ポケットモンスターCLEAR   作:マンボー

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三十話『vsキレイハナ 祭りは第二幕へと移行する』

 

 

(……絶対、止めてやる…!)

 

 心の中で意を決して呟き、クリアは再び熱狂、陰謀が渦巻く舞台への扉を開く。

 

 

 第十回セキエイ高原ポケモンリーグ、その開幕イベント――ジムリーダー対抗戦。

 カントーとジョウトきっての実力者達、ジムリーダー達が凌ぎを削るそのイベントの本来の目的、それはジムリーダー達の中に混じる巨悪"仮面の男"を見つけ出す事にあった。

 その事実をシルバーから聞かされたクリアは、一時はその衝撃に苦悩したものの、何とか迷いを断ち切る事に成功する。

 今までとは違う、本気で仮面の男を止める為の意思、決意。

 もしかしたら彼が良好な関係を築いたジムリーダーの中の一人が宿敵かもしれない、ならばその敵を、友人だからこそ止めなければならない。

 そして何より他の無関係な人達を巻き込まない様に、彼の親友(イエロー)を守る為にも、クリアは今一度メイン闘技場へと戻って来たのだ。

 

 

「お、遅かったやないかクリア」

「……アカネか、もう涙は引っ込んだのか?」

「な、なんや、もうウチ泣いて……っていうか元から泣いてへんし!」

「…くくっ、嘘付け号泣だった癖に」

「なんやとー!」

 

 ジムリーダー席へと戻った彼を最初に出迎えたのは、やはりといった所かアカネだった。

 もう完全にいつもの調子を取り戻した様子のアカネに、クリアはどこか哀愁漂う微笑を浮かべながら返答し席へと座る。

 そしてそんな彼を出迎える様に彼の隣に座るミカンが、

 

「でも本当に遅かったですね……知り合いの方というのは、そんなにも話しこむ様な相手だったのかしら?」

「あぁそう言えば会って無かったな……まぁいいか」

「?……それではどちらに?」

「……ちょっとな」

 

 思えばクリアは知り合い、観客席にゴールドとクリスの姿を見つけ彼等に会いに行くと言って、その場を離れていた。

 そのはずなのに、暫く時間を置いて戻って来たクリアはその知人達には会わなかったと言った――なら席を離れていた間何をしていたか、考えるのもその事について問うのも自然な流れだ。

 勿論ミカンもちょっとした好奇心でそうクリアに聞いたのだが、返って来た答えは酷く曖昧なもの、それに加えて少しだけ含みのある表情を見せたクリアの変化に気づかないミカンでは無い。

 席を立つ前と、戻って来た後では確実に様子が違っていたのだ、そしてそれに気づいたのはミカンだけで無く、

 

「……クリア? なんかあったんか?」

「……別に、何もないさ、そんな事よりサンキューアカネ、ビデオ回しててくれて」

「へ? そ、それ位別に何ともあらへんけど……」

 

 どこか影のあるクリアの表情、ミカンとアカネに続く様に座席に座る各ジョウトジムリーダー達も次第とその様子の変化に気づいていく――が、二人の少女が尋ねて答えなかったのだ、ならばクリアが他の誰かに"変化の理由"を話すという事は無いだろう。

 人間誰しも、話したくない事の一つや二つはあるものだ。それを理解して、誰も彼もが口を噤み、皆目の前の試合に集中する。

 今は第五試合目の真っ最中、ヤマブキジムのナツメ対ヒワダジムのツクシのバトル。タイプ相性で有利なツクシのストライク、続くヘラクロスがナツメのバリヤードを着実に追い詰めていく。

 先の第四試合、クチバジムマチス対エンジュジムマツバの対決は、一見マチスの勝利に見えていたが、最後の最後にマツバが一糸報いる形で引き分けに終わっていた。

 従って現在の試合経過は二勝一敗一分けとジョウトの一歩リードといった状況――そんな形で迎えた今回の第五戦、傍から見ればタイプ相性で分が悪いナツメの敗北が濃厚かと思われていたのだが、

 

「っ……上下左右前後に何かが、僕はまさか……見えない部屋の中にいるのか!?」

「フッ、正解だ。バリヤードの指から放たれる波動、一見パントマイムの様な動きで見えない壁を作り出す……よって今この場には私にしか分からない"見えない家"が出来上がっている……お前のいる部屋にもちゃんと出口はあるぞ、探してみるといい」

 

 追い詰められる"フリ"をしながらバリヤードが作り上げた一戸建ての家、上下二つの部屋に階段と廊下からなるシンプルな構造の家だが、その広さと構造はナツメにしか分からない。

 

「っく、ヘラクロス"とっしん"で家を叩き壊……」

「"アンコール"……!」

 

 ツクシを見下ろす様に"二階"に立つナツメと、それを"一階"から見上げるツクシ。

 その実力の優劣を表現した様な光景の通りに、ツクシに対抗する術は無かった。

 唯一の策として、"とっしん"で無理矢理家を叩き壊そうとしたツクシだったが、それを見越したナツメの"アンコール"で攻撃技を封じられたのだ。

 

「さぁ終わりにしよう! "サイケこうせん"!」

 

 唖然とするツクシの耳にナツメの声が木霊して、そしてそれがその試合最後の言葉となった。

 バリヤードから放たれた"サイケこうせん"は彼女がいる"二階"から廊下を渡り階段を下りて一階に到達して、そのまま一階にいるヘラクロスへと直撃する。

 かつては図鑑所有者達、そして四天王との戦闘経験もあるナツメだ、そんな彼女のポケモンであるバリヤードの攻撃が絶大なものであるという事は言うまでも無い事。

 その一撃によって横転したヘラクロスの様子に、司会を務めるクルミの声が会場内に響き渡った。

 

『ヘラクロス戦闘不能! よって勝者、カントーヤマブキジムのナツメさんです!』

 

 

 

 第五試合はナツメの活躍によりカントー側の勝利に終わった。

 これで試合は互いに二勝二敗一分け、試合は振り出しに戻り続く第六試合は――、

 

『さぁいよいよ第六試合、タンバジムリーダーシジマさん対トキワジムリーダーグリーンさんの対決です!……手元の資料によればグリーンさんはかつてシジマさんの下でトレーナー修行をしていたそうで、いわばこれは師弟対決! 注目の一戦です!』

 

 師弟対決、シジマ対グリーン。少しだけ遅れて闘技場に姿を現したグリーンは、手短に謝罪の言葉を述べてから試合へと入る。

 まず始めにカイリキーを出すシジマに対して、グリーンは全ての手持ちをさらけ出し、そこからサイドンを繰り出して戦い始めるグリーン。

 カイリキーとサイドン、力と力のぶつかり合い、師弟対決という事もあって会場の興奮がまたも湧き上がるが、そんな会場内の空気とは逆に、クリアは静かに試合を見つめる。

 

(どないしたんやろクリア、戻ってから目に見えて口数も減ってるし……)

 

 そんな彼の態度の変化に僅かな不安を垣間見せて、すぐにアカネはブンブンと頭を雑に振るう。

 

(……というか、な、なんでウチがクリアの事でこんな悩まなきゃならないんや! それもこれも……!)

 

 雑念を振り切ってから、アカネは実況席のクルミへとガンを飛ばす。

 常普段からアカネをおちょくる口実に、クルミはクリアを引き合いに出していた。だから絶対にその影響だと、そうに――それだけの所為に決まっているとアカネは自分に言い聞かせてから、クルミへと視線を送る。

 瞬間、ビクリと肩を震わせるクルミ、尤も彼女にその原因を特定する術は無い為、不思議そうな顔をして再度実況を続けていた。

 

 

(師弟……ね)

 

 一方クリアは、グリーンとシジマの試合を眺めながら、その姿を自分とヤナギの関係に照らし合わせる。

 何も語らず、ただ拳で語るが目の前の子弟達、打って変わってクリアとヤナギは――試合、こそ公式的なジム戦という事で週一程のペースでやっていたが、それは目の前の試合とは似て非なるものだった。

 全力を出し合うシジマとグリーンに対して、クリアとヤナギの勝負はまるで赤子の手でも捻るかの様に、突っかかってくるクリアを毎回ヤナギが一蹴する、それをただ繰り返していただけ。

 今行われている様な気持ちのぶつけ合いとは全く違う、ただ一方的なクリアからの一方通行だった。

 尤もクリアにその実力が無いから、ヤナギに見合う実力をクリアが持っていないだけ、という見方も出来るが、それにしたってヤナギから何かを伝えようという意思は無い。

 

 ――だがそれも思えば当然だった。何故ならクリアとヤナギは師弟では無いから。

 一方的にヤナギを師匠と呼ぶクリアに対し、ヤナギはいつもそれを否定していた、そんな二人に"師弟"なんて言葉が見合うとは到底思えない――。

 

 

 

「いけえぇぇ! "つのドリル"!」

 

 激戦となったシジマとグリーンの戦いにも終わりが近づいていた。

 カイリキーからサワムラー、そしてカポエラーへとポケモンを交代したシジマは、回転するカポエラーのその頭の"突起"を武器とした攻撃を頭上からサイドンへと放つ。

 それに対しグリーンは、危険を承知でサイドンの背へと乗って、カポエラーの動作を感じ取りそして、サイドンへと技の命令を下した。

 回転するドリルとドリル、相反する二つのドリルがぶつかって威力を相殺し合った所で、更に回転力を増したサイドンの"つのドリル"がカポエラーを捉えて――、

 

『勝者! グリーンさん!』

 

 場内アナウンスの掛け声によって、カントー側の勝利が確定する。

 

 

 

 第六試合が終わって、次の試合はカツラとイブキによる第七試合だ。

 だがカントー側の長椅子にカツラの姿は見えない、運営スタッフ数名が慌てながら駆けているのが分かる。

 

(仮面の男はジムリーダー、今この場にいる全員が容疑者……それは、当然師匠もその中の一人だという事……)

 

 眼前で固く握手を交わすグリーンとシジマ。その光景に目を奪われながらクリアは呆然と思う。

 彼がジムにいる間、ヤナギに目立っておかしな行動は無かった。それはこの一年の間ずっと見てきたクリアだから言える事。

 ――だがそれは反対に、クリアの眼が届かない範囲ではヤナギが何をしていたか分からないと言ってる様なものだ。

 クリアだって年がら年中ずっとジムの中にいた訳では無い、ジムを巡ってジョウトを旅した事もあったし、買い物等の外出は彼の担当だった。

 それに加えて、クリア自身もチョウジジムの内装全てを理解しているとは考えていない。もしかしたらクリアの知らない部屋があって、夜な夜なクリアが寝静まった時に、そこから何かしらの指令を飛ばしていたのかもしれない。

 尤もそれも、唯のクリアの憶測に過ぎない訳だが、可能性が無いとも言い切れない。

 

 だがそれでも、クリアは彼の師匠を信じていた。

 シルバーの言葉から疑いの目は今もヤナギにも向いているも、心の底では完全に疑いきれずにいたのだ。

 

『えー、ただ今カツラさんの体調が思わしく無いとの事で、急遽試合順を変更したいと思います! 第七試合は主将対決、タマムシジムエリカさん、チョウジジムヤナギさん、闘技場へどうぞ!』

 

 いきなりの試合変更、その決定に少しだけ会場はざわめくも、すぐにそのざわめきは各地方の応援の声へと変わる。

 何たって次の試合は主将戦、カントーとジョウトの名目上はそれぞれの地方最強ジムリーダー対決となるのだ、熱が上がるのも仕方無い。

 

「……師匠」

 

 予定より早い出番となるがその様子には微塵も緊張の様子も驚愕の様子も無い。

 あるのはいつも通りの落ち着いた態度、少しだけ臆病そうな表情、チョウジジムジムリーダーヤナギ。闘技場へと赴く彼をクリアは一声掛けて呼び止めた。

 一瞬にして、ジョウト側のジムリーダー席の空気が変わる。

 戻って来てから違和感だらけだったクリア、そんな彼が久しぶりに言葉を発した、彼が師と崇める相手の試合前に彼に向けて――そこに何かしらの意味があるという事が嫌でも分かったのだろう、全員黙って彼等二人の様子を見つめる。

 

「師匠は……っ」

 

 そして意を決した様に、言葉を吐き掛けて躊躇い俯き、だが再度顔を上げてクリアは言う。

 

 

「っ……師匠は、"仮面の男(マスク・ド・アイス)"ですか……?」

 

 

 妙な言い回しはいらなかった。変に遠まわしに伝えるつもりも無かった。

 その答えに真実が返ってくるとは到底思えない、この状況で"真実"を彼が言う必要は微塵も無いのだから。

 だがクリアはあえて、ぶつける様にストレートにヤナギへとそう質問した。

 そうしなければ、黙ったまま考えた所で様々な憶測に潰されてしまいそうな、そんな気がしたのだ。

 

「……なんだろうかクリア、その"ますくどあいす"というものは?」

「……いえ何でも、勝ってくださいね……師匠!」

 

 返って来た返答にクリアは笑みを浮かべて返事をする。

 何故クリアがそんな質問をしたのか、そもそも彼の質問した"仮面の男"とは何なのか、少しだけ事情を知るマツバ以外の面々は皆頭にクエスチョンマークを浮かべて。

 

 またヤナギも"真実"を包み隠したまま、クリアの声援を受けながら闘技場へと向かう。

 

 そもそもそんな質問自体が無意味だったのだが、それでクリアの気分は大分晴れていた。

 先程までの濁った様な心情を拭い捨てて、真っ直ぐな目で彼は対峙するヤナギとエリカを見つめる。

 どちらもクリアからしてみれば"仮面の男"だなんて思えない、思いたくない人物達だが、それでもクリアは彼等の行動に逐一気を配った。

 過去一度だけ対峙した時の様な、"仮面の男"に重なる様な動きの特徴は無いか、スッキリとした頭で思考する。

 

 今までのバトルも振り返って、"アリアドス"という共通点からセキチクの新ジムリーダーアンズにも注意を払ってみたりもしたが、しかしやはりその正体は掴めない。

 

『では、主将戦! チョウジジムヤナギさん対タマムシジムエリカさん、試合開始!』

 

 クリアがそんな思案を巡らせてる間にも、"時間(とき)"は止まる事無く戻る事無く進み続ける。

 主将戦ヤナギ対エリカ、ヤナギが繰り出すはいつもクリア相手に使うウリムー、対するエリカはキレイハナだ。

 普段日頃からクリア相手にヤナギはウリムーかデリバードのどちらかを使っていた、ラプラス(ヒョウガ)や二体のパウワウの様に他にもポケモンは数体いるのだが、その中でもこの二匹は別格の強さを誇っていたのだ。

 永久に溶ける事の無い氷の使い手、ついた二つ名は"永久氷壁"、それが最年長ジムリーダーにして、チョウジジムリーダーヤナギだ。

 

「ふふっ、休ませませんわ!……ポポッコ、"しびれごな"!」

 

 そのヤナギに対しエリカは攻勢を保っていた。

 キレイハナの"はなびらのまい"をウリムーの"花の香りに反応し走り出してしまう"という性質すらも利用し直撃させ、かつ瞬時にポポッコにポケモンを変えて"しびれごな"をウリムーに浴びせてくる。

 しかしヤナギが、彼のウリムーがそれだけで倒される様なトレーナーとポケモンだったなら、それこそクリアがこの一年の間に撃破していたはずだ。

 ヤナギがその手に持った杖で二、三度、地面を叩くとウリムーはすかさず我に返り走り出し、"こなゆき"をポポッコに対し繰り出した。

 ――だがその"こなゆき"はその大半が先程のキレイハナが残した"はなびらのまい"、その花びらのシールドによって防がれ――が、その一欠片、"こなゆき"の一粒がポポッコへと直撃した瞬間、瞬時にその体力を根こそぎ奪った。

 

「……"こうごうせい"!」

 

 タイプ相性的にも "草"と"氷"でポポッコは不利、それを差し引いても、先程の"こなゆき"の威力の強さは尋常じゃ無いと言えるだろう。

 それがヤナギで、それがヤナギのポケモンだ。一年かけてクリアがとうとう手にする事は無かった"アイスバッジ"を持つ実質ジョウト最強のジムリーダー。

 だがエリカもカントー側の主将を任されるジムリーダーだ、対策としてとっておいた"こうごうせい"ですぐ様体力の回復につとめる。

 

 "はなびらのまい"と"こうごうせい"による、防御と回復を同時に行い持久戦へと持ち込む作戦、それがエリカが立てた氷タイプのヤナギ対策だった。

 ヤナギの氷攻撃を"はなびらのまい"で受け、すり抜けてきた攻撃は"こうごうせい"で瞬時回復し、防御の合間からウリムーに攻撃する。

 確かに氷タイプのウリムーと草タイプのポポッコではウリムーの方が有利だ、しかし逆にポポッコは草タイプの攻撃が行える。

 そしてウリムーは氷タイプであると同時に草タイプの攻撃が有効な地面タイプ、技での相性だけなら実は二体のポケモンは五分同士だったのである。

 だからこそ、エリカは勝利すら確信――していたのだが、そんな彼女の希望を打ち崩す様に、彼女のポケモンが出した"はなびらのまい"が凍りつき、音を立てて崩れ行く。

 

「そんなっ!?……ポポッコ!!」

 

 悲痛な叫びを上げるエリカの眼前で、頭の花びらを凍らされたポポッコが力無く地面に倒れる。

 先のウリムーによる"こなゆき"は、ポポッコへの攻撃を意図したものでは無かった、それがこの勝負の分かれ目となった原因だ。

 最初から"一枚一枚の花びら"目掛けて撃たれていた"こなゆき"で、回転する"はなびらのまい"を冷風扇代わりとした時点でヤナギの勝利は確定していたのだ。

 持久戦に持ち込めば勝てる、そう判断していたエリカの最大の間違いは――持久戦に持ち込んでも負ける、一重にその点にあったのだ。

 

 

 

 これで残すところは第七戦、カツラ対イブキの試合だけとなった。

 体調不良という事で対抗戦中、終始退席していたカツラだったが、ようやく彼も体調万全となり帰って来る。

 スタッフ関係者用ゲートから身を現したカツラを見て、いよいよ長い様で短かった対抗戦も終わりを告げている事をその場にいた誰もが理解した。

 まだまだ見ていたかったであろう会場内の人々の顔に若干の寂しさが見える、だが泣いても笑っても、これが最後の試合だ。

 炎タイプのエキスパート、過去四天王相手にも戦った事のあるカツラと、その四天王"ワタル"と兄妹弟子であり従妹でもあるドラゴンタイプのエキスパートであるイブキ。かつてクリアが一戦交えた際、彼もイブキからワタルに関する情報を色々と聞かれたものである。

 そんな二人の実力者同士の対決、"祭り"の最後はド派手な花火と相場は決まっているものだ。

 

 カントー対ジョウト、いよいよ大詰めのジムリーダー対抗戦、その最終決戦の火蓋が切られようとした――その時だった。

 

 

『聞こえるかあぁぁ! 凡人共ォォォ!!』

 

 

 突如会場メインモニターにゴールドの顔がアップで映し出される。

 それは勿論予定されていた大会進行とは大きく外れたもので、何事かと周囲はざわめき、運営スタッフはメインコントロールルームへと駆け出していく。

 

 ――だがしかし、この時既に開幕への警鐘は鳴らされていた。

 

『いいか! この会場内にロケット団残党が進入したッス! 俺の活躍で最悪の事態は回避したッスが、コントロールルームのプログラム工作でリニアの安全装置が破壊されてしまったらしい!! 事故が起きるかもしれねぇから……全員、ガー……早く逃げて……ピーガガ!』

 

 最後の方はノイズ交じりになり、プツンと瞬間的に画面が途切れる。

 このゴールドの警告は本物だった、会場内の観客、リーグ出場選手達は口々に話し合い、何が起きているのかを確かめようとしていて、ジムリーダー達も同様の反応を示しているが、

 

「……仮面の男、ロケット団残党、リニア……だけど、それと"時間"にどんな関係が……」

 

 そんな状況下でクリアは冷静に状況を分析する。

 今のゴールドの警告を真実だとクリアは受け取って、ならばこの行動の意味が何を意味するのかを考える。

 三年前に壊滅したロケット団、その残党達を集めロケット団の新首領となったのが"仮面の男"だ。

 そしてその仮面の男の目的が"時間(とき)"だとシルバーは言っていた、ならば真っ先に考え付くのはジョウト地方"ウバメの森"の祠に伝わる幻のポケモン。

 だが今のこの状況は、そのポケモンとはかけ離れすぎている、一体仮面の男は何が目的でこの会場にロケット団残党を送り込んだのか――考えてみるが、その先が分からず、ひとまず人々の安全を最優先した方がいいだろう、と結論出してクリアは口を開きかける。

 

 

 その時だった。クリアが口を開く前に、代わってメイン闘技場が二つに開いたのだ。

 それは最初、ジムリーダー達が会場入りに使った線路を出現させる為の作動、そしてジムリーダー達は"リニア"によって会場入りを果たしている。

 これらの要素が意味するものそれは――、

 

「っ……P!」

 

 瞬間、二つに分かれたメイン闘技場にリニアが到着する。

 それを視界に捉えた瞬間、クリアは誰よりも早くそのリニアへと向かい、自身の(ピカチュウ)を外に出して、

 

「"10まんボルト"!」

 

 開かれた一つの扉の先、そこにいた大量のロケット団残党目掛けて電撃を放ち、直ぐ様リニアへと飛び乗った。

 その中はクリアの思った通り、所狭しとロケット団残党達がいて、皆戦闘準備は既に終えている様で、一人のロケット団残党がクリアに襲いかかろうとする――が、

 

「ミルたん"ころがる"っ!」

 

 それを防いだのはアカネのミルタンクだった。

 外から転がってきたミルタンクとそれに続くアカネ、更には他のジムリーダー達も全員リニアへと駆け寄り外から中へロケット団残党達を押し返している。

 その様は果敢で勇ましく、絶大な安心感を与えるものだったが、すぐにクリアは気づいた。

 リニアの中に、少なくとも自分の見える範囲で仮面の男がいない事に。

 

「クリア! アンタまさかこいつらが来る事分かってたんやないやろうな!?」

「んな訳あるか!……クソッ、まさかこのリニアの目的は……!」

 

 気づいた頃にはもう遅かった。

 ロケット団残党の波を掻き分けクリアが外へと出ようとした瞬間、無情にもリニアの扉は音を立てて閉じる。

 そして動き出すリニア、列車はカントーとジョウト、両ジムリーダーとクリアを乗せて、見る見るリーグ会場から離れていく。

 両地方屈指の実力者達を乗せて、その実力者達を会場から離すという役割をきっちりと果たして――。

 

 

 

 そして会場では――、

 

『……紹介しよう、我が僕達"いと高き空虹色の翼"ホウオウ! "いと深き海銀色の翼"ルギア!……では、ここからは"祭り"の第二幕の開幕といこうか!』

 

 ゴールドとクリスの前に、二つの巨大な翼が舞い降りていた。

 かつてクリアを救った虹色の翼と、かつてクリアが戦った銀色の翼。

 

 そして今、その二匹の伝説を従えた男、"仮面の男"との最終決戦が今正に始まろうとしていたのである――。

 

 




ま、毎日投稿完了…(震え声)

ようやく最終決戦です。
ちなみにゴールドの通信後、ホウオウの映像が流れなかったのはゴールド達と戦ったシャムとカーツにその映像は絶対流さない様にヤナギが言ってたからです。
もし万が一にもデリバードをクリアに見られたら正体バレするかもしれないですからね。

※5/8追記:誤字訂正、突貫工事の欠陥がモロに出てる……"半分"なんてタイプしたつもり無かったのに……。

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