ポケットモンスターCLEAR   作:マンボー

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四十一話『vsキャモメ 一つの約束、すれ違う表裏』

 

 

『……この度はご乗船真にありがとうございました。当船は予定通り、ホウエン地方カイナシティ港に間も無く到着致します、荷物等のお忘れ物が無い様に……』

 

 薄ら眼を少しずつ開きながら、天井高い豪華な作りの客室の中でクリアは目を覚ました。

 まだ静かに寝息を立てるVの分は残して、弾力が有り過ぎる羽毛布団を押しのけて彼はベッドから降り、流れるアナウンスを目覚まし代わりに頭を覚醒させる。

 たった一日限りの船旅だったが、良い意味でも悪い意味でも別室で休んでいる同行人との思い出が出来た船旅、その功労者たる船に心ばかりの賛辞を呟き、彼は着の身着のまま自室を出た。

 部屋を出てすぐ、右隣の客室、彼はその客室のドアの前に立って、

 

「おーいイエロー」

 

 軽く二度ノックする――が、返事は無い唯のドアの様だ。

 うんともすんとも言わない目の前のドアを凝視しつつ、クリアは数秒待って再度、

 

「おーい、イーエーロー? 起ーきーろー!」

 

 今度は強く右手を打ちつけしばらく、七回目のノックの後不意にドアは開かれる。

 

「ふわぁ……あ、おはよークリアー……」

「おはようイエロー、眠そうなとこ悪いけどもう船着くから、すぐに適当に準備を済ませてくれ」

 

 出てきて早々、言って眠そうに欠伸をしながら現れたのは腰まで届く金髪の少女、イエロー、今回ホウエン地方へと出発したクリアにとって予定外な嬉しい同居人だ。

 普段こそ彼女は常に麦藁帽子を携帯し一見少年の様な出で立ちをしているが、しかし今クリアの目の前に立つ彼女は頭の上に麦藁帽子は当然無い、寝起きだからそれは仕方の無い事だろう。

 それに加え、いつもは麦藁帽子を取ると現れる可愛らしいポニーテールも今の彼女の頭には無かった。あるのは腰まで届く何の飾り気も無い金色のロングヘアー、ここまで来れば誰がどう見ても女の子と分かる外見となり、そんな少女の姿を見てクリアは内心、

 

(……パッと見唯の幼女だよなこれじゃあ、本当に今年十四歳の誕生日を迎えるって年なのかよ)

 

 口に出せば怒られそうなのであくまで心の内の中に留めて、目の前の少女の姿に対する素直な意見を述べる。

 元々この世界の住人では無い彼なのだが、そんな彼のいた世界から見て、どう考えても目の前の少女はあって高学年位の児童程度にしか見えない。今のポケモン世界に現れて順調に年を重ねるクリアだが、恐らく初見だと絶対に彼とイエローが同年代には気づかないのだろう。

 

「うん、分かったよ……って、どうしたのクリア?」

 

 どうやら結構な時間、イエローの事を観察していたらしいクリア、彼の目の前で黄色の少女は何時まで経っても動かない彼の様子を怪訝に思ったらしく不意にそう尋ねて来る。

 

「ん、あー、いや別に、ちょっと誕生日的なアレコレを考えてだな……」

 

 言われ、虚をつかれた事もあり、しどろもどろになりながら適当な言葉でその場を濁す。

 自分でも何言ってるか分からないが、いずれにしても目の前の少女が実年齢よりも幼すぎるという事について考えてました、なんて思っても言えない。当然である。

 慌て取り繕った様な彼の言葉だったが、しかしイエローはどこか不審に思う訳でも無かった。しかしそれでいて少しだけ寂しそうな声を振り絞ると、

 

「誕生日……そう言えば、まだクリアのお誕生日にお祝いした事無かったね」

 

 ポツリと言ったその言葉だったが、何故だかそれは辺りに深く響き渡った。

 思えば彼、クリアがこの世界に来て数年、最初の一年は行方を晦ませジョウトで好き勝手やってたとしても、仮面の男事件以降は頻繁に知人達にも会っていた。

 リニアを利用し、週単位でジョウトへとやってくるオーキド博士は勿論として、特別仲の良いハヤトやツクシを始めとした他のジョウトジムリーダー達、レッドやゴールド等図鑑所有者、そして目の前のイエローも含めそれなりに交流は行っていた。

 しかし、彼等がクリアの為に何らかの祝い事を行った事と言えば、思い返せば彼のチョウジジム就任祝い一度切り、それ以来は会に出席する事はあっても彼主賓の祝い事はゼロだったのである。

 

「……そうだな」

「ねぇクリア、まだ話せないの?」

「……あぁ、まだだ」

 

 問う方も問われる方も辛い問答。恐らくこの場にブルーの様な者がいれば、空気を読んで話を笑い話へと転換させ、別の話題を振るのだろうが、惜しくもそんな都合の良い人材は今はいない。

 寂しそうにそう聞いたイエローに、苦虫を噛み潰した様な顔でクリアは"何時もの様に"そう答える。

 

 過去に何度も、今のイエローの様に彼に誕生日を聞いてくる者達はいた。イエローの他にはブルーや、レッド、アカネやハヤトといった者達が主な面子だ。

 しかしその度に彼は今の様に自分の素性についてははぐらかせてきた、何度も、何度も、何度も――理由は勿論、彼がこの世界の住人では無いという点、その一点に尽きる。

 唯でさえ別世界の人間というだけで笑われそうなものなのだ、加えてクリアは彼自身がいた元の世界で"ポケモン"の知識を少なからず入手している、そしてその事実こそが、彼が正体を打ち明けられていない最もの原因。

 ――そもそも何故彼がいた世界にポケモンという概念があったのか、唯の偶然なのか、可能性の問題なのかそれとも――彼が元いた世界に今彼がいるポケモン世界の元住民がいるのか。

 真相は定かでは無いが、彼が今いるこの世界において"クリア"という存在は非常に珍しい存在で、そして"二つの世界"を知っている恐らく唯一の人間なのだ。

 そしてもしその事実が公になれば、彼は今の心地よく暖かな生活を失う恐れすらある。注目の的になる分はまだいい、最悪どこかの悪の組織が"もう一つの世界"目当てに彼自身を狙って来るかもしれない、別世界の人間という事で狂科学者(マッドサイエンティスト)の研究対象にされる恐れすら微量ながら存在している。

 更に加えるとそうなる事で実害を被るのはクリアだけ、という保障はどこにも無く、レッドやオーキド博士といった親しい者達も、目の前の彼にとって非常に大切な少女すら危険な目に会うかもしれないのだ。

 考え過ぎ、そう言われてしまえばそれまでだが用心に越した事は無い。そもそも黙っていた所で日常生活に支障をきたす訳でも無く、素性が不明だからと言ってもそれを補い余る分の信頼を、彼はこれまでの行動で掴み取っている。

 

 ――むしろこのまま、クリアがこの世界から消えていなくなるまで口に出さずにいてもいいだろう、そうクリアは考えているが――、

 

 

 

「……まぁ、誕生日位なら喋っても構わないか」

「……本当!?」

 

 顔を背けながら呟かれたクリアの言葉に、陰が差していたイエローの表情に光が戻る。

 その微妙な表情の変化に内心ホッと胸を撫で下ろしつつ、クリアは久しぶりに自身の誕生日を思いだし、そしてそれを口に出す。

 

「五月五日、その日が俺の誕生日だよ」 

 

 五月五日、端午の節句のこどもの日。過去にその事で子供っぽいとよく同級生にからかわれた日々の事をシミジミと思い出しながらも、しかしそれでいてその事を目の前の少女にはあえて感じさせない様努めクリアは何気無い風に告げる。

 今までひた隠しにして来た彼の"秘密"の些細な一部分、万が一にも情報漏えいは避けてきた彼だったが、だが今にして思えば誕生日の一つや二つ、確かに彼もその程度の情報ならいつでも公表しても良かった気がして来る。

 こんな情報から彼の"秘密"の真相にたどり着く者がいれば、そんな人物は恐らく稀代の天才クラスの頭を持つ者しかいないだろう。

 そしてそんな人物とクリアが出会う確率なんて、あって無い様なもののはずだ。

 

「うん、五月五日だね……だったら今度はちゃんとやらなくちゃね」

「やるって何を?」

 

 遂に明かされたクリアの誕生日、特別大した事も無い情報にイエローは目を輝かせて言う。

 何がそんなに嬉しいものかと、割りと本気で考えながら聞き返すクリア、そんな彼にイエローは嬉しそうな笑みを浮かべ、

 

「決まってるよ!……クリアのお誕生日のお祝い! 勿論皆で!」

 

 彼と彼女が知り合って、まだそう多くは季節は巡っていない。

 しかしそれでも、その季節の中で彼女が感じた寂しさは本物であって、これからの季節の中で共に彼の誕生を祝う事が出来る事は彼女にとっても本当に嬉しい出来事。

 何気無い"誕生日"一つで、彼と彼女の間の壁が一つ取り払われた様な、そんな錯覚すら今のイエローの中には湧き上がりそうな程だった。

 

「……そうだね、楽しそうだし」

 

 そして浮かべられた笑みを見て、一瞬大きく目を見開いたクリアだったが、次の瞬間にはもういつもの表情に戻った。

 ――否、その表情はいつもより少しだけ頬を吊り上げた表情へと変貌していた。

 

「だったらはい!」

「……何、その指?」

 

 そして差し出される一本の小指、イエローの右腕から伸びるその指を数秒見つめ、クリアは至極当然の疑問を彼女へと投げかける。

 何の説明も無しに小指だけ差し出されたのだ――恐らくクリア以外の人物ならば大体の者はイエローが何をやりたいかの予想は立てられるだろうが、しかし残念ながらクリアがそれに気づく事は無い。

 その鈍感さに一寸だけ頬を膨らませてイエローは言う。

 

「指きりげんまん! "約束"しておかないと、いつもみたいにまたクリアってばフラッといなくなっちゃいそうだし」

「何でそんなにテンション高いんだよ……それにもう、そんな事はしないさ」

 

 しかしそう言いながらも、彼女の指を待たせる事無くクリアの右手の小指がイエローの右手の小指へ絡まる。

 平静を装いつつも、しっかりと目を泳がせるクリア、何分相手はイエロー、見た目多少は幼いと言っても年代的には同世代位の少女、ドギマギとしない方が可笑しいはずだ。

 そして当のイエロー本人も――まさか本当に絡めてくるとは思わなかったのか、それとも今になって自身の行いに羞恥心を覚えたのか、微妙に鼓動を早めるイエローの心臓。

 ドクン、ドクンと体内ポンプが血液を循環させ脈打つ音が彼女の耳へと届き、その音が目の前の少年に届いていないかと、イエローは一抹の不安を覚えるが、やりかけた事ならば仕方が無い。早まる鼓動と朱色に染まりかけた頬を頬誤魔化す様に彼女は声を上げて、

 

「ゆーびきーりげーんまーん、うーそつーいたら……どうしよう?」

 

 ただ純粋にそんな疑問へとぶつかった。

 途端に平常へと戻されていく心拍数、肌の色、彼女の目の前のクリアも呆れた様な可笑しそうな微妙な笑みを浮かべている。

 

「流石に針千本は飲めないしなぁ……十本位なら」

「数の問題じゃ無いと思う……うーん、じゃあこれは後々決めよう!」

「それ多分忘れて流れるパターンだと思うぜイエローさん?」

 

 結局約束が果たされなかった時の決まり事は保留となる。

 というかそれでは指きりの意味が無いはずなのだが、しかし当の本人達は既に約束事は交わされた気でいるらしく、

 

「じゃあクリア、約束だからね、絶対どこかに行っちゃ駄目だからね!」

「分かってるって、心配しなさんなよ」

 

 八月初めの朝方、寝巻き姿のクリアとイエローはそう言って一つの約束事を決めた。

 次の五月五日、つまりは"約九ヶ月後"に初めて、クリアの誕生日を祝うという事を。

 それは極最近ホウエン地方ミシロタウンを旅立った二人の少年少女と似て非なる約束、ルビーと名乗る少年とサファイアと名乗る少女達が交わした"八十日後"の約束は、"約束の日まで"という期限付きのもので、クリアとイエローが交わした約束は五月五日という"絶対にその日で無いといけない"というもの。

 何でも無い様に努め、だけど薄い微笑を隠し切れないクリアと、ニコニコと笑顔を浮かべるイエローの――彼らのそんな小さくとも大切な"約束"はこの日そうして交わされたのだった。

 

 

 

『……皆様大変お疲れ様でした、当船はただ今ホウエン地方カイナシティに……』

 

 そして彼等が指を離そうとしたその瞬間、クリアとイエローの両名の耳に聞こえて来るのは船内アナウンス。

 彼等が無自覚に時間をかけてイチャついている間に、どうやら船は予定通りカイナシティについらしい。隣、そのまた隣と次々に客室のドアが開いていく。

 寝巻き姿で呆然と立ち尽くす彼等だが、しかし寝巻きと言ってもクリアは半そで半ズボンというラフな格好で、イエローも普通にピンクのパジャマ姿という確かに多少の恥ずかしさは湧き上がるが、しかし特別妙な格好をしている訳では無いので、出てくる乗船客には作り笑いで逃れられる状況――のはずだったのだが、

 

「あらまぁ、もしかしてカップルさん達かしら、いいわねぇ若い子達は」

 

 イエローの部屋から数えてすぐ右隣の部屋、アナウンスを聞いて身支度済ませて出てきたであろう、老眼鏡らしき眼鏡をかけた小柄で腰を曲げた一人のマダムが上品に顔に手を当てつつ、微笑を浮かべ呟いた。

 傍から見ればクリアとイエローは所謂年頃の若い男女で、そんな若い男女が寝巻き姿で朝方から向かい合って小指を絡ませあってるという状況だ――そんな状況じゃ言い訳なんて不可能、何も知らない人達から見たらマダムの言葉通り、唯の仲の良いカップルそのものである。

 

「ッ!……じゃ、じゃあイエローすぐ支度する様に! 俺もソッコーで終わらせるから!」

「う、うん、じゃあクリアまた後で!」

 

 マダムの言葉に完全に引いていた二人の熱が再び上昇する。

 互いに顔を赤くしながらコンマ数秒の勢いで指を離し、早口にそう伝え合ってから、まるで逃げる様に彼等は部屋へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなクリアとイエロー二人の様子を見て、あくまでも上品な笑いを崩さずにマダムは笑みを深める。

 その笑みは目の前の初々しい二人の男女の姿に対して――では無く"見知った顔"の二人、クリアとイエローという少年少女達に対して、

 

「まさかこんな所で鉢合わせするとはこれも運命の悪戯かね……まぁ今回は見逃してやろうじゃないのさ、今はまだ私の動く時では無いからねぇ……フェフェフェ」

 

 上品に悪意の篭った特徴的な笑い声を出した老婆はそうして彼等の部屋の前を通り過ぎる。

 出会ったしまった"不幸"、下船ラッシュ時というそれ以上の"幸運"、その二つの事実にクリアとイエローの二人が気づく事は無かった。

 

「じゃあ行くとするかい、まずはお前達の"修行"が最優先だよ……シャム、カーツ」

 

 そして次々と各部屋のドアから人間が現れる。

 そんな雑多な人間の群れに混じって、木を隠すなら森の中とでも言わんばかりに、異質な彼女等はそうしてホウエン地方のどこかへと消える。

 いずれ先程出会ったクリアやイエローの様な"正義のトレーナー"達と再び邂逅する時に備え、準備を怠らず、そして彼女は急がない。

 "その時"が来るまで、ひたすら耐え準備する、"スオウ島"の時はそれでも失敗したが、しかしそれは準備が、"手駒"が不足していた所為だろうと。

 四天王達とその他の多数のポケモン達の軍――だけではまだ足りなかった、ポケモンの軍だけでは力不足だった、だからこそ有力なトレーナーが必要不可欠であると彼女は考えたのだ。

 その為の足がかりとしてまずは彼女の後ろに付き従う二人の男女、仮面の男"ヤナギ"の弟子だったシャムとカーツの両名、まずはこの二人を徹底的に鍛え上げる事、それが今の彼女、"キクコ"の課題。ヤナギの失踪で生きる目的を失った二人の人間を取り入れる事は、思ったよりも楽だった。

 そしてこれらの行動は全ていずれ来る"動く時"までの、その準備段階に他ならないのだ。

 

 ――そしてもう一人。

 

「ん、もう一人はどこに行ったんだい?」

「……様ですか? 確かさっきまで後ろに……」

 

 キクコの言葉にカーツが答え、三人同時に後ろを振り向いた。

 ――瞬間、

 

「フンフフフ、誰かをお探しですか? キクコ様」

「……何だいそこにいたのかい……」

 

 此方もまた特徴的な笑い方の、細目で血色の悪い顔でミステリアスに笑う女性。

 何時の間に彼等の前方にいたのか、ハッとして振り返ったシャムとカーツの両名に対し、彼女は毒々しい印象の微笑を浮かべる。

 

「アンタにはアンタの仕事があるだろうが、今は私について来るんだよ、いいね……サキ」

「えぇ分かっております……お師匠様」

 

 より一層深まっていく"闇"を間近にしながらも、クリアとイエローの二人はまだその"闇"に、とうとう気づく事は無かったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうにか身支度を最低限の時間で済ませたクリアはすぐに自室のドアを乱雑に開けた。

 もう廊下には誰もいなくなっており、つい先程までいた"誰か"の存在に当然彼が気づく様子は無い。

 最も、いくら殺されたとは言えそれは刺客のゴーストによるもので、実は現実には"一度も会った事の無い"彼クリアと、そしてイエローもまた、今しがた出会った軽めの変装だけで平気で町々を出歩く老婆が、まさかスオウ島事件の主犯格の一人、"キクコ"であったとは夢にも思わず気づく事が無かった事も頷ける。

 

「あ、クリア」

「イエロー、そっちも身支度は終わったんだな」

「うん……じゃあ行こう! クリア!」

「あぁ……!」

 

 そうして彼等は肩を並べて歩く。

 持ち歩いているのは最低限必要なもののみ、旅はいつでも身軽な方が色々と効率が良い。

 そして鉄の天上の船内から、太陽が眩しい青空の下に彼等は出た。

 新鮮な空気が肺を満たし、カントーやジョウトとはまた一風変わった風や海、景色が彼等の眼に飛び込んでくる。

 小型の白を基調とした鳥ポケモン、キャモメが港で羽を休め、物拾い中なのか茶色の縞模様のポケモン、ジグザグマが所狭しとジグザクに走っているのが見えた。

 

「わ……わぁ! 凄い凄い! 見た事無いポケモンばかりだよクリア!」

「そうだな、ちなみにそこの白いのはキャモメで茶色はジグザグマってポケモンだよ、どっちもホウエンが主な生息地域のはずだ」

 

 珍しく子供の様にはしゃぐイエローに、可笑しそうに苦笑を浮かべたクリアは、とりあえず"持ってる知識"の中からポケモン達の情報をかき集める。

 別世界でポケモンのゲームをやりこむ程、にはしていなかったがそれでも一時期は四六時中ずっとやっていたクリアだ。名前やタイプといった超基礎的なデータ位は頭の中に入っているつもりだ。

 

「そうなんだー……って、やけに詳しくないクリア?」

「っ……そ、それ位なら常識だっての、仮にもホウエン来るんだし下調べ位はしてるさ」

「……ふーん」

 

 どこか疑わしそうな眼を向けてくるイエローに、クリアは内心冷や汗をしつつ答える。

 数秒の間、疑わしそうに彼を見上げる彼女だったが、しかしクリアの言い分にも一理ある。その事からか諦めた様にイエローはクリアから目を逸らして、

 

「じゃあクリア、この街の"お勧め"に案内してよ、ボクまだこの街の事よく分からないから」

「んな!? お前そんなの俺だって……」

「下調べしたんでしょ?」

「うぐっ……あー、分かったよ、俺に分かる範囲でいいならエスコートさせて貰うさ」

「……本当に案内出来るんだね、ボク今ちょっとだけクリアの事見直したよ」

「……俺も今思ったけど、お前なんかブルーさんに似て来てない? 悪い影響受けてるぞ」

 

 タラップを渡りきり、目の前に広がるカイナの市場を物珍しそうに眺め歩きながら、クリアとイエローの二人は街の中心部へ向けて歩き出す。

 時折軽口を叩きあいながら、目の前の人物以外誰一人として知人がいない土地の中を。

 恐らく見知らぬ土地、見知らぬ街というシチュエーションが彼等のテンションゲージを軽く振り切らせているのだろう。中でも幼い頃のイエローを知る者がいれば、きっと今のイエローの変わり様には驚くのかもしれない。

 レッドとの出会いから始まり、ブルーとグリーン、そしてクリア、様々な出会いを通して成長しているのは、何もクリアだけでは無いのだ。

 

「それで、まずはどこに行くんだいクリア?」

「そうだなぁ、まずはカイナのコンテスト会場にでも行ってみようか、何にしたってまずはポケモン関連を攻めて行こう!」

「うん、さんせー、じゃあ行こう……クリア!」

 

 そう言って差し出されたその手に、クリアは僅かな戸惑いを見せつつもだけど自身の手を伸ばす。

 人混みの中、(はぐ)れない様にしっかりと、恥ずかしそうに握られた手と手は離れない様しっかりと固く握られていたのだった。

 

 




この話書いてて、実は自分は性格が悪いんじゃないかと改めて思った。

そして少しずつ原作から離れていく――まぁまだあまり影響は少ないはずですが。
――本当はキクコとサキの関係はもっと後の方で出す予定だったのですが、何故か船の中で出てきてしまった……何やってんだよこいつら。

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