無いのだが好んでその中に入ろうとは思わない為、こうして他人の視界に入らない様な所を進んでいるのだ。
――そして、クリアがこの様な道を通る理由はもう一つ。
(ラジオ塔までもう少しって所か、何にしてもさっさと博士に近況報告済まして帰ろう……というよりさっさとこのコガネから出てしまわないと、
そう、クリアにとって出会いたくない人物がこのコガネにはいるのだ。
そのとてつもなく面倒くさい相手に会わない為に、クリアはこうして裏路地を進む。
進んで進んで、ようやっとラジオ塔付近まで来て、クリアは満を持して表通りへ出た。
後はラジオ塔の中に入って、オーキド博士とコンタクトを取るだけ、それだけの簡単なミッション。
――だったのだが、
「……あ」
「え?」
ラジオ塔に入る直前、入り口前で、クリアは一人の女の子と鉢合わせした。
外見はクリアと同年代か少し上程度か、ピンク色の髪に健康そうな印象の女の子。
どうやら彼女もクリアと同じくラジオ塔の中に入るつもりだったらしい、お互いに知らない仲でも無い顔を突き合わせて少しだけ無言の静寂が続きそして、
「あぁぁぁぁぁぁ!?」
「あぁーーー?!」
「って振り向き様に逃げ出すな!」
絶叫だけ残して逃亡するというクリアの作戦は失敗に終わったらしい。
背中を向けて逃げ出そうとするクリアの襟首をしっかりと掴んで、少女は自身の元へクリアを引き寄せる。
「よぉクリアァ~久しぶりやの~? 元気しとったか?」
「ど、どこの極道モンだよ、もう嫌だよ怖いよ関西弁話すなよ……」
「これはコガネ弁や!……じゃなくて! こんなとこで何してるんやクリアこの!」
「喧嘩腰反対! 俺はちょっと知り合いに会いに来ただけなのになんでこんな事に……」
「知り合い? なんやこの"ダイナマイトプリティギャル"に会いにはるばるやって来たんか?」
「誰がお前なんかに会いに来る……むごっ!?」
「なーんか聞こえた気がするけどウチの気の所為やったかな~? ほれクリア、もう一回言うてみ?」
「……ダ、ダイマナイトプリティなんちゃらってギャグなの? まさか本気じゃっッガフ!?」
少女のか細いながらも無駄に力強い腕で首を絞められ、かつ容赦の無い少女の拳がクリアの顔面にヒットした。
――少女の拳である、か弱い少女の拳で、鼻を押さえながらクリアは涙目になる。全く持って情けなし。
目尻に涙を浮かんで鼻を押さえてしゃがみ込むクリアを、少女は見下ろして言った。
「さぁクリア! この際やからこの間の決着、今度こそ白黒つけようやないか!」
ジョウト地方、コガネジムジムリーダーアカネ。
一度クリアに負けた少女はクリアを見下ろしながら、堂々とリベンジマッチの宣戦布告をする。
「いつつ、あんの暴力女めっ……」
ラジオ塔に入って、クリアは今オーキド博士のラジオ番組の終了を待っていた。
今丁度オンエアー中で、その終了が大体後十分ほど、そして、
「そして今あのアカネは自身もラジオ収録中! 勝てる! 俺は奴に
不審な笑みを浮かべるクリアを見る塔内の視線は完全に怪しい人を見る目である。
あれから、ラジオ塔の前でジムリーダーアカネと偶然鉢合わせしたクリアだったが、当の
そして用事を済ませてアカネに捕まるその前にこのコガネを脱出しよう、そう考えていたのだ。
『いいかクリア! ウチの収録が終わるまでこのラジオ塔が出るの禁止やで!』
なんてアカネは言っていたが、クリアはむしろコガネから出る気でいる。
それ程までに、アカネには会いたくないのだ。
というのもそもそもの発端は数ヶ月前、クリアがコガネジムに挑戦した時の事が切欠だった。
アカネとの死闘の末、どうにかクリアは勝つ事が出来た、ここまでは良い。
ジム戦後アカネが泣き出したかと思うと、今度は急に怒りながら再戦を要求されたのだ。
それにはクリアも堪ったものじゃない、誰でもせっかく手に入れたバッジを返したくなんて無いはずだ。
それからはのらりくらりとアカネの追求を逃れてたクリアだったが、コガネにいるとほぼ必ずアカネと顔を合わせてしまう。
『今日こそ決着つけさせてもらうで!』
『っな、また逃げるんかこんのっ!』
『クーリーアー?』
まさにバトルジャンキーだ、こんな中毒症状はいらない。
よほどクリアに負けたのが悔しかったのだろう、それに加えてそれから一度もクリアが再戦をしなかった事も大きかったのかもしれない。
数ヶ月前のジム巡りの際、段々遠慮が無くなっていく彼女の存在から、クリアは予定よりも早くこのコガネシティを脱出していたのだ。
そしてあれから数ヶ月、散々彼女を放置した結果がこれである。
「……む?」
ロビーにて座って待っていると、クリアの視界に一人の男の子が入って来た。
クリアよりも年が下の白い帽子が目立つ男の子だ、キョロキョロとまるで、
「何かを探してるのか?」
「ッ!」
何か探し物をしている風だったので気軽と声を掛けたクリアだったが、男の子は予想に反して、鋭い目付きになってクリアから距離を取った。
「はは、声掛けただけで事案発生って、笑ってられない状況だよな……」
半笑いで肩を落として呟くクリア、その周囲ではやけに警戒心の強い目で彼を見ながらブツブツと呟く声が聞こえて来る。
一方の声を掛けられた男の子の方もクリアに警戒心を抱いてる様子だが、
「……ん?」
項垂れるクリアの足元、そこにいたPの存在に男の子は気づいて、
「えーと、すみません、急に飛び乗ってしまって」
「あぁいいんだ、いいんだよ、悪いのは全部俺なんだよはは……」
Pの懐き様から、別にクリアが怪しい人物では無いと判断して男の子はクリアへと謝罪する。
が、クリアは既に完全にネガティブモードである。
先日ヒワダでロケット団残党を蹴散らしたあの勇ましさは何処にも無い、あるのは先刻女の子に首をキメられ、鼻を殴られたな避けない少年の姿だけだ。
「……で、何か探してる風だったけど、無くし物的な何か?」
「はい、実は僕のポケモンがいなくなってしまってて」
「……あぁはいはい迷子ポケモンね……そうだな、今は暇だし手伝ってやんよ、そのポケモンの特徴は?」
「え、えぇと、ピンク色の……小さな体で大きな耳、それで尻尾が長くて」
「丁度あんな感じのか?」
「え?……あ、はい、あんな感じの……って」
特徴を丁寧に説明する男の子に、クリアは彼の後ろを指差して言った。
そこにいたのは一匹のポケモン、まさしく今の少年の告げた特長に告示したポケモンが、何やらボールの様な物を追い掛け回して遊んでいるのだ。
「こ、
ボール遊びをしていたポケモンをすぐに捕まえて、むっとしながら男の子は言った。
その様子に一旦怯えるピンクのポケモンだったが、すぐに男の子が優しい笑みを作るとピンクのポケモンも途端に安心した様になる。
きっと怒られると思ったのだろう、だけどそのポケモンが無事だった事に男の子もひとまずは安心し、それ以上の叱咤はしない様だ。
そしてコロコロとボールの様な何かは転がり、クリアの足元へ。
それは小さな、中に閃光の様な黄色のエネルギー体が何やら渦巻く球体だった。
クリアがそれを拾い、不思議そうにそのボールを見ていると、男の子がピンクのポケモンを抱いたままクリアの下へと走り寄ってきて、
「あの、ありがとうございます。お陰でCOCOを見つける事が出来ました!」
「いやいや気にすんな、俺もさっきの事は、全然、気にしてないからさっ!」
「そ、それ絶対気にしてますよね?……すいません、何と言うか、お兄さんの目付きが僕の知ってる、というより苦手なポケモンと似てたもので……」
「うん大体分かってるよ、最近は子供と接する事が少なかったから忘れてたけど、俺って実は目付き悪いって事にさ……はぁ」
またしても自嘲気味に笑うクリアに、男の子は苦笑いで返すしか無かった。
それからすぐ、男の子の母親と名乗る人物が男の子を向かえに来た、どうやら男の子の母親が用事でこのラジオ塔に来ていたらしく、彼も母親に連れられて来ていた様だ。
「じゃあお兄さん、COCOの事、本当にありがとうございました」
「良いって事よ別に、所でこのボールみたいな"道具"、お前のじゃ無いのか?」
「いいえ、僕のじゃ無いですね……このラジオ塔の中にあったものなのかな、特に騒がれてる様子も無いし貰っておいて良いんじゃないでしょうか?」
「いやいやそれ犯罪だから……まぁ後で聞いとこう、それと少年」
「はい?」
「"エネコ"は動く物を追う習性があるから、外に連れ出す時はくれぐれも目を離すんじゃないぞ」
「……はい、分かりました」
そして男の子は母親に連れられてラジオ塔を去っていく。
ルビーと名乗る男の子は、そうして帰路についた。
「そう言えばあの人、この地方で
今のジョウト地方にはエネコはいない。
ホウエン地方のポケモンであるエネコを知っているトレーナーは、ジョウト地方やカントー地方にはまだまだ少ないのだ。
このクリアと名乗る少年が、ホウエン所かその他のシンオウ等の地方の事も少なからず頭の中に入っている事を、男の子はまだ知らず。
そして、自身にこれから先起こるであろう出来事も、まだ知らない。
「……さて、オーキド博士はっと……」
「ワシに何か用かの、クリアよ?」
「……どーもオーキド博士、相も変わらずお元気そうで何よりでございますよ」
男の子を見送って、振り向いた先にはオーキド博士。
それも何やらご立腹な様子だ、クリアにも表情おや雰囲気から分かる。
「いやいや、お前さんも随分と元気そうじゃのー」
「は……はは、お、お陰様で」
「だがなクリア……」
そこで一度溜めて、
「いくら元気だからといっても一年も連絡を寄越さんとはどういう事じゃっ!!?」
「うがぁぁぁ!? す、すいませぇぇぇぇぇん!!」
塔内にオーキド博士の怒声が響く。
周囲の人間達も一体何があったものだと、声のする方を見てみるが、
「全く! ワシ一人ならいざ知れず、イエローやレッド達にも連絡を寄越さんとはどういう事じゃ!」
「し、修業的なあれこれを……」
「言い訳無用じゃ! やる分には別に構わんが、そうならそうと連絡の一つでも寄越さんかっ!」
そこにあったのは子供に説教する大人の姿。
まるで悪戯を見つかった子供の様に正座するクリアの姿と、頭上からそのクリアに説教を掛け続けるオーキド博士の姿だった。
そこに特に危険な要素も見当たらず、塔内の人間は皆各々の活動へと戻る。
「はははっ」
「何を笑っておる、まだ話は終わって……」
「いえ、なんだか懐かしいなぁと思いまして」
かれこれ五分は経っただろうか、今だガミガミと説教を続けるオーキド博士だが、気づくと微笑を浮かべていたクリアを睨みつけるが、当のクリア本人は昔を懐かしむ様に、
「俺がどれだけ口が悪くても……いやその事についても怒られてましたけど、だけどそれ以上に、危険な事をした時はいつも以上に……今みたいに怒られましたね」
「……当然じゃ、子供に説教するのは大人の務めじゃからな」
「……そうですね」
それから不意にクリアは立ち上がる。
その動作に、いつもの様に悪態でもついてくるのかと身構えるオーキド博士だったが、
「今までのご無礼すみませんでした、そして」
クリアの口から発せられたのは謝罪の言葉、そして続く様に、
「今まで、ありがとうございました!」
"ポケモン図鑑"と共にお礼の言葉が返って来たのだ。
これには流石のオーキド博士も驚きを隠せない。
時間だけ見ると、この世界でクリアと一番長く付き合いがあるのはオーキド博士だ。
そのオーキド博士からしてみれば、クリアという少年は信頼に値はするがまだまだ子供、目上の人にタメ口で暴言を吐く様な子供というイメージだった。
しかし、今オーキド博士の目の前にいるクリアは頭を下げて、今までの謝罪とお礼の言葉を述べている。
それに加えて、オーキド博士が彼に渡したポケモン図鑑を同時に返却して来ているのだ。
今まで少なからずその図鑑に助けられて来たであろうクリアが。
"今まで"という言葉と共に、もうオーキド博士には頼らないとでも言いたげに。
「……顔を上げろクリア」
その変化に面を食らったまま、オーキド博士は言う。
「子供に説教するのは大人の役目じゃが、大人に頼るのもまた子供の役目じゃ」
「……はい」
「だからその図鑑は取っておけ」
差し出された図鑑を手に取らないまま、オーキド博士はクリアに背中を向けた。
彼も多忙の身である、これ以上この場に留まっていられないのだろう、どこか哀愁漂う背中が少しだけクリアには小さく見えた。
「クリアよ」
「…はい」
「お前さん、少し変わったか?」
「ふ、いいえ、全くそんな事はねーっすよ!」
そして振り向いたオーキド博士の眼に映るのは、頭の後ろで手を組んで笑うクリアの姿だった。
いつか見た、研究所でポケモン達相手の時にだけ笑う無邪気な笑顔で。
「俺はいつでも俺のままだぜ、爺さん!」
それからすぐにオーキド博士はヨシノの第二研究所へと帰っていった。
ジョウトの研究所とカントーの研究所の二つを持つオーキド博士も大変なのだ、せっかくのクリアとの再会だが、それを喜んでいる暇は無い。
――説教する暇は無理矢理作っていたが、それとこれとは別である。
「……よし、後はこのボールの事聞いてそれからアカネの奴から逃げて……」
「へー、誰から逃げるって言うんやクリア?」
「だからアカネだっつってんだろ、あの何故かジムリーダーの! 執着心の強い! 暴力怪力女!……って」
気づくとそこにいるコガネジムジムリーダー。
アカネちゃんは今日もニコニコクリアの傍にいた、ちなみにニコニコは決して嬉しい気持ちから来るものだとは限らない。
「やっほークリア」
「やっほーアカネちゃあぁぁぁぁぁ!」
「ってこらまた逃げるなや!」
再度逃走を試みるが、失敗。
思えばクリアがこの少女から逃げ切れたのは一度だけ、数ヶ月前のコガネからの脱出の時のみである。
「でぇ~? クリアはウチの事、そんな風に思っとったんやなー?」
「じ、事実を端的に言ったまでぇぇ!?」
最後まで言い終える前に、クリアの襟元を掴む手とは反対の手でクリアの口元に手をやるアカネ。
顔を鷲づかみしてクリアの顔が今とんでも無く面白い事になっているが、そんな事等全く気にせずクリアを拘束したまま、アカネは早足でどこかへと向かう。
「っふが!? っふがが!?」
勿論何の説明も無し、用事を済ませてさっさと帰ろうとしていたクリアが反論しようするが、上手く言葉が発せられない。
そしてとある一室の前について、アカネは問答無用と言わんばかりにその部屋にクリアを投げ入れた。
大きな音を立てて部屋へと転がり入るクリア、その部屋の中にいたドーブルを連れた女性が驚愕の表情を浮かべている。
それからアカネも部屋へと入って、扉を閉めてから、
「いっつー!……ってぇ、何しやがんだこの、アカネェ!」
すぐさま大声でアカネへの怒りを露にするクリア。
当然だろう、何の説明も無しに訳の分からない部屋に突然投げ入れられたのだ、誰だって怒る。
「あ、あのう大丈夫ですか…?」
ドーブルと共に先に部屋にいた女性が盛大に転がったクリアの身の心配してそう声を掛けるが、
「なんや? 文句あるんかクリア?」
「ったり前だ! こいつめ、こっちが大人しくしてたらっ!」
「ほう、いいでいいで、ウチはいつでも喧嘩は大歓迎や、だったら今からウチのジムにでも……」
「ハッ!?……ってまさかお前、そういう方向に話持ってく為にわざと!?」
「さぁ、何の事かウチには分からんな~? そんな事より、決着つけたるでクリア!」
「だが断る、全力で断る! 誰がお前なんかと勝負してやるもんか!」
「んな!? なんでや! 今のはアンタから仕掛けてきたバトルやろ!」
「っか! 知らないなぁ知らねぇよ! そんな証拠がどこにあるって」
「これ、ラジオやで?」
白熱する口合戦だったが、そこで一瞬空気が変わった。
アカネの何気無い一言、その一言にクリアは氷の様に固まった。
「……え、いや、え?……何、もっかい言うてみ?」
「なんでコガネ弁になるんや! じゃなくて、これラジオやで? 生放送の?」
そのアカネの言葉を聞いて、クリアはドタバタと部屋の扉へと近づき開け放ち、そしてその扉の上部へと視線を移し――そこに描かれた『ON AIR』の文字とバックの照明に注目する。
それから少しだけ時間を置いて、無言で扉を閉めて、今更気づいた部屋の中のマイクの様な物を指差して、
「……ON AIR?」
「オンエアー、しかも生放送やで!」
引きつった笑顔で尋ねるクリアに、アカネは満面の笑顔でそう返した。
そしてアカネのその行動に、ちょっと面白い奴がいるから出演するか聞いてくるわ~、と言われて了承したクルミはドーブルと共にその場のカオスに対応出来ず、成行きを見守るばかりである。
そして再び、生放送での少年少女の喧嘩ラジオが再開する。
「……」
一方その頃カントー地方のトキワジムではレッドのジムリーダー試験が行われていた。
レッドが長年夢見てきたジムリーダーの認定試験、その場には多くの民間人やポケモン協会理事長等の著名人、そしてグリーンの姉ナナミやイエローも見学兼応援に来ていた。
そしてレッドの試験結果は合格――だが四天王戦での後遺症から自ら辞退したレッド。
そんな中、突如野生ポケモン達の襲来という事件が起こるが、それに対処したのはいつの間にか戻って来てたグリーンだった。
野生ポケモン達の対処に、原因となったラジオ放送の特定、それに加えて前回ポケモンリーグ準優勝者等の肩書きからグリーンのトキワジムジムリーダーはほぼ確定的になっていた。
そして皆がようやく安心して、トキワ出身のイエローもトキワジムに再びジムリーダーが戻って来た事に安心していた時だった。
「ふぅ、じゃあとりあえずこの"ポケモンマーチ"は変えとこうか」
ラジオから流れ出る音楽を、これ以上野生ポケモンが活発化して街に来ない様に、ポケモン協会の人間の一人がチャンネルを回して変える。
適当に変えられたラジオは、変えられた通りの電波を受信して、
『……いっつー!』
まず最初に聞こえて来たのは少年の声だった。
どうやら電波は遠路はるばるジョウトから届いているものらしい、これは現在、ジョウトにて人気配信中の生放送番組である。
それは人気アイドルのクルミちゃんや、コガネジムジムリーダーのアカネちゃんがパーソナリティをつとめてる事でも有名で――だけどこの時この瞬間に特別ゲストが来ていた事をこの場にいた誰も知らない。
『てぇ、何しやがんだこの、アカネェ!』
ラジオから垂れ流されるのは完全に放送事故レベルの少年と少女の喧嘩の様子だった。
だがどこかおかしく繰り広げられるその口論に、思わずその場にいた全員が聞き入って笑いを浮かべている。
――そんな中数人、レッドとグリーンとナナミ、そしてイエローのみがその放送に周囲の人間達とはまた別の理由で耳を傾けていた。
『だから勝負や勝負! ウチが勝ったらそのレギュラーバッジは返してもらうで!』
『どーしてそーなるの!? これ俺がお前に勝った証として貰ったバッジじゃん! そんなに負けたのが悔しかったの? そんなに負けたのが悔しかったの!?』
『あぁーもう二回も言うなや! それにウチは負けてへん! あの時は……そう、調子が悪かっただけや!』
『はぁ、出たよ言い訳……』
『言い訳ちゃう! というかそもそもクリアの戦い方は卑怯過ぎるんや! なんや"どく"て!? "バリアー"なんて張って腹立たしいわー!』
『それを言うならアカネのミルタンクだってチート過ぎんだよ! いい加減倒れろよ! "メロメロ"なんて使うんじゃねぇよ! また俺にトラウマ再発させるつもりかこの野郎!』
『いい加減倒れろって……それはクリアの
コガネのジムリーダーとギャアギャアと言い合う様子に、固まったまま声が出ない四人。
今まで行方不明だった人物が、イエローに至ってはここ最近本気で心配していた人物が、突然ラジオの中から「こんにちわ」なのだ。
固まるのも無理は無い。
「えーと、イエロー?」
「……」
「イエロー……?」
レッドとナナミは恐る恐るイエローに尋ね、グリーンも僅かながら気になるのか視線と聞き耳はイエローへと集中する。
「クリアが……」
必死に言葉を搾り出すイエロー、それを見つめるレッドとグリーンとナナミ。
今まで消息不明だったクリアが見つかった、そしてこの放送はコガネからリアルタイムで送られている。
その事実に三人はイエローの反応をいくつか予想してみる。
(イエローの事だから、とりあえずクリアの無事を安心してホッとするだろうだなぁ)
(……いつかの様に泣き出しそうだな)
(きっと彼が見つかって大喜びするでしょうねぇ)
ワナワナと震えながら、心配そうに見つめる三人の視線の中でイエローは言葉を振り絞る。
「クリアが女の人と楽しそうにラジオしてる……!」
その反応は割と乙女なものの様だ。
ただしその反応には怒りが見え隠れしている。
その事には三人は気づいたが、この事については一年も連絡を寄越さなかったクリアの完全な自業自得である。
「レッドさん、ピカは貸してくれるんですよね?」
「え? あ、あぁ……うん、イエローに任せようと思ってるけど、嫌か?」
「いえ、ちょっとボクジョウトに行く用事があるので、丁度良いです」
(何がどう丁度良いんだろう!?)
それからいつもと変わらない様子のイエローだが、その変化の無い笑顔はむしろ事情を知っている者に一種の恐怖を与えてくる。
ピカと自分の
イエローイエローうわあぁぁぁぁぁ!(歓喜)
――っといけないいけない、このままじゃ某コピペを叫んでしまう所だった。
という事で、アカネちゃんも可愛いよね!
なんか若干暴力的になってるけど作者はアカネちゃん大好きですので多分こうなりました、クリアの態度にも問題はありますし、仕方無いと思うのです。
そして今回の話ではようやく博士に謝ったり、ルビーが登場したり、ドーブル関係無かったりしましたが……やっとイエロー出せたよイエローうわあぁぁぁ(自主規制)