Fate/argento sister   作:金髪大好き野郎

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話全然進んでないのでもう一個投下。
念願の合流です。別れから十年も経ってるんだぜ、これ・・・。


第十話・十年ぶりの再会

 夢を見る。

 

 私がブリテンの王になる前の、ただの少女だった頃の夢。もう思うことも見ることもできないだろうと思っていた思い出が、久しく頭の中で響き渡る。

 アーサー、改めアルトリア・ペンドラゴン。少女の身にして選定の剣を抜き、窮地に追い込まれた島国を治めるために女としての人生を捨て、全てを国に捧げる者。

 絶対の理想であろうとし、国にとっての希望となる王。人々が望み描く理想の王は――――昔は、ただの少女であった。

 

 十二歳の頃だろうか。マーリンに身を預け、着々と一人前の騎士となるための修行を積んでいる時、私の姉――――アルフェリアが「あ」と何か思いついた様に呟いた。

 

「魚を釣りに行こう」

「え?」

「はぁ?」

 

 突然の事に私は疑問の声がこぼれ、ケイ兄さんに至っては呆れていた。

 ちょうどその時はマーリンが野暮用で出かけていたのだ。おかげで特にやることも無く、自主鍛錬に励むのが益だろうと考えていた矢先にそんな発案だ。

 別に不満はなかったが、流石に急すぎやしないかと思った。

 

「アルフェリア、魚を釣るって言ってもどこで釣るんだ。そんな場所この辺りにあるのか?」

「うん。この前少し大きな川を見つけてね。水も綺麗だから、魚は居ると思うけど」

「……で、どうやって釣るんだ」

「勿論手づかみで」

「それ釣りとは言わんぞ!?」

「冗談だよ。実は前々からどこかに遊びに行こうと思っててさ。釣竿ぐらいならちゃんとあるよ。マーリンの阿保が邪魔で、中々息抜きできなかったからね。たまには家族みんなで、水入らずの休息をしようじゃないか」

「…………まぁ、食材にもなるから反対はしないが。アル、お前はどうする」

「ええと……行きます!」

「よし。じゃあ善は急げだね。しゅっぱーつ!」

 

 そんな流れで、半ば強引に私とケイ兄さんは姉さんによって外へと連れていかれた。

 しかし不快では無く、むしろ爽やかな気持ちであった。きっとその時の私は、家族とどこかに遊びに行けるのが嬉しくてたまらなかったのだろう。

 

 ――――もしかすると、王になった今でもそれを望んでいるのかもしれない。

 

 姉さんが連れてきてくれたのは、小さな滝がある大きな川であった。

 水は何にも染まっていない透明色で、よく観察すれば手ごろな大きさの魚が泳いでいた。深さもそこまでたいしたことはなく、子供の私でも腰が浸かる程度の深さ。水温も適度に冷たい。

 

 それから早速、釣りをしてみた。

 私は初めてだったので全く釣れなかったが――――姉さんはそれに反比例するがごとく、川の魚を捕り尽くす勢いでポンポン釣り上げていた。

 

「フィィィィィィイッシュ!!! フハハハハハハッ! これで十五匹目。それにくらべて未だ四匹とは。くっくっく、情けないなぁケイ兄さんっ!」

「余計なお世話だ! 初めてなんだから仕方ないだろうに一々自慢するんじゃない! 子供かお前は!」

「ふっ、子供ですが何か? っと――――十六匹目フィィィィィィッシュ! ハッハッハッハ! どうやらアルの胃袋を満足させられるのは私の様ね!」

「ぐぎぎぎぎっ……!」

 

 何故か姉さんと兄さんが張り合っていた。

 あの頃の私でも「子供か」と思ってしまうほどの挑発合戦。しかしその根本には妹への溢れんばかりの愛情が存在しているのだから蔑ろにもできない。

 まぁ、いっぱい釣っただけいっぱい食べられるという事に私は目を輝かせていたのだが。

 

 そしてついに、私の釣竿にも魚がかかった。

 

「あ、引いてる」

 

 そう呟きながら、私は少しだけ力んで――――無意識で全身を魔力放出で強化して――――竿を引っ張り上げた。

 ザッパァァァァァァァン!! と水柱が立ち、巨大な魚影が空を舞う。

 魚影は空を飛んだ後に岸へと打ち上げられ、二メートルに迫る巨体がぴちぴちと跳ねる。生命力あふれる証拠であった。

 

 二人はそれを見て絶句していた。

 妹が突然川の主らしき物を軽やかに吊り上げれば、出る言葉も出なくなるだろう。

 

「ヨーロッパ、オオナマズ……だとっ」

「え? ええ?」

 

 もしかしなくとも大物が釣れたのは、姉の表情から一瞬に読み取れた。

 個人的には味が気になっていたのだが。

 

「……まさか川の主を釣り上げてしまうとは。我が妹ながら末恐ろしい」

「なん……だと………………?」

 

 ケイ兄さんの表情を見て姉さんが「どこぞのストロベリーだ」とか言っていたが、未だに意味がよくわかっていない。なんにせよ、もう魚を釣り上げる意味が無くなったのは確かだった。

 

 そう思って、三人とも気が抜けていたのか。

 巨大魚からの強烈な尻尾の一撃に誰も気が付けなかったのは。

 

「ふぇっ!?」

「のわっ!?」

「あべし!?」

 

 三人同時に仲良く川の中に叩き込まれた。

 今思えば生涯に一度有るか無いかの油断ぶりだったと思っている。仕方ないだろう。頭の中に今日作られる魚料理の景色を浮かべていたのだから。

 

 幸いというべきか、前述したとおり川はそこまで深くも無かったので直ぐに水中から上がることができた。

 代わりに、服がずぶぬれであったが。

 

「ふぱぁっ……! うぇっ、口の中に砂利が――――」

「ケーイ!」

「!? ちょっ、あ、当たってる! いや見えてるぞアルフェリア!?」

「あてて見せてんの」

「ふざけんなぁっ!?」

 

 水から上がって、服がずぶぬれでも姉と兄は何やら楽しく騒いでいた。

 それを見て気でも触れたか、私は調子に乗って水を二人へとかけた。

 魔力放出付きの怪力で。

 

「おばぼぼぼぶ!?」

「にゃぁぁああああ!?」

 

 大波に二人が飲み込まれ、目を半眼(ジト目)にして二人が私を睨んだ。

 それからは、悪乗りというやつか。三人での水の掛け合いが始まってしまった。

 

「あはははっ! それぇ~!」

「きゃっ。姉さん、やったなー!」

「じゃあ、俺も!」

「くたばれケェェェイ!」

「お前俺に対して辛辣過ぎないか!?」

 

 輝かしい、思い出だ。

 子供らしく遊び、未知に触れ、家族と共に過ごす日々は、何にも代え難い、否、何にも代えられない宝だ。

 私にとって、国以上に大切に思える幸せのひと時。

 それを、久しく忘れていた。

 そして思い出した。王ではなく、一人の少女として。

 

 あれから十年以上経ち、全てが変わり果てた。

 兄は、私が王となってもずっと共に居てくれた。だが、あの頃のように私に対して自由な言葉遣いをすることはなくなった。兄が私を想っているのは、重々理解している。

 だがそれでも、家族に敬語を使われるというのは、空しいことであった。

 

 そして消えてしまった、大切な姉。

 別れから十年経ってなお、帰ったという知らせがない。

 フランスに赴いたと、ケイ兄さんからは聞いた。私は王として選ばれた故に、後を追うことはできなかった。

 

 生死すら確かめられないというわけでは無かった。姉は、私に聖剣を授けた湖の乙女とその息子同然の存在であるランスロットと親睦を深めていたのだ。

 武者修行に来たランスロット曰く、神々の晩餐かと錯覚するほどの料理を彼らにふるまい、太古から湖の底に眠る剣に選ばれ去ったらしい。

 相変わらず自由奔放だと呆れ、同時に嬉しく思った。姉は、あのころから全く変わっていないのだとわかったからだ。

 そのランスロットによれば、数年前にブリテンへの帰路についたと言っていた。

 だが、ブリテンに姉の姿を見た者は一人もいなかった。

 

 あの生真面目なランスロットが虚言を吐くとは思えない。ならば何かあったのかとしか思えない。私は衝動的に彼女を探そうとしたが、王という立場がそれを妨げた。

 ただでさえ休みなく蛮族、ブリテンの領土を狙うサクソン人が襲ってきているのだ。此処をまた離れるには、余りにも状況が悪すぎた。

 

 姉は必ず生きている。きっと何か事情があって戻れないだけだ。

 

 ――――そう信じて、もう五年も経つ。

 

 その思いは、徐々に薄れていた。

 本当に姉は生きているのだろうか。もしかしたら、サクソン人に襲われてしまったのではないだろうか。

 そう考えると怒りが湧き出てくる。自らの国の領土を奪いにやってくる仇敵共が、更に憎く思えてしまう。

 

 だが理想の王にはそれは許されない。

 怒りに任せて剣を振るうなど、騎士王の名に恥じる。

 

 故に私は心を殺そう。

 

 ただ国を守る盾として、その務めを果たそう。

 

 そして私は――――卑王ヴォーティガーンとの決戦日へと目覚めた。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 ヴォーティガーン。ブリテンに降り立った一人の王にして、自国を地獄へと変えるため外から侵略者を招き寄せ、己もまた竜の血を吸い魔竜と化した存在。

 聖剣からあふれる光を吸い、すべてを滅ぼす黒き吐息で地上を焦土へと変える魔竜は己の望みを果たすため、眼前の敵軍を蹴散らす。舞い散る血潮。生まれる悲鳴。それを見てもヴォーティガーンは止まらない。その赤き竜の巨体は止まることを知らず、たとえ聖剣の光が直撃しようとも頑強な鱗は少し黒ずんだだけで終わる。

 世界最後の魔竜として彼は、老王は血眼で聖剣の担い手に爪を向ける。

 

「くっ…………さすが幻想種。鱗の硬さは尋常じゃありませんね」

「出すぎるなガウェイン卿! 相手はただの竜では無い!」

「心配ご無用。王よ、我が一撃で必ずやあの蜥蜴を御仕留めましょう!」

 

 白い鎧を纏った好青年の騎士が、その手に持つ聖剣――――太陽をその身に収める白き剣を掲げ、渾身の一撃を放つために大量の魔力を送り込む。

 担い手の魔力に反応し、聖剣が強大な炎を纏いながら刀身を限りなく伸ばしていく。間違いなく全力での一撃。

 

 それを見てヴォーティガーンは、鼻で笑い飛ばす。

 

『小童の火遊びで、この儂を傷付けられると思うたか』

 

 聖剣の放つ炎を『火遊び』と揶揄するほど、彼は焦っているどころか余裕を醸し出していた。

 己の愛剣を侮蔑され、白き騎士、またの名を円卓の騎士が一人ガウェインは怒りを露わにして、更に炎を強めていく。

 

「我が剣を愚弄するか。ならばこの一撃でその身を焼き尽くされるがいい!」

 

 空を切り裂かんばかりに伸びた聖剣は、ガウェインの全力を以て振り上げられ――――

 

 

「この剣は太陽の映し身。もう一振りの星の聖剣! 『転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)』――――!!!」

 

 

 横薙ぎに払われる太陽の聖剣は、触れた物全てを焼き尽くし周囲一帯を焼け野原へと一変させる。

 万物を灰になるまで焼き焦がす太陽の炎。ガウェインの中では真っ二つに両断され、その身を灰へと変えていく赤き竜の姿が幻視され――――

 

 

 

 竜はその剣を片手で防ぎ止めた。

 

「なッ――――――――!?」

『フン。所詮は贋作の太陽か。儂を燃やし尽くしたくば、本物の太陽を持ってくるのだな』

 

 手から聖剣の魔力を『喰われ』、一時的ながらも膝をついてしまうガウェイン。

 その致命的な隙を作ったことが彼の命取りとなった。

 

『地に伏せよ、紛い物めが』

 

 巨体でありながら一瞬で距離を詰めたヴォーティガーンが繰り出す巨大な拳が突き刺さり、ガウェインは空を舞う。竜の膂力によって叩き出された破壊力は、『聖者の数字』の効果が発揮しているにもかかわらず太陽の騎士を一撃で屠ることになった。

 

 もしガウェインが戦っていたのが早朝か真夜中であれば、確実に彼は死んでいた。

 しかし戦えなくなったのは事実。これでもう戦えるのはアーサー、アルトリアのみとなった。

 だが聖剣の光でさえ食事同然として扱う巨竜に対して、彼女の持つ『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』は有効打とはなりえなかった。最強の聖剣は、あの魔竜とは相性最悪だったのだ。

 

 代わりの『奥の手』は存在する。

 アルトリアが背に背負った、棺桶の様な巨大な聖樹製の木箱に収納された聖槍。

 だがこれは下手をすれば世界を滅ぼしかねない危険物でもある。万が一のことがあれば、世界は既に終焉を迎えた神々の時代に巻き戻りかねない。

 

 それだけは何としても避けねばならない。

 ようやく自分たちの物語を書き始めた人間たちの努力を白紙に戻すなど、あってはならないことだ。

 

(だが、どうすれば……!)

 

 聖槍を抜錨するにも時間が必要だ。

 時間を稼げそうな自軍は既に被害拡大を防ぐために撤退させている。頼みの綱であったガウェインは先程戦闘続行不可能になってしまった。

 無理にでも行うべきか。否。しくじれば最悪の展開を呼び寄せることになる。

 だがヴォーティガーンを打倒しない限りブリテンに良き未来はない。

 

 どうすれば――――一体どう動けば事態が好転する――――?

 

 アルトリアは今になって迷いと悔いが入り混じる思考に嵌ってしまう。

 巨大な敵を前に、対抗手段を持っていながらも行使することができないというジレンマに陥って固まってしまった。寄りにもよってその強敵を前に。

 

 棒立ち。戦場に置いて最も愚かな行動を、騎士王は選んでしまった。

 

 そんな致命的過ぎる隙を魔竜が見逃すはずがない。

 赤き魔竜はその息を吸いこみ、全てを灰塵と化す漆黒の息吹を吐かんと肺を膨らませる。

 それに気づき、アルトリアは自分が今どれだけ愚かな行為をしてしまったかを後悔した。

 咄嗟に聖剣を握りしめるが、無駄だ。

 あの息吹は星光を『喰い潰す』呪いの闇光。最強の聖剣が放つ攻撃も意味をなさない。

 

 虚ろな瞳で、騎士王と謳われた少女は一人の姿を思い浮かべた。

 

(……こんな時、あの人なら――――姉さんならば、どうしただろうか)

 

 きっと、諦めずに足掻いただろうか。

 その答えは、本人からしか聞けないだろう。その本人は、ここに居ない。

 もう二度と会えない。

 

 金色の髪を揺らしながら、アルトリアは静かに瞼を閉じる。

 きっと、自分は増長しすぎたのだ。兵たちを信頼し、留めておけば解決への道が開けただろう。それを勝手な判断で兵を引かせ、自分と信頼する騎士だけを残したのは、余りにも浅はかな選択としか言えなかった。

 

「――――――――姉さん」

 

 最後に、そんな言葉を漏らす。

 

 会いたかった。せめて最後に一度だけでも、あの顔を見たかった。

 

 そして人々の理想を背負った若き王は、漆黒の光に包まれる―――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

『グォォォォオオオオオオオオオ!?!?!?!?』

 

 

 

 ――――――――寸前、突然現れた銀色の飛竜が、ヴォーティガーンの腹に鋭い跳び蹴りを叩き込んだ。

 

 

「――――――――――――――は?」

 

 

 その蹴りによってヴォーティガーンのバランスは大きく崩され、アルトリアに向かうであろう竜の息吹は大きく逸れて虚空へと放たれた。

 黒い閃光が空を貫き雲を裂く。きっと後退した兵士たちはその光景に見とれているだろう。

 だが一番近くに居たアルトリアはそれ以上に眼前の光景に目を白黒させた。

 

 

 飛竜、その巨体からして恐らく群れの主だろう。しかも、ブリテンでももうほとんど残っていない幻獣クラスだ。

 

 それに、人が乗っていた。

 最強の幻想種に、人が跨っていたのだ。竜に取って餌としかなりえない存在が――――幻獣を、乗りこなしていた。

 

「――――ぬあぁぁぁぁああああに人の妹を傷物にしようとしとんじゃゴラァァアアアアアアアアアア!!!」

『なっ、何だ貴様はァ――――!?』

「死ねェ! 『偽造された黄金の剣(コールブラント・イマーシュ)』ゥゥゥゥゥウウウウッッ――――!!!!」

 

 間髪入れずに放たれる、黄金の光がヴォーティガーンを包む。

 その一撃でヴォーティガーンは大きく吹き飛ばされ、地面の上を二転三転も転がる。あの聖剣の一撃さえ耐え抜いた魔竜が、こうもあっさりと吹き飛ばされるという光景にはアルトリアは絶句しかできない。

 

 そんなアルトリアの心境を知ってか知らずか、まるで『一仕事終えた』とでも言いたげな顔で幻想種を乗りこなすドラゴンライダーは何事も無かったかのように竜から降りて地面に立つ。

 

 

 その者は、美しかった。

 白銀の髪と目、そして雪のように白い肌は、美術品のように現実味の無い美しさを醸し出し、纏う気質は高貴な姫君の様な気高さを感じる。更にその微笑は天上に居る女神のようにも感じ、きっと何者をもその包容力で受け入れるだろう聖母の如き慈悲深さを兼ね備えていた。

 そう――――アルトリアが『王』という立場さえ捨て去り、その胸に飛び込みたいと願ってしまうほどに。

 

 アルフェリア――――かの騎士王の義姉は降臨したのであった。

 

 彼女は硬直するアルトリアに向き直り、満面の笑顔で言い放つ。

 

 実に十年ぶりの再会を祝して。

 

「ただいま、アル。ごめんね、遅くなって」

 

 それを聞いてアルトリアは、王であることを忘れ一人の『妹』として返事をした。

 

 

「……おかえり、姉さん」

 

 

 彼女は久しぶりに涙を流した。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 ミルフェルージュとの戦いが終わり、満身創痍になりながらも死徒勢力を壊滅させた私は晴れて拘束から解き放たれてブリテンへ凱旋することが可能となった。

 その達成感にとっぷりと浸りながら、私は食料を可能な限り虚数空間に貯蔵した後に歩いてブリテンへと帰還。

 精霊の加護のおかげで水の上を歩けるのだ。ニミュエさんセンキュー。

 

 ……で、十年ぶりに帰って早々に出迎えてくれたのは、今ではブリテンでしかお目にかかれない幻想種の群れ。

 

 要するにドラゴンです。本当にありがとうございました。

 挨拶代わりのドラゴンブレス、熱かったです。ええ。

 

 それで、半日ほどその群れと戦い、全部素手でぶちのめした。

 剣は鱗に阻まれてあんまり通らないので、本気狩(マジカル)☆八極拳で内部から爆発させたのだ。実を言うと神剣ならば刃は通ったのだが――――アレはなんというか、ひねくれすぎてね。一回振るだけで大量の魔力を持っていくのだから、滅多に振れない切り札として温存しておいた。

 ていうか素手で仕留められるなら素手でいいじゃないか。使う魔力少ないし、私魔力放出と重力軽減の魔術併用して空飛べるし。

 

 それに、ミルフェルージュとの戦いから妙に体が軽いのだ。超回復とやらなのかは知らないが、身体能力が三倍に、魔力貯蔵量と生産量が十倍に跳ね上がっていた。理由は不明。

 特に副作用なども無かったようなので深く考えるのはやめた。手がかりも無いのに思いふけるのは馬鹿がやることなのだから。

 

 それで、ドラゴンたちを叩きのめした後、なんとなくその場のノリで群れの主を躾けた。

 具体的には、拳で黙らせて従わせた。武力イズベスト対話。力こそ正義。力こそ真理。今となってはやってしまったと若干後悔はしているが、竜に乗る高揚感が割と凄かったのでどうでもよくなった。

 

 ひゃっほい、これで今日から私もドラゴンライダー!

 

 とか調子乗って遊んでたら一回滑って頭から地面に落ちました。ちくせう。

 

 一人コントをしたことで鬱気味になりながらも、私はさっさと妹の顔を見に行くため全速力で竜を飛ばした。

 結果、なんかデッカイ竜と大決戦繰り広げていたのである。白甲冑の騎士がめっちゃ熱い伸びる剣を振って竜を攻撃したけど、逆に止められたって熱い熱い熱い! ちょ服燃えてる! なんかこっちまで飛び火してるんですけど!

 とか思ってたら竜のパンチでその騎士が吹っ飛びました。わぁいユーキャンフラーイ。

 

 とはいえ流石に洒落にならないダメージみたいだったので遠隔的に治癒魔術を使って峠は越させてやる。解析魔術で竜の因子持ちだとわかったし、後は自前の回復力でどうにかなるだろう。

 なんとか服についた炎を払い、妹、もといアルトリアの姿を探す。

 

 居た。五秒かからず見つかった。

 おおマイスイートラブシスターアルトリアよ。今向かうぞ――――ん?

 

 ――――なんか、あのデッカイ竜、私の妹に息吐こうとしてない?

 

 コンマ一秒でそう思い至った瞬間、私は瞬時に竜に指示を出し、クソ赤蜥蜴に強烈なキックをぶちかましてやった。

 それが功を奏して黒いドラゴンブレスは空へと放たれる。触れていなくてもわかる禍々しさだ。もし触ればそこから全身が焼け爛れていくだろうと直感で理解する。

 そしてこれが我が妹に向けられていたと知ると実に腹立たしい。

 

 ぶち殺し確定。絶対許さん。

 

 いやそれより我が妹との感動の再会だ。

 私は今まで溜めにため込んだ愛情を込めて、再開の祝言を告げる。

 

「ただいま、アル。ごめんね、遅くなって」

 

 ああ、本当に、遅くなった。

 十年。長かった。辛かった。

 

 妹を抱き枕にできないという日々が地獄だったんだぁぁぁあああああッ!!!

 

「…………おかえり、姉さん」

 

 私の言葉に何を感じたか、アルトリアは涙を流してよろよろとこちらに歩いてくる。

 その行動が何のためかすぐさま理解し、私はこれでもかというほど腕を広げた。

 

「おいで」

「―――――――――ッ!!!」

 

 タガが外れたように、アルトリアは泣き顔で私の胸に飛び込んだ。

 こうしてこの子を胸に収めることで、ようやく自分の何かが終わったような気がした。

 

 帰ってきたんだ、と。自分にやっと告げられた。

 

 

『グォオオオオオオッ!!! よくもっ、よくも貴様ッ!!』

 

 そして無駄にデカい声で横やりを入れてくる糞トカゲに殺意を覚える。

 いや、もう殺すこと確定してるんだけどね。

 

「アル、その背中の、貸してくれる?」

「っ、え? でも、これは」

「大丈夫。すぐ終わらせてくるから」

「…………はい、姉さん」

 

 私の言葉を疑うこともせず、アルトリアは背負っていた木の棺桶染みた箱を横たわらせる。

 そして私は木箱を手を突っ込んでぶち破り、中にある物の柄をつかみ取る。

 

 

「んじゃ、ちゃっちゃと済ませましょうか。

 

 

 

 

 ―――――――――――聖槍、抜錨」

 

 

 

 

 箱を破壊しながら中に収められた槍を引っこ抜いた。

 

 姿を見せたのは、十三の紅い杭がその身に刺さりし巨大な騎馬槍。まるでドリルのような螺旋状の溝さながら、内部に取り付けられた回転機構は中世の武器という概念を根本からぶち壊す。

 

 しかしこれぞ『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』と並ぶであろう、星の表裏を繋ぎ止めし槍。

 

 これ一本が世界を根幹からひっくり返せるほどの代物だというのだから、世の中何があるかわからない。

 ま、アルと比べれば全部どうでもいいがな!

 

 溢れんばかりの魔力を叩き込み、第一の封印を解除する。

 魔力に反応し、騎馬槍が回転を始めた。……ホントにこれ中世の武器だよね?

 

「ま、正確な所有者が居ない今だからこうやって握れているわけだけど……」

 

 本来ならば担い手でない私では真名解放はできない。それは絶対に覆せない大前提である。

 しかしこの槍はまだ『未登録』の状態。要するに誰も担い手に選ばれていないという事。後々に、というか本来の正史ならばこの戦いでアルトリアが担い手として選ばれていただろうが、残念なことにそれを私が邪魔してしまったというわけだ。

 

 限定的な仮登録だけどね。

 

 流石に正式登録してアルトリアが使用不能になるとか、そんなことをやらかすのは不味い、というかこれをアルトリアが使えなくなったら歴史に大きく響く。

 故に『仮登録』。一時的に使用することを、先程聖槍に触れた際に無意識下で対話することで、今だけ仮の担い手として認められたのだ。

 認められた理由としては、私の存在があるせいでアルトリアが未だ精神的に成長しきっておらず、万が一にしくじる可能性が高いこと。そして私が『神剣』の担い手であるということだ。……今はまだまともに振れないけどね。

 ともかく、この二つの理由によって世界をつなぎ止めるための聖槍は私の手に収まった。

 

 なんにせよ、あの糞トカゲをぶち殺せるなら何だっていい。

 

 妹に手ェ出したツケ、払ってもらわないと困るからねェ…………!

 

 その激情に触れて、二つ目の杭が弾け跳ぶ。

 

『き、さまっ……聖槍を!? やらせるか!』

「アル、頼んだ!」

「任せてください!」

 

 輝くほどの嬉し顔でアルトリアが聖剣片手に地を駆ける。

 その顔にもはや迷いなど微塵も無い。信じていたことが遂に真実となった。信じ続けた願いが遂に果たされた。今のアルトリアはそんな顔をしていた。

 その輝きを薄めていた聖剣は担い手の気持ちを汲んだのか、今まで以上の凄まじい光輝を放っている。

 様々な正の感情が混じりに混じって、限界突破でもしてしまったのだろうか。

 

『クッ、アーサー! 貴様程度の小僧にこの儂が倒せるとでも……!』

「邪魔だぁぁぁああああああああッッ!!!! 『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』ァァアアアアアアアアアアアアアア――――ッ!!!!」

『な――――ぐぉぉおおおおッッ!?!?』

 

 ほとんどノーチャージから放たれたにもかかわらず、極太の光を叩き出す聖剣。アルトリアの魔力炉心も臨界寸前にまで稼働しているのか、高密度の魔力が吹き荒れるように放たれている。もはや後先考えていない証拠だ。

 だけどそれは自暴自棄になったからではない。

 背中を預けられる者が現れた。後を託せる者が現れた。

 それだけでアルトリアは限界以上の力を発揮して見せたのだ。騎士を統べる王の名は伊達では無いということをこれでもかというほど見せつけてくれる。

 

 これは、お姉ちゃんとしてもカッコ悪い所見せてあげられないなァ――――ッ!!!

 

「っつぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 全身の魔力回路を限界まで活性化させ、そこから生み出される膨大な魔力を聖槍へと送り込む。

 五つの杭が爆散する。回転も更に速さを増し、周囲に魔力を帯びた風が渦巻いて行く。

 

「土へ還るがいいヴォーティガーン! ここに貴様の居場所はない!」

『ほざけ小僧めがァッ! 儂は、儂はこのブリテンを永劫の楽園とするのだ! 永久に人の手の届かぬように、この手でッ――――』

「確かに貴様は貴様なりでブリテンを守護したいのだろう。だが――――私は私の方法でブリテンを救うと決めた! 故に貴様を倒す!」

 

 アルトリアが掲げた聖剣を振り下ろす。

 担い手の精神により強化された聖剣はついにヴォーティガーンの鱗を砕き裂いた。傷から噴き出した鮮血が舞い散るのは、確かな傷を負った証。

 攻撃が通る。それを確認したアルトリアは繰り広げていた攻防をより激しい物へと変えていく。

 

 放たれる無数の剣戟。全身を浅いとはいえ傷だらけにされ、ヴォーティガーンは少しずつ力を弱めていく。

 幾ら竜の再生力が強いとはいえ、治った矢先に傷を増やされていくのでは意味が無い。こうしている間にもアルトリアの速度は上がっていく。有り余る魔力が彼女を包み、常識の範疇に収まらない速度で四肢を動かさせる。

 

『こんな、こんな若造などに、儂がッ!!』

「やはり決定打は与えられない…………だけど、耐えて見せる!」

 

 三つの杭が消滅し、ついに十もの封印が解かれる。

 だがまだだ。まだ開く。限界寸前まで開く。確実に仕留めるために。

 

 風により周囲の地表が抉れるようにして空へと舞い上がる。

 雲は吸い込まれで渦巻きを形作り、上昇する大量の魔力は雲を雷雲へと変えていく。留まるところを知らない巨大な竜巻は、天変地異でも起こす気かというほど肥大化していっている。

 

 足りない。あの魔竜を粉微塵にするには。

 

 聖剣の光すら耐えられる竜を滅ぼすには、今持てる最大を叩き込む必要がある。

 だから粘る。粘り続け、聖槍に魔力を送り込んでいく。

 

『邪魔をするな痴れ者がァァアアアア――――ッ!!!』

「なっ、地面そのものを……!?」

 

 風のように動き回るアルトリアを捕捉するのを諦め、ヴォーティガーンは大量の魔力を放出して周囲の地面を丸ごと吹き飛ばした。流石の範囲攻撃を避けることもできず、アルトリアは傷こそ負わなかったが大きく吹き飛ばされてしまった。

 

「アル――――!!」

『消え失せろォッ、矮小な小娘よ!!』

 

 十一個目の杭が消える。だがヴォーティガーンの足止めは失敗し、竜の巨体が猪の突進の如く壁の様に向かってくる。どうする。今の状態で倒せるのか。失敗すれば――――思考を巡らせたその時であった。

 

 

 

「『転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)』――――――――――――ッッ!!!」

 

 

 

 灼熱の炎を纏った斬撃がヴォーティガーンを止めた。

 いつの間にか戦線復帰を果たしたガヴェインが、残った力を振り絞って放った会心の一撃。見事にそれは役割を果たしてくれた。

 

「時間は、稼ぎました。見知らぬお方よ、どうか、ご武運を…………!」

 

 魔力を使い果たしたガウェインが膝をつき倒れる。

 己の役目を果たし切ったその姿は、まさしく騎士であった。

 

 ――――十二個目の杭が消滅した。

 

 時は満ちた。

 

「喰らえ、世界を繋ぐ一柱を――――魔竜如きが耐えられると思うなよ!!」

『お、のれっ……! おのれおのれおのれおのれおのれェェェェエエエエエエエエエエエエエッッッ!!!』

 

 空へと突き上げた聖槍を、振り下ろした。

 それに連動し、轟々と渦巻く紫色の大竜巻は騎馬槍に凝縮されていく。だがその破壊力は消えることなく、はち切れんばかりに聖槍が煌々と輝く。

 

 これこそが、世界の果てで輝く光の柱。世に残りし最後の『楔』。

 

 絶大な力を持つ『聖槍』を――――解放する。

 

 

 

「『最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)』ォォォ――――――――――――――――ッッッ!!!!!!」

 

 

 

 解き放たれた破壊の渦は全てを粉微塵に変えながら進む。

 当然、射線上ど真ん中に存在していた魔竜は全身を飲み込まれ、その爪先から砂へと変えられていく。

 

『馬鹿なッ! この儂が! ブリテンの王たる儂がァァァアア!!』

 

 どう叫ぼうともアレを飲み込む破壊は収まらない。

 ヴォーティガーンは己の死の運命を理解し、達観したような目で駆けつけたアルトリアを睨む。

 そして何を思ったか、嘲笑を浮かべた。

 

 

『アーサーよ……儂にはわかる。貴様は、ブリテンより先に滅ぶ。ブリテンに貴様は殺される! 見よ、これが人の身に余りし理想を背負った者の末路だ。例え貴様が儂と違う道をたどろうとも、その果てに己の身を怪物へと変えようとも、それは決して変わらぬ! ク、クククッ、クハハハハハハハッ! いずれ地獄で会おうぞ! アァァァァァァサァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!』

 

 

 魔力炉心から生み出される膨大な魔力に体が耐えきれなくなったのか、ヴォーティガーンの巨体が一瞬だけ光り――――その体が爆発四散した。

 

 五臓六腑が草原に散らばり、緑の絨毯が赤に染まる。

 

 ほどなくして聖槍から放たれた破壊の風も収まり、その身に再度杭が突き立てられていく。

 全身の魔術回路を暴走寸前まで追い込んだ私は、襲ってくる疲労で尻もちをついた。

 

 あー、疲れた。

 

「――――姉さん!」

 

 急に崩れた私を心配したのか、アルトリアは急いで私の元に駆けつけて体を抱きとめてくれる。

 その拍子に久しぶりに嗅いだ妹の甘い香りに、ついつい脳をとろけさせる寸前までトリップしてしまう。

 

 ……やばいやばいやばい。これ耐性付けないと会うたびにヘヴン状態になる。

 

 正気をどうにか保ちながら、精一杯の笑顔を取り繕ってアルトリアの頭をなでた。

 久しく感じていなかった感触。欠けていた心が、埋まっていく。

 

「ふふ、昔と変わらないね、アル。やっぱり原因は選定の剣かな。正直に言えば、大きくなったアルも見てみたかったんだけど……」

「姉さんは、ずいぶん綺麗になりました。いえ、元から綺麗でしたが」

「いや、私はアルに比べればまだまだだよ。……あ、ケイ兄さんは元気?」

「それはとても。いつも兵士たちに容赦なく毒を浴びせています」

「そりゃ元気そうだ」

 

 少しだけ変わってしまった家族。

 だけど、その温かみだけは変わらなかった。

 

 私はアルに肩を貸してもらい、ついでに気絶したガウェインをアルに引きずってもらい帰路についた。

 もう一人の家族が待つ場所へと。

 

「帰ろうか」

「はい。姉さん」

 

 私たちは共に、ゆっくりとその歩みを進めていった。

 

 

 

 




聖槍「え、何握っちゃってんの君。君じゃ振るえないからさっさと降ろせオンドレ」
無意識「ええからはよ回らんかい。その立派な穂先へし折るで」
聖槍「おぉん? やるんかいワレェ!?」
無意識「上等じゃかかっと来いやコラァ!」


0.1秒後


聖槍「はぁ・・はぁ・・・なんや、お前さんええ腕しとるな」
無意識「そっちこそ、これほど硬いとは思わんかった・・・!」
聖槍「よっし、その腕に免じて一回だけ好きに使ってええで。一回だけ!」
無意識「マジか、あんさん良い奴じゃな」
聖槍「な、そ、そんなこと言われても一回だけやで! ちゃんと決めてな!」


そんなやりとりがあったとかなかったとか。

そしてさりげなくワンパン退場後してちょっとだけ活躍するガヴェイン。此処だけ見れば誠実な白い騎士なんだがなぁ・・・・

因みに青ペンギンさんは姉からの後押しで自力(気合)で全ステータスワンランクアップという謎強化を成し遂げた。マジかよ。シスコンパワースゲェ。


追記・誤字を修正しました。
追記2・指摘された箇所を修正しました。
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