ポケットモンスターCLEAR   作:マンボー

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多分クリイエ書けない反動のルビサファ。


六十八話『vsマタドガス ホカゲとシズク』

 

 

 時は少しだけ遡る。

 

「チャモ! "ブレイズキック"!」

「"きりさく"で迎え撃て、ペルシアン!」

「今です、"アイスボール"!」

 

 バトルフロンティアは今、"ジラーチを我が物に"と企むガイル・ハイダウトが起こした喧騒に包まれていた。

 各関係者や数人のフロンティアブレーン達によって一般来場者の避難と暴走したレンタルポケモン達の鎮圧が進められている中、施設の一つ、バトルタワーの最上階でも一つの戦いが行われていた。

 ホウエン図鑑所有者のルビーとサファイアと元マグマ、アクア団幹部のホカゲとシズクの四人対ガイルの仲間、シャムとカーツの二人の戦いだ。

 ガイルの起こした騒動に助力する、と(かこ)けて石化し、無力化した五名の図鑑所有者を狙ったシャムとカーツだったが、その目的は以上の四名によって未然に阻まれる事となった。

 シャムのペルシアンの"(きりさく)"とサファイアのバシャーモ(チャモ)蹴り(ブレイズキック)が、火花を散らしてぶつかり合い、そこにすかさずシズクのタマザラシの身体を丸めた渾身の"体当たり(アイスボール)"が炸裂する。

 真横からの"アイスボール"の直撃を受けたペルシアンは飛ばされて、そのままの勢いで壁に激突した。

 

「くっ、マタドガス!」

 

 ペルシアンはもう動けない、そう判断してシャムはすぐに行動する。

 動けないペルシアンをボールへ戻し、代わりにマタドガスを外へと出す。

 そして彼女はニヤリと意味深な微笑を浮かべ、

 

「"えんまく"だ!」

 

 瞬間、マタドガスを中心にして視界を遮る程の黒煙が排出される。

 

「"えんまく"、目晦ましのつもりか?」

「しかしこれ程の煙幕では、奴等も私達同様に何も見えないのでは……」

 

 室内へと充満していく黒煙を吸わない様に口に手を当て、目を細めたルビーの鼓膜にホカゲとシズクの声が響く。

 確かにホカゲとシズクの言う通りである。流石にまだ室内一杯に、とまでの"えんまく"の量では無いがそれで無くても十分過ぎる程にガスは充満している。

 そうなると、"えんまく"を仕掛けられたルビー等は勿論、この様子だと当の本人達であるシャムとカーツもまた十分な視界を得る事が出来ていないだろう。

 お互いに相手の位置が判らない状況、その事に謎の危機感を感じたルビーは、ひとまず手探りに黒煙を掻き分けて、

 

「ひゃ!?」

「うん、やっぱりサファイアはすぐ傍にいたか、あの二人の位置も確認出来てるし、後は敵の位置だけだけど……」

「ちょ、ちょっと待つったいルビー! あ、あんた今ど、どこば触っ……!」

 

 柔らかい感触がルビーの人差し指を刺激した、やはりサファイアはその場から動かずルビーのすぐ傍にいたらしい、それに加えて、先のホカゲとシズクの声で、ルビーは二人が石像のすぐ近くにいるという事も把握する事が出来た。

 視界を奪われ、暗闇の中の奇襲を真っ先に疑ったルビーの思惑は外れてくれたらしい、彼の仲間は今の所依然として無事な様だ。

 その事にとりあえず安堵して、そしてルビーは次に――、

 

「ちょっとルビー、ちゃんと聞いとる!?」

「もう、少しうるさいよサファイア、一体どうしたと言うんだい?」

「ど、どうしたもこうしたも……その、あ……うぅ」

 

 どうやらサファイアは正常に会話出来なくなってしまった様だ。

 何事かはルビーには分からないが、口を噤んでしまうという事はそれほど重要な案件という訳でも無いのだろう。

 黒煙の中、顔を赤くしたサファイアはとりあえず放置して、彼は気を取り直して自身が取るべき行動に移る。

 

「……まぁどちらにしろ、僕らには関係無いよねZUZU」

 

 ルビーの言葉にラグラージ(ZUZU)は首を縦に振って応え、静かに目を閉じる。

 ラグラージは元々ルビーがオダマキ博士から貰ったポケモン"ミズゴロウ"が最終進化した姿、そしてそのミズゴロウは頭のヒレで水や空気の動きから目を使わずとも周囲の情報を得る事が出来、その能力はラグラージになった今でも変わらず、むしろミズゴロウの時よりも数段パワーアップしている。

 つまりルビーはラグラージのその能力を使って、目を使わずとも相手の位置を捕捉しようとしているのだ。

 相手の思惑が判らないからと言って動かなければ敵の思うツボだ、故にルビーはそんな状況でも変わらず反撃への打開策を考え、実行する。

 それが、ホウエン最強とも噂されるジムリーダー"センリ"の息子、ルビーの強さなのだ。

 

「ん、いたかいZUZU?」

 

 ルビーの問いかけに再度ラグラージは首を縦に振って、ラグラージが顔を向けた方向へルビーもまた視線を向ける。

 ラグラージが視線を向けた方向、その方向には特別な何かがある場所、という訳では無かった。

 今彼らがいる部屋はバトルタワーの資料室、それなりに珍しい代物や大事な記録物等が飾って有る部屋なのだが、ZUZUによればシャムとカーツの両名はそれらを盾等の用途に利用しようとすらしていないらしい。

 開けた空間、それがシャムとカーツの現在地、一瞬の疑問がルビーの頭に浮かんで、

 

「…………しゃ!」

「マズッ……」

 

 カーツの呟き、その最後がかろうじて耳に届いた、そう思ったと同時にルビーは唐突にサファイアを押し倒す。

 "えんまく"による黒煙、つまりはガス、それが室内を満たし、シャムとカーツがいる開けた空間とは即ちその部屋唯一の出入り口の事。

 そして最後のキーワードとしてカーツの呟いた"かえんほうしゃ"の指示、それだけで十分だった。

 突然のルビーの行動に、"好意を寄せている男性に頬を突かれた位で赤くなる程度に乙女なサファイア"が紅潮させた頬を更に赤に染めた次の瞬間、天地を揺るがす程の轟音が鳴り響いたのだった。

 

 

 

 ――そして時間は今に至る。

 

「……大丈夫かい? サファイア」

「うぅ……び、吃驚したったい……」

 

 ルビー等のいるフロア全てを揺るがす程の爆発の後、ルビーとサファイアは煤だらけの頬で起き上がる。

 予期した者とそうでない者とでは矢張り感じる衝撃に大小の差があったらしい。

 地面に倒れ込んだサファイアはルビーの腕の中で僅かにうめき声を上げるが、どうやらかすり傷程度で済んでる様子だ。

 未だ先の轟音が耳に残るがそれを無理矢理に無視してルビーは身体を起こして、それに釣られる様にサファイアも上体を起こした。

 

「今の爆発って……」

「うん、さっきの二人が起こしたものだ、"えんまく"のガスに"かえんほうしゃ"の炎を引火させてね」

「え、でも、今の爆発やけに小さかった気が……」

「……そうだね」

 

 ルビーの言う通り、シャムの"えんまく"の狙いは視覚の阻害では無く、先の爆発による攻撃だった。

 マタドガスのガスは猛毒であり、そして発火性も非常に強い。それを彼らは利用したのだ。

 "えんまく"はルビー等の視界を奪う為のもの、と思い込ませ、同時に"爆発による攻撃"という彼ら二人の本来の目的を隠すブラフとする。

 後は避難用に出入り口までたどり着ければ準備は完了だ、ただ"えんまく"目掛けて"かえんほうしゃ"を放出すればいい。

 その爆発によって油断したルビー等を倒す算段、恐らくそれがシャムとカーツの狙い――だったのだろうが、

 

「危機一髪だった、ZUZUとチャモが"まもる"を覚えていて助かったよ」

 

 だが爆発による攻撃は、ルビーのラグラージとサファイアのバシャーモの"まもる"によってどうにか防ぐ事に成功していたのである。

 ルビーがサファイアを庇い地に伏せると同時に、相手の動きをまるで見えているかの様に察知していたラグラージはバシャーモに催促して、最悪の事態はそうして防がれたのだ。

 

(あいつ等は、やっぱりもういないか)

 

 視界は完全に良好、という訳にはいかないがそれでも先程よりは随分とマシになっていた。

 だがその頃にはもう、シャムとカーツの二人の姿は少なくともルビーの目が届く範囲には確認出来ない。やはり先の爆発の直前で、事前に確保していた部屋の出入り口から飛び出していったらしい。

 

「ッ! そうだ、石像は!?」

 

 爆発後の黒煙が残る室内で、立ち上がりルビーは思い出したかの様に振り向く。

 室内に置かれた五体の図鑑所有者達の石像、ルビー等からしてみれば唯の建造物としか見れない石像だが、彼は既に何らかの秘密が、それも重大とも言える秘密がこの石像に隠されていると予感していた。

 理由は明白、ホカゲとシズクである。元マグマとアクアの幹部である二人がオーキド博士に頼まれてまで守ろうとした石像、更に思い返してみれば、彼らを襲ったシャムとカーツもどちらかと言うとルビーとサファイアよりも石像へと執拗に攻撃を行っていた。

 そんな大事な石像がもしも先の爆発で粉々になってしまっていたら、否――、

 

(もしもさっきの爆発も、石像を壊す為に起こしたものだとしたら……!?)

 

 あくまでもルビーやサファイア達は事のついでであり、彼らが最も優先していた目的は石像の破壊、その考えを否定する材料がルビーには見つからなかった。

 更に言えば、先の爆発をホカゲとシズクの両名が防げたという確証も無い。

 ラグラージの頭のヒレのセンサーでどうにか敵の動きを察知出来たルビーと違い、ホカゲとシズクは恐らく敵の動きを全く掴めていなかったはずだ。

 そうなれば、五体の石像達だけで無く、ホカゲとシズクの二人の安否も心配になる。いくら元は敵と言えども、今は同じ敵と戦った仲間だ、流石に全く気にも留めないという訳にはいかない。

 そして、今度こそ最悪の事態を想定してルビーが振り向いた先には、

 

「チッ、やっぱ奴等どこにもいやしねぇな、つか、まさか本当にこんな室内で爆発起こすとはな」

 

 呑気に胡坐をかき頬杖をついて座るホカゲの姿があった。

 よくよく見てみれば、ホカゲとシズク、彼ら二人共無事であり、また五体の石像達にも傷一つ付いていない。

 

「おぉガキ共、お前等も無事だったか」

「……というか、僕にはむしろあなた方に傷一つ無い事の方が不思議でならないんですけど」

 

 煙も大分晴れ、ルビーとサファイアの両名を見つけ言ったホカゲに、ルビーは平坦な声で言い返す。

 

「その事なら、このポケモン達のお陰ですよ」

「ブースターとタマザラシ?」

 

 ルビーの問いに答えたのはホカゲでは無くシズクだった。そしてシズクが視線を向けた先にいたポケモン達、石像の前に立つポケモン達の名をサファイアが呼ぶ。

 ホカゲのブースターとシズクのタマザラシ、この二匹で一体どうやって先の爆発を防いだのか、二人の図鑑所有者が疑問符を浮かべているとホカゲは笑って口を開く。

 

「あぁそれは簡単な事さ、俺のブースターが"リフレクター"を張って、シズク(こいつ)のタマザラシが"れいとうビーム"で壁を強化(コーティング)したんだよ」

「という事は予め"リフレクター"を張っていたから爆発も免れたと?」

「そういう事だ……何だ、まだ腑に落ちねぇか」

 

 相手の攻撃よりも先に出していた"リフレクター"を更にタマザラシの氷技で強化して事なきを得た。そんなホカゲの説明に未だ納得のいっていない様子のルビーには、

 

「えぇ、何も見えない"えんまく"の中でどうして何らかの攻撃技が来るのか、それもさっきの口ぶりから察するに爆発が起こると正確に予見出来たみたいだけど……」

「いや、"えんまく"と来たら普通爆発じゃねぇの?」

「……え?」

「え?」

 

 しばしの無言である。

 そしてお互いに、"彼は何を言っているんだ"、状態に陥っているルビーとホカゲの様子を見かねてシズクが、

 

「まぁ仕方無いですね、私達の様な元悪人は危機的状況に陥った事のある、またそんな状況を引き起こす知識も経験も、ルビーさんやサファイアさんと比べ些か豊富ですから」

「……なるほど、凄く納得しました」

「ほらな、やっぱ俺のが常識派だったろ?」

「いや、今の説明じゃホカゲ(そっち)非常識派(アウェー)やった気がするよ?」

 

 シズクの説明に妙な納得をするルビー、そして自慢げに言ったホカゲにサファイアの鋭いツッコミが突き刺さる。

 どうやら価値観や常識は時として、"人それぞれ"なんてレベルでは言えない程の大差がある様だ。

 だがそれはともかくとして、

 

「だけど先輩方の像に傷一つ付いてない事は事実やけん、きちんとお礼は言っとこ、ルビー」

「いえ礼には及びませんよ、我々は任せられた任を果たしたまでですから」

「……その事だけど」

 

 サファイアの言った通り、ホカゲとシズクがシャムとカーツの魔の手から石像を守り通した事は事実である。

 その事についてしっかり二人にお礼をしようとルビーを急かすサファイアだったが、それはシズクによって止められる。

 そんなシズクの言葉に、ルビーは探るような視線でシズクとホカゲの二人へと、

 

「どうしてあなた方二人はこの非常時にこんな石像を守っているんだ、いくら僕らの先輩達の石像と言っても所詮は何の変哲も無い飾り物、壊れてもまた作ってしまえばいいものなのに……何故オーキド博士はあなた方二人にこんな仕事を?」

 

 先程からルビーがずっと感じていた疑問をホカゲとシズクの二人へとぶつける。

 彼の隣のサファイアもルビーの考えには賛同出来る様で彼女もまた不思議そうな顔でホカゲとシズクへと視線を向けている事が分かる。

 そんなルビーの問いに、ホカゲとシズクは一度視線を交わし頷き合うと、

 

「まぁお前らもいずれは知る事だ、今更隠しても仕方無いだろう」

「隠す? と言う事はこの石像に何か秘密が……」

「パッと見、どこもおかしいとこは無いとやけどねぇ?」

 

 ホカゲの言葉に"やっぱり"と言う風な顔でルビーが頷いて、件の石像を改めてマジマジと見て呟くサファイア。

 しかしどこを見ても探しても、矢張り特別おかしな点等見つからない。

 

「確かに"今"は何の変哲も無い石像……ですが」

「……今は?」

 

 シズクの言葉の一部分をサファイアが反復して、そして未だ疑問符の消えない二人の少年少女に、

 

「えぇ、彼らは"元々生きた生身の人間"……そう、彼らは石で出来た無機物等では無く正真正銘本物の人間、あなた方の先輩となる図鑑所有者の五人です」

 

 シズクが絶望的な解答を口かにした、瞬間、それと同時に隣の部屋から轟音が響き渡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 甲冑の男"ガイル"は恍惚な笑みを浮かべてそれを見た。

 バトルフロンティアの敷地全てを裕に飲み込む程の巨大さを持つ水の塊、ガイルの意思の思うが侭に動く海の怪物。

 

「クカカ……素晴しい! これが、ジラーチの力……!」

 

 呟かれたその言葉に、エメラルドは悔しそうに歯噛みをした。

 バトルタワー最上階、ルビーとサファイア等が激闘を繰り広げる隣の部屋ではもう一つの戦いが行われていた。

 エメラルド対リラ、ジョウトの伝説のポケモン"ライコウ"を操るフロンティアブレーンとの対決である。

 ガイルの手足となるエスパーポケモンの力で操られたリラと対決する事となったエメラルドは、そこで洗脳されながらも圧倒的な実力を見せるリラに必死に食い下がり、後から来たダツラの応援も拒絶して此方もまた激しい戦いを繰り広げていた。

 だが所詮それは仕組まれた戦い、操られ無理矢理戦われた代償として多大な疲労がリラを襲い、戦い半ばで力尽き倒れてしまう。

 そしてそこで現れたガイルは言ったのだ。

 

『取引しようじゃないか。知識のブレーンのお前(ダツラ)が読み解いたジラーチの最後の秘密と、お前(ブレーン)達の(リラ)と』

 

 迷いは、一瞬だった。

 例え間違った選択だとしても、友の命に代える事は出来ない。苦渋の選択で(リラ)を選択したダツラは悔しげな表情を見せながらガイルへと情報を渡し、リラを解放する事には成功した。

 だがその結果、ガイルの願いは成就されてしまったのである。

 

「全てを飲み込む海の魔物……それが私の願いだった。ジラーチは見事願いを遂げてくれた様だな」

 

 ジラーチの願いを叶える条件の一つ"ジラーチ第三の目と視線を合わせる事"、その為に一時上げられた兜を再度下げてガイル――否、アオギリは言った。

 元アクア団総帥"アオギリ"、それがガイルの正体である。

 ホウエン地方を混乱に陥れたグラードン、カイオーガの超古代ポケモンの復活、その最大の原因の一つとも言える彼は、ルネシティの決戦後行方を晦ませていたが今こうして再び彼ら図鑑所有者の前に現れる事となったのだ。

 以前の時よりも更に強大に、遥かに凶大な悪へと変貌してから。

 

「なっ! あ、あれは一体!?」

 

 少年の声が聞こえた。そして彼らは到着した。

 部屋と部屋を分断していた防災シャッターはいつの間にか解除されており、アオギリと対峙するエメラルド等と彼らは合流する。

 先のエメラルドとリラの対決時の轟音を聞きつけたルビーとサファイア、ホカゲとシズクだったが、しかし四人が合流した所でもう遅い、アオギリの願いは既に叶えられた後である。

 

「ガイル! それにエメラルドにダツラさんとリラさんも!」

「どうやら、最悪の状況って奴みたいだな」

「……その様ですね」

 

 サファイアの声の後、ホカゲの言葉にシズクが同調して、スケールの違いすぎる海の魔物の存在に戦慄する。

 

「……すまない、エメラルド、皆、俺は仲間を救うためとは言え……!」

「ッ、アンタ等の状況ってのは今一分からねぇが、今は言ってる場合じゃねぇよ! ブースター!」

「えぇ、それにあの化物は確かに脅威ですが、それを操るガイルさえ潰してしまえばまだ勝機はあります、タマザラシ!」

 

 気落ちしかけたダツラだったが、彼の言葉等気にも留めずにホカゲとシズクは叫ぶ。

 呼ばれたポケモン達はトレーナーの指示に従い、ブースターは"かえんほうしゃ"、タマザラシは"こごえるかぜ"をガイルへと飛ばして先制攻撃を仕掛ける――が、

 

「無駄な事だ!」

 

 ガイルが手に持った剣を一振りする。たったそれだけの動作で、ジムリーダーのポケモン並みの実力を持った二体の技は同時に弾き飛ばされる。

 驚愕するホカゲとシズクの両名にガイルはその時初めて気づいたらしい。兜の中で人知れず目を見開き、次にニヤリと意地の悪い微笑を浮かべて、

 

「……よもやこんな所で会う事になるとはな」

 

 呟き徐に兜を上げる。

 

「テメェは……!」

「……ま、まさか……いや、貴方は死んだはずじゃ……!」

 

 その瞬間、矢張りと言うべきかホカゲとシズク、またルビーやサファイアまでもが驚愕の色を顔全体で表した。

 それもそうだろう、アオギリは彼らと少なからずの因縁を持つ人物、更にこの中でもシズクのとってアオギリという人物はある種特別な人間だった。

 かつてシズクはアオギリに仕えて、そして捨てられた身。

 恐らくその場にいる全ての者よりも、シズクという人間の中では遥かな驚愕とそして困惑の感情が渦巻いているはずだ。

 下げた甲冑を再び上げて素顔を隠しながらアオギリは言う。

 

「そうだな、私も自身の死を覚悟していた。あの時まではな……」

「"あの時まで"……?」

「あぁ、尤もこれ以上の問答は無用だろう。どの道お前達は全員、海の藻屑となるのだからな」

 

 アオギリの言葉の一部が気になったのかルビーが呟くが、アオギリは邪悪な笑みを浮かべて返した。

 瞬間、今まで静観を決めていた海魔(擬似カイオーガ)に変化が起こる、バトルタワーへと方向を変えて、そのままタワーへと突進して来たのだ。

 "全員"、ガイルのこの言葉の中には当然シズクも含まれているのだろう、元より一度は全ての部下を見捨てた男、そう考えるのが普通だ。

 だが以前仕えていたからこそだろう、シズクはその言葉に少なからずのショックを受けた様で、他の全員が衝撃に備える中、シズクは一人立ち尽くして、

 

「バッカヤローがぁ!」

 

 怒号が聞こえた、シズクがそう思った瞬間、荒れ狂う程の大波が彼らを襲った。

 膨大な水量がガイルを除く彼ら全てを飲み込み、ほとんどの者が流されない様必死にその場に踏みとどまった。

 だがそんな中、大波は一人の人物を強制的にその位置を隣の部屋へと移動させる。

 しっかりと足腰に力を入れていなかった所為だろう、シズクの身体は予想以上に波に浮いて、そのまま外へと流され出されるかと思われた。

 だがそれは横から伸びた腕に掴まれどうにか事なきを得る、どうやらその人物は流されたシズクを追ってあえて自身も波に身を任せ、寸での所でシズクを救い障害物にしがみ付いて波をやり過ごした様だ。

 

「ボーっとすんな! 死にてぇのかテメェは!?」

「……す、すまない」

 

 そしてシズクを助けた男、ホカゲは彼の胸倉を掴んで叫び、そしてシズクは弱々しく返答する。

 

「シャキっとしろよ、今のテメェとガイルは何の繋がりも無いはずだぜ」

「……あぁ、自分でも、分かってる……少し、動揺しただけです」

「ならいいがよ……」

 

 叱咤された所為か、もしくは本当に唯動揺していただけなのだろう。

 シズクは数秒程時間を置いて、すぐにいつもの顔つきに戻る、アオギリの支配下から離脱した当時に、その時彼は葛藤する事を終えている。

 

「しっかりしろ、テメェが気にかけるべきリーダーはあいつの様な奴じゃないだろうが」

「分かってます、もう大丈夫です……ですがまぁしかし、あの人がガイル並みの神経をしていれば、私達もこんな所まで出張る必要は無かったのかもしれませんがね」

「……言えてるぜ、ったくあのバカヤローは何しですか分かったもんじゃねぇ、こんな事はもう二度とゴメンだ」

 

 そう言って皮肉気に笑ったホカゲとシズクの脳裏には、恐らく初めて"彼"と対峙した時の事が浮かんでいるはずだ。

 自身よりも二人の命を優先した様々な意味で強い少年、しかしそれでいて同じ程の脆さも持っていた事も彼らは極最近それを知った。

 

「って訳で、是が非でもテメェ等には元に戻って貰うぞ……」

 

 不意に背後を振り返り、無意味と知りつつもそこにいた五人の少年少女へと呼びかけ、

 

「特に、だ! そこの"のんきに眠りこけてるお前"! テメェは絶対だ……どうにもアイツには、お前の存在が必要不可欠らしいからな」

 

 その中でも特に一人の少女を名指しして呟いて、そしてホカゲはニヒルに笑うのだった。

 

「テメェ等全員救ってこのバトルフロンティアも守りきって、最後にクリアの野郎は一発ぶん殴る!……ハッ、やってやろうじゃねぇか"守る為の戦い"って奴をよ!」

 

 




寒くて執筆が進まなかった結果クリスマスに爆発ネタになった。全くの偶然だった。
後今回クリアとイエローが全く出てなかったけど、ホカゲが思った以上に主人公しててそれはそれでいいかなとも思った。

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