ポケットモンスターCLEAR   作:マンボー

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四十七話『vsデリバード 戦いの足音』

 

 

 クリアとイエローがトクサネシティを訪れてから、早くも約十日以上の日にち経過していた。

 別段急ぎの旅という訳でも無く、泊まり先のトクサネジムリーダーの二人であるフウとラン、そしてその家族達からもクリアとイエローの二人は大層気に入られ、気づくとそれ程の時間を彼等はトクサネシティにて過ごしていた。

 大体はフウとラン相手に慣れない"ダブルバトル"の練習や、トクサネの大自然を歩き見て周る日々、"旅行"という彼等本来の目的からはズレているのかもしれないが、それでいて充実した日々。

 

 ――しかし、彼等が、否クリアがトクサネシティに留まる理由は別にある。一向にトクサネから足を踏み出さない理由、それはトクサネシティを気に入ったからという個人的な意見とは別の物。

 

『……という訳だ。君にはしばらくの間このトクサネに留まって貰い、もしも万が一フウとランの二人が使命を果たす時が来たら、その時は二人に助力して欲しい』

 

 ある日の夜、それがクリアが受けたダイゴからの指令だった。

 クリアはトクサネシティを訪れた初日の日、ホウエンチャンピオンのダイゴからの申し出でダイゴと協力関係を築いている。

 それはホウエンに巣食う二つの巨悪、"マグマ団"と"アクア団"、これら二つの組織を叩く為にジョウト地方チョウジジムのジムリーダーである彼の、"瞬間氷槍"の力をホウエンの為に振るうというもの。

 "現役チャンピオンに恩を売る"という見返りの為にクリアが受けたこの協定、その為の指令は早くも二日目の夜にダイゴから告げられたのだ――。

 

 

 

(つってもトクサネに留まってもう一週間以上も過ぎてるってのに、なーんも進展無し、ダイゴさんも早々にどっか行っちまうし、俺はこのままここで遊んでていいのか……?)

 

 水しぶきが弾け、しっかりと足腰に力を入れ、器用にバランスを取りながらクリアは思案する。本当に自分がこの場に留まっていていいものかを。

 ダイゴの話によれば今このホウエン地方では次々とマグマとアクアの両組織による暗躍が行われているらしく、それは先日の潜水艇強奪事件を筆頭に人々の記憶にも新しい事件が主となっている。

 更にはフエンの火山が活動停止した事についても、ダイゴはアクア団が怪しいと睨んでいるらしく、その組織力の強大さはかの"ロケット団"をも彷彿させる。

 一つでは無く二つ、仮面の男事件の倍は考えられる敵勢力の巨大さ、それはクリアも十分に考えている。

 そんな、そんな静かなる緊迫した状況下の中で、クリアは――、

 

「……来たぜ、来たぜ伝説のビッグウェーブ!」

 

 ――トクサネシティ沿岸、レンタルのサーフボードで波に乗るジムリーダーの姿がそこにはあった。

 どこかのムロのジムリーダーの様に、とまではいかないものの上手く体重を移動させ、バランスを保ち波に乗っている姿はとても素人には思えない。

 

(ま、何も言ってこないって事はこのままここで待機って事でいいんだよな、いいよな!)

 

 誰にとも無く心中そう呟いて、ホウエンに迫る脅威等今は忘れて、クリアは生まれて初めてだろうサーフィンに没頭する。

 そして楽しそうに笑みを浮かべ、そう大きくも無い波に乗るクリアと、そんな彼の姿を木陰となった砂浜から見つめる三つの影、トキワの森のイエローと、トクサネジムリーダーのフウとランだ。

 短パンとTシャツで波に乗るクリアと違って、三人共々普段着という格好で、彼彼女等は砂浜に腰を下ろしている。

 そんな中、年甲斐も無くはしゃぐ年上の少年の姿にランは、

 

「楽しそうですねクリアさん、それにこう言うと失礼なんですが……なんだか凄く子供っぽい、ポケモン扱う時とは雰囲気がまるで違う気がします」

「ふふ、そうですね、普段のクリアは大体こんな感じですよ」

 

 ランの言葉にイエローは苦笑を浮かべて答えた。

 ランの言った雰囲気が違うという言葉、その言葉は確かにクリアという人物を一言で表しているが、それでいて今のランが見ているクリアは以前のクリアよりも圧倒的にその言葉に似つかわしく無い。

 以前のクリア、それは今以上に喜怒哀楽が激しく、その様子は言葉遣いにも影響を及ぼすまでにあったもの。

 大きく揺れる"感情"の変化、今でこそ不自然な程に身を潜めた"その時のクリア"を知るイエローからしてみれば、"今のクリア"の雰囲気が違うとどれ程言われても、あまりピンと来るものが無いのである。

 

 

 

「いやぁ、初めてやったけど中々楽しいものだなサーフィンって」

「お帰りクリア……というか本当に初めてだったの? 随分上手だった気がするけど?」

「あぁ、生まれてこのかたサーフィンなんてやった記憶は無いよ、不思議と上手くバランスが取れて俺自身も驚いてる位だからな」

 

 海水に濡れたTシャツの裾を絞りながら帰って来たクリアにイエローが言って、クリアもそんな彼女にそう返事をして真ん中に座るイエローの右隣、そこにいたフウの隣に座り、ボードを置く。

 確かにイエローの疑問も尤もである、先のクリアの動きは明らかに素人のそれとは格段に違っていた。

 しかしクリアが板物で波に乗った事が無いのもまた事実――クリアがまだ"別の名前"で呼ばれていた頃から現在に至るまで、クリアの記憶にはサーフィンはおろかボードに乗った事も確認出来ない。

 クリア自身もイエロー同様、自分の事ながら少しだけ疑問に思ったが、

 

(ま、修行みたいな事もやってたし、それでバランス感覚が鍛えられてたのかねぇ)

 

 そう考え、クリアは考える事を止める。

 実際、チョウジのジムにいる間のクリアは外に出る度に、修行がてら己の身体のみで険しい崖を上り下りしているのである。

 多少なりともそれがスポーツに反映されないとも限らないのだ。

 そうして戻り横に座ったクリアに、彼の横に座るフウは立ち上がってから、

 

「それじゃあクリアさん、そろそろまたポケモン修行に付き合ってください」

「俺今戻って来た所なんだけど、まぁいいや、やるかフウ……頼むぜデリバード」

「はい、ありがとうございます……ソルロック!」

 

 戻って来て早々だったが、クリアから了承の意を取ったフウは一人先に木陰から身を出し、照りつく太陽の下、熱された砂浜の上へと移動した。

 移動して、それと同時にクリアも立ち上がり一個のスーパーボールを、フウも同様にスーパーボールを取り出す。

 そして砂浜のフウへと迫りながらクリアはデリバードを、フウはソルロックを出してすぐに戦闘を開始する。

 

「いけっ! "ほのおのうず"!」

「まだまだ、"ふぶき"だデリバード!」

 

 炎と氷の二つの大技がぶつかり合い、両者共楽しそうに頬を歪ませた。

 

「やっぱり楽しいです、クリアさんとの特訓は!」

「そうか、そりゃあ良かった……デリバード"ずつき"!」

「"かたくなる"で防御だ!」

 

 デリバードの"ずつき"がソルロックに直撃するが、"かたくなる"で防御を固めたソルロックにはまともなダメージは与えられていない、技を指示するタイミング、指示を受けて対応するポケモンの行動の早さ、どれを取っても流石はジムリーダーというべきだろう。

 これで何回目になるだろう、クリアが彼等フウと、そしてランも含めたトクサネジムのリーダー達と特訓と称したポケモンバトルを行うのは。

 元々はトクサネシティで待機している間、暇を持て余したクリアからフウとランの二人に提案されたこの特訓なのだが、今となっては彼等二人から進んで申し出られる様になっていた。

 というのも、矢張り身分は隠していてもクリアもジムリーダーの端くれだ、彼の実力の高さ、彼と戦う事で得られる経験値の高さは相応のものであり、それ故に今となっては"とある理由"から己の実力を高めたい彼等二人からこうして毎日、バトルを申し込まれる事になっているのである。

 

「……ふ、やるねフウ」

「クリアさんこそ……!」

 

 炎と念力の攻撃を掻い潜り、デリバードの"プレゼント"が直撃した――そう確信するも束の間、白煙の中から現れるまだまだ余力を残していたソルロックを見てクリアが呟き、フウが答える。

 そして再び、嬉々として手を抜かず、それでいて本気では無い訓練としてのポケモンバトルを再開する二人の少年を見つめる二人の少女、ランとイエローは夏の日差しが辛いのか今だ木陰の中で涼んでいた。

 そんな中、珍しく休憩を取っているランは視線の先の二人の様子、クリアの戦いを視界に捉えつつ口を開く。

 

「やっぱり強いですねクリアさんは……ね、イエローさん」

「むにゃ……くりあぁ……」

「……イエローさん?」

「ッ……ふぁ、はい!? な、なんですかランさん!?」

 

 どうやら眠っていたらしい。帽子の影に表情が隠れて気づかなかったが、飛び起きたイエローの口元に僅かに涎が垂れているのが確認出来た。

 そして先程の寝言から、どんな夢を見ていたのか非常に気になる所なのだが、だが今それを言うときっとイエローはオーバーヒートを起こしてしまうだろう――と、諸々の事情からランは二秒で推測し苦笑いでその場を誤魔化した後、先程自分が告げようとした話題に移行する事にする。

 

「あぁいえ……別に大した事じゃ無いんですけど、クリアさんって何者なんですか? 正直、クリアさんの実力は一般トレーナーのレベルは遥かに超えてると思うんですけど?」

「え!? 何者って……えぇと、それは……」

 

 別地方のジムリーダーです――等とは流石にイエローには言えない。

 その理由は相手がラン、トクサネのジムリーダーの一人にして一度ジム戦を行った相手だからだ。クリアがジムリーダーだとバレたらジム戦云々の問題が後々浮上して来るかもしれないからである。

 その問題が大きく取られるか小さく取られるか、そこの所はイエローには判断し兼ねないが、しかし話さない方が得策だと言うのなら話さないに越した事は無い。

 ではどう言い訳すれば良いかと、その答えを必死に考えるイエローの姿、そしてそれ程深く悩むとは思ってもいなかったのだろう、それを見たランは慌てて、

 

「は、話せないなら別に良いですよイエローさん! 少しだけ、彼の出身地等が気になっただけなので」

「あ、あはは、そう言って貰えるとボクも助かります……それに、ボクもクリアの出身地とかは知りませんし……」

「……そうなんですか? それは、結構意外かも……」

「……ボクだけじゃ無いですよ、誰もクリアがどこの生まれなのか、ボク達と会うまで何をしていたのかは知りません、知りませんしクリアも意図的に隠してる……」

 

 そう言って、イエローは少し寂しそうに困った様な笑みを作った。

 別世界から来たから、理由が定かでは無い為いつまた元の世界に戻るか分からないから、周囲に迷惑を掛けたく無いから、それがクリアが素性を隠す理由だ。

 それらの理由は当然イエローやその他大勢の者達は知る由も無いが、しかしクリアという人間がどういう人柄で、どの様な功績を残しているかは大体の者が知っている。

 知ってるからこそ、頑なに素性を隠すクリアに、必要以上に迫る者は誰もいないのだ。それだけの理由があると誰もが心のどこかで察しているから。

 

 ――だがしかし、分かっていても、それでも隠し事をされるという事は気分が良いはずも無く。この話をする時常に、チクリと刺す様な痛みをイエローは常に感じているのである。

 

「だけど多分、理由があると思う……ボク達には分からない大きな理由が……だからボクは、ボク達は待つ事にしてるんです、クリアから言ってくれるその時を」

 

 それが彼女達が決めた暗黙のルール、茶化す程度には話題に振る事があっても、あまりしつこくは聞かない。

 クリアの今の現状から見ても、押し黙るその理由は彼の身を脅かすものでも無いから、だからイエローは、レッドやブルーは深くは詮索しない。

 その時、クリアから理由を告げられるその時まで――。

 

「そうなんですか……」

「はい、そう言う事だから、ごめんなさい、答えられなくて」

「いいえ、良いんです、ただの好奇心でしたから」

 

 謝るイエローにランは申し訳なさそうに言った。

 それからランは再度視線をフウとクリアの方へと移す。

 

「はぁ、はぁ……やっぱり強いですねクリアさん」

「……むしろそれはこっちの台詞だよジムリーダー殿……っと、それじゃあそろそろ休憩にしよっか?」

 

 彼女等二人が話しこんでいる間にどうやら一先ず訓練は終了したらしく、言いながら二人の少年は彼女等二人の下へと歩き戻って来た。

 そして再度四人は集まって、自然とこの後どうするか、という話に場は流れる。

 彼等が戻って大体五分程経った頃だろうか、そんな時、ふと思い出した様にクリアは口を開いて、

 

「そう言えば二人共、昨日ジムの電話が鳴ってた様だけど、あれは何だったんだ? ジム戦の予約にしても二人共やけにのんびりとしてるし」

 

 何の気無しに言ったその言葉に、フウとランの二人はピクリと少しだけ肩を震わせて反応する。

 ほんの僅かな、気をつけていないと分からない様な反応だったが、しかしクリアは見逃さなかった。

 そしてすぐに、取り繕った様な笑みを浮かべてフウは、

 

「……別に、大した事じゃないですよ、クリアさんが気にする様な事じゃ無いです」

「えぇフウの言う通りです……そうだ! クリアさんとイエローさん、今日はこの後宇宙センターの方へ行ってみるとどうでしょう、確か今日はロケットの打ち上げの日だったんじゃないかしら?」

 

 フウのすぐ後、両手を合わせてランが言った。

 気づけばイエローは完全に睡魔にやられており、今はクリアの肩に頭を預けている状況だが、しかしクリアの目の前の幼い二人がその事を特に言及する様子は無い。あるいは、言及出切る程落ち着いていないのか。

 その事から、フウとランの二人の微妙な変化に確信を持ってクリアは、

 

「ふーん、そういう事なら二人も一緒に行こうぜ宇宙センター、たまには地元の観光地を巡るのも楽し気なものだぜ?」

「い、いえ、私たちはちょっと……用事があるのでお二人で行って来てください」

「うん、僕もランの提案に賛成だよ、是非見て行ってくださいクリアさん、勿論二人仲良くイエローさんと!」

 

 茶化す様に言うランの言葉に同意するフウの意見。

 これがほんの一分前の言葉ならばクリアも普段と変わらぬ態度で、イエローとの関係性の誤解を解く様努めるのだろうが、今のクリアの目には彼の目の前の二人のジムリーダーが何かをはぐらかそうとして態と茶化してる風にしか見えなかった。

 クリアから少しでも冷静な分析力を奪って、あまつさえ"二人"の部分が意識してかせずか強調されてる事から、何かしらクリア等に関わられたく無い"何か"があると見受けられる。それもその提案を今この場でやってくる辺り、クリアとイエロー双方に隠しておきたい"何か"に纏わる事は恐らくこの後すぐにでもあるのだろう。

 尤も少しの間ではあるが共に過ごしたクリアだ、目の前のジムリーダー二人が、かつての彼の師と同様な世間一般から言われる"悪人"である事は無いとほぼ確信を持っている。

 故にフウとランの二人がクリアにひた隠している"何か"というものは、必然的に悪巧み以外の"何か"に絞られる――それは言うに足らない雑事から、部外者に気軽に口外出来ない秘匿性の高いものや、安全性に欠けるもの、あるいはそれら全ての要素を全て足した厄介事か。

 

「……まぁいいか、そういう事なら、そうさせて貰うよお二人さん」

 

 暫く押し黙るも、クリアはすぐに眠りこけたイエローを自然な動作で背に負ぶって二人に背を向けた。

 その声色には二人の言葉に快諾した、といった明るい雰囲気は無く、どちらかというと訝しげな雰囲気をかもし出している。

 が、それでもフウとランの二人は何も言わずにクリアとイエローの姿が視界から消えるまで彼等の姿を見送った。

 ここ最近の付き合い、それも他地方の者達だがクリアとイエローの二人にはフウとランの二人も既に一定以上の親しみを感じ、故に二人を無理矢理自分等から引き離すといった行為は胸に刺さるものがある。

 しかしそれでも、トクサネジムリーダーの二人は無関係の一般人の二人を自分達から遠ざけた。これからある"特別な仕事"を全うする上で極力クリア達を巻き込まないする為に。

 そしてそれは他のホウエンジムリーダー達も知らない様な秘匿性の高いものであり、また万が一クリア等を同行させた場合クリア等に危険が及ぶ可能性のある危険性の孕んだもの。

 

「クリアさん達、もう行ったみたいね、フウ」

「そうだねラン、それじゃあ僕達も行こうか……"おくりびやま"へ」

 

 そう言った二人のトクサネジムリーダーはそれぞれ、浮遊するソルロックとルナトーンへと乗り移る。

 そしてそのまま海上を出て、二人は向かう、送り火山――使者をあの世へ送り出す炎の在る山へと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは先の出来事から、フウとランがクリアとイエローの二人と別れ送り火山へと向かった日の前日の事だった。

 ヒワマキシティ、木の上で自然と戯れる街、ヒワマキジムリーダーのナギがジム管理をするその街にその日、ホウエン地方のジムリーダー六名がそろい踏みしていた。

 トクサネシティにいたフウとラン、そしてルネシティのジムリーダーであるミクリを除く六名のホウエンジムリーダー達、彼等が集まったのはその中の一人、フエンシティのジムリーダーアスナの呼びかけによるものだ。

 それは"緊急レベル7"の非常事態の号令のもと、全ジムリーダーが召集された緊急会議であり、ホウエン地方のジムリーダーであればよほどの理由が無ければ必須となる会議――だったのだが、とある理由からルネシティの水位調査を依頼する為ハジツゲタウンへと向かったミクリと、諸事情から連絡がつかなかったフウとランの二人は訪れず、しかしミクリに関してはモニター越しからだが会議には参加していた。

 

 結果、アスナの口から明かされたのはホウエン地方で暗躍する組織の存在。彼女ととある一人の少女のトレーナーを襲った青い装束の集団の話、そしてその集団に立ち向かうべく全ジムリーダーで力を合わせようという提案。

 だが会議は二つに割れた、それはホウエン地方で活動するもう一つの集団、赤い装束の存在からだった。

 各ジムリーダー達は"一時的に協力関係を築いた"、"見知り信頼する者が悪に手を貸すはずは無い"、等といった各々様々な理由から赤装束派と青装束派の二つに分かれてしまったのである。

 多数決と意見を決めようにも数的には三対三、果てに唯一意見を述べなかった男は、"どちらにもつかない"、と明言し去ってしまうのだから会議に収拾等つくはずも無く、その場は一旦そこでお開きとなってしまっていた。

 全ては連絡がつかない唯一のジムリーダー達、フウとランの二人の到着を待ち、二人の意見を取り入れた上で決断を下すという結論の下から、ゆっくりと、だが確実に聞こえて来るかつてない戦いの足音を感じつつヒワマキシティジムリーダーでホウエン地方ジムリーダー達の纏め役となっているナギは一先ずその案件を先延ばしたのだ。

 

 しかし彼等ジムリーダー達は知らなかった。フウとランの二人はその日から、僅かながらも不穏な予感を感じていた事を。

 そして彼等ジムリーダー達は知らなかった。フウとランの二人の下に、ジョウト地方から訪れていた一人のジムリーダーがいた事を。

 そうして時間は流れ翌日、フウとランの二人が送り火山へ向けて出発した頃、二人の少年少女がヒワマキシティで偶然に再会を果たした。

 一人は頭に赤いバンダナを巻いたミシロタウン出身の少女、そしてもう一人は頭に白い帽子を被った、"COCO"と呼ばれるエネコロロを連れた少年だった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 フウとランの二人はトクサネシティのジムリーダーであると同時に、とある仕事を任された特別な子供達だった。

 それは年老い役目を果たす事が困難になった二人の管理者に代わって、秘密裏に送り火山に納められた二つの"宝珠"を守るという、他に知る者も極端に少ない仕事。

 "べにいろのたま"と"あいいろのたま"、伝説の超古代ポケモンの二匹を管理下に置く事が出来ると言われる貴重で、そして危険な代物、その二つの宝珠を守る事がフウとランのもう一つの、そして最も大事な仕事だった。

 そして、今彼等二人が送り火山に向かっているのも、無論この紅色の宝珠と藍色の宝珠に異常がある事を察知した為である。

 前日までは不穏な予感といった形で警戒だけはしていた、しかし先程、丁度イエローがクリアの肩で寝息を立て始めた頃、二人はソルロックとルナトーンの二匹のポケモンを通じて異変を察知したのだ。

 明確な侵入者の気配、それは山に近づき、その正面まで来れば来るほど分かりやすいもので、相手の心を読み取ると言われるソルロックがより一層に山内部に潜めるただならぬ邪気に反応を強めている。

 

 本来ならクリアとイエローの二人にも正直に話せれば良かったのだが、だが矢張り二人とはまだ出会ったばかり、そこまでの信頼は流石に無理がある、それ程に二つの宝珠の保管には慎重をきしているのだ。

 もしその二つの宝珠が悪人の手に渡ればどうなるか、それは大地が裂け海が荒れ、さしずめ神話の終末レベルの災害をも覚悟しなければいけない程、それ程までに超古代ポケモン――グラードンとカイオーガの力は強大なのだ。

 

「二匹共、ここから邪気を感じてるみたい」

「うん、それにしても熱いな……」

 

 山の中央部、数え切れない程に蝋燭が並んだ異様に広い部屋の中、フウとランの二人は汗を拭いつつぼやいた。

 ぼやきつつも、それでいて一定の緊張感を保ちつつ、どこに潜んでいるかも分からない敵の存在に警戒しつつ、順調に山頂へのルートを進んでいた二人だったが、

 

「熱い? 熱いのは当然だ」

 

 不意に響く謎の男の声、その声に一瞬で身構えた二人だったが、攻撃を突如として行われる。

 彼等二人を挟み込む様に二つの炎が彼等二人へと迫ったのだ。

 それと同時に、周囲の異様さにも二人は気づく、あまりにも膨大過ぎる熱量、確かに夥しい程にある蝋燭だったが、それを差し引いても辺りに広がる炎の線が多すぎるのだ。

 理由は明白、蝋燭以外のものを燃やしているものが、敵が既に罠を張って待ち構えていたのである。

 恐らく侵入者を撃退する為に山へと入った二人のジムリーダーを逆に迎撃する為に、敵である男が仕掛けたのだろう。

 

「フウ!」

「ラン!」

 

 その仕掛けの理由を、今は未だ知らないフウとランの二人は、とりあえずは今まさに彼等二人に迫り来る攻撃に対処する。

 同タイミングで全く逆の方向へ、二人は跳んで炎をかわし、宙で一度回転した後すぐに二人は綺麗に着地を決めて降り立った。

 それと同時に現れる二つの影、今なお炎を広げているポケモンはマグマッグか。

 

「頂きに来たぜ、紅色の宝珠と藍色の宝珠……」

 

 内一人が言葉を発して、再度二匹のマグマッグが炎を噴射して攻撃する。

 が、その"かえんほうしゃ"による攻撃はすぐにルナトーンとソルロックの"サイケこうせん"が相殺してみせる。不意打ちでさえ無ければその程度の攻撃、二人のジムリーダーにとってはどうって事無いのだ。

 

「させないわ! 私たちトクサネ神秘のコンビネーションで……!」

「僕たちが最も得意とするダブルバトルで……!」

「絶対に阻止してやるぜ! 侵入者諸君共!」

 

 ランの声にフウが続き、フウの声の後にも声が続いた。

 極自然と流れたその声は、しかしして今先程宣言したフウとランの両名共予期していなかった声、聞き覚えがあり、なおかつ今この場にいないはずの声。

 今頃ロケットの打ち上げを見上げているはずの声だった。

 

「クリア、やけに堂々と言ってるけど、どちらかと言うとボク達も侵入者側だって事忘れてないよね?」

 

 見えたのは先程トクサネシティで別れた二人のトレーナー、鋭い目をした黒髪の少年と、優しそうな印象を受ける黄色い髪の麦わら帽の少女。

 そんな二人の異分子(イレギュラー)の登場に、恐る恐る振り返った二つの宝珠の番人は、これまで彼等異分子の二人が見た事も無い程の青い表情を浮かべたという。

 

 




久しぶりの投稿、最近スランプ気味で全く書けなかったので、ずっと詰みゲー消化したり、詰みラノベや漫画を読んだりしてました。後ポケスペ最新巻のホワイト社長可愛すぎだと思いました。

まぁ書いてみたら、今度は予想以上に書き過ぎて長くなってしまい、本来予定してた所とは違う所で切ってしまったのですが。

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