Fate/argento sister   作:金髪大好き野郎

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お待たせ。風邪と咳と胃痛に加えて筋肉痛まで増えちゃったけど、頑張ったよ。私超がんばったよ。誤字はたぶん、無い・・・無いよね?

追記
誤字には勝てなかったよ・・・。修正しますた。

追記2
表現追加。




第十四話・神剣解放――【挿絵有り】

 地を揺るがす大進行。二十万の不死者は戦略もへったくれも無く、ただ己の欲望を満たすためにその足を進ませる。その姿は黒い津波。飲み込まれれば一瞬にして死に至るであろう死の波である。

 それに立ち向かうはブリテンの騎士一万人。その全員がこの決戦のために用意された、魔術を幾重にも付与された最高級の装備で武装していた。

 しかし彼らが手に持つのは槍と盾。例外は無く、遠くから敵を殺すための武装であり、よく見れば纏っている装備も鈍重な重装甲鎧(ヘヴィーメイル)。更に盾はタワーシールド。完全に防戦特化の装備であった。

 しかし妥当だ。何せこの決戦、撤退は即ち死を意味する。ならば最初から下がる必要など無く、守りを固めた方が得策だろう。

 

「――――全員、構えよ!!」

 

 先頭に立つブリテンの王――――アルトリアが力強く号令を上げる。

 その命令は一瞬にして前衛の兵士すべてに伝播し、巨大なタワーシールドが轟音を立てられながら構えられて壁を造り上げる。総軍の半数、約五千人もの兵士が横並びになり展開された鋼鉄の壁。しかしこんな物では死徒の集団突撃は防げない。

 ーー構えられたのがただの盾であったならば。

 

 

「――――魔術防壁展開!! 一匹たりとも侵入を許すな!!」

 

 

 アルトリアが叫んだと同時に、並べられた盾の表面に複雑な魔方陣が浮かび上がる。

 宮廷魔術師やマーリン、そしてアルフェリアが作り上げた最高級の武装。魔術障壁展開盾。外部取り付けの魔力貯蔵庫を取り付けることで魔術が使えない者でも防御性能の高い魔力障壁を展開可能にさせる代物。

 それが五千個。全てが同時に展開され、魔力の層が兵士たちの前に現れる。

 

 現代最高峰の防御力を持つ障壁は――――不死者の軍勢と正面から衝突する。

 響き渡る轟音。群がる吸血鬼。唐突に現れた壁にぶつかった彼らは見事壁に進撃を妨げられ、前に居た者は容赦なく体を押し潰され、後方に居た者は止まることもできずにそのまま直進。結果、数万の軍勢は前に居る味方を圧殺する形になってしまう。

 しかしその程度の事で進行を止める彼らでは無い。味方の死骸を駆け上がり、上から侵入を試みる。だがドーム状に展開された魔力障壁に隙は無く、ただの一匹として内部への侵入は許さなかった。

 

 ついに不死者の進撃が止まる。

 

 反撃、開始だ。

 

「押し返せぇぇぇぇぇえええ――――ッッ!!!」

『ウォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!!』

 

 前に居る五千人の兵士たちが揃って一歩を踏み出し、盾を弾く様に押す。

 それだけで魔力障壁に群がった吸血鬼たちは空高く吹き飛ばされた。相手からしてみれば巨大な壁が瞬間的に爆発するような勢いで進んできたのだ。抵抗など簡単にできるわけも無く、集中していた敵たちは皆無残に空を飛んで敵の頭上へと落ちていく。

 それを見たアルトリアは、自分の真上へと向かって『風王鉄槌(ストライク・エア)』を放つ。

 

 遥か後方で待機している『切り札』への合図だった。

 

 

 

 

「輝け、太陽の現身。勝利のためにその威光で戦場を照らせ! 『転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)』!!!!」

 

 

 

 

 空高く放り上げられた太陽の聖剣はその柄に内蔵された疑似太陽の機能を完全解放。

 膨大な魔力により出力を最大まで増幅された聖剣は、真夜中にて絢爛に輝き夜空を照らす太陽へと成り代わる。

 

 その光は太陽の輝きそのもの。太陽を天敵とする死徒たちがそれを直に受けてまともでいられるはずがなく、真夜中だと思って完全に油断しきっていた数万以上の軍勢がその光に照らされて焼き焦がされる。

 しかもほとんど至近距離だ。規模は違えど太陽光をまともに浴びてしまえば、死徒はその肉体の劣化が早まってしまう。しかも聖剣から発せられる光だ。神聖さを帯びた太陽光は並の死徒程度ならば一秒もせず死滅させてしまうだろう。

 さらに言えばこの戦場は開けた場所で遮蔽物は皆無な平原。光を防ぐ術は無く、これにより敵軍の大半が壊滅状態に陥る。

 

 一部は味方の死骸や穴を掘って日光を耐え忍ぼうとする死徒もいたが、それでも四方八方を反射する光である以上多少のダメージは免れない。ある程度耐性のある真祖であろうとも、その動きが鈍るのは避けられない。

 

 形勢逆転。鼠の群れが猫の尻尾を噛み千切った。

 

 

「『約束された(エクス)―――――――――!!!!」

 

 

 空へ掲げられる聖剣。壊滅状態の敵軍へと更なる追い打ちを叩きこむために、アルトリアはその手に持つ聖剣の光を解放する。

 

 

「――――――――勝利の剣(カリバー)』ァァァァァッ!!!!」

 

 

 極大の星光が敵陣中央へと撃ちこまた。

 全てを焼却する星の輝きは膨大な熱量にて死徒や真祖を跡形も無く消し去り、十数万もの軍勢の中に一本の道が生まれる。

 

 最奥への道が拓かれた。

 

 瞬間、味方陣営の頭上を飛び越える一つの影が現れる。

 銀髪を風で揺らしながら目にも留まらぬ速度で疾走する麗人。アルフェリア・ペンドラゴン。ブリテンの切り札にして最強の戦士。その後ろ姿は誰もが見慣れており、いつもは仮面をかぶって敵を蹂躙する『戦神』の背中を見た兵士たちは皆が揃って瞠目する。

 

 その美しき姿に。敵陣に単身で突き進む雄々しさに。

 

「皆の者! よく聞け!! あの人は――――アルフェリア・ペンドラゴンは敵の大将を叩きに行く!」

 

 その名に驚愕しない者は一人もいなかった。

 ペンドラゴン。その苗字は明らかに騎士王アーサーの身内だという事を示す名。

 

「我々は彼女に託された! 祖国を、我々が帰るべき場所を守り抜け!! それがあの人の、我が姉の残した意思である!! 全員、命を賭けて誓うがいい!! たとえその身が滅びようとも――――」

 

 騎士王が聖剣を地面に突き立てる。

 

 

「――――その命尽きるまで、祖国を守る盾とならんことを!!!」

 

 

『ウォォォオオオオオオォォオオオオォォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』

 

 

 戦士たちは高らかに雄たけびを上げる。

 自らの使命を自覚し、そしてそれを命を賭けて貫き通さんという覇気を見せつけるのだ。

 勝利の女神(アルフェリア)が居る限り、自分たちに負けの二文字はあり得ない。

 その確信は確かに兵士たちの指揮を上げ、戦場を震わす。

 

「――――帰ってきてください、姉さん」

 

 その中でアルトリアは、一人の少女(・・)は呟いた。

 己の本当の願いを。

 

「信じています」

 

 姉の身を案じる妹は、その後ろ姿を消える最後まで見届けた。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 魔力放出を使ってアルフェリアは戦場を真っ直ぐ突き進んでいく。

 周囲の死徒は一人残らず日光に照らされ阿鼻叫喚の地獄絵図と変わっており、もはや死徒の軍勢は軍として機能しなくなっただろう。辛うじて残っていた真祖三百人もわざわざ自殺しにアルフェリアに突っ込んできて、残らずその首を『吸血剣(ブラッドイーター)』で撥ね飛ばされてしまった。ミルフェルージュと比べれば雑魚同然。今のアルフェリアに取っては真祖は敵どころかもう遊び相手にすらなりやしない。

 

 だが下手な消耗は許されない。

 彼女の相手はアルテミット・ワン。一瞬の油断さえ許さない絶対者である。そんなもの相手に消耗など許されない以上、アルフェリアは最小限の魔力消費で敵陣の最奥部へとたどり着く必要があった。

 

 

 

 ――――背後に現れる絶大な殺意。

 

 

 

 振り返ると――――その白い牙を血で濡らした狂犬、プライミッツ・マーダーが音速すら優に超越した速度でアルフェリアの背に追いついていた。当然、一撃でももらえば即死。それはあの犬の持つ『権利』であるが故に、触れた時点でこちらの死は確定してしまう。

 

 ただし、その『権利』には一つ穴がある。

 確かに触れれば死ぬ。どんな手段を使っても、それは免れない。

 

 

 その相手が『霊長類(にんげん)』だった場合の話であるが。

 

 

 アルフェリアの背後の空間が歪む。真っ黒な空間に繋がった『孔』が現れたのだ。

 その場所は虚数空間。虚数属性の魔術によって作り出された架空の空間であり、彼女にしか出入り口が作れない空間でもあるそこには――――白銀の竜が存在していた。

 

 一瞬にして広がった『孔』から白銀の竜、アルフェリアの相棒であるハクが飛び出す。十メートルを優に超える竜の巨体はアルフェリアを庇う形でプライミッツ・マーダーに立ちはだかり、突き出された白い爪を頑強な鱗によって容易に防いだ。

 そう、プライミッツ・マーダーは霊長類以外に対してはその特攻を発揮できない。

 霊長類では無い竜種のハクにとって、プライミッツ・マーダーは単なる『敵』でしかないのだ。

 

『ウォォォォオオオォォオオオォオオォオォオオオオン!!!!』

『グルァァァアアアアァアアァァァアアアアアアアアア!!!!』

 

 ガイアの怪物と最強の竜が対峙する。

 

 背中を頼れる相棒に託したアルフェリアは既に追従不可能な速度でプライミッツ・マーダーから離れていってしまう。それを見て白い狂犬は目を血走らせ、眼前の竜を睨みつける。

 だがそれはハクも同じことであった。未遂に終わったとはいえ、自分の戦友の命を奪いかけたのだ。それだけで怒りを露わにするには十二分すぎた。

 

 互いが所有する神秘の圧力で周囲の空間がねじ曲がっていく。

 既にどんな生物であれ接近は不可能。最強の狂犬と最強の幻獣。二者が一点に存在することで世界が軋みを上げ悲鳴をまき散らす。

 

 先に動いたのは、プライミッツ・マーダー。例え霊長類以外を相手にしようが、彼が死徒二十七祖第一位である所以――――この狂犬は『権利』など無くとも最速にして最強。その牙と爪で何であろうが歯で噛み千切り、鉤爪で切り裂き殺す。

 狂犬の動きの切れ――――ゼロ(0)の状態からトップスピード(MAX)までの間隔はコンマ一秒を下回っていた。殆ど予備動作無しで音速を突破したプライミッツ・マーダーはその鋭利な爪でハクの体を斬りつける。

 先程とは違い、霊長類以外を相手にする場合の攻撃。触れるだけでなく切り裂くための一撃だ。それは竜の鱗を突破し、鋼鉄より硬い筋肉を裂いた。だが、ハクにとってはかすり傷に他ならない。その傷はすぐに元通りになってしまう。

 

 だが、プライミッツ・マーダーは攻撃を止めなかった。

 音速で足を動かすことにより触れられる空気の壁を蹴り(・・・・・・)、空中での方向転換と超加速を実現して再度攻撃を加えた。

 それは止まることなく何度も行われ、プライミッツ・マーダーは過ぎた数秒の間に数千回近くハクの身体に傷を作っている。幾ら竜の再生能力が高いとはいえ、流された血が直ぐ元に戻るわけでは無い。血は確かに流れ続け、このままでは失血に至るだろう。

 

 そんな物とっくの前に理解している。

 

 ハクは血が失われ続けているにも関わらず極めて冷静であった。この竜は、相手を、プライミッツ・マーダーの動きを『観察』し『解析』しているのだ。

 どこにどうやって飛び、どんなタイミングで動き出すかを。

 既に千回以上繰り返されている。それだけ見れば――――サルでも要領を掴める。

 

『――――グ、ッギャガ……ッ!!?!?』

『グルルルルルルルル……………ッ!!』

 

 プライミッツ・マーダーの動きを予想し、ハクは溜めていた力を解放して竜の膂力から繰り出される爆発的瞬発力を以て己の体を切り裂き続けた狂犬の喉元を捕まえる。

 そしてハクは狂犬を掴んだ手に全力を注いで――――遥か彼方へと投げ飛ばした。

 

 竜の筋肉から生み出された圧倒的な力。それによって投げられたプライミッツ・マーダーの体は瞬時に音速を飛び越え、凄まじい速度で戦線を離されてゆく。衝撃波で灰となっていく死徒が跡形も無く吹き飛び、射線上に存在していた者全てが肉塊へと変わっていく。それでも尚、勢いは減らない。

 そのプライミッツ・マーダーに、ハクは自身が出せる最高速度を以て追いつく。確実にあの狂犬を滅ぼさんと、喉の奥から憤怒のうなりを上げながら。

 

『グルルルルルルァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』

 

 太い腕が振り上げられ、ハクは自身より遥かに小柄なプライミッツ・マーダーを徹底的に叩き潰そうとする。

 

 ――――だが、そんな簡単に最強の狂犬がやられるはずもなく。

 プライミッツ・マーダーは宙を蹴り自分の体を強制的に地に戻すと、足を地面に突き刺し一気に減速。地表を抉りながらその勢いを弱め――――逆にハクの巨体へと飛び掛かった。

 

 交錯する二体の従者。

 

 血の噴き出す二つの源泉。

 

 一瞬の邂逅にてハクとプライミッツ・マーダーは互いの腕を食い千切っていた。

 両者共に右腕を失い、しかしその顔には怯えの感情など欠片も存在しない。ただ己の主のために身を粉にして尽くす。

 

 

 ――――(アルフェリア)の邪魔はさせない。

 

 

 ――――(アルトルージュ)の脅威は抹殺する。

 

 

 従順な竜と魔犬は再度互いを睨み合う。滴る血など気にもせず、ただ互いを殺す算段をしながら殺気を場に満ちさせる。既に誰にも追いつくことはできない頂上決戦。

 赤く染まった牙を見せ合う二匹。

 

 同時に両者が地を踏んだ。

 

 

『オォォォォオオオォォォオォオォオオオオン!!!!』

『グルオォォォォォオオオオォォォオオオォオ!!!!』

 

 

 ハクの剛拳が地を砕く。疑似的な地震さえ起こしたそれは直撃すれば問答無用で対象を殴り殺しただろう。しかし速度で上回るプライミッツ・マーダーはそれを紙一重で回避し、ハクの喉笛に噛みついた。鱗を貫き、肉に深く突き刺さる狂犬の牙。無理に引き剥がせば肉ごと剥がすことになる。

 だがハクに迷いなど無く、一切の躊躇なく自分の喉に食らいついたプライミッツ・マーダーの体を掴んで引き剥がした。吹き散る鮮血が空を舞い、白い狂犬の体が赤く染まった。

 

『ガアァァァァアアアアアア!!!』

『ギィッアガッガアアアアア!!?』

 

 ハクは捕獲したプライミッツ・マーダーの体を力任せに地面に叩き付ける。

 地面はまるで隕石でも衝突したかのように陥没し、地面が容易く吹き飛び抉れる様はまさに移動災害。地上最高の神秘の塊はその有り余る力を以て上から狂犬を叩き伏せたのだ。

 

 

 そして、その顎を開き神秘の奔流を容赦なく吐き出す。

 

 

 幻獣クラス最高峰の竜であるハクが吐き出す竜の息吹(ドラゴンブレス)。それは聖剣の光すら超越した熱量を内包していた。

 荒れ狂う白銀の光。直撃すればどれだけ足掻こうが無事では済まない。

 

 例え抑止力の補助を受けたガイアの怪物であろうが。

 

 

 

 

 

 ――――戦場から離れた場所で一柱の光が空へと昇る。

 

 

 

 

 

 膨大な神秘を内包した力の奔流は山を砕き、地を裂き、空を震わす。

 

 その一撃、神の鉄槌の如し。

 

 天へと昇る光はまさしく人々が見とれる幻想の跡。

 

 地上最後の幻竜が命を賭けて見せつける極光は何よりも眩しく、暖かかった。

 

 

 

 

 

 

 辺り一面が焦土と化した場所に、白い狼と白銀の竜が倒れ伏している。

 至近距離で超級の熱量が爆発を起こしたのだ。爆心地に居たハクもプライミッツ・マーダーもすでに瀕死の状態であり、身体を動かすのもほとんどできなくなっていた。

 

 むしろ、アレの爆発に飲み込まれて生きているこの二匹が異常なのだ。

 並の幻獣でも屠るであろう超熱量の吐息。互いに負傷した状態でそれを耐えきった時点で、既に神獣クラスに片足を突っ込んでいると言わざるを得ない。

 

 それでも重傷は免れなかった。

 

 両者ともに動けず。援軍も無いだろうし、例え現れてもこの二匹に傷を付けることは瀕死の状態でも容易ではないだろう。

 

『――――プライミッツ、戻りなさい。貴方はよく頑張ったわ』

『クゥゥゥン…………グルルルルッ』

『ええ。きっといつか見返してやりなさい…………私の可愛い忠犬』

 

 何処からともなく少女のような声が響き、言葉が終わるとプライミッツ・マーダーの体が光の粒子となって消失する。恐らくどこかへと転移されてしまったのだろう。差し向けた刺客が戦闘を続行することが不可能になった以上、ガイアももう干渉はできない。

 

 そして白き狂犬が倒された今、ハクの行く道を妨げる者は無い。

 

 

 自分の体以外は。

 

 

 既に限界を超え損傷を繰り返したハクの体は、竜の再生力を以てしても即時の再生は不可能であった。例え傷が癒えたとしても即時戦線復帰は不可能だろう。治癒されたばかりの体ではORTに立ち向かった所で餌になるだけだ。

 

 それに、ハクもまた体が消え始めていた。

 

 元々数年前にハクは世界の裏側へ行く運命であった。それをアルフェリアに邪魔され、なんだかんだで付き合っている内に互いを『相棒』と認め合い、彼女と死ぬまで共に居続けることをハクは自身に誓った。

 だが世界は既にハクのような強力な神秘の存在を許容しない。即ち世界が受け付けなかった故に、ハクは常時世界の裏側へと引きずり込まれる力と戦っていたのだ。

 

 それに抵抗する力も、もはやない。

 抵抗できない以上、ハクは出れるかどうかすらわからない世界の裏側へと弾かれる定めであった。

 

 ハクは、白銀の忠竜は「それでも」と必死に抗う。

 

 最後まで守り通すと決めた。

 

 なのに、この様はなんだ。

 

 自分に課した一つの約束さえ守れず、何が最強の幻想種か。

 

 全ての力を振り絞り、ハクは残った片腕を伸ばす。

 

 遥か彼方に見える、緑色の大蜘蛛へと。

 

 

 

『ア、ル……フェリ、ア――――――――――』

 

 

 

 抵抗空しく、竜の巨体は光となってこの世界から消え去る。

 主人を守ると誓った竜は、世界から排除された。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 白い装甲を纏い、緑色の炎の様な物を体のそこかしこから見せる大蜘蛛。

 星のアルテミット・ワン。水星の王(タイプ・マアキュリー)、ORT。その四十メートルを超す巨体と地上の如何なるものも耐えられない殺意は、見る相手を遺憾なく押し潰す圧力を放つ。

 地球上のルールすら通用せず、存在そのものが『異界』であるORTは『ソレ』を見た。

 

 自分が発生させた水晶峡谷を苦も無く進み続ける『異物』を。

 

 

「――――うん、直に見ると、本当に押しつぶされそうだ」

 

 

 ORTの世界に入り込んだ『異物』――――アルフェリアは穏やかな笑みを浮かべながら、ORTを見上げた。

 星の絶対者を前にして、笑みを浮かべた。それがORTに取って余りにも『異色』過ぎて、大蜘蛛はその歩みをようやく止める。

 

 誰も止められなかったはずのアルテミット・ワンの歩みが、止まった。

 

『―――――――――――――――――――』

「ああわかっている。どうせ言葉は通じないだろうし、通じたところで素直に帰るはずもない。戯言を述べるつもりはないよ。……時間稼ぎに留めたかったけど、仕方ないか。……倒す気で行かせてもらうよ」

 

 言葉を一旦切ると、アルフェリアは纏った黒い外套の内側から一本の剣を抜き放った。

 それは、銀色の直剣。十字架を模した儀礼用の剣に見えて、しかしその切れ味は地上の如何なる剣をも超越した絶対切断の一振り。

 

 神々の意思が最後に遺した神秘の大結晶。

 

 最期の幻想(ラスト・ファンタズム)。もう二度と造られることのない、最強の神造兵器。

 

「……さて、相応しい舞台は整ったよ。約束通り(・・・・)、『守りたいものを守るための戦い』をしようか」

 

 空間が、水晶峡谷が震えだす。

 怯えているのだ。

 この空間が――――ORTの『世界』が。

 

 

 

 

 

「神剣解放――――――――起きろ、『夢幻なる理想郷(アルカディア)』。星を殺すぞ」

 

 

 

 

 

 瞬間、ORTの警戒が最大レベルにまで引き上げられた。

 アレは不味い。一秒たりとも生かしてはおけない。

 

 でないと――――殺られる。

 

 本能のままORTはアルフェリアの周囲を『意図』して異界へと変貌させる。居るだけで周囲を異界化させるORTが己の意思を以て世界を書き換えた。

 一瞬にして完成する水晶の牢獄。一度閉じ込められれば何であろうが永久に閉じ込めるそれは――――

 

 あっさりと砕け散った。

 

 たった一本の剣が一振りされただけで。

 そして、アルフェリアはその中心に立っていた。

 

 至上の神秘を凝縮した白銀の鎧を纏い、天からの御使いのような神々しさを背に、そこに存在していた。

 

 今ようやくORTは認識を改める。

 

 これはもはや人間ではないと。

 自分を殺せる可能性を持った、『敵』だと。

 

「私もこの状態で居るのは十五分が限界なんだ。だからさ――――殺し合おうか(・・・・・・)。星の代弁者」

 

 彼女は宣言した。星と『殺し合う』と。

 本来ならば戦いにすらならないはずの相手に、そう啖呵を切る。

 それに対する応答か、ORTは十本の脚を振り上げ、地に叩き付けた。それだけで至上稀に見ない轟音がけたたましく響き渡り、水晶峡谷全体に罅が入っていく。

 

 交わる殺意。

 

 人と星の最終決戦が、今始まりを告げた。

 

 

 

 

 

 

「オォォォォォォォォオオオオオオオオオォォォォォォオオオオォォオオオォォオォォオオォォォォオオオオォォオオオオオッッ!!!!」

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 火花が散った。

 

 世界が鳴いた。

 

 全てが砕け散った。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 




というわけで従者対決回でした。いかかだったでしょうか。
ぶっちゃけ犬の方は自分でも少しアッサリ退場しすぎたと思ってる。でもハクさんを世界の裏側に行かせる要因としては上手く働いたかも。そしてチョイ登場したアルトルージュさん。ホントにエキストラだから。もう出番はないから。たぶん。


次回、決戦。

たぶん明日は投稿無理。しっかり養生します。喉痛い。体痛い。


しかしアルフェリアさん、さりげなくORTさんを殺す気で行ってます。だってその気で行かないとマジで殺されかねないからね。最期に見せる本気です。

順調にインフレしてるなぁ・・・。


追記3
海鷹さんから支援絵をいただきました!本編に張ったのでぜひ見ていってください。

以下PixivへのURL

http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=58132325

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