ポケットモンスターCLEAR   作:マンボー

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四十九話『vsトドゼルガ 潜入、マグマ団』

 

 

 マグマ団はアジトを持たない。

 ホウエン地方を主として暗躍する二つの組織の内の一つにして、"大地を広げる"という唯一つのシンプルな目的を掲げた荒くれ者の集団、それがマグマ団。

 彼等は特定のアジトを一切持たず、また組織としても団員の正確な人数等を完全に把握出来ていない等といった具合に内部事情は思うほか整ってはいない。

 それでも、団員達はマグマ団頭領(リーダー)"マツブサ"に付き従い、反逆の意を唱える者がいないのは一重に、マツブサのカリスマ性の高さに尽きるのだろう。

 

 だがそんな組織だからこそ、クリアは簡単に潜入する事が出来たのである。

 送り火山での戦いから、気づかれる事無くホカゲを尾行したクリアはそのまま、彼等の"仮アジト"らしき洞窟へ潜入、そこで体よく団服を一式失敬し、そうして無事潜入に成功したのである。

 マグマ団の組織としての管理体制の甘さ、それに加えて彼等の団服であるフードのついた赤装束という事もまた、クリアの身元発覚防止の手伝いをしていた。フードを深めに被って、なるべく目立つ行動さえ取らなければそれだけで、クリアは立派なマグマ団下っ端に扮する事が出来たのだ。

 

 ――以上がつい先日までの話、マグマ団三頭火の一人、ホカゲによって強奪された二つの宝珠はホカゲによって頭領マツブサへと渡り、クリアも無事マグマ団へ潜入したまでは良かったものの、宝珠も一度頭領まで渡ってしまえば早々簡単に取り返せるものでは無い。

 強引に奪い返す、という選択肢もあったはあったのだが、数、地理上での不利、加えてマツブサ本人の実力も未知数であった為、リスク面を考慮してクリアは今日まで動かず息を潜めていたのである。

 とは言っても無理はクリアの専売特許の様なもの、幾度と無く奇襲を仕掛けようとも考えたがその度に彼の脳裏に、一人の人物の心配げな表情が浮かび上がり、仕方なしに手を引っ込めていた。

 

 しかし、そうこうしてる内に時間は進み状況も変化する。

 マグマ団の目的は大地を増やす事、そしてその為に彼等が目をつけたのは超古代ポケモンの存在だった。

 超古代ポケモン、その内の一体であるポケモン"グラードン"、大陸ポケモンとも言われる伝説の復活こそがマグマ団の狙いであって、これまでに彼等が奪った紅色の宝珠と藍色の宝珠、そして潜水艇かいえん一号、これらの品々は全てグラードン復活の為の下準備だった。

 全てはグラードンの為、そしてその為に向かうべき場所、"海底洞窟"へと到達する為の行為。

 

 だが彼等はグラードン復活の為の、その為に絶対に向かわなければいけない場所である海底洞窟へ行く為に必須となる道具を、彼等は一つだけ所持していなかった。

 それが、現在アクア団が所持している潜水艇を動かす為の"特別起動部品"である。

 超古代ポケモンを操る為の宝珠、そして海底洞窟へ行く為の潜水艇を奪取したマグマ団だったが、だが"特別起動部品"無しの潜水艇では海底洞窟へはたどり着けない。

 故に彼等は手を組んだ。マグマ団頭領のマツブサとアクア団総帥のアオギリは海底洞窟へたどり着くまでの一時のみ、協定を結んだのだ。

 

 

 

 ミナモシティ沖合い、アクア団アジト。

 マグマ団と違い立派なアジトを持つアクア団のアジトはミナモの沖合いにあり、そのアジトを一時探していたカガリの勘はかなり優れたものと言えるのかもしれない。

 アクア団総帥(リーダー)"アオギリ"は、自身のアジトで"ある一団"を待つ間、彼等組織の成果を満足気な表情で眺めていた。

 モニターに映し出されるフエンタウンの風景と小難しい統計表、そして流れる機械的な音声、全ては彼等がフエンの火山で行った"火山停止活動"の成果によるもの。

 その活動で、彼等は"とある少女"の抹殺という第二目的は達成出来なかったものの、火山活動の停止という第一目的を達成し、結果ホウエンの水位は大幅上昇、それ以外にも多様な影響がほんの僅かながらホウエンの地に起き始めていた。

 そしてそれら全ての活動は超古代ポケモン"カイオーガ"をマグマ団、マツブサよりも早く目覚めさせる為の布石、現に火山活動が停止した事により、大地の力より海の力に僅かに天秤が傾き、カイオーガは少しずつながら、だが確実に目覚めつつあった。

 

「む……来たか」

 

 アオギリが呟くのと同時に、彼の眼前の水面が少しずつ盛り上がっていく。

 アクア団のアジトの出入り口はカモフラージュの為海面下に存在し、移動時も海を潜って移動しなければならない。

 その為の出入り口に繋がった海面が上昇し、そして次の瞬間、その場所に一隻の潜水艇が姿を現した。

 

「待たせたな、アオギリ」

 

 言って出てくるはマグマ団頭領のマツブサ、次いでマグマ団幹部のホカゲも現れ、続く様に十数名のマグマ団員達も続々と潜水艇内から姿を現していく。

 何を隠そう、彼等の目的は超古代ポケモンの復活だ。

 その目的を今日この日、これから果たそうというのだ、その為に彼等は手を組み、アクア団はマグマ団にアジトの場所を明かし、合流したのだ。

 アオギリから渡される"特別起動部品"を受け取ったマツブサは、それをそのまま部下のホカゲへと渡す。

 渡されたホカゲは"特別起動部品"を潜水艇に取り付け、"完成させる"為単身再度潜水艇へと入っていく。

 

「い、いよいよですね……総帥」

 

 その様子を眺めていたアオギリに、不意に声を掛ける者がいた。

 疲れ切った表情を見せ、アクア団幹部"SSS(スリーエス)"のシズクに肩を借りた、同じく幹部のウシオだ。

 彼はフエンタウン、火山停止活動の際、第二目的だった少女――サファイア抹殺の任を請け負っていたのだが、それに失敗。

 第一目的の火山活動自体は別の幹部達の働きで停止出来たのだが、その際の戦いの傷が今だ完全には癒え切っておらず、こうして全快とは言えない弱々しい姿でいるのだ。

 

「ウシオさん、貴方まさか今回の作戦に自分も同行出来るとでも?」

 

 だがそんなウシオに対し、アオギリは冷徹に言う。

 

「か、身体の事なら、もう大分治って……」

 

 ウシオが言いかけた瞬間、アオギリのトドゼルガがウシオを蹴り飛ばした。

 慌てウシオへ駆け寄るシズク、まだ全快では無く、怪我人であるはずのウシオだったが、そんな事等お構いなしにアオギリは口を開いた。

 一度作戦に失敗した、失敗者であるウシオには今回の作戦に参加出来る資格等無いと、参加するのはシズクの方だと。

 

「失敗者である貴方の処遇は追って指示をしましょう」

 

 マグマ団とは違い、アクア団はアオギリによって統率され、失敗も、勝手な行動も許されない組織だ。

 故に失敗者であるウシオに対する風当たりは思いのほか強く、その様子を間近で見るシズクは静かに一度息を飲む。

 失敗すれば、次は自身がこうなる――その予感がシズクの脳裏を巡ったのだろう。掻いた冷や汗は決して想像上のものでは無かった。

 

(……良かった、潜入したのかマグマの方で本当に良かった……!)

 

 その様子を見て、マグマ団に扮した少年、クリアは心の底からの叫びを、文字通り心の中だけに留めて叫ぶのだった。

 そして程なくして、彼等は潜水艇へと乗り込んだ。

 クリアを含めた十数名のマグマ、アクアの団員達、幹部のシズクとホカゲ、そして頭領マツブサと総帥アオギリ。彼等を乗せた潜水艇はゆっくりと確実に潜っていく、海底洞窟へ向けて、その場所に眠る二体の超古代ポケモン目掛けて。

 そして二人の組織のリーダーの掛け声と共に、潜水艇は勢いをつけて直進する。

 

「かいえん一号、海底洞窟へ向けて……発進!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 送り火山、ホカゲの策略によりクリアとイエローが危うく同士討ちで自滅しかけた場所。

 クリアが去った直後、残ったVとデリバードを傍らに置いたまま、イエローはこれからの事について思案していた。

 程なくしてフウに続きランも目覚めたものの、二人共今すぐに動ける、という程の体力はまだ無く、イエロー自身もクリアから"待っとく"様に伝言を預かった身である。

 実際、クリアの言葉等無視すればいいものの、だからと言って満足に動けないフウとランの二人をそのままにしておく訳にもいかない。

 どうしたものかと、これからの対応に困っていたイエローであったが、

 

「ボンジュール、お嬢さん、そしてトクサネのご両人」

 

 そんな彼女に声を掛ける者がいた。

 咄嗟に振り向き、声の主へと注意を払うイエロー、だがそんなイエローとは正反対な態度でランは、

 

「大丈夫ですイエローさん、この方は……」

 

 イエローの前に立つ人物に対して警戒の色が見られないフウとラン、彼等の態度を習いイエローもまた警戒心を無くし、再度目の前の人物を見定める。

 白が混じったオールバックの髪に、青のコート、紫のハーフパンツといった格好の紳士的な中年男性、その立ち姿には何処と無く気品の様なものが漂っており、その姿に安堵の声を漏らすランの言葉を、フウが続けるのだった。

 

「ルネシティ、前任ジムリーダーの……アダンさんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 海底洞窟、そこは人知の及ばぬ最深海、128番水道にあるその場所は人工の光までで無く、太陽の光すら届かない完全なる闇の世界。

 今だその領域に足を踏み入れた人類は皆無であり、大自然が生み出したその洞窟がある海域には様々な噂が飛び交う――無人の幽霊船というポピュラーなものから、そこに眠る超古代ポケモンの噂、時折影を見せるという大型ポケモンらしきUMAの影等という、事実や極最近発生した噂まで。

 そんな場所に、あるはずの無い"光"が刺した。潜水艇、かいえん一号の光だ。

 

「おぉ、ここが……!」

「海底洞窟!」

 

 たどり着いた海底洞窟内、その入り口にてまず最初に声を発したのはアオギリとマツブサ、二人のリーダーだった。

 潜水艇の明りのみで照らす薄暗闇の洞窟内には人が手を加えた様子も、人工物の痕跡も一切無く、未開の地という印象を今までの見識よりも更に強く二人の人物に受け付けてくる。

 そうして潜水艇から降り、地へと足をつけるアオギリとマツブサ、その二人に続きアリの子の様に続々と現れる二人の幹部、団員達、海底洞窟へとたどり着いた十数名全員が地面へと足をつけた所で、

 

「進路は二手に分かれている、ここでお別れだな」

 

 海底洞窟入り口、二手に分かれた道の前で、そして彼等は袂を分かつ。

 左へと続く道にはマツブサ率いるマグマ団が、右へと続く道の前にはアオギリ率いるアクア団が、それぞれの進路を前にし静止する。

 そしてマツブサの言葉に、アオギリは微笑を浮かべて、

 

「次に会う時には、フフフ、どちらが正しいか答えが出ているはずだ」

「どんな答えでも好きなだけほざけよ、ただしテメェの口がまだ開ける状態だったらな」

 

 掛け合い自体は極端に少なかった。

 因縁深い二人のリーダー達の会話はそれで終了し、彼等は部下を引き連れて奥へと突き進む。

 グラードンを起こし、大地を広げる為。

 カイオーガを目覚めさせ、海の力を増幅させる為。

 似て非なる目的を持った彼等二人は歩みを進め、ホカゲ、シズクの両幹部もそれに続き、他団員達も付き従う。

 

 そんな中、マグマ団員に紛れ込んだクリアは最後尾にて、しきりに動く一つのモンスターボールに手を置いて、中のポケモンに静止を促す。

 クリアの意図を読んだのだろう、しかしすぐにはその意を受け付けず、少しの間ボールの中で暴れていたポケモン、タマザラシはマツブサとアオギリが別れ、歩を進め始めた辺りにようやく大人しくなった。

 

(悪いなタマザラシ……お前を"あの人"に渡す訳にはいかなくなったんだ)

 

 心の中でそう呟き、クリアは前を行く団員に続いた。

 クリアのタマザラシは、元々は別の人物との再会を願って、今クリアの手の中にいる。

 その人物とはアクア団幹部SSSのシズク、浅瀬の洞穴にてシズクと出会ったタマザラシは、すぐにその場から消えたシズクについて行きたかったらしく、その意を汲んだクリアによって彼にシズクの下へと送り届けてもらうべく、クリアと一緒にいた。

 しかし今しがた、ようやく再会出来たタマザラシだったが、クリアはその約束を反故にしたのだ、そしてその理由は明白、シズクがアクア団、その幹部だったから。

 マグマ団に潜入し、アクア団のアジトに到着した際にシズクの姿を発見した時、人知れずクリアは大いに驚いた。

 まさか自身の探し人が悪の組織の幹部とは思ってもいなかったのだろう、驚いて、すぐに冷静になったクリアはボールの中で暴れるタマザラシを静かに押えて、より一層自身の影を薄くした。

 ホカゲにも、シズクにもクリアは面が割れている、何よりもまず素性がバレない事を優先し、クリアはその時深くフードを被りなおしたのだった。

 

(まさかシズクさんまで悪の組織だったなんてな……クソッ、どうして俺の知り合いにはこう人知れず悪の組織やってる奴が多いんだよ……!)

 

 その時クリアの脳裏に現れたのは、矢張りヤナギの顔だったのだろう。

 それに加え、クリアが知らないだけでミナモシティで彼が出会ったカガリもまたマグマ団で、クリアがチョウジで初対面したマチスもまた元ロケット団。

 彼の周囲には、彼が今だ事情を知らない人物まで含めて確かに悪の組織の――だった人間が意外と多くいたのだ。

 

 

 

「おお! 見つけたぞ!」

 

 薄暗い海底洞窟を、懐中電灯という名の人工物の明りのみで突き進んでいたマグマ団一向だったが、不意に聞こえたマツブサの歓喜の声に彼等は動きを止めた。

 足元を細い水の線が走り、頭上からはポタポタと雫が垂れ落ちてくる開けた場所。

 グラードンは、そんな場所の中心で静かに眠りについていた。

 もしかしたらアクア団、アオギリの方も同様の声を発しているのかもしれない、そんな考えが一瞬最後尾のクリアの頭に浮かび、しかしクリアはすぐにそんな雑念は消し去る。

 

(手を拱いたまま、とうとうたどり着いてしまったけど、さて一体どうするか……)

 

 そうこうしてる間にも、グラードンを呼び起こすべく、マツブサの指示によりホカゲ、そして複数の団員達が炎ポケモンを出してグラードンを刺激すべく今にも技を繰り出す準備を推し進めている。

 このまま事が進めばグラードンは目覚め、そしてホウエン地方に災厄が訪れるだろう。

 ――否、恐らくはもう既に手遅れ、先程感じた地鳴りはもしかするとアクア団が先にカイオーガを復活させた影響なのかもしれない。

 となると、今グラードンの復活を阻止した所で、カイオーガが目覚めてる時点で最悪の状況は免れないと言っても過言では無い。

 

(だとすると、目標は一つ、いや二つだ……!)

 

 いつか見たマグマッグ含む、複数の炎ポケモンがグラードンへ目掛け一斉に"かえんほうしゃ"をぶつける。

 洞窟内を熱気が包み、周囲の興奮も除々に上昇し、その波に乗る様に滑らせる様にクリアは少しずつ前へと移動する。

 不自然にならない様に、眼前のグラードンへと視線を注ぐマグマ団員達の視界に入らない様に。

 そうして団員達の最前列へとクリアが移動した、まさにその時だった。

 

「よくやったぞ、ホカゲ!」

 

 マツブサの声が聞こえた、そう思った瞬間、閉じられていた瞳に光が宿る。

 大地が揺らぎ、壁にヒビが入り天上から砂崩れが落ちてくる、そして超古代ポケモン、グラードンは復活の咆哮を上げた。

 目の前にしたら分かる、その力の大きさ、天候をも――自然をも左右する超古代ポケモンの強大さ、その大きさにクリアは思わず目を見開いた。

 過去数度伝説のポケモンと遭遇した事があるクリアだったが、その遭遇に慣れたかと言えば答えはノー、同じほどの力を持つルギアと相対した事もあったが、その時同等のプレッシャーをクリアは感じていた。

 何分ルギアとの対決時はクリアは一人では無かった、三人の図鑑所有者が味方についていた分気も楽だったのかもしれない。

 だが今彼の周囲を取り囲んでいるのは全員が敵だ、その事もあっていつも以上の疲労と緊張がクリアの身体を蝕んでいく。

 

「ホカゲ、送り火山で奪ってきたアレを出せ!」

「オウよ頭領!」

 

 呆気に取られるクリアだったが、マツブサの言葉に我を取り戻す。

 気づけばホカゲが二つの宝珠を取り出し、今にもマツブサに渡そうと宝珠を差し出していた所だった。

 それはグラードンとカイオーガを操る事が出来る唯一無二の道具、そしてマグマ団が持っているアクア団に絶対に勝てるという最大のアドバンテージ。

 いくらカイオーガが目覚めようが、カイオーガの力もまたグラードンと同じく強大だろうが、その宝珠から静止の命令さえ下してしまえば何の脅威も無い。

 

 ――そしてそれは、グラードンも同じ事、宝珠から命令さえ発してしまえばグラードンもまた同じ様に無力化出来る。

 つまり、その二つの宝珠すら奪取してしまえば、後はどうにでもなるのだ。

 そしてクリアは腰についた一つのモンスターボールへと手を伸ばして――、

 

「ア、アクア団ッ!!」

「何だと!?」

 

 在らぬ方向を見上げて叫び、その声に釣られる様にマツブサ、ホカゲ、その他団員達もまたその方向へと目を向ける。

 当然だ、今ホカゲが手渡そうとしている二つの宝珠、その存在がアクア団側にバレてしまえば意地でも奪取しに来るだろう、否それ所かグラードンを操る紅色の宝珠まで奪われ、グラードンのコントロールすら奪われる危険もある。

 そうなれば目も当てられない、自身達がカイオーガにしようとしている様に、グラードンを完全無力化され、カイオーガによる海の侵略が大地を襲う事となるのだ。

 だからこそ、今目の前に迫る危機に一時的にも彼等が目を向ける事は必死であり、その隙を突く事こそがクリアの狙い。

 視線が上へと集中した一瞬、その瞬間、モンスターボールから飛び出たPはトップスピードでホカゲへと迫り、そして――その手に持つ二つの宝珠を奪い取る。

 

「なっ!?」

 

 それにまず一番に気づくは矢張りホカゲ、それと同時にクリアもまた振り向き走り出す、その反動で彼のフードが後ろへと下がり素顔が露になる。

 その顔に、見覚えのある顔に一瞬驚きの表情を作るホカゲ、ホカゲよりも一瞬遅れて事態に気づくマツブサだが、その頃にはもう二つの宝珠はPの手の中だ。

 そうしてマグマ団員達の間を縫う様に走るクリアと、それに追いつくP、だがマツブサもまたそのまま黙ってみている訳が無い。

 すぐに状況を理解すると、鬼気迫る表情で、

 

「テメェェェラァ!! 今すぐそのネズミをとっ捕まえろォォォ!!」

 

 凄まじい程の怒気、雄叫びの様な叫び声を上げる。

 その声に一瞬身が竦みそうになるのを感じながらも、精一杯に足を前へとやるクリア、だがマツブサの怒号を聞いた団員達がクリアへと掴みかかろうと手を伸ばす――が、

 

「誰が……捕まるかよ、エース!」

 

 思わぬ強風に、クリア周囲の団員達が一瞬怯み、直後一体のリザードンが現れ、その背にクリアを乗せ飛び立つ。

 見慣れない黒い、色違いのリザードン、その背に乗ったままPをボールへと戻し、手の中に二つの宝珠を持ったまま、クリアは一度マツブサの方へと視線を向けた。

 そこには怒りの形相のマツブサと、驚きと敵意が混ざった眼差しのホカゲがクリアの方を見上げている。

 

「テメェ……一体何者だ……!」

 

 振り絞る様な声を出すマツブサは、敵意の篭った眼差しを向けながら宝珠を持ち去った(クリア)の姿をその眼に焼き付けている。

 マツブサ自身、まさか自身の組織に鼠が入り込み、あまつさえ目的成就間近で邪魔をされるとは思ってもいなかったのだろう。

 悔しそうに歯軋りをするマツブサに、クリアはマグマ団の制服を脱ぎ捨てながら告げる。

 

「クリア……ジョウトジムリーダーの一人"瞬間氷槍"のクリアだ」

 

 




ちょっとばかり海底洞窟行きの人間を改変しました。

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