因みにランサー兄貴待望の初戦です(活躍できるとは言ってない
ついでにアヴェトリア待望の初戦です(暴れないとは言ってない
新しい宝具の登場に合わせてステータスの方も更新しておきます。
追記
誤字修正しました。
海浜公園の西側に位置する、無味乾燥なプレハブ倉庫が並ぶ倉庫街。色とりどりのコンテナが積み上げられたその区画に、一つの影が佇んでいた。
青色の髪に同色の体のラインが見えるタイツの様な服に深い毛皮のマントを纏った男。獣の様な雰囲気を漂わせ、ただ周りに己の気配を放つその男は――――酷く退屈そうな顔で欠伸をしている。
「……はぁ、ったく。今回の聖杯戦争とやらは挑発にも応じない腑抜け共ばかりなのかね」
英霊――――過去の英雄を『腑抜け』と言い放つその男もまた同じ英霊。そうでなければこんなあからさまな暴言を吐けるわけがない。
青髪の男は逆立った髪を掻きながら、軽く周りを見渡す。
獣の様に研ぎ澄まされた敏感な危機感知能力。彼はそれを十分に発揮し、何度目になるかわからない自身の周囲数十メートル内に存在する敵対生物の索敵をもう一度行う。
ここまで誘っても本当に来ないのならば、今夜は見送るべきだな――――青髪の男はそう自分のマスターに進言しようとして、直前で止まる。
「……んあ?」
微弱な違和感。それこそ巨大なプールに小石が落ちた様な、そんな目立ちもしなければ気づくことすらままならない違和感を感じ取った彼は懸念そうな顔を浮かべる。
「アサシンか? いや、にしちゃ、これは――――」
そんな不安要素がたっぷり詰め込まれたような状況だと言うのに、男は逆に笑みを浮かべ始めた。
何せ吊り下げていた釣り針にようやく獲物が引っかかったのだから。
何もなかった青髪の男の手に深紅色の光が灯り始める。
「――――ちっとばっかし、殺気が強すぎるぜオイッ!!」
瞬間、青髪の男の右手に紅蓮の槍が具現化する。そして男は間髪入れずに自身の背後を槍で薙ぎ払った。
神速の一撃。人間ではとても到達できないだろう横薙ぎは掠るだけで普通の人間ならば動態を両断されかねないそれは、見事彼の背後に存在していた『ナニカ』を捕える。
甲高い金属同士の衝突音が倉庫街に鳴り響く。
散る花火は一瞬。しかしその一瞬で、男は背後から不意打ちを仕掛けた襲撃者の力量を推測し切る。
槍が受け止めた衝撃から予測できる筋力、吹く風の速さによる攻撃速度、また完璧なまでにこちらの首を撥ね飛ばすための技術――――その全てが一級品。
紛れも無い難敵であり、男にとってこれ以上無い
そう理解した男は不敵な笑みを浮かべ、競り合いを続けていた槍を払って襲撃者の体を弾き飛ばし距離を作らせた。流石に槍のリーチ外である近距離で戦うのは、戦いに精通した彼――――ランサーのサーヴァントでも厳しい物があるからだ。
弾き飛ばされた襲撃者――――目深にボロキレのような頭巾を被った少女は空中で姿勢を整え綺麗に着地。
すぐさまその手に持った禍々しい黒い長剣と無骨な純白の短剣を構え直しながら、暗闇から見える碧眼で少女はランサーのサーヴァントを睨みつけた。
「おう、いきなり派手な挨拶かましてくれるじゃねぇか。一応聞いておくが、クラスを名乗るつもりは――――」
ランサーは最後まで言い切れなかった。
台詞の途中で少女が爆発的な加速を以てランサーに接近し、得物である黒い長剣で攻撃を加え会話を文字通り叩き切ったのだから。ランサーは小さく舌打ちしながらその攻撃を回避し、遠方へと軽やかなステップで退避した。
流石に彼も会話中に攻撃するのは驚いたが、相手が「そう言う人種」だと理解して、遊びに乗ってこないことを少々残念に思いながら朱槍を構え直す。
「……おいおい、戦闘前の問答の醍醐味ってやつを知らねぇのか?」
「――――――――」
「だんまりかよ。まぁ、それなら今からお前さんの固い口を開かせてやるぜ。覚悟しな」
「――――五月蠅く吠えるな、狗か貴様は?」
「…………ア゛ぁ?」
彼、ランサーにとって禁句に近いそれが黙っていた少女の口から漏れる。凛とした声がランサーの耳を震わすが、既に彼はそんなことを眼中に入れていなかった。
狗――――彼にとっては特別な意味を持つそれを侮蔑に使われた。少女はそんなこと知りもしないだろうが、だからと言ってランサーに生じた怒りが消えるわけでは無い。故にランサーは余裕を浮かべていた顔を厳しい物へと変えていく。
静かな怒りを胸に、ランサーは無言で槍を握る力を強めて姿勢を低くし、相手の喉笛を噛み千切る狼と化した。まさに相手を殺すための体勢。恐らく彼は一切の躊躇なく少女の喉を刈る気でいるのだろう。
それを見て、鉄仮面の如く変化しなかった少女の口元が不気味に歪む。
「気が変わった。ちっせぇガキだから少し遊んでやろうと思ったが――――今からテメェは殺す。後悔するなよ」
「…………貴様も、邪魔者か。邪魔をするのか、私が聖杯を手にすることを」
「あ?」
ぞわりと、ランサーの肌を得体のしれない感覚が撫でる。
直後に少女から発せられる尋常では無い殺気と憎悪、そして狂気。生半可な感情では届きすらしないであろう妄執と愛憎が黒い瘴気となって少女の体から溢れ出し始める。
それを間近で浴び、初めてランサーがその顔に冷汗を浮かべ出す。
「邪魔者――――いらない、イラナイ、いらナイ、いラない――――なら、消す。邪魔なヤツ、消ス、殺す、殺ス、コロス、こロス、コろス、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――――」
一度壊れ果てた歯車仕掛けの時計が動き出した様に。
もう壊れて動かないはずの「ソレ」は、己が抱いた憎悪と愛だけでその四肢を動かし始める。ランサーはその光景に顔を引きつらせ、しかし名状しがたい感情を押し殺して前へと踏み出した。
「――――――――あはっ」
それに合わせる様に少女が何らかの方法を使って爆ぜる様に加速し、ランサーとの距離を一気に縮める。先程味わったにしろ、一瞬姿を見失ったランサーは半分ずつの勘と経験により攻撃を予測し、その方向へと槍を薙ぎ払った。
そして起こる小さな花火。戦士としての勘を巡らせ放ったランサーの一撃が、寸前のところで少女を捕えたのだ。
「捕えたァッ――――!」
この瞬間ランサーの猛攻が始まる。
一撃一撃が当たれば即死級。それが一秒間に何度も繰り出され、まるで槍の壁が迫るような攻撃が少女を襲う。しかしその攻撃が少女に当たることは無かった。
ランサーが相手にしている少女もまたサーヴァント。生前偉業を打ち立て人々に信仰された英雄が一人。その者の技量が低いなどあり得ず、少女は見事なまでの剣捌きで二つの長剣短剣を巧みに操り、己の身を貫こうとする槍を防ぎ、逸らし、躱し切った。
「凌ぎ切っただとッ……!?」
「――――
ニタリ、そう表現するのが正しいほどに少女は口を狂喜に歪め、微かにできた隙を突いて左手に持った短剣でランサーを斬りつける。何かの後押しを受けたように瞬間的爆発力を以て振られたそれはランサーの左腕を撥ね飛ばそうと狂速で迫り――――ランサーは咄嗟に身を捻ってその白い刃を回避する。ランサーの驚異的な瞬発力により間一髪で、彼は左腕と左脇腹に小さな裂傷を作る程度にダメージを留まらせることに成功した。
深くも無いが、決して浅くも無い傷を負ったランサーは苦悶の表情を浮かべて背後へと跳躍。ランサーは一度少女の大きく距離を作り出し、戦況の立て直しを図ることを選択したのだった。
「っつ……再生阻害と痛覚刺激の呪いか……厄介なッ」
血を流す左腕を抑えてランサーは吐き捨てる。彼はランサーの身にしてルーン魔術を扱え、その中には回復用のルーンも存在している。ランサーは傷ついた身を癒すためにそれを行使したが――――結果は変わらず。
原因としては、自分を傷つけた短剣――――少女の宝具だろう。恐らくあの短剣で作った傷は癒すことが難しくなり、持続的に痛覚を刺激する呪いを含む。今もランサーの腕に生じた傷は一定間隔で鈍痛を生じさせ、冷静な思考を乱していた。
相手に血を流させ、冷静になる余裕を奪う短剣。一対一にはもってこいの宝具だろう。
まるでじわじわと獲物を嬲り殺しにするような手口に、ランサーは思わず悪態をついた。
「テメェ……本当に英雄か? 狂人だと言われた方がまだ説得力があるぜ。それともなんだ。聖杯戦争とやらは悪霊まで呼び寄せるのかよ」
「…………英雄? 英雄、ああ、他者はそう称えたのかもしれない。だが――――私は私を英雄などと言う下らない物だと思ったことは一度も無い」
「……ハッ、成程な。要するにテメェは、ただの狂ったガキってことかよ」
この瞬間、ランサーの中から全ての迷いが消え去った。
心のどこかで思っていたのだろう。戦いを通じて目の前の少女を狂気から抜け出させられるかもしれないと。だが彼女は己の過去を否定した。他者が称えた物を『無為』と切り捨てた。
それだけで戦士であり己の誇りと忠義の証である武功を第一とするランサーが迷いを捨てるのは十分な理由となる。
「いいぜ、せめてもの慈悲だ。俺の奥義で止めを刺してやる」
殺気の籠った声でそう告げ、ランサーは腰を低くし槍を穂先が地面を向く様に構えた。
そして――――朱槍が紅蓮の光を帯び始める。
禍々しく灯る生物的恐怖を擽る赤き光は、相手に死を運ぶ呪いの輝き。絶対不可避の一撃を繰り出す人知を超えた因果逆転の呪いの光輝は、笑みを浮かべていた少女の口を不快気に歪ませるには十分な威圧を放っていた。
が、気づいたところでもう遅い。ランサーの宝具の発動準備は既に整ったのだから。
――――しかし、少女は再度笑みを浮かべる。
死の直前になっても崩さない笑みに悪寒を覚え乍ら、ランサーは強迫されるように死を運ぶ一歩を踏み出した。
「この一撃、手向けとして受け取るがいい――――ッ!!」
赤き魔槍の穂先が震えだす。
相手の心臓を必ず貫く一撃必殺の魔槍は、敵の血を啜りたいと喜びの咆哮を闇夜に響かせるのだ。
ランサーが幾たびの戦場で振るい、数多の敵を屠ってきた最強の魔槍。その名も――――
「『
「――――『
――――だが、その名を最後まで言い切る前にランサーは膝を折る。
「―――ぐっ、あガァッ…………!?」
ランサーの顔に信じられないほどの量の汗が流れ始める。その様子はまるで想像もできないほどの激痛に襲われた新兵の様な――――初めて『痛み』を味わう顔を浮かべ乍ら、ランサーは地面に膝をついた。
一年間に渡って不休不眠で敵軍と戦い続けた古代アイルランドの大英雄――――クー・フーリンがだ。
当然そんな大英雄が理由も無く膝を折るわけがない。
飛び散る血液が彼の身を染める。
今のランサーは激痛による悲鳴を耐えるだけで精一杯だった。宝具発動の再開もまともに思考することのできない今では不可能であり――――ランサーは事実上詰みと言っても過言では無い状況へと陥る。
「ぐ、っお、ぉォッ…………!」
「――――ゲイ・ボルク。なるほど、貴様はアイルランドの光の御子か。その俊敏性、獣の如き瞬発力、確かにクー・フーリンしかいないだろうな。そんな動きができるランサーは」
「テ、メェッ……一体、何者、だァッ…………!」
触れるだけで身を犯しそうな憎悪を身に纏ったまま少女はランサーの前まで近づき、歪んだ笑みを浮かべ乍ら右手の黒い長剣を振り上げた。漂う覇気は魔剣のそれ。いや、間違いなく魔剣だろうそれは、振り下ろすだけで確実にランサーの命を散らせるだろう。
そして剣を振り上げたまま、少女は問いに答える。
「私は
「…………ハッ、みてぇだな。よく知ってるぜ? お前さんの目」
死を前に、クー・フーリンはもう一度だけ不敵な笑みを浮かべた。
それが今の彼ができる、精一杯のやり返し故に。
「――――復讐心に駆られた、ロクデナシなクソガキの目だ」
「――――死ね」
無慈悲な黒刃が落とされる。
だがクー・フーリンの体を斬り裂くだろう凶刃は、寸でのところで
深紅の血管の様な模様が張り巡らされた黒いサーベルの刃によって。
「ッ――――!?」
「――――アァァァァァァァァァサァァァァァァァァァァアアアアアアアアアッッ!!!!!」
少女――――アヴェンジャーの一撃を防いだ人物。黒のスーツと現代的な服装に身を包んだ長身の男は、手に持ったサーベルを両手に持ち替えほぼ力任せにアヴェンジャーを弾き飛ばした。その距離、凡そ数十メートル。
響き渡る轟音からも、その男の剛力が凄まじい物であると証明していた。小柄とはいえ人一人を腕力だけで百メートル近く吹き飛ばすなど、現代の人間では不可能。ならばこの男は――――サーヴァント。
その結論にたどり着き、クー・フーリンはさらに顔を苦くする。
攻撃を防いでくれたことには感謝するが、結局は他陣営の敵。此処で助けた意図はわからないが、どの道油断は許されない。クー・フーリンは今できる精一杯の覇気を込めて、目の前の男を睨みつける。
「……そこの御方、死にたくなければ下がってください」
「ん、だと? テメェは一体……」
「いいから早くッ! 私に殺されたいのですか!!」
「ッ……了解した!」
男の並ならぬ怒気に押され、クー・フーリンは不本意ながらも傷ついた身体を引きずり二人から遠く離れた場所へと退避した。
その間にもアヴェンジャーと男のにらみ合いは続き、間で火花でも散らすのではないかというほどの眼力が交錯し合う。獣と獣の睨み合い。そんな例えがしっくりくるほどの張り詰めた空気。
観てるものからすれば数時間にも感じられるほどの緊迫した状態は数十秒に渡り長引き――――ついにアヴェンジャーの口が開いた。しかしその声は先程の憎悪溢れる姿はでは無く、温厚な声。死合を繰り広げたクー・フーリンも、先程とは打って変わった態度に思わず目を剥きかけてしまう。
「ランスロット……お久しぶりです。まさか、こんな所で再会できるとは。夢にも思いませんでした」
「……アーサー王、いえ、アルトリア……ッ! その姿は、一体……!」
「この、姿? ああ、確かに少し髪が白くなってますね。鎧も少し黒ずんでいる。ですが、貴方はそれでも私を私とわかってくださった。とてもうれしいことです」
「そうではないっ……そうではないのです、王よ……! 何故、貴方がそんな禍々しい気配を纏っているのですか……! あの気高き名君だった貴方が、何故!?」
悲痛に満ちた声で男は――――ランスロットは叫ぶ。
かつて従えた主がここまで変わり果ててしまったのだ。無理も無い。だがアヴェンジャー、否、アルトリアはそれをいわれても尚笑顔を崩さず、言葉を続ける。
「気づいたのですよ。自分の本心に」
「本心……? それは一体……?」
「――――
「ッッ…………!?!?」
予想だにもしていなかった自虐の数々が主君の口から出たことに、ランスロットは顔を歪めた。
もはやあの時の、栄光を背に輝いていた理想の王の姿は欠片も残っていなかった。ここに居るのは、ただ全てを奪われ絶望した、一人の少女。
故にランスロットは、内に秘めた怒りを顔に滲み出させる。
鬼の様な形相で、ランスロットは一度たりとも向けなかった怒りの視線を今、アーサー王へと向けたのだった。
「私の、我らの、皆の忠義を――――貴方は、無駄と言うのですか」
「――――私が、無意味に終わらせてしまった。騎士たちの忠義に応えられなかった。ならば、私は王に相応しくないのでしょう。ですが、安心してくださいランスロット。きっと、貴方たちの思いに応えられる素晴らしい王が――――」
「――――ふざけるなぁぁぁぁあああああああァァァァァアアアアアアアアアアアアッッ!!!」
空に轟く怒号が倉庫街を震わせる。
その覇気は声を向けられてもいないクー・フーリンさえ一瞬とはいえ震えてしまうほどの激情が籠っており、彼の怒りが並の物では無いことの証明だった。
事実、ランスロットの顔は生前ただ一度すら浮かべなかったほどに怒りに歪んでいた。
「我らは、我らは貴方だからこそその後を着いて行った! 貴方だからこそそこまで行けたのです! 理想として輝いていたからこそ皆が貴方に忠義を誓ったのですよ!! それを今更、結果が伴わなかったから『無かったもの』にすると!? 全てを無価値に、無意味にすると!!? ふざけているのですかッ!! 私の知るアーサー・ペンドラゴンはそのような弱い人間では無い!!」
まくしたてる様に放たれるランスロットの激情。今、己の主君が行おうとしているのは自分だけでは無く、ブリテンの騎士全ての忠義や努力を無に還すという事なのだ。そして――――あの儚くも楽しい日常――――アルフェリアを中心に過ごした暖かいひと時すら消え去ってしまうと言う行動。
それだけはランスロットは絶対に許さない。例え不敬と言われようとも、裏切り者と呼ばれようとも、それだけは決して許容できなかった。
――――それでも、アルトリアの目は変わらなかった。
むしろ、先程より絶望の気質が濃くなっている。
己の言葉が届かなかったのかと、冷静になり始めたランスロットは一度面に出してしまった激情を収めながら静かに唇を血が出るほどに噛む。
そしてアルトリアは、その身に纏う絶望を更にどす黒い物へと変質させながら、失望の眼差しでランスロットを見据えた。虚ろな目は、まるで吸い込まれんばかりの闇が広がっており――――どれだけ彼女の闇が深いかをランスロットに思い知らせる。
「……貴方も、私の邪魔をするんですね。どうして、わかってくださらないんですか。どうして…………どうしてどうしてどうしてどうしてドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテェェェエエエエェェエエェッ!!!」
感情の防波堤が壊れたように、アルトリアは狂ったように言葉を繰り返す。
いや、もう既に狂ってしまったのか。
「――――もう、いいです」
その一言と同時に、アルトリアの纏っていたどす黒い魔力が吹き荒れる。
触れるだけで身を蝕むほど異質化している魔力は、容赦なくランスロットの体に叩き付けられた。彼もなけなしの対魔力によって耐えようとはしているが、その体は意に反して少しずつ後ろへと押されていく。
コンクリートの地面はアルトリアを中心に罅割れ、積み重なったコンテナは轟音を立てながらその位置をずらしていく。しかし――――まだ前座である。
「――――死になさい、ランスロット。皆の幸せのために……ブリテンのよりよき未来のために……ッ!!!」
「王よッ、貴方は、間違っている!!」
「黙れッ……黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙レ黙レ黙レ黙レ黙レ黙レ黙レ黙レ黙レ黙レ黙レ黙レ黙レ黙レ黙レ黙レ黙レ黙レ黙レ黙レ黙レダマレダマレダマレダマレダマレダマレダマレダマレダマレダマレダマレダマレダマレダマレダマレェェェェェエエエエエエエエエエエエエエエエッッ!!!!」
アルトリアの顔の右半分が黒く染まっていく。
呪いにも似たソレは、本人が抱いた妄執から生まれた天然の呪怨。世界への憎悪と己の行いからくる後悔だけで形成された忌むべき現象は、もはや宝具の域に到達していた。
その名も――――
「『
黒化はアルトリアの右目まで到達して停止する。しかし怨嗟に侵食された彼女の右目は既に人の物ではなく――――濁っていた碧眼は白目を黒に染め、虹彩を銀へと変化させていた。
直視するだけでこれでもかと生物の恐怖を刺激するその眼は、既に後天的な魔眼にまで到達している。
その様、まさに
万物に恐怖を強いる絶対王者は此処にて目を覚ました。
「なんと、痛ましい様か…………アルトリア……っ!」
「消えロッ……」
「その姿を見たら、貴方の姉君が何と思う事か、わからないはずないでしょう! だから、もうっ……」
「消エてシマえッ………!!」
「アルトリアァッ!!!」
「こんナ世界ッ――――消エテシマエェェェェエエエエエェェェェェエエエエエエッッ!!!!」
白髪の覇王は漆黒の魔剣を空高く掲げる。
その魔剣から溢れ出るのは――――『災厄』。全ての生ある物に厄災をもたらす、最高峰の暴力。星からの裁き。その概念が漆黒の光として、一条の剣を形成していた。
一歩踏み出す。
それだけで溢れ出る災厄は勢いを増し、夜空を粘り気のある不気味な物へと変化させた。
異質にして害悪そのもの。見るもの全てを絶望させる禁断の極光。
森羅万象。例外なく全てを滅ぼす最悪の魔剣は――――今、振り下ろされようとしている。
「『
それを前にして、ランスロットはただただ悲痛な目をかつての主に向け続けていた。
己の無力さを、噛みしめて。
「――――――――
闇は迸り、夜空に高らかに吠えた。
倉庫街の三分の一を消滅させただけでなく、その射線上の海水さえ残らず蒸発させる断罪の極光は灼熱と化して全てを飲み込み消していく。
闇夜に一柱の暗黒が伸びた。
失墜する星の如く。
うわぁい。倉庫街吹き飛んじゃったなぁ・・・聖堂教会の悲鳴が聞こえる。
~その頃(切嗣サイド)~
ケリィ「うわぁぁぁぁあああぁぁぁあぁぁぁ!(魔力がガリガリ減る音)」
※一応ケリィはアインツベルンの技術を使って魔力のバックアップを受けています。Apoのゴルドさんがやったようなホムンクルスによる供給補助システムみたいな。アハト翁を説得した結果です。
そして補助があっても K O N O Z A M A です(白目
~その頃(ケイネスサイド)~
ケイネス「やった!最強のサーヴァントを引いたぞ!」
↓アヴェトリアと交戦後
ケイネス「(´・ω・)・・・え?」
これは愉悦(ニタァ