ポケットモンスターCLEAR   作:マンボー

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六十話『vsアンノーン マグマの様に赤く』

 

 

 クリア、レッド等図鑑所有者とロケット団三獣士が激突したカントーナナシマ"5の島"、そんな島にも、変わらず朝はやってくる。

 夜明けとほぼ同時間、ブルーと彼女のカメックスは水の究極技"ハイドロカノン"の修得に成功した。

 本来、2の島にあるキワメの修練場での特訓を必要とする究極技の修得、それをブルーは、本来ならば考えられない程の時間で修得したのだ。

 それはきっと、彼女の決意の表れ、両親を人質に取られたブルーの必死さがポケモンへと伝わった結果なのであろう。

 

 だがそんな彼女とは逆に、クリアは炎の究極技"ブラストバーン"を未だ修得出来ずにいた。

 通常ならばそれが普通の事――むしろブルーやレッド、グリーンの修得速度が異常な早さというだけなのだが、しかし今の状況下でそんな泣き言を言っている場合じゃない。

 夜が明けた、それはつまり彼等とロケット団との戦いが再開する合図だと言って良い。

 デオキシスという圧倒的戦力を前に、対抗する戦力は多いに越した事は無い、故にクリアは技を修得する必要があったのだ。

 それは個人としての目標というレベルでは無く、全体の中での義務、これから行う作戦成功率を少しでも上げる為に、彼がクリアしなければいけなかった課題。

 

「何を暗い顔して落ち込んでいる」

「……別に、落ち込んでなんか無いです。"せーしんしゅぎょー"とか言う奴です」

 

 唐突に掛けられたグリーンの言葉に、クリアはどんよりとした低い声で返した。

 未だ右手首にはまる究極技が宿るリング。そのリングを見つめて、クリアは炎の究極技"ブラストバーン"のイメージを鮮明に頭に思い浮かべる。

 

「確かに俺達はワタルとの戦いの時に"ブラストバーン"をやってのけたはずなんだ。後はその時の感覚、それを思い出すだけ、ただそれだけのはずなんです」

 

 独り言の様な口調、声量、声色で呟いたクリアの言葉に、グリーンは祖父の話を思い出す。

 過去、スオウ島での決戦後、姿を眩ましたクリアに呆れながら彼の祖父オーキド・ユキナリは話していた、クリアが使った"青い炎"は究極技の可能性が高いと。

 直に彼や彼の祖父がその目で見た訳では無く、実際にはイエローからの情報を元に推測した結果なので確実な判断は下せなかったが、それでもワタルの圧倒的戦力を前に、一時とは言えそれら全てを上回った強さは本物だ、故に可能性は微量ながらも存在し、だからこそグリーンはその可能性に少しばかりの期待を持っていた。

 

「だが現実にお前は修得出来なかった」

 

 期待を持って自ら推薦したからこそ、あえてグリーンは厳しい言葉を選びクリアに告げる。

 

「究極技を覚え切れなかったというのなら、今のお前に俺達と肩を並べて前線に立つ資格は無いという事になる。それだけは理解して貰うぞ」

 

 船の操縦室の上、キワメの傍で腰を下ろし僅かに震えたクリアを眺め、少しだけ目を細めてからグリーンはクリアに背を向ける。"言うべき事は言った"まるでそう背中で語る様に。

 一定間隔で上下に僅かに動く船上で、クリアは尚もリングを見つめ技のイメージを浮かび続ける。

 制限時間(タイムリミット)は訪れた――だがまだ終わりでは無い。

 傍らに座り込んだ黒い火竜、エースもまた静かに目を閉じて微動だにしない。

 究極技の伝授を行っているキワメの了承も得ている、不便と言えばそんな彼女の傍からそう離れる事が出来ない、という点だがそれについてはそう問題は無いだろう。

 何故なら今クリアが共にいるのは初代ポケモン図鑑所有者達。ポケモンリーグ上位入賞者達にして、全図鑑所有者の中でも恐らく最も実力の高い者達なのだ、そんな彼等が敗北に喫する姿等、今のクリアには考えられない。

 ともすれば、今クリアがやる事、これから行う事は唯一つ。

 

(残る希望は"実戦"の中での成長のみか……いや、今までだってずっと、俺は追い詰められてからの巻き返しを繰り返してきたんだから、多分今回も大丈夫だろう、何も心配なんて無い)

 

 クリアはリングのはめられた右手を力強く握り締めた。

 いつだってそうだった。常に追い詰められ、死の淵まで追い込まれてからこそ、クリアという少年はその真価を発揮して来た。

 スオウ島でのワタルとの決戦時の能力の覚醒、仮面の男ヤナギとの対決時には百を超える敗北の末ようやく勝利をもぎ取り、ホウエン大災害時には絶体絶命の危機の中だったからこそルギアとの再会を果たした。

 ならば今回だって、究極技を修得する機会があるとすればそれは戦いの中だけ、ギリギリの戦況の中で研ぎ澄まされる自身の感覚を信じる他、今の彼にはもう残された道は無い。

 

(大体"究極技(ブラストバーン)"が修得出来なくたって何の支障も無いんだ。三人の先輩達は俺なんかと違って技の修得に成功しているんだし、そもそも俺自身、これ以上強くなる必要なんてどこにも無い)

 

 そう考えたクリアの気持ちは本心から来るもの。元々防衛の手段としてバトルの特訓を初め、今ではジムリーダーとしても十分だと言い得る実力を身につけている。

 緊迫した現在の状況下では究極技の修行を怠る訳にはいかないし、クリア自身そんな気も無いのだが、しかし事が終わった後、もしもクリアが究極技の修得を出来ずにいたなら恐らくクリアは修得を諦めるのだろう。

 それは矢張り必要性を感じないという唯一点に限り問題。自衛の手段は十分にあり、一人ジョウトにいた時と違い"強さへの執着"がいつのまにか薄れてしまっている今のクリアには、究極技の存在はさほど輝いて見えていないのだ。

 尤もそれは、本人も漠然としか感じておらず、当然周囲の人間も気づかない問題な訳なのだが。

 

 

 

「……下が騒がしいな、グリーン先輩とブルー先輩、そんなにミュウツーの事が気になるのかな」

 

 ただひたすらに技のイメージに集中していたクリアだったが、ふと下方を見ると、そこには何やら話してる風な先輩三人の姿。

 どうやら彼等は今日合流した遺伝子ポケモン"ミュウツー"の存在について意見をかわしているらしく、レッドのみにしか意思を伝えていないミュウツーが、その考えをレッドを中継役にする事でグリーンやブルーにも自身の考えを伝えていたのだ。

 遺伝子ポケモンのミュウツー、かつてロケット団によって生み出され、彼等ロケット団の利益の為に利用されようとした経緯から、基本このポケモンは人を信用していない。

 故に孤独な旅の中で人に意思を伝える術(テレパシー)を身に付けたとしても、その能力で対象とする人物は限られてくる。

 その人物こそがミュウツーを初めてボールに納めたレッド、そしてスオウ島の決戦で共に戦ったイエローの二人――"共に戦った"という条件だけならクリアも例外では無いのだが、その戦いの最中終始ミュウツーと意思を共有していたのは"癒す者"であるイエロー唯一人だけであって、結論クリアは十分な信頼をミュウツーから得られてはいなかったのである。

 尤も少しばかりは、他の者達より一歩先を進んだ位置にクリアはいるのだが。

 

(それにしても……突然現れたミュウツーにも驚いたけど、俺にとっては"あっち"の方が結構衝撃だったんだよなぁ)

 

 自分にはさほど関係無いと判断しているのか、大した興味も持たずクリアは更に下、自身の真下へと目を向けた。

 そこにあるのは当然床、彼が床だと認識しているそれは、同時に運転室の天井という事になり、そしてその運転室には船乗りの男ともう一人、ミュウツーによって救い出されたらしい女性が未だ気を失い眠っていた。

 

(四天王カンナ、俺が初めて戦った実力者)

 

 一瞬、腹部に鈍い痛みが走ったのは恐らく気のせいだろう。その部位にかつて空けられた穴は綺麗、とまではいかないまでももう完全に治っている。

 クリアが記憶している中で初めて死の恐怖を感じた相手、そんな相手が今自身の下で眠り、そして三獣士のナナシマ襲撃の際には味方として戦ってくれたらしい。

 かつてルール無用の戦闘をやりあった相手が味方という出来事は、クリアにとってはそう珍しい事でも無いのだが、それでもどこか感慨深いものをクリアは感じ取っていた。

 

(思えば俺のこの世界での立ち位置を決めたのは"四天王事件"だったからなぁ、あれが無ければ俺がジョウトに渡る事も無かっただろうし、何故だろう、複雑な気分だ)

 

 感謝の言葉等当然無いが、だが別段憎んでいると言われれば答えはノーだ。

 "四天王事件"でクリアは何度も死にかけ一度死んで、それ程の壮絶な体験をしておきながら、その事件の首謀者の一角を恨んでいないというのもおかしな話だが、事実なのだから仕方が無い。

 現にクリアはあの事件があったからこそ、イエローと出会い、マサキを初めとした様々な人達と交流し、結果的にジョウトに渡ってヤナギに弟子入りし、そしてねぎまやヤドンさん、レヴィというポケモン達と仲間となる事が出来たのだ。

 

(まっ、過ぎた事を悔んでもしょーがないし、なる様になるだろうね)

 

 右手首に下がるリングを見つめてそう呟いて、そうしてすぐに彼は自身の修行へと意識を戻しかける――が、しかしすぐにクリアは意識を前方へと向けた。

 理由は簡単、彼等の目的地がようやく見えてきたからである。

 気づくとその場にいた意識のある全員が"ある建物"へと目を向けており、更にはレッド、グリーン、ブルーの三名からは謎の光が"ある建物"へと伸びていた。

 光が伸びた機械"バトルサーチャー"、戦意のある者を示す機械、そしてその機械が何かに対して光で指し示しているという事は、つまり彼等三人に戦意を向けている者がいるという証拠。

 

「7の島の最突端、かつてナナシマの島民達が腕を磨く為"たいむあたっく"を競ったと言われる施設"トレーナータワー"じゃ」

 

 そしてその光が向けられたナナシマ最後の島である7の島、その島に立つ塔を見上げてキワメが言う。

 彼等の目指した目的地はナナシマラストとなる7の島、そしてバトルサーチャーを使い、敵の位置も捕捉も完了した。

 今レッド等カントー図鑑所有者達三人同時に戦意を持つ者となると、それは矢張りロケット団しか有り得ない。

 ナナシマ住民達もレッド達に対して敵対心を持っている様だが、それは"敵意"であり"戦意"では無い、関わりたく無いと考えるナナシマ住人達にバトルサーチャーが反応する事はまず無く、故にロケット団が件のトレーナータワーにいるという確信にも繋がるのである。

 

「……何か、来る」

 

 敵を眼前とした状況、そんな中、不意にクリアは呟いた。

 同時にその場にいた全員が異変に気づく。彼等の目的地であり三人のカントー図鑑所有者達に戦意を向ける者がいるトレーナータワー、その場所から黒い影が飛び出し此方へと向かって来たのだ。

 影の正体は大量のアンノーン。ロケット団によって解かれたアスカナの鍵、七つの石室、それによってアンノーン達は現在、ロケット団の管理下に置かれているのである。

 そして彼等アンノーンの目的、仕事はロケット団の障害の排除、つまりはレッド達の進路を阻む事となる。

 その証拠に、朝方もシーギャロップ号の推進機に張り付いて彼等の船出の妨害をしており、その際は三人の図鑑所有者と三位一体の究極技によって退ける事が出来たが、今クリア、レッド等の前に立ち阻むアンノーンの群はその時の比では無い。

 

「アンノーン! それもこの数、ロケット団側についているアンノーンがこれだけ現れた事から考えると……」

「矢張りあの"とれーなーたわー"がロケット団に本拠地と見て間違い無さそうじゃな」

 

 クリアの言葉を繋ぐ様にキワメが言った、直後の事だった。

 彼等の下方から、球体状の何かが勢いをつけて飛び上がっていく。

 

「なっ……ミュウツーと、レッド先輩達!?」

 

 その球体を見てクリアは叫ぶも、その叫びは彼等には届いていない。

 球体に形どった透明のバリアの中、その中にミュウツーとレッド、グリーン、ブルーの三人はいた。

 レヴィの張る"バリアー"とほぼ同じ形であるミュウツーが作る強固なバリアボール、それは丸く三百六十度全方位に"バリアー"を展開したもので、それで眼前のアンノーンの群れを強引に突破しようという事らしい。

 

「凄い……あの数のアンノーンをまるでアリの子の様に蹴散らしながら進むなんて……」

 

 率直な感嘆がクリアの口から飛び出る。

 そんなクリアの言葉通り、現にクリアの目の前で彼等はトレーナータワーまでもう一歩、という所まで寄っていた。

 遺伝子ポケモンであるミュウツー、その能力は数多いポケモンの中でも最上位の高さを誇っており、恐らくレッド達が持つ"戦力"という名のカードの中でロケット団のデオキシスに対抗し得る唯一の存在。

 ――だがトレーナータワーまでもう一歩、そこまで来て、ミュウツーのバリアボールが弾かれ、進路を絶たれる。

 

「弾かれた!? あれは、アンノーンの群れが重なり合っているのか!」

 

 クリアの視線の先で、それまで進撃を続けていたバリアボールが弾かれ一旦停止する。

 圧倒的な力を持つミュウツー、そのバリアボールを防いだのはアンノーン――その群れ、夥しい程に大量のアンノーンの渦だった。

 いくらミュウツーが強力な力を持つポケモンとは言っても、所詮は単身に過ぎず、数の上ではアンノーンが圧倒的に有利。

 だからアンノーン達は、トレーナータワーが見えなくなる程の数で、その周囲を回転し巨大な渦となってミュウツー等の侵攻を防いだのである。

 確かに個々の力では劣るものの、しかし力の弱いもの同士でも合されば巨大な力となるのだ。

 

「……だけど」

 

 だがしかし、それでも届かない地点はある。

 

「あれは、多分"サイコウェーブ"だけど……前見た時とは比べ物にならない威力だぞ……」

 

 勿論、比べ物にならない程"強まっている"という意味である。

 数の暴力によって行く手を遮るアンノーン、その突破法としてミュウツーが行使した策は至ってシンプルなものだった。

 全てのアンノーンの力を更に上回る力をもってしてその盾を打ち崩す。

 念動の巨大な渦である"サイコウェーブ"を巨大な竜巻の様に作り出し、それによって邪魔する全てのアンノーンを巻き上げ崩すという力技。

 一握りの強者のみに許された横暴な力の行使。

 

「あ、レッド先輩達屋上につい……」

「で、お前はいつまで実況してるつもりじゃ!」

「あだっ! キ、キワメさん!?」

 

 最早点の様になってしまったレッド一行、かろうじて屋上に降り立つ所までは視認出来たものの、それ以上の情報はシーギャロップ号の上からは遠すぎて確認出来ない。

 それを目を細めて必死に確かめようとした所で、キワメがそんなクリアの頭を小突く。

 

「何をぼけーっと見ておるんじゃ、わしらも行くぞ! 少しでもレッド達の助けになるやもしれん!」

「……えぇ、分かってますよキワメさん」

 

 答えて、クリアはエースに目配せして、エースもそれに応えた。二枚の黒翼を広げて、いつでも飛び立てる用意をする。

 

「多分これが、最後の好機(チャンス)になるはずなんだ。"ブラストバーン"、修得してみせますさ」

 

 そう言ったクリアとその傍らのエースを視界に映し、キワメはニヤリと笑った。

 そうしている今でも、アンノーン達は陣形を建て直し、新たな侵入者の進路を阻む努力を進めている。時間に余裕等無く、ミュウツーが蹴散らし、大幅に戦力ダウンしているアンノーンの群れを突破するには今が最大の好機、そして同時に、クリアは究極技を修得する最大のチャンスが今この瞬間だった。

 クリアはチョウジジムのジムリーダーである。無論、この騒動が収まれば彼はジムに戻りジムリーダー業を再開しなければならない。

 故にクリアには究極技の修行を長々と行う時間は残されなく、またキワメもそんな長期間に渡ってまでクリアの面倒等は見ないだろう。

 だからクリアは、この瞬間にかけるのだ。

 

(グリーン先輩は"前線"に出る資格は無いと言った。つまりそれは、キワメさんと共に後方で究極技を完成させろという事なんだ)

 

 その予想に確信なんて無く、全てを彼の都合の良い風に解釈したに過ぎない。

 だがそれでも、無駄にネガティブに考えるよりも遥かにマシだとクリアは考え、そう思い込む事にしたのだ。

 生憎と今の状況は技を覚醒させるには絶好の機会である。

 数こそ減ったものの、ミュウツーの力無しでは突破が困難だった無数のアンノーンの壁、挑戦するには十分な課題だ。

 そしてクリアはエースの漆黒の背に跨った。

 

「おーい! ちょっと待ってくれよ~!」

 

 そうしてキワメの出したカイリューと共に飛び立とうとした丁度その時、彼等に声をかける者。この騒動の間、ずっと共に行動をしている船乗りの男だ。

 そしてその男が抱えた女性、意識が未だ戻っていないその女性の姿を見て、クリアは少しだけ複雑な表情をとる。

 

「俺一人をこんな敵地のど真ん中に置いてくなんて無しだぞ! 正直、俺一人で襲われたら一溜まりも無い!」

「威張って言う事では無いが……まぁ仕方無いのう、お前さんはわしのカイリューに乗れ、カンナはクリアのエースじゃ!」

「え、こっちにカンナを!?」

「なんじゃクリア、何か不都合でもあるのか?」

「いや、まぁ、無いですけど……」

 

 どこか歯切れの悪いクリアの返答に疑問を抱きつつも、キワメはそれっきり質問はしなかった。

 キワメの指示通り、船乗りの男がカンナをクリアのエースまで運び、クリアがカンナを自身の後ろに寝かせる。

 

(……うぅ、カンナが起きた時、気まずくなりそうで嫌だなぁ……)

 

 心中でだけ呟いて、そしてエースとカイリュー、二体のポケモンが同時に空高く舞い上がる。

 目的地はトレーナータワー、目的はレッド達のサポート、最終目標はロケット団の野望の阻止。

 皆が一丸となってその目的に向かっている中、無論クリア一人がそんな我儘を言っていられる状況では無い。

 だがクリアは一度カンナに殺されかけているという経歴を持つ。クリア自身、別にいつまでも過去を引き摺るタイプでは無いのだが、それでも今彼の後ろにいるカンナは別だ。

 クリアはこのナナシマを訪れてから、否殺されかけたその時から、一度もカンナと言葉をかわしてはいない。

 彼が和解した大抵の敵とは、戦いの後言葉をかわして十分な信用を得ているのだが、しかしこのカンナに関してはそんな暇も機会も無かった。

 だからクリアは未だカンナに心を許せずにいたのである。いくらレッド達と共闘していようが、認めてない相手に背中を預けて平然といられる程、クリアという少年の度量はそう大きくないのだ。

 

「ッ……エース、"かえんほうしゃ"!」

 

 そんな一抹の不安を振り払うが如く、クリアはエースに技の指示を出す。

 複数のアンノーンをまとめて払う業火が噴出され、トレーナータワーまでの"道"をこじ開ける。

 ――が、現実はそう甘くない。開いたと思った"道"はすぐさま別のアンノーンによって塞がれ、またしても番兵が立ち並ぶ。

 その現実に、クリアはどこか苛立たしそうに、

 

「チィ! どけてもどけてもキリが無い!」

「全くだよ、本当にレッド達はタワーの中に入って行ったのかな」

「うむ! それはしかとこの目で見たぞ!」

 

 シーギャロップ号から離れても尚、トレーナータワーとはまだ距離があり、当然その詳細等肉眼で見えるはずも無いのだが、"まじっくはんど"の様な機械が――、といった感じで説明し、視力は"6.0"あるらしいキワメの言葉に、クリアと船乗りの男は苦笑いで応える。

 そうしている間にも、また一匹のアンノーンがキワメのカイリューへと近づき船乗りの男を襲おうとした所で、クリアのエースが尾で叩いてそれを退けた。

 クリアとキワメは究極技のリングの性質上そう遠くには離れられない。最大六メートルという距離を保ちながらも尚タワーに進もうとするが、矢張りアンノーンの壁は厚い。

 

「クソッ、何が"導く者"だよ、エース! まだ何も兆しは無いか!?」

 

 問いかけてみるも、矢張りエースにそれらしい気配は無く、エースもまた憎々しげに白い歯を垣間見せる。

 究極技"ブラストバーン"、その修得は困難を極めるという事を最初から覚悟していたクリアだったが、だがここまで苦難してしまうと流石に焦りというものが出始める。

 修行を開始してもう随分と時間が経った。だが今尚、修得に兆しは現れない。

 そもそも、クリアには"導く者"という独自に能力、特技があり、技の修得、可能性の開花という点に至ってクリアは恐らく誰よりも才能がある者なのかもしれない。

 現に彼はワタルとの対決時、"ブラストバーン"を偶然ながら発現してみせている。まだ未熟だった彼等はそれを"技"という形で残す事は出来なかったが、それでも一度は成功しているのは事実だ。

 だからなのだろう。一度の成功という過去が、重圧となってクリアに押しかかり、余計な焦りを生んでいるのである。

 

「ッ! クリア!」

 

 次の瞬間、キワメの叫びがクリアに届き、咄嗟に彼女の方向へ顔を向ける。

 だが目の前にあったのはキワメと船乗りとカイリュー、では無く、どこか怒った様子の"A"型のアンノーンの姿、その姿が視界一杯に広がっていた。

 焦りから油断したのだろう。今クリアが置かれている状況はジムリーダー戦等の公式なバトルでは無く、悪の組織の手先となったポケモンとのルール無用の野良バトルである。

 当然、アンノーンにとってはポケモンを狙うもトレーナーを狙うも自由であり、トレーナー自身が狙われるという事も念頭に置いていなければならなかったのだが、だが一瞬の油断と焦りが、クリアに最悪の隙を生んだのだ。

 

(マズッ……)

 

 そう思った時こそもう遅い。アンノーンは既に"めざめるパワー"の体勢に入っている。

 そして次の瞬間――氷の針がアンノーンを吹き飛ばした。

 

「"つらら……ばり"」

 

 一瞬理解が遅れてすぐに、呟きながらクリアは後方へとゆっくりと顔を向ける。

 そこにいる女性、先程まで意識を失っていた女性の方へ、今は咄嗟に出したのだろう手持ちのシェルダーを抱える女性へと。

 

「お久しぶりね」

 

 お互いに一度は生死をかけた戦いを行った相手だというのに、その女性、カンナは何事も無いかの様に彼に話すのだった。

 

「元気そうで何よりじゃない、クリア」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃5の島ではマサキとニシキが合流していた。

 ナナシマのポケモン転送システムの管理を担当しているニシキは、マサキと共にポケモン転送システムを作り上げた一人でもある。

 昨夜の事、クリア達と合流する前、ブルーが暴徒から追われてる際に彼女の逃亡を助けたニシキは、そのまま自身も暴徒から逃れ、今ようやくマサキと再会する事が出来たのである。

 

「それでマサキさん、これから一体どうするつもりですか?」

「どうするもこうするも、レッド達の手助けをするしかないやろ、それが結果的に"ロケット団"の目的を阻む事にもなるさかい」

「そう……ですね、でも一体どうやって……」

「それを考える前に、まずはホウエンにいるマユミはんとアズサはんに連絡せな」

 

 半壊し機能が麻痺した5の島のポケモンセンター、その内部に取り付けられた公衆電話に向かったマサキは早口にニシキに言った。

 ホウエン地方のマユミとアズサは二人共にマサキ、ニシキと共にポケモン転送システムを作り上げた同士である。

 デオキシスの能力について、"一つ思い当たる節"があるマサキは、デオキシスの謎を解き、少しでもレッド等に協力出来る様、その為にホウエン地方にいる彼女達へと電話を入れようとした。

 その時だった。

 

「よぉ、アンタ等」

 

 不意にかけられた声に、マサキとニシキは緊張状態を一気に最高潮へともっていく。

 敵はロケット団、どこで襲撃をかけられるか分かったものじゃない。

 迂闊に"ロケット団(その名)"を口にした事を後悔しながら、電話口から手を離してマサキは声の方へと視線を向けた。

 

「アンタ等今確かに"ロケット団"って言ったよな、そんでその後どこかへ電話をかけようとした所を見ると、どうやらただ怯えてるだけの島民って訳じゃねぇと見たが、どうだ?」

 

 そこにいたのは一組の男女だった。

 言っちゃ悪いが、お世辞にも綺麗とは言えない格好、まるで一戦終えばかりの昨夜のレッドの様な格好をした男女。

 金髪の男性と、黒髪の女性。

 

「せやな、大体(おう)とるけど、それがどないしたんや」

 

 敵か味方か、判別が付かずに慎重に言葉を選びマサキは訊ねた。

 すると彼等、男性の方がニヤリと笑って、

 

「なぁに、もしアンタ等が"ロケット団(やつら)"に一杯食わせようってんなら、俺達も一枚噛まさせて貰おうと思っただけよ」

 

 元マグマ団幹部三頭火の男、ホカゲは言い放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 無数のアンノーンと対峙しながら、その渦中でキワメ、船乗り、クリアの三名は遂に目覚めたカンナの言葉を黙って聞いていた。

 

「私は確かに三獣士のリーダー格"サキ"に敗れた。だけどその時、私のルージュラが放った凍気をサキの左足にまとわせたの。そしてそれは発信機の様にサキの居場所を教えてくれる、それによると……三獣士、少なくともサキはトレーナータワーの中にはいない。今は洋上を6の島へ向かっているわ、それも物凄いスピード、恐らくポケモンでは無い飛行マシンの様なものでね」

 

 カンナが見せたコンパクトレンズの形を模した探知機、そして恐らくそこに示されてる位置に、現在三獣士の一人サキがいるのだろう。

 そして今のカンナの話が本当だと仮定して――否恐らく本当なのだろう。彼女が今クリア等に虚偽の情報を教える意味も動機も無い。

 何故ならこのナナシマ、4の島はカンナの出身地であるという情報は、クリアも掠れた記憶の中に持っているものであり、その情報が確定されてしまった今では、それは揺らぐことの無い事実だからだ。

 

「じゃ、じゃあ今トレーナータワーの中にいる敵ってのは……?」

「考えられる事は唯一つ、タワーの中でレッド達を待ち受ける敵は……」

 

 思い出したかの様に言った船乗りの言葉に、キワメが返答する。

 レッド達がミュウツーと共に飛び立つ前、彼等の手元にあったバトルサーチャーからは確かに線がトレーナータワーに向かって伸びていた。

 その事から、トレーナータワーにはレッド達に戦意を持つ誰かが確実にいるという事になり、それが三獣士で無いとすると、その相手は極端に限られる。

 三獣士では無い者で、レッド等に戦意を持ち、かつロケット団が支配する現トレーナータワーに進入出来る人物。

 

「……ロケット団の首領、サカキ」

 

 呟いたのはクリアだった。その呟きにキワメも首を縦に振って同意の意を唱えた。

 

「なるほど、確かにその可能性は十分に考えられるわね」

 

 クリアとキワメの意見にカンナも概ね同意の様である。

 ロケット団首領サカキ、クリアにとっては有名なロケット団の首領にしてある意味別次元の人物だった、という印象位しか無い人物。

 尤も、クリアはかつてスオウ島での決戦時に一度助けられた事があるが、だが同時に彼は忘れていない、ロケット団が現在の彼の手持ちであるPとVに行った所業を。

 その事からクリアはサカキに対する印象を、強い恨み等までは持たないものの、助けられたからと言って感謝等しない。所詮相手は悪の組織のボスで、基本自身の敵という印象のみで止めているのである。

 

「だけど、そうだとすると尚の事助力を急いだ方がいいんじゃ……!」

「うむ。確かにその通りじゃな!」

 

 タワーの中に潜む敵がサカキと仮定すると、尚の事レッド達の危険度は増す。

 当然だ、悪の組織のボスクラスとなると、その実力は例えチャンピオンを相手取ったとしても、それは勝るとも劣らないものである可能性が高い。

 少なくとも、かつてロケット団の残党を率いていたヤナギを超える実力者をクリアはそれから一度も見ていない。そしてサカキもあのワタルを一人で一度は追い詰めた程の男だ。

 これならばむしろ三獣士が潜んでいてくれた方が少しはマシだったと思える程の事なのである。

 

「カイリュー"りゅうのいぶき"!」

「エース"かえんほうしゃ"!」

 

 先程よりも更に強引にアンノーン達を蹴散らして前へと進むクリア達。

 だがここに来て、ようやく光明が見えてきた。

 

「クリアよ! あの壁の付近、あそこの守りが手薄じゃ!」

 

 キワメが言って指差した先、トレーナータワーの壁、確かにその場所はアンノーンの数が他と比べ少なく、防御の手がまわっていなかった。

 恐らくアンノーン達も疲弊してきているのだろう。ミュウツーの強行突破と合わせて、クリアとキワメのエースとカイリューとの連戦だ。疲れない方がおかしい。

 そして当然、クリアも(そこ)を目指して突き進む。壁等適当に壊してしまえばいいだけ、入り口が無いのなら作ればいいだけの事だ。

 

「"オーロラビーム"」

 

 瞬間、カンナのシェルダーが左方からクリア目掛けて迫ってきていたアンノーンを打ち落とす。

 どうやらクリアにとって死角となっていた位置からアンノーンが迫っていたらしい、先程の失敗で気を引き締めなおしたはずのクリアは驚いた様にカンナを見て、

 

「あら、意外だったかしら。一応、私もこのナナシマを守る為に戦っているのだけれど」

「……いや、別にそんな事は無……いや、意外だったな」

 

 一度言いかけた言葉を訂正して、言い直してクリアは続ける。

 

「俺は昔、一度アンタを殺そうとしたはずだけれど、よくそんな奴を守る気になれるな」

「別に、今更そんな昔の事を掘り下げるつもりなんか無いわよ。それとも貴方は、まだ私を殺すつもりでいるの?」

「なっ、そんな事はもう二度と……!」

「しないでしょうね。私の目の前で"あの子"に止められていたのだし……それなら私も貴方を守る事に躊躇なんて無い。安心して、貴方の死角は私がカバーするわ」

 

 言って、カンナは再度"オーロラビーム"をアンノーンに向けて放ち、またしてもクリアの背後より忍び寄っていたアンノーンを撃墜した。

 

「フフッ、それにしても、まさか本当に"氷使い"になるなんてね」

「……知ってたのかよ」

「噂で聞いたの、ジョウトのジムを任された"瞬間氷槍"という異名の少年の事」

 

 何がそんなにおかしいのか、クスクスと笑うカンナの様子にクリアはばつが悪そうに頬をかく。予期せぬ事だったとは言え、まさか本当にカンナの言葉の通り、"氷タイプ"のジムリーダーを務める事になろうとは本人も当然思っていなかった。

 それを早々な時期に当てられていた事が、どこか不気味で何故か悔しい気分となって、

 

「まぁ、それでも俺は"氷一色"って訳じゃないしね。どんな"色"のポケモンだって先導してみせるさ、悪いがアンタの言葉通りにはいかないぜ……カンナさん」

「クスッ……そ、残念ね」

 

 いつの間にか、わだかまりは消えていた。

 最早クリアは背にカンナを乗せた状況という事に違和感や恐怖等微塵も感じていない。

 むしろ一時のパートナーとして、四天王の実力は遥かに頼もしいものである。クリアの反応出来ない攻撃があったとしても、それを的確に落としてくれるのだ。

 

「クリアよ、面倒じゃ! 互いの最大技を放って残りのアンノーンまとめて壁を吹き飛ばすぞ!」

「了解です。キワメさん」

 

 答えてクリアとキワメは並び立った。

 邪魔なアンノーンはカンナが処理してくれる、問題は何も無い。

 立ち阻むアンノーン達も簡単には通してくれそうに無いが、それでもこの一撃にかけてみるしかない。

 "ブラストバーン"、お膳立ては全て済んだ。

 "かえんほうしゃ"の連打で技の予行練習は出来ているし、戦いの中の経験も十分に溜っているだろう。

 後は――撃つだけである。

 

「エース! 今度こそ、撃ち放て!」

 

 直後だった。キワメのカイリューが口から"はかいこうせん"を放ち、そのエネルギー波がアンノーン達に直撃する。

 絶大な威力を誇るカイリューの"はかいこうせん"、だがアンノーン達も"めざめるパワー"を複数発撃ち抵抗する。

 数の力でどうにか押し返そうとするアンノーン、意地でも押し通そうとするカイリュー。

 

 そして第二波、繰り出されたエースの炎がアンノーン達へと押し迫る。

 "かえんほうしゃ"として打ち出された炎は、次に大の字となって、急速な温度上昇が起こり、直後更なる変化をもたらす。

 尻尾の炎が荒々しく紅に燃え上がり、オレンジ色が混ざっていた炎の色が紅蓮に染まって、血の様にマグマの様に赤い、どこまでも赤い剛火へと変化し、そして――キワメの提案通り、エースとカイリュー、二匹の最大技が番兵のアンノーンごとタワーの壁を破壊する轟音が周囲に響いた。

 

 




ポケモンXYが楽しみ過ぎる今日この頃。
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