ポケットモンスターCLEAR   作:マンボー

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九話『vsヤドラン ブルー登場、水上の戦い』

 

 

 四天王による本格的な攻撃が始まった。

 ジムリーダーカスミのいるハナダ、エリカのいるタマムシ、タケシのいるニビへと次々と四天王に送り込まれたポケモン達が攻め込んだのだ。

 

「っく、クラちゃん! クラブハンマー!」

「モンちゃん!」

「いくぞっ! ツブテ達よ!」

 

 そしてそれらに対応する各ジムリーダー達。

 無数のポケモン達とジムリーダー達との戦いが口火を切ってから少し経った頃、クリアとイエローの二人はスオウ島にいた。

 たった今街々を襲っているポケモン軍の本拠地、四天王のスオウ島に――その一角、とある草木の中に二人は隠れていた。

 馬鹿正直に夕方正々堂々と挑むよりも、夜の闇に紛れて攻め込もうという作戦、普段は卑怯だろうが相手は四天王、二人もそうは言ってられないのだ。

 

 そしてそんな敵地の真ん中で、クリアは呑気に空を眺め、イエローはいつも通りのマイペースで睡眠をとっていたのだが、

 

「……レッドさん」

「ははっ、心配いらないさイエロー、それともお前の知ってるレッドって奴はそんな簡単にやられるタマかよ」

 

 起きて早々、不安気に呟くイエローにクリアは笑い飛ばしながら言う。

 だがイエローが不安がるのも仕方無い、彼等がグレンにて受けたタケシからの通信の内容、それは既に抜け殻となったレッドの氷像の情報だったのだ。

 その像から見るにもうそこはもぬけの殻だが確かにレッドが凍らされていたという事が、決して無事では無かったという事が分かる。

 そしてそのレッドがいなかった、という事実が更にその先の『ではレッドは何処へ?』という疑問へと繋がれるのだ。

 そこからは嫌でも最悪の想像が頭の中を駆け巡る。

 イエローにとって特別な人物の最悪の姿が、だ。

 

「どちらにしろ、レッド探すならそのレッドと戦った四天王とは必ずぶつからなくちゃいけないんだ、まずはそれからだろ」

「……そうだね、クリア……うん、ありがとう!」

 

 クリアの言葉に不安はかき消されたらしい、イエローはその表情から不安を消してクリアに礼を言う。

 そしてピカもピカでイエロー同様悪い夢でも見たのか不安がった様子で、そんなピカをイエローはそっと抱きしめる。

 ポケモンの気持ちを感じ取る事が出来るイエローだが、この時のピカの気持ちが、いやピカは何かをイエローに伝えようとしているのだがイエローはそれを知る事が出来なかった。

 それは一重にピカに重くのしかかったトラウマという名の重圧が正体だったのだが、この時のイエローに、ましてやクリアにもピカの気持ちを知る事なんか出来ない。

 

 

 

 そして、不安がったピカの様子が落ち着いた頃を見計らって、不意にクリアは立ち上がる。

 

「よし、じゃあ暗くなったしそろそろ行くか、カツラさんももう上陸してるはずだしな」

 

 暗くなり星が瞬く空を眺めて、カツラから渡された地図を握り締めてクリアは言った。

 グレン島を出る時、彼等はそこからはカツラと別行動とし、別々のルートでスオウ島に行く作戦となっていた。

 イエローとクリアとは反対側のルートからカツラは島へと上陸してるはずなのだ。

 

「うん、じゃあ行こ……」

 

 立ち上がりながらイエローがそう呟こうとした時だった。

 

「あー! 見つけたわよお二人さーん!」

 

 どこからか女性の声が聞こえ二人は動きを止める。

 

「っな! もう敵に見つかった!?」

「……い、いやこの声は……!?」

 

 何かに気づいたイエローが言葉を発送とした瞬間、ドンッ!という鈍い音が地面へと響く。

 それは空から何かが降ってきた音。

 一人の女性と一人の男性が宙に浮かぶ膨らんだプリンから降りてきた音だった。

 

「ブルーさん!?」

「マサキ……?」

 

 降りてきた人物の意外性にイエローとクリアは同時に口を開いて、

 

「……って誰だよブルーって?」

 

 直後にクリアだけが頭の上にハテナマークを浮かばせる。

 

 

 

「……ふーん、なるほどな、つまりイエローを旅に送り出した張本人はアンタなんだと」

「えぇそうよ、それに悪いけど貴方の事も調べさせて貰ったわクリア」

 

 時は少し進んで四人はブルーの手持ちの膨らんだプリンの上。

 そしてそのプリンにまたもやブルーの手持ちのタッツーの"えんまく"を被せて偽装工作をし、空から移動してるという状態だ。

 

「年齢出身全てが不明、最後に確かめられた経歴は半年程前のロケット団の残党との戦歴のみ、それからはずっとオーキド博士の研究所で助手を務めていた」

「……謎が多いお年頃なんだよ」

「正直最初は貴方をイエローから引き離そうと考えていたわ」

 

 もしかしたら敵のスパイかもしれないし、そうブルーは呟いて、

 

「だけど貴方にそんな様子は全然見えなかった……だから私は貴方に手助けする事にしたのよ、ケーちゃんを使ってね」

「ケーちゃん……?」

 

 いきなりニックネームで言われてもそれが何のポケモンなのかクリアには分からないし、そのポケモンにどんな手助けをして貰ったかも当然ながら分からない。

 そんなクリアに先に話は聞いていたマサキは、

 

「ほらあれやクリア、カンナ戦の時のケーシィ」

「……あ」

 

 言われてようやくピンと来る。

 四天王カンナが突如急襲してきた時、そのピンチを救ったのはとある一匹のケーシィだった。

 クリア自身、そのケーシィは野生のものだとばかり思っていたのだがどうやらそれは違ったらしい。

 

「驚いた? 私がいなかったら貴方多分あの場で死んでたわよ?」

「……驚いた、驚きすぎて意味が分からない、とりあえずありがとうございます」

「……命の恩人にとりあえずってなんなのよ、まぁ別にいいんけど」

 

 実は自身の手柄等では無く、単に助けて貰ってただけという事実に驚きを隠せないクリアだったが、イエローもイエローでその事実には驚いている。

 

「そ、そうだったんですか……えと、あの、ブルーさん、ありがとうございます!」

「別にいいわよイエロー、っていうかどうしてイエローの方がきちんとお礼言ってんのよ」

 

 まぁ密かにずっと彼等二人の旅を見てきたブルーだ、そこについては言及しない。

 クリアのいい加減さは今に始まった事じゃないのをブルーは知っていた。

 だから最早イエローやマサキ並みに慣れていた。

 ――つもりだった。

 

「そうだな、そうだ、きちんとお礼をしようか」

「? どしたの君?」

 

 片言で呟いたクリアに不審そうにブルーは言う。

 その様子の変化にイエローとマサキも彼に注目する。

 

「なぁブルー……さん、確か今俺達が飛んでる理由って、そこ等じゅうにウジャウジャいる四天王のポケモン達が原因なんだよな?」

「え?……えぇそうよ、街への襲撃にかなり数は裂かれてるけど、それでもまだまだ奴等のポケモン達がいるから私達はこうして隠れながら進んでいるんじゃない」

 

 そう言ってブルーが指差す方向、そこには十数匹はいるであろうヤドランの群れがいた。

 恐らくカンナの配下のポケモンだろう、周囲を警戒する様にしきりに首を横に振っては歩いている。

 

「……よし、じゃあ俺が奴等を引き付けるから、そのうちにブルー……さん達は早くカツラさんと合流してくれ」

 

 "えんまく"で見えないはずの地面に視線を落としてクリアは言う。

 そんなクリアに、

 

「っな!? ダメだよクリア! そんなの!」

「せや! それはただの無謀……」

「分かったわ」

「ちょっと、ブルーさん!?」

 

 イエローとマサキは止めるが、反対にブルーはそれを肯定する。

 そんなブルーの了承にイエローは反発しようとするが、

 

「……ま、ダメと言われても俺は行くけどね!」

 

 そんな議論等全く待たずに、クリアは額につけたゴーグルを額から目へと移動させつつプリンから身を投げ出した。

 

「あー! ちょっとクリア、まだ話は終わってないよ!?」

「おいブルー!? なんでクリアを止めへんかったんや!?」

 

 まるで自殺志望者とその関係者に対する問いかけの様である。

 ヤドランの群れへと落ちるクリアをブルー持参の暗視ゴーグルで見ながらマサキは言って、イエローもクリアが落ちて行った方向を見つめながら言うが、

 

「そうは言ってもね二人共……多分、あの子なら心配いらないわ、タッちゃん」

 

 ブルーの指示で少しだけ"えんまく"の効果を薄めるタッツー。

 黒く濁った視界が少しだけ開き、三人の眼に外の景色が映る。

 そんな三人の眼に入ったのは、地面へと着地し、そしてヤドランの群れに囲まれるクリアの姿。

 

「ほらブルーさん! 今すぐクリアを助けないと!」

 

 その光景にイエローはすぐにブルーに言うが、ブルーはあくまでも冷静に、

 

「何をそんなに慌ててるのイエロー? あなたなら知ってるでしょ、クチバの港での彼を」

「ッ! ど、どうしてその事……?」

「なんや、なんの話や!?」

 

 

 

 クチバの港、イエローが四天王の将ワタルと対決した時、彼をピンチから救ったのはクリアだった。

 黒いエースに乗って、ワタルと対峙したクリアは、ワタルの操るハクリュー相手に、

 

「……行くぜ、ヤドンさん」

 

 ヤドン一匹でそのハクリューと互角に戦い。

 

「"なみのり"だ」

 

 そして全力で無いにしてもあのワタルとの戦闘で、クリアはヤドン一匹で勝利をもぎ取ったのだ。

 

 

 

 数十匹のヤドランに囲まれたクリアが行った行動は実にシンプルだった。

 手持ちのヤドン(ヤドンさん)を出して、"なみのり"をする、ただそれだけ。

 ――ただそれだけの行動で、辺りのヤドランはほぼ全て波へと飲まれ、流されていく。

 

「な、なんやあのヤドン! なんでヤドン一匹で数十匹のヤドラン相手に無双してるんや!?」

「そうこれよ! 私がクリアを信用した一番の要因、その実力の高さ!」

 

 この台詞をもしクリアが聞いていたら「それは単にヤドンさんが強いだけだよ」絶対にそう言っていたであろう。

 だがそれでも強いのは事実、現にクリアのヤドンさんは進化先であるはずの、しかも数も圧倒的に多いヤドラン相手に互角以上の戦いをしている。

 

「凄い! 水の無い所であのレベルの"なみのり"が出来るなんて、あのヤドン一体何者や!?」

 

 その水は大気中とか、地面の中とか、果ては海から直接引っ張って、という風にありとあらゆる水分を使って波を作り出しているヤドンさん。

 そしてそのヤドンさんに指示を出すクリア、その姿を見れば、誰がどう見てもヤドンさんとそしてクリアの実力を認めてしまう。

 

「……さぁ、私達も先に急ぐわよ」

「え? でもブルーさん、クリアがまだ……」

「何言ってるのよイエロー、今はクリアがポケモン達を引きつけてくれているのよ!私達が一刻も早くカツラと会う為に、その努力を無駄には出来ないわ!」

「……うん、そう、だね」

 

 どこか納得出来ない風だがイエローも納得した様だ。

 それにもしまたクリアと合流するにしても、クリアはもう目立ちすぎた、その状態で合流したら漏れなくイエロー達の存在も露呈してしまう。

 クリアが外に出てしまった以上、三人はクリアを残して進むしか無いのだ。

 

「さぁ、イエローの話じゃカツラは島の反対側から来るのよね、じゃあまずはそこに向かってみましょ!」

 

 心配そうなイエローの表情と、興味深げにクリアの戦いぶりを見つめるマサキを引き連れて、そうしてブルー達は先程よりも少し早いスピードで先を急ぐ。

 

 

 

 一方、残されたクリアは。

 

「ッチ、"サイコキネシス"か」

 

 今だ大波を操るヤドンさんだが、いくら優勢に事を進めていても相手はヤドランの軍、しかも四天王配下のだ。

 除々に相手のヤドラン達が体勢を立て直し始めたのである。

 そして幾匹かのヤドランが始めた"サイコキネシス"はやがてほぼ全てのヤドランへと伝染していき、ヤドンさんが操る波が少しずつヤドランのコントロール下に置かれていく。

 

「今もまだ順調にダメージがいってるはずなのにそれでも攻撃して来るか、流石だな……ま、相手が悪いが」

 

 少しずつ波が揺らめき足元が不安定になっていく。

 ヤドンさんの"なみのり"は文字通り足の裏で波に乗る様な"なみのり"だ、言うならば板無しサーフィンの様なもの、バランスを保ってないと今にも水中に落ちそうになる。

 

「丁度今は水場だし、行くぜレヴィ」

 

 ニヤリと笑って、クリアがボールから一匹の生傷だらけのドククラゲ、レヴィを出す。

 そしてレヴィが水中に潜ってものの一分後。

 

「……よし、行くか」

 

 ()()()()()()()()()()()レヴィと、"なみのり"を終えたヤドンさんをボールに戻して、クリアもまた手元の地図を眺めながらスオウ島内陸へと進んでいくのだった。

 

 




 ケーシィのフラグを回収、フラグを回収……こらそこ、後付けとか言わないd(ry

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