ポケットモンスターCLEAR   作:マンボー

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四十三話『vsカクレオン 海上の町にて』

 

 

「三人共、本当にもう行ってしまうのですかな? もう少しゆっくりしていってもいいと思いますぞ?」

「せっかくの申し出ですけど、キナギタウンに僕を誘ってくれたお爺さんが待ってくれていますので」

「俺も拒否します。正直会長といたらポケモン達の精神的疲労がマッハなので……でもまぁ、泊めてくれた事には感謝しています……ありがとうございます……」

「そういう訳で、すみません会長さん、ボクもクリアについて行きますので」

 

 名残惜しそうな顔をする会長に、申し訳なさそうな顔の二人と、顔を背けてポツリと呟く様に言う一人、カイナの港、キナギ経由でミナモシティへと向かう定期便の前で、三人の少年少女と一人の老人が別れの挨拶を済ませていた。

 元々の予定通りキナギへと向かうミツルと、そのミツルについていく形で定期船への乗船を決めたクリアとイエローの両名。

 というのも、二人は、というかクリアは元々カイナからはフエン辺りへと向かうつもりだったのだが極最近、フエンの火山が死んだという情報をミツルから得て、ならば彼についていこう、という事でミツルに同行する事に決めた。

 都合の良い事にクリアとイエローの二人の旅は計画性の欠片も無い旅だった、だからこそ今回の様な急な進路決定にも特に動じる事無く対処出来たのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

「んー! っと、はぁ……ようやく解放されたよあの人から、隙あらばV達の事狙って来やがって……!」

「でもその割にはクリアってば凄く楽しそうにしてたよ……ね、ミツルさん」

「はい、僕もそう思いますよクリアさん」

「そ、そんな訳あるかよ、ったく……」

 

 頬に当たる風を心地よく受け、大きく伸びをしながら言うクリアを茶化す様にイエローが言って、ミツルもそれに同意する。

 定期船に乗って波を掻き分け進む彼等、カントーのイエロー、ジョウトのクリア、ホウエンのミツルの三人の少年少女。

 それぞれピカチュウ(チュチュ)グレイシア()、カクレオンを外に連れ出した三人はキナギにつくまでの数時間の間、のんびりと船の旅を満喫しつつ、話しこんでいた。

 

「それにしてもイエローさんの能力(ちから)には驚きました、まさかポケモンの心が読めるなんて! お陰でロゼリアとも一緒になれましたし!」

「はは、使っちゃうとすぐに眠くなるのが欠点なんだけどね、それに君達ならきっとボクなんていなくても仲良くなってたと思うよ」

「まぁそれはその通りだと思……ふわぁ……というか文字通りの"眠り姫"がよく言うぜ全く、ってか眠……」

「む、昨日の夜中散歩に出かけて碌に寝てない今のクリアには言われたくないなー?」

「ぐぬぬ、言い返せないこの悔しさ……!」

「あ、あはは」

 

 船のデッキから大海原を望みながら眠そうに欠伸をするクリアに、すかさず突っ込むイエロー、そんな彼女にクリアも珍しく言い返せず、またミツルもそんな二人のやり取りを苦笑いを交えつつ観賞するのだった。

 

 

 それから数時間、今の様な調子で会話しつつ、船上で昼食をとり、食べ終わる頃、船は一時キナギタウンへと立ち寄った。

 約一時間の停泊、それは乗客の乗船下船も勿論の事だが、停泊中キナギにて僅かながらの物資や燃料の補給も同時に行う為でもある。

 キナギタウン、朝日が水辺を照らす町。町自体が海の上に作られており、家々の移動も木の渡し板の様なもののみで移動する町、この町では自転車はおろか走る事すらままならない。

 

「おぉミツル、待っておったぞ!」

「お久しぶりです、お爺さん!」

 

 クリア等三人と、外に出してある三匹は共にキナギタウンへと降りて、そして船から一旦降りた所で、そこでは既に一人の随分と年老いたお爺さんが待っていた。

 一見すると大きく腰が曲がった今にも倒れてしまいそうなお爺さん、なのだが何故だか十年後も変わらず生きていそうな、そんな不思議な印象を持たせる。

 

「うんうんよく来た……所で後ろのお二人さんは?」

「はい、ここまで一緒に来てくれたクリアさんとイエローさんです、二人は……」

「……ほう、これはまた……」

 

 クリアとイエローを見るや否や、そう言ったお爺さんは、

 

「……何、やってるんです爺さん?」

 

 ベタベタと何の遠慮も無くクリアと、外に出しているVへと肩や腕等といった部分にボディタッチを実行するお爺さん。昨夜の会長に続けてなのでうんざりとした様な顔になるV。

 約数秒間、何かを確かめる様に行われたそれは、クリアの我慢が途切れる寸前にピタリと止んで、そして続く様にお爺さんはイエローへと手を伸ばすが、

 

「おい何ナチュラルにセクハラしようとしてんだよ爺さん!」

 

 しかし伸ばされたその手は彼女へと触れる前にクリアによって止められる。

 僅かに怒声が混じった声にミツルはビクリと肩を震わせ、当のイエロー本人は状況が分からないのかキョトンとした顔でクリアとお爺さんの二人を見比べていた。

 

「おや? これは済まなかったのう、てっきり少年だとばかり」

「少年でも普通はアウトです、というかいきなり何してくれてんですか?」

 

 普段目上の人には丁寧語のクリアだが、それはあくまで相手の態度次第――例えば悪の組織の人間や、自分が良い人間だと認めていないものには基本砕けた話し方で彼は接する。

 のだが、今彼の目の前にいるお爺さんは先程イエローへセクハラしかけた張本人だが、同時にミツルの恩人らしき人物らしく、故に今クリアはあくまで言葉遣いには気をつけながらお爺さんと対面していた。

 尤も、セクハラ云々を言うのならクリア本人も随分と綱渡りをしていたのだが――それも思い返す度に顔を赤くして必死に忘れようとする位に黒歴史である程の。

 

「いやはや確かに急過ぎたな……何、ちょっとお前さん達の事を確かめたくなってのう、それで……二人共名は何と言う?」

「……クリアです」

「ボクはイエローです、というかクリアってば何をそんなに怒ってるの?」

「イエローには関係……あるけど無い」

 

 何それ?――と返すイエローをクリアはスルーして、

 

「で、"確かめたくなった"というのはどういう意味で……」

「いやーゴメンね君達、それは僕がゲム爺さんに頼んだからだよ~、船から下りてきた少年達の実力を見てみてくれってね!」

 

 問い詰める様に言おうとしたクリアだったが、その声はまた別の声に阻まれる。

 瞬間、お爺さんを除いた全員が海の家の一軒屋、その中から現れた一人の大柄でアロハシャツ、サングラスといった目立つ風貌の男へと視線を集めて、

 

「は~い、私はエニシダ、以後よろしくね少年少女の諸君よ!」

 

 出てきた瞬間そう元気良く挨拶するエニシダ、その姿を見て随分とテンションの高い人だと、その場にいた三人は同時に思った。

 思った所で、それでいて若干引き気味な、更にその中でも一番後ずさり気味のクリアにエニシダは勢い良く手を伸ばし肩を掴んで、

 

「君!」

「っひ!?」

 

 思わず悲鳴にも似た声を漏らすクリアだが目の前の人物は容赦を知らないらしい、そんな彼の肩を今度は大きく揺さぶって、

 

「いやぁ中々良い感じに"素質"に溢れているじゃないか君~!」

「な、何、の、こ、と……って喋らせろー!」

 

 肩を揺さぶられ、片言に言葉を吐きかけるクリアだったが当然それでは満足に言いたい事も言えない、のでクリアは掴みかかっているエニシダの腕を強引に振り払って、

 

「い、いきなり何なんだよアンタは! エニシダとか言ったけど……ん、エニシダ?」

「そうだけど、どうしたんだい? もしかして私の名前に聞き覚えでもある?」

「えーと、んー……あ……いや人違いだ、というか本当に何なんですか一体!」

 

 そう言って話を元に戻すクリアだったが、今の彼の言葉は嘘、直接見聞きしていなくても彼は目の前の人物、エニシダの事を知っていた。

 勿論それは過去、この世界とは違う別世界での話、その世界のゲーム内で見聞きした情報――尤もその情報がこの世界でどれ程の価値を見出すのか、という事は長年の経験からクリアも重々承知している為、何時もの様に初対面のつもりでクリアはエニシダに接する事にするのだろうが。

 

「なぁんだ、てっきり今度私の開く施設"バトルフロンティア"が期待通りに噂として広まってると思ったんだけど、こんな事じゃまだまだだな~、もっと宣伝しないと! という訳で! 君達も是非、オープンしたら来てくれよな"バトルフロンティア"!」

 

 まるで友達に話しかけるが如く軽い口調でしっかりと宣伝をするエニシダ、尤もターゲットとなった少年少女三人は早口で繰り出される宣伝文句に呆気にとられるばかりなのだが。

 

「バトルフロンティア……聞いた事がある、ホウエン地方のどこかにその名の通り"バトル"のみに特化した施設を建設する予定があるって……」

「へぇー緑の君は博識で結構! まぁ一つ訂正するなら、"予定"じゃなくてもう既に工事は始めているって事かな~?」

 

 病気で床に伏している時にテレビかラジオ等から得たのか、それとも旅の途中で聞いたのか、思い出す様にそう言ったミツルの言葉を、エニシダは半分肯定し、半分否定する。

 現に彼が言った通り、エニシダ本人がオーナーを務める夢のポケモンバトル施設、通称"バトルフロンティア"の工事の着工は既に始まっていた。

 完成はまだ大分先となるが、エニシダから言わせればそれはもう"予定"では無く確固たる後は時が経つのを待つだけの事実、フロンティア計画の中止等今の彼の頭の中には存在しなかったのだ。

 

 ――では何故、自分がオーナーを務める施設の準備段階で忙しいはずの彼がこの場にいるのか、それは勿論"バトルフロンティア"と関係のある事柄からだった。

 彼の夢とも言える"バトルフロンティア"を開催するにあたって基本費用等を除き必要となるもの、それは建物を建てる"土地"、バトル用の"ポケモン"、そして最も大事なもの――それが施設を訪れる客人トレーナー達を待ち受けるべき"凄腕のトレーナー"の三要素。

 一つ目の土地は既にクリアしており、ポケモンも着々と集まりつつあった、そして残るは"凄腕のトレーナー"――それはただのジムリーダーよりも更に高い実力の、少し腕が立つ所では無い程の強者の存在――そんな者達を、エニシダは特別広い人脈を駆使しつつ、自分の目と、足と、そして直感でそんな者達を探しスカウトしていたのだった。

 

「バトルフロンティア……それで、その施設と俺達に一体何の関係が?」

「え~、全く鈍いな君も、私はバトルフロンティアを開くにあたって特別腕の立つトレーナーを探しているんだよ? ここまで言えば分かるよね?」

 

 キラリと黒いサングラスが光る。同時にエニシダは悪巧みでも考えそうな、そんな悪戯っ子の様な微笑を浮かべ、

 

「君達、いや……チョウジジム新ジムリーダーの"クリア"、私は君をフロンティアに誘ってるんだ……どうだい? 君もバトルにとり憑かれた者なら我々と一緒に、一丁派手に暴れて……」

「はい、お断りします」

「……まっ、そう言うと思ってたよ、君がジムリーダーに就任した経緯を知ってからずっとね」

 

 そう言ったエニシダの顔に後悔なんてものは見受けられなかった。それも矢張り、今彼が言った一言が原因なのだろう。

 クリアがジムリーダーに就任した経緯、仮面の男事件、ヤナギとクリア、その事件の詳細を幅広い人脈を駆使して入手したエニシダはその時点で、クリアのスカウトはほぼ諦めかけていたのだ。

 尤も、それでも一度は誘ってみる辺り、彼の良い意味でセコい正確が出ているのだろうが。

 

 

 

「さてと、それじゃあ僕は目的も果たした事だし、そろそろお暇させてもらうぜ」

「……一体何の為に来たんだよアンタは」

 

 相も変わらない砕けた口調でそう言ったエニシダは、疲れ切った声で言うクリアのツッコミを平然とスルーしつつ、彼が移動手段として頻繁に使う円盤(UFO)型の乗り物に向かう。

 そして集中する視線を背中に受けつつ乗り込もうとした、その時だった。

 突如として、足場が不安定になる程の地震が彼等を襲ったのだ。

 

「うわあっ!?」

「っ……ミツル!」

「クリア!」

 

 地震に揺られ、バランスが崩れたのだろう。渡り板の上から海へと倒れ込んだミツルへと手を伸ばすクリア、そしてクリアに即座に釣竿の先のモンスターボールを飛ばすイエロー。

 海へと落ちかけたミツルの身体をまずクリアはしっかりと掴んで、その後すぐに投げ渡されたボールへと手を伸ばし、またもそのボールをもう片方の腕で確かに掴み取る。

 海面ギリギリまで頭を下げたミツルはそれでどうにか停止する、が――、

 

「ク、クリア……重い……!」

「そりゃあ人二人分だから重いだろうよ! V"れいとうビーム"!」

 

 停止したのも束の間、流石に少年二人分の重さをイエローの様な小さな女の子が支えきるのには限界がある。

 故に一秒も経たないうちに再び海面へと迫るミツルとクリアだったが、直後に発射されたVの"れいとうビーム"が海面を凍らせ、即席の簡易イカダを形成、そして二人は何とかその氷の上に落下する事に成功する。

 

「ギリギリセーフ……!」

「はぁ……はぁ……あ、ありがとうクリアさ……ケホッ!」

「やべっ、イエロー!」

「分かってる!」

 

 どうにか着水せずに済んだ事にクリアにお礼を言おうとしたミツルだったが、言葉を詰まらせ咳き込んでしまう。そしてそれを見たクリアとイエローはすぐにミツルへと彼のバッグの中に入っていた呼吸器を渡す。

 イエローによってバッグから取り出され、釣り糸に乗せて投げられたその呼吸器をクリアが受け取りミツルに渡すまで一秒と掛からなかった。

 仮にも一日以上の時間をミツルと共にいたのだ、クリアとイエローの二人はミツルの身体の事を知っていたし、その対処法についても事前に聞かされていた、だからこその迅速な行動。

 

「すぅー、はぁー……二人共すいません、迷惑かけてしまって……」

 

 呼吸器のお陰で呼吸も安定したらしく、元の規則的な息の仕方でミツルは言う。

 だがそんなミツルにクリアとイエローの二人は互いに一度顔を合わせそして、

 

「気にすんなよミツル、困った時はお互い様、だから俺達が困った時とかは頼りにしてるぜ?」

「うん、クリアの言う通りだ、だから気にしないでくださいミツルさん」

「ははっ、あまり期待しないで待ってて貰えると助かります……」

 

 元気づける様に言われたクリアの言葉に、しかしミツルはそんな曖昧な返事しか返せなかったのだった。

 

 

 

「うんうん、青春だねぇいいねぇ、感動物だね~!」

「それ本当に心の底から思っておるかエニシダよ?」

 

 そんな少年少女達のやり取りを、エニシダとお爺さん――ゲム老人は少し離れた場所から眺める。

 氷上からキナギの町へと戻ろうとするミツル、しかし身体が弱く体力が低い為か上手く上れず、それをクリアとイエローの二人が必死になって手伝っている。

 そんな光景を眺めながら、ポツリとエニシダは呟く。

 

「……だけど本当に残念だ、あのクリアは出来れば私の手元に置いときたかったんだがな」

 

 先程までとは打って変わって真面目な口調、声色。その事から何かを察したのだろうゲム老人もクリア達には聞こえない様声を潜めて、

 

「どういう事だ、さっきはあぁもあっさり引いたものを……」

「今はまだ"監視"の必要が無い、そう思っただけだ……まっ、今の所は、だが」

 

 黒いサングラスの下の眼光、いつもはおちゃらけた態度の下に隠されたもの。

 バトルフロンティアなんていう一大プロジェクトを計画の段階からたった一人で始動し、そしてそんな夢物語を現実に開催一歩手前までこぎつけた彼の手腕と眼力――そう費用もポケモンもトレーナーも、良質なものを莫大な数必要不可欠となるプロジェクトを――そんなプロジェクトを開催間際にまで推し進めた彼自信が"一流"で無いはずが無いのだ。

 

「"監視"とはまた物騒な言葉だのう……」

「現にそう思ったから言ったまでだよ、私は彼を"素質"と評したが、何も素質(それ)は良い意味ばかりでは無い、言い変えるなら"可能性"か……今の彼はまだ正しく成長している様だが一歩間違えれば"悪"に、それも強大な力を持った巨悪になりうる"素質"を持っている、そう私は直感した、ただそれだけだ」

「……ふーむ、別にわしはそうは思わんがのう?」

「言っちゃ悪いが爺さんとじゃキャリアの差が違う、これでも選りすぐりのブレーンをその称号と共に見極めてきたんだぜ?」

 

 そう言われると確かに納得してしまいそうになるゲム老人、しかし現に今目の前にいる彼にはそんな兆しは全く見えない。だからこそ、エニシダも頭の片隅に置いておく、程度に考えているのだろう。

 だが彼等は知らなかった、過去のクリアを、一度文字通りの"死"を体験する前の彼は、今よりも更に不安定な天秤の上にいた様なそんな状況だった事を。

 乱暴粗暴な面もあれば、他者を労わる事も出来る。今でこそ方向性を見出し成長を着実と何かしらの成長を遂げているクリアだが、だからと言って過去の出来事の全てがリセットされる訳でも、ましてその魂の"本質"が、エニシダが評した"素質"が消える事は決して無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ今度こそバッハハーイ!」

 

 そう言って、あまりにもあっさりと台風の様な男、エニシダは去っていった。

 それはどうにかミツルを氷上から引き上げた直後、何か言う前言われる前に、そうしてエニシダという男は去っていったのだ。

 ――否、その前に一つだけ、

 

『あ、クリア君、良ければ君のポケギアの番号聞いておきたいんだが』

『え、どうしてエニシダさんに……』

『まぁまぁ』

『いやまぁまぁじゃなくて……』

『まぁまぁまぁ!』

 

 ――という感じで、強引に番号を交換させられたりもしたが、少なくとも此方から掛ける用事も無い為、恐らくは他の番号に埋もれて消えたも同然になるだろうな、と思った事をクリアはそのまま胸の内に秘めた。

 

 

 

「っと、もうそろそろ乗船開始の時間か、じゃあそろそろ行こうかイエロー」

「もうそんな時間なんだね、分かったよクリア」

 

 ふと思い出した様にそう言って、エニシダが空の何処かへと消えた後、クリアとイエローの両名もミツルとゲム老人と向き合った。

 短い間の出来事、付き合いだったがそれでも別れの瞬間とはどこか心悲しいものがある、それは幾度と無く繰り返されてきたものだが、矢張り二人共、まだ慣れる事は出来ない。

 

「それじゃあミツルさん、体には気をつけてくださいね」

「はい、色々ありがとうございます、イエローさんもお元気で」

 

 まずはイエローがミツルと挨拶を交わす。

 思えばイエローはミツルが一緒の間、ずっと彼の身を心配し、何かあった時の為に彼の傍に付き添っていた。

 その事に少なからずミツルも恩に感じているのだろう、彼の感謝の言葉にはどこか重みの様なものまで見受けられる。

 

「じゃあ俺は……えーと、まぁ元気でなミツル!」

「あはは、クリアさんは相変わらずですね」

「む、相変わらずとは失敬な奴だな、そんな恩知らずな奴の事なんて知らないからな! これからは自分でどうにか出来る様頑張れよな!」

「……はい、クリアさんも、ありがとうございます」

 

 軽口を叩いて、ニッと笑ってクリアは右拳を軽く突き出す。ミツルは一瞬呆然として、直後クリアの意図を掴んだのだろう彼も弱々しい拳を突き出し、そしてクリアとミツルは軽く拳同士をぶつけ合った。

 そして次にイエローとクリアの二人はミツルの隣、見た目小さな春風一つで飛ばされそうな高齢のお爺さん、ゲム老人へと向いて、

 

「ふふっ、じゃあお爺さん、お元気で」

「まぁ一応、さようなら、後さっきは失礼しましたお爺さん」

 

 丁寧なイエローと、ぶっきら棒なクリア、両名共全く違う別れの仕方だが言われたお爺さんはそれでもニッコリと笑って、

 

「ワハハ、まぁまた近くまで来たら寄って行くが良い、二人共歓迎するからのう」

 

 そうして、彼等はミツルとゲム老人の二人と別れ、再度船に乗る。

 思えば船でばかりの移動となっているホウエン旅行だが、しかしそれもありと言えばあり、どうせ向かう場所なんて彼等は気の向くままに決めてしまうのだから。

 そして彼等を乗せた船は出港する、自然と共に生きるキナギタウン、海上に浮かぶ町とは正反対の大都会――ミナモシティへと。

 

 




危なかった、また危うくvsシリーズが消える所だった…。
というかエニシダさんの口調が上手く掴めない…。

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