ポケットモンスターCLEAR   作:マンボー

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八話『決戦直前』

 

 

「驚いたわね、まさか貴方が逃げ帰って来るなんて」

 

 カントー地方の地図に無い島、スオウ島のとある場所にて四天王のカンナは言う。

 

「……あぁオレ自身も驚いている」

 

 一方のワタルも静かに呟く。

 クチバ沖におけるイエローとの戦いの最中に彼の前に現れた死んだはずのトレーナー、クリア。

 だが前情報でも対して脅威となる様な力も無く、カンナの言っていた様な奇策や、野生ポケモンにだけ気をつけていればいいと彼は思ってクリアと戦い、そして逃亡したのだ。

 敵に背を向けて逃げるというその行為の悔しさや惨めさは圧倒的なものだったが、それよりもワタルの中ではクリアという人物に対する驚きと疑念の思いの方が大きかった。

 

「キクコ、クリアがここ半年前にトレーナーになったという情報、本当だろうな?」

「……あぁ、間違いないよ」

 

 こちらも珍しく冷や汗を垂らす老婆、キクコ。

 彼女もクリア復活の報を聞き、急いでクリアに関する情報を探ってみたが、だが驚く程にクリアの情報は何も無かった。

 半年程前にトキワジム跡にてロケット団の残党と戦い、そしてそれから半年間はオーキド博士の研究所にて助手として居候して、今ではイエローという少年と旅をしている。

 リーグ優勝なんて話は持っての他、ジム戦を行ったという情報すら無い未知の実力のトレーナー。

 そんな彼がこの短期間で自力で実力を上げたと言えばそれまでだ、話は彼自身の才能が凄まじいという程度に終わってしまう――が、

 

「……キクコ、シバを呼び戻せ……もしかしたらあのクリアという少年、あの"能力"以外にも……何か"特別な何か"があったのかもしれない」

 

 だがそれが、なんらかの切欠があったとしたら、それが物なのか現象なのかすら分からないが、しかし見過ごすには大きすぎる力だ。

 

「どちらにしても奴等はこのスオウ島に来るだろう、答えはその時、その命も預けておくぞ……クリア、イエロー」

 

 クチバにて敵対した二人の少年の名を、微笑を浮かべてワタルは呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「……ところでクリア、いつの間にか凄く強くなってたけど何か特別な特訓でもしてたの?」

「え、そんな訳無いじゃん? 別に俺は特別な事は何もしてないし、"特別な何か"的な不思議出来事も起きてない、海上でも言った様に仲間になったヤドンさんが偶々強かっただけだよ」

 

 グレン島について早々、額にゴーグルを当てた少年に麦藁帽を被った小柄な少年が言った。

 クリアと呼ばれた少年の方は海水に浸かってしまった上着を苦い顔をしながら手に持っている。

 どこぞの四天王達に是非とも聞かせてやりたいクリアの言葉に、イエローは、

 

「まぁクリアがそう言うのならそうなんだろうけど、だったらクリアって実はバトルの才能の塊なんじゃ……!?」

「それこそ無い無い、そういうのは"レッド"とかそういう奴等の事を言うんだよ」

 

 若干驚愕しながら言うイエローだったがクリアはあくまで冷めた態度でヒラヒラと右手を振って返す。

 

「……それもそうだね、正直レッドさんに比べればクリアは……」

「その納得の仕方も、それはそれで何かイラッと来るな」

 

 昔を思い出して呟くイエローにクリアが頬を引きつらせて言った。

 

「あ、えーと、その、ゴメンねクリア?」

 

 そんな彼は苦笑を浮かべて謝るイエローを仕方なしに許してから、一呼吸置いて、不意に手持ちのポケモンを数体ボールから出した。

 

「ったく……じゃあイエロー、海上で言った通り、ちょっとこいつら"見て"みてくれ」

 

 出てきたのは黒いリザードンのエース、進化が出来ないイーブイのV、飛べないカモネギのねぎま、そしてヤドンさんの四体。

 

「……どうしても、やらなきゃダメかな……」

「あぁ、改めて見せてしまうのは俺も心苦しいっちゃ苦しいが、それでもあの時何が起こったのかを……俺は知りたいんだよ」

「……ヒドイんだね、クリアは」

「悪いな、自覚はあるさ」

 

 そう言ったクリアは本当に申し訳無さそうに、そう返されたイエローは嫌々ながらだけど少しの躊躇の後、彼はクリアのポケモンへと手を伸ばす。

 

 イエローには不思議な力がある。

 それはクリアの"導く者"という"能力"なのか"特技"なのか分からない曖昧なものでは無く、正真正銘の"能力"とよぶべきもの。

 傷ついたポケモンを癒し、そしてポケモンの心や記憶を読み取る能力。

 そのイエローの能力を聞いたクリアは、真っ先に彼にこう頼んだ。

 

『俺が死んだ時のポケモン達の見ていたもの、見れるか?』

 

 クリアは自分がどれだけ残酷な事を言ったのか容易に想像出来た。

 今では親友同士の様な二人、その一方にもう一方の死をむざむざと見せ付ける所業、それをやってくれと、クリアは迷う事無くイエローに告げたのだ。

 イエローも最初こそ嫌がったが、それでもクリアの再三の説得に応じ、こうしてイエローはエースの前へと立つ。

 

「……じゃあ、やるよクリア?」

「……やってくれ」

 

 そしてクリアに促され、エースに触れたイエローは彼の記憶を読み取る。

 

 

 

「……どうだイエロー、俺が死んだ時何が起こったのか少しは分かったか?」

 

 海水に浸かってびしょ濡れとなってしまった自身の上着をギュゥっと絞りながらクリアは言う。

 問いかけられたイエローは力を使って眠くなったのか、もしくはその瞳に溜まった微量の水を取る為か少しだけ目を擦って、

 

「うん、エースもVも、何か虹色に輝く大きな鳥を見てるよ、それが何なのかまでは分からなかったけど……」

「……やはりか、という事は俺が見たあれも唯の夢では無かったという事か」

 

 イエローの言葉を聞いてその時の光景を少しながらクリアは思いだす。

 姿形まで鮮明には覚えていないものの、虹色に輝く巨大な鳥と、生気があふれ出す様な炎の夢。

 だがそれは夢では無かった、実際にあった出来事だったのだと、イエローの能力でようやくクリアはそれを知ったのだった。

 

(……となると確証は無いがあの時俺を助けてくれたのは"あのポケモン"って事でいいのかな……)

 

 密かにバッグの中に仕舞っている"ある物"を思い出しながら、そんな事をクリアは思う。

 虹色のシルエットと炎、そしてそれはクリアの見た夢幻では無く現実にあった事、それをイエローに確認して貰い――、

 

(極めつけは、"これ"だ……もう確定的だろうな)

 

 クリアが倒れていた場所で密かに拾っていた"ある物"の存在が、クリアに一匹の伝説の鳥ポケモンの存在を暗示していた。

 ――そして、エースとVに立て続けに能力を使って疲れたのか、眠たそうに再び欠伸をするイエローだが、そんな彼にクリアはなお促す。

 

「イエロー、疲れてるとこ悪いけど……」

「ふぁ~……うん、ねぎまの事だね」

 

 返事をして次はねぎまに触れるイエロー。

 クリアは自身の死に際に何が起こったのかをイエローに見てもらうついでに、飛べないかもねぎのねぎまの事もイエローに頼んでいたのだ。

 同じく問題を抱えたポケモンであるPとVについては悔しいが何もしてやれない、だけどねぎまには何か出来る事があるかもしれない――そう考え、まずはねぎまの飛べない原因を探るべくクリアはイエローに頼んだのだった。

 そして彼はねぎまの記憶を読み取って、

 

「……ねぎまが飛べないのは昔のトラウマが原因みたい、それでその時群れとも逸れてしまって、偶然会ったヤドンさんとその時からずっと一緒にいたみたいだ」

「なるほど精神的なものか、ならまぁそのうち何とかなるか、ご苦労さんイエロー」

「うん、じゃあボクは少しだけ眠るね」

「あぁ、俺もここらで服乾かしてるから、ぐっすり眠るといい……ってもう寝てやがる」

 

 気づくともうイエローは身体を小さくして寝息を立てていた。その傍ではピカも一緒に寝ている。

 場所はグレン島のとある小さな木の木陰、その木の枝の一つに上着の服を引っ掛けて、

 

「ったく、寝る子は育つって言うけど、どうやらデマだったみたいだな」

 

 小さな身体を更に小さくして眠るイエローに小動物的な保護欲を掻き立てられつつクリアは呟いた。

 思えばイエローはこの旅の最中、一緒にいる期間は僅かだったが、かなりの頻度で眠っていた。

 それがイエローの能力を使った"対価"のようなものという事も、クリアは薄々気づいていた。

 昔のクリアなら、ここでイエローの麦藁帽でも引っつかんで引き離そうとしたのだろうが、

 

「……サンキューな、イエロー」

 

 クリアの死を見てしまったからか、スーっと右目から細い涙の後を一本引いたイエローにクリアは無意識に呟く。

 一度死んだあの夜から、クリアの中の何かが変わっていた。

 まるでリセットボタンでも押された様に、グチャグチャと複雑に絡み合っていた彼の感情は整頓され、今では昔みたいに会話中急に怒り出す、途中から口調がおかしくなるという事も無くなった。

 それが"死"の影響なのか、または謎の巨鳥の炎によるものなのか、しかし今のクリアにはその答えを見つける術も、意思も無い。

 

(今はただ、イエロー(こいつ)と一緒に、無事にレッドを助け出すだけだ)

 

 記憶に蘇るはマサキやジムリーダー達との交流の記憶とイエローとの旅の記憶、そして曖昧だった目的は決意へと変わり、揺れていた感情は静まった。

 コンディションはバッチリ、クリアの手持ちの六体のポケモン達も、それぞれが全員異質な強さを持った猛者達ばかり。

 一皮も二皮も剥けた少年は、戦いの時に向け、今はただ平穏なこの一瞬を堪能する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……って休んでばかりもいられないしな、とりあえず皆出て来い!」

 

 木にもたれかかり眠るイエローから少し離れて、クリアは手持ちの六体のポケモンを全てボールから出した。

 元から外に出していたVとエース、ねぎまに加えてヤドンさん、イエローから返して貰ったP、そしてもう一匹、水色のボディを持つ傷だらけのポケモン。

 

「さてと、Pは初めて会うよな? ドククラゲ(レヴィ)だ、気難しい奴だけど仲良くしてくれよ?」

 

 そうドククラゲだ。

 その体中にはバトルでつけられたものだろう無数の傷跡が付き、オマケに左目は潰れて隻眼となっているが、それはそもそもクリアと会う前にこのドククラゲが勝手に暴れてついたものだった。

 そしてこのポケモンはクリアがねぎまとヤドンさんと仲間となり、クチバへと来る途中で捕獲したポケモン、正真正銘、初めてクリアがゲットしたポケモンでもある。

 "荒れくれ者のメノクラゲ"として、人間や他のポケモンに嫌われていたこのドククラゲだったが、そこで通りかかったクリアがエースと共にバトルし、元々嫌われ者でもあって、周囲の要望も強く仕方なしクリアはこのポケモンをゲットしたのである。

 ――結果的に、長年このドククラゲが行ってきたストリートファイト的な勝負は、このドククラゲの強さをかなり底上げしており、今ではクリアのエースと双璧を為す彼の自慢の切り札の一体となったのだが。

 

「あー、気にスンナP、こいつエースと似て気難しい奴だから……っま、悪い奴じゃないんだけどな」

 

 苦笑いしながらクリアは言った。

 というのも仲間の証として握手でもしようとしたのだろう、手を差し出しているPだがレヴィはそれを完全無視しているのだ。

 その事実に多少なりともショックを受けているPだったが、Pに限らずこのドククラゲには協調性というものが皆無、しかも、

 

「っておいエース! レヴィ! お前等こんな所で睨み合うな! バトルするな! ええいもうボールに戻す!!」

 

 終いにはエースとレヴィがクリアに意等ガン無視した状態で勝手にバトルを始めてしまった為、仕方なくその二体をクリアはボールに納め、そしてため息を一つ。

 ――しかも、自身と同等位の実力を持つ者同士、しかも性格も一匹狼の様な性格で、恐らくお互いに初めて好敵手(ライバル)と認め合ってる仲だからだろう、二体一緒にボールから出すと必ずといっていい程エースとレヴィはバトルを始めてしまうのだ。

 そしてその被害は周りまわって、もしくは直接クリアに来るから堪ったものじゃない。

 

(……そういや、ポケモン持った最初の方もこんな事があった)

 

 チラリとクリアはPとVに目を見やった。

 一方の二匹は何の事だか分からずハテナマークを頭の上に浮かべる。

 

(常にエースと敵対してたPとV、今の様な関係にするには一月もかかったが……またあんな苦労を味わう羽目になるのか……)

 

 元々エースはロケット団のポケモンだったのだ、PとVの二匹が始めの頃はエースを警戒するのも頷ける。

 その時にはその時のちょっとしたドラマもあったりするのだが、今となっては最早過ぎ去った事である。

 

「っよし、じゃあ気を取り直して、V! "スピードスター"!」

 

 クリアがVに指示を出し、Vの口から星型の光線が無数に飛び出してきた。

 そしてそれは近場の岩に辺り、いくつかの爪あとを岩へと刻み込む。

 

「よしよし上々、何だかんだでVも着々と経験積んでるもんなぁ」

 

 言いながらクリアがVの頭を撫でてやると、Vは嬉しそうに鳴き声を上げた。

 Vが"スピードスター"を覚えたのはつい最近、クチバにつくほんの少し前の事だった。

 クリアは進化出来ないからといってVをバトルで使わない、なんて事は無い。

 尤もそこにはVの意見も取り入れるが、VもVでバトルには出たいらしく、それならば「じゃあお前はお前のまま強くなればいい」と、マサラにいた時からとりあえず決め技としてVに"スピードスター"の訓練を積ませていたのである。

 

「じゃあ次はPだな……ヤドンさんとねぎまの技構成はもう把握してるし、後はイエローと一緒にいたPがどんな進化を遂げているかだ」

 

 あくまでも変わらなかった、とクリアは考えなかった。

 短い間とはいえ、PはPでまた強くなってるはず、進化したエースや新技を覚えたVの様に――当然の様にクリアはそう思っていた、信じているのだ。

 そしてPもその期待に答える様に、速く、速く、高速に駆け回る。

 

「へぇ、"こうそくいどう"か、いい技覚えてるじゃんP」

 

 クリアに褒められて嬉しいのだろう、Pは更に速く動き、そして先程Vが技を当てた岩へ"たたきつける"をヒットさせる。

 VとPの技を立て続けに受けて崩れる岩。

 

「……十分だぜお前等、これだけの布陣なら四天王にだって十分通用するさ」

 

 クリアの言葉に嬉しさと自身に満ち溢れた顔をするポケモン達だったが、

 

(……とは言うものの、やっぱり不安は残る……何より相手は四天王が四人でこっちは二人、本心はもっと味方が欲しい所だけど……)

 

 だが言葉とは裏腹にクリアは本心からそうは思っていなかった。

 慢心はせず、正確に自身の戦力と相手の戦力を分析した結果の答え、今でこそ余計な不安を与えない様に言ったクリアだが、そのクリア自身に余計な不安は多少なりともかかっていた。

 

(発展途上のPとV、速さが自慢のねぎま、安定して意外な強さのヤドンさん、そして四天王の主力達にも十分通用するだろうエースとレヴィ)

 

 そしてイエロー達、ここから先は作戦が物を言うだろうとクリアは考え、その考えは概ね正しい。

 だがそれでも、作戦等ではどうにもならない壁というものは確かに存在する。

 

 そもそも、クリアの持ってるポケモン達は少なからずハンデを持って戦わなければいけないのだ。

 クリア自身は気にしてないものの、それは事実となってやはり彼等の足を引っ張る。

 

 "電気技が使えない"ピカチュウ。

 "進化が出来ない"イーブイ。

 "空が飛べない"カモネギ。

 

 それぞれがそれぞれ自身の真骨頂を失っている様なものだ。

 

(ならやっぱ、主力はこの三体にして他三体はサポート役に回す……それを基本形にしてコンビネーションを組ませれば上手く渡り合えるか……?)

 

 エース、レヴィ、ヤドンさんを攻撃の軸に置いて、他三体がサポート技で敵をかく乱する。

 そこで相手が油断した一瞬の隙をついて他の主力三体でどうにか勝負を決める。

 

(……となれば理想は短期決戦、どれだけ早く勝負を決めれるかだな)

 

 戦力差が大きな相手と戦う時の定石として、一つに早めに勝負を終わらせるという作戦もある。

 相手との力量差が大きければ大きい程、持久戦ジリ貧になればその実力差が物をいう世界になってくる――だからこそ、実力差(それ)が決め手になってしまわぬ様に早めに敵を倒してしまおうというのだ。

 言うだけなら簡単だが、だが実行に移すとなるとそれはそれで難しいのだが。

 

 

 

 そうこうしてるうちに、ふと気づくと近くの方で何やら何かが弾かれる音がクリアの耳に入った。

 音は少し離れた先の崖の方、丁度クリアから数メートル離れた所から聞こえ、そこにクリアが目をやると、

 

「あれか、何やってんだあれ?」

 

 そこには一人のトレーナーとそのポケモンがいた。

 格好から見てボーイスカウトか、その脇にはゴーストとウインディもいる。

 見ていると、ボーイスカウトのゴーストがいくつかの積まれた手ごろな岩を手に取り、そして吊り橋の方へと放り投げる。

 直後に再びキンッっと弾かれる音。

 

「……何」

「あれ何をしてるんだろう?」

「うわっ!? イエローいつの間に!?」

「ついさっきだよ? 気づかなかった?」

「……き、気づいてたさモチロン、あははは」

 

 意味の無い見得を張って内心胸を撫で下ろすクリア。

 そんな内心動悸が止まらないクリアを不思議そうにイエローは見つめて、すぐにボーイスカウトの方に目を戻す。

 そしてそれにつられる様にクリアもその視線を追った。

 気づくとボーイスカウトのゴーストの投げる岩にはウインディの"ひのこ"がオプションとして追加されている。

 

「あのおじいさん、"ナニカ"で岩を弾き返してるみたいだけど……」

「遠すぎてよく見えないよな……つーかあのじいさんもしかして……」

 

 そう、岩が放り投げられている橋の上には一人の老人が立っていた。

 後退した白い髪と中々に意思の強そうな目をした老人、その人物にクリアは一人だけ、心当たりがあった。

 

「……そう言えばここはグレン島か、なら不思議も無いよな」

「クリア?」

 

 一人呟き、クリアは老人とボーイスカウトの方へ歩みを進め、イエローもそれに続く。

 そして、

 

「どうも、カツラさん」

 

 クリアの存在に驚いたのであろう口を開けたカツラにクリアは至って普通に話しかける。

 

 

 

 

 

 

「まさか私の変装を見抜かれるとは思わなかったな」

「いやいやアレ位気づくでしょ普通」

「ボ、ボク全く気づけなかったんだけど……」

 

 所変わってカツラの研究所。

 カツラに連れられてその場所を訪れたクリアとイエローだったが、崖の所で会ったカツラから二人は『そろそろオツキミ山にいったタケシから連絡が入ってるはずだ』と誘われてこの場所に来ていた。

 来ていたのだが――、

 

「それにしてもクリア……あれ程病院を抜け出すなと言ったでおろうが!」

「うひゃ!? な、なにいきなり説教モード!?」

 

 ついて早々カツラの叱咤がクリアを襲った。

 小さな丸メガネを取った状態のカツラに怒鳴られ、反射的に縮こまり自身よりも背丈が低いイエローの背へと回るクリア。

 

「はぁ、命があっただけマシとはいったものだが、もしもあの後四天王に襲われていたらどうなって……」

「いや命が云々はぶっちゃけ死ん……」

「クリアちょっとストップ!」

 

 クリアが口を開こうとした瞬間、イエローが彼の口を塞いでカツラからクリアごと身を翻して唇に指を当てる。

 

「"その事"は全部終わった後に話して、それこそもう終わった事なんだし」

「……べ、別にもう終わった事なんだし」

「今はレッドさんの事! クリアの事はその後でいいだろ!?」

「わ、分かった分かった、なんだよなんでそんな必死なんだよ……?」

 

 満足した様に顔を背けるイエローに聞こえない様ブツブツと呟くクリアだったが、イエローにはイエローで、

 

(……そう、終わった事だよね……もうあの時のクリアみたいにはならないんだよね……?)

 

 自身にそう言い聞かせていた。

 いくら自身の眼で見なかったとはいえ、クリアが死んでゆく様をイエローはポケモン達を通して見ているのだ。

 次第に生気が失って冷たくなっていく身体、乾く唇、光が消える瞳。

 それを見てしまった為か、今のイエローが死に、クリアの死について敏感になるのは当たり前である。

 そしてそれを差し引いてもこの情報は確かにレッドの件とは関係が無い、それを薄々感じ取ってイエローはクリアの言葉を止めたのだった。

 

「なんだクリア、言いたい事でもあるのか?」

「いえいえ別に! つーか怖いからメガネ掛けてくださいカツラさん!」

「……はぁ、全く……」

 

 クリアに言われ渋々といった感じにメガネを掛け、同時に付け髭も付けるカツラ。

 これで普段の彼らしいスタイルとなって。

 

「もう無茶はするなよクリア」

「はい、分かってます」

 

 全然分かってないであろう返事を返され、再びカツラはため息を吐いて、そしてタケシに連絡を繋ぐのだった。

 

 




繋ぎの回、だからか分からないが書きづらかった、次回からは四天王戦。

そしてクリアの最後のポケモンはドククラゲのレヴィです、レヴィとの出会いは多分番外編的な形で書くかも。
名前の元ネタはレヴィアタンって海の怪物から、最近始まったアニメはあまり関係無いです。

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