Fate/argento sister   作:金髪大好き野郎

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早い(確信

筆が乗ると一日で一万文字書き上げてしまうという速筆(誤字が少ないとは言ってない)。自分でも「ああ、またか」と呆れるぐらいです。展開がもう頭に入ってるからかな?

・・・今回は色々愉悦できますよ?(主にAUOで

追記

肉体年齢20を「少女」と例えるのはいかがなものか・・・と突っ込まれたので修正。あ、別にアルフェリアさんが年増と言いたいわけじゃ(グシャァ


第十一話・狂気は狂喜へと

 大量のコンテナと地面に張られたコンクリートの大半が融解した倉庫街。

 その被害は悲惨程度では収まらない、余りにも酷過ぎる光景。全体面積の三分の一を跡形も無く吹き飛ばされた倉庫街を修復するには、一体どれぐらいの金額がかかるのだろうか。もし市長がこの絶景を目にしていれば、卒倒して泡を吹きながら倒れているだろう。

 

 そして、融けた物質の蒸気が舞うその場所で三つの影が佇んでいた。

 

 一つは目深に頭巾を被った白髪の少女。この惨状を作り出した張本人であり、その双眸からは理性の光が失われている。狂気に染まり切った眼は、無言で自身の最大級攻撃を防ぎ切った二名に向けられていた。

 

 ダークスーツを身に纏う紺色の長髪が目立つ長身男性と、青い髪を逆立てた獣のような青タイツに身を包んだ男。

 ランスロットとクー・フーリン。両名が服の所々に焼けた跡を残しながらも、ランクA++の対城宝具を正面から受けきっていまだ生存している。

 その訳は簡単だ。

 

 まず始めに立ちはだかったランスロットが己の地力と技術全てを使い、全身全霊で宝具化することでランクをBまで跳ね上げた無銘のサーベルの剣圧で漆黒の極光を斬り裂いた。当然、そんなことをしたところで時間稼ぎにしかならないし、度が過ぎた強化の反動でサーベルは自壊してしまった。

 いよいよ追い詰められたランスロットは自爆覚悟で『無毀なる湖光(アロンダイト)』を具現化して再度極光を斬り裂こうとしたが――――その直前、傷を癒したクー・フーリンが介入することになる。

 

 介入した彼もまた全身全霊の投擲宝具――――『突き穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)』を飛ばして更なる奥義である『抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイ・ボルク)』で相殺してのけた。

 アルトリアの繰り出した『鏖殺するは卑王の剣(エクスカリバー・ヴォーティガーン)』はランクA++ではあるが、ランスロットの全力斬撃により威力を減衰された瞬間にランクB++の対軍宝具を叩き込まれればただでは済まない。最強の対城宝具は二名の尽力により、その進行方向を割られた(・・・・)のだった。

 

 とはいえ、倉庫街の被害は軽い物ではないが。むしろ巻き込む範囲が増えたことで被害は拡大している。

 しかしそんな物現代に生きていないサーヴァントが気に留めるはずもなく(民間人への被害ならともかく)、三名は倉庫街の崩壊寸前のダメージなど全く気にしていなかった。

 

 どこかで監視している聖堂教会関係者は悲鳴を上げているかもしれないが。

 

「……礼は言いませんよ、クランの猛犬」

「言ってろ湖の騎士。俺がいなかったらまとめて塵すら残っていなかっただろうが」

「こちらでどうにかできましたが? むしろ、よくも背後からあんなふざけた槍投げをしてくれたものです」

「…………テメェから殺してやろうか?」

「やれるものなら」

 

 場違いないがみ合いをしながら、両名は自分たちの正面に立っているアルトリアへの警戒を続ける。

 容赦なく対城宝具を発動するそのふざけた精神。被害など知ったことでは無いと言う態度は、場所が違えば数百以上の人命を奪いかねないという証拠でもあった。

 

 故にランスロットは決意する。

 狂い果ててしまった王は自分が断ち切ると。

 

「……一度、あんな様になった私が言えることではありませんが」

 

 苦い顔をしながら、ランスロットは自壊したサーベルを放り捨て無手を構える。

 アレは「あの人」に合わせてはならない。例えかつての主をこの手に掛けることになろうとも、それだけは断じて防がなければならなかった。

 

(私は一度逃げ出した。愛する女のために、主に背を向けてしまった。もし、そのせいで王があのようなお姿になられたのなら……いや、増上慢も甚だしい。だが、それでも――――)

 

 ランスロットの纏った空気が変質する。

 今この瞬間、彼は「騎士」ではなく「一人の敵」として、アルトリアの前に立ちはだかるのだ。

 その変化を感じ問たのか、ピクリとも動かなかったアルトリアは俯いていた顔を上げて、その眼に広がる空虚と絶望の眼差しをかつての戦友へと向ける。

 

「王よ――――私は今、貴方を討つ。あの人のためにも……散っていた仲間たちのためにも――――これは、私への戒めだ…………ッ!!」

「ラ、ンスロッ、ト……また、裏切る、のか。貴方は、また、私に背を向け……あまつさえ、邪魔をするのか……!」

「ええ、私は裏切り者です。波乱の時期に尻尾を巻いて逃げ出した臆病者。ですが、そんな私でさえ貴方の行いが間違っているのは理解できる。積み上げてきた皆の努力と願いを否定する貴方の願いは、断じて肯定できない。……もう一度言います、王よ。――――貴方は、間違っているッ!!!」

「黙れェッ…………逃げ出した裏切り者風情がァァ゛ぁああぁぁぁアぁア゛ああぁぁア゛アァぁぁあアァああああッッ!!!」

 

 アルトリアの身体から真っ黒な魔力が爆ぜる。残っていたコンクリートの道路が抉れだし、コンテナの残骸が神秘の圧力で押しつぶされ始めた。あんなものに防御策も無しに突っ込めば、ランスロットもただでは済まない。

 それでもランスロットは逃げない。ただ無心に、その両手に力を籠め足を踏ん張り続ける。

 

「おいテメェ! 死ぬ気か!?」

「初めからそのつもりだ。差し違えてでも……私は己が主の間違いを否定する! それが今私にできること故に……!」

「……ハァ、ったく。死にたがりのアホだったか。――――いいぜ、付き合ってやるよ」

「何?」

 

 皮肉な笑いを浮かべたクー・フーリンが血だらけでボロボロの身体に鞭打ちながら、ランスロットの隣に立ち朱槍を構える。その行いを見てランスロットは頭に疑問符を浮かべた。

 そんな体で「アレ」に突っ込むなど自殺同然。しかし男はそれを楽しんでいるような顔。間違いなく戦闘狂特有の「ピンチになるとワクワクする」異常精神の現れである。

 

「……馬鹿ですか貴方は」

「馬鹿はテメェだ。こんな面白そうな戦いに逃げるなんて行為、ケルトの戦士がするわけねぇ」

「理解不能です」

「してもらおうなんて思っていねぇさ。それに、死にたがりの馬鹿も似たようなもんだろうが。違ぇか?」

「……はぁ」

 

 軽くため息を吐きながら、ランスロットは一際強い空気を張り詰めさせる。

 無言の了承。そう捉えたクー・フーリンは不敵な笑いを見せた。

 

「――――不本意ですが、今だけは貴方に背中を任せましょう」

「――――おう。そう来なくっちゃなァ!」

 

 湖の騎士とクランの猛犬の共同戦線。全く違う伝承の一騎当千の猛者が並ぶ光景は圧巻の一言に尽きる。

 しかし彼らが対峙する少女も負けない圧力を放っている。間違いなく最高峰の敵。本気でかからねば首を狩られるのはこちら――――だからこそ、臨戦状態になった三人の間に言葉は無かった。

 

 壊れたコンテナが地面に崩れる。

 

 それを合図にして、三者は同時に足を踏み出し――――

 

 

 

 何処からともなく響く莫大な雷音にそれを遮られた。

 

 

 

 三人が一斉に振り向けば、紫電をスパークさせながらこちらへと突進してくる巨大な影が目に映る。それは空中を(・・・)駆ける戦車であった。

 古風な二頭立ての戦車は轅を雄々しくも美しい、完成されたと言っても過言では無い猛々しい筋肉を持つ牡牛。その牡牛が虚空を蹴って絢爛に飾られた戦車を引いてきたのだ。誰もが絶句する中、轟音を鳴らしながら戦車は三者の間に降臨する。

 

 眩い閃光が収まると、戦車から二メートル近い巨漢が深紅のマントを揺らしながらその姿を露わにした。

 

 

「――――双方、武器を収めよ。王の御前である!」

 

 

 雷鳴のような大音声が半壊した倉庫街に木霊する。そんな威勢堂々とした声に押される三人――――ではない。彼らはいずれもが幾多もの戦場を駆け抜け生き残って来た猛者中の猛者。大英雄と言っても過言では無い者達。この程度の挨拶で後ずさるなら、その名声を轟かせていない。

 

 ――――むしろ、一触即発の状況をぶち壊してくれたことによる不快感が高まりに高まって、行き成り現れて勝負の邪魔をしてくれた巨漢へと射殺さんばかりの目線を向けていた。

 並の人間なら失禁以上に精神が崩壊していても可笑しくない殺気を一身に向けられても、戦場に忽然と現れた大男は珍妙な顔をしているだけ。反省の色が全く見えていない。それが三者の苛立ちを加速させていく。

 

 だが大男はそんなことなど気にせず、台詞の先を口にし始めた。

 

「我が名は征服王イスカンダル。此度の聖杯戦争ではライダーのクラスを得て現界した」

 

 そして、まさかの開幕真名バラシである。

 既に三人とも互いの真名を熟知していたのでそこまで驚きは無かったが、彼――――征服王の戦車に同乗していたマスターは違った。

 

「何をッ――――言ってやがりますかこのバカはぁぁぁぁああああッ!?!?」

 

 錯乱気味にライダーのマスターである少年が絶叫を上げる。当然だ。聖杯戦争に置いて真名とは宝具以上に情報を隠匿する物。それをここまで清々しく暴露したのだ。文句がないわけない。

 

 ランスロットやクー・フーリンは少年が征服王を「バカ」と評したことに内心頷き、また過去の大英雄相手にそんな不遜なことを言い切ったことに感心していた。実際は焦り過ぎてつい口走っただけだろうが、この時点で大英雄二人は少年に光る物を見出したのである。

 

 その少年だが、征服王のデコピン一発で沈んでしまった。サーヴァント相手だから仕方ないとはいえ、情けないと思う二人。――――あの巨漢相手に見た目十五十六の少年が立ち向かえるわけがないと言うのに、その少年期で色々やらかした二人の基準は色々可笑しいのだろう。

 

 その後自らのマスターを静めたライダーは何事も無かったかのように会話を再開させる。ある意味大物ではあるらしい。

 

「うぬらとは聖杯を求めて相争う巡り合わせだが……矛を交えるより、まずは問うておくことがある。うぬらが聖杯に何を託すのかは知らぬが、今一度考えてみよ。その願望、天地を待望に比してもなお、なお重い物であるのか」

 

 ライダーの遠まわしな台詞に訝し気な表情を浮かべる二人。しかし戦士としての勘が「何か」を感じ取ったのか、すぐさま二人は少々の嫌悪を露わにした表情を浮かべた。

 

「征服王とやら……テメェ、何が言いたい?」

「うむ、要するにだな――――ひとつ我が軍門に下り、余に聖杯を譲る気はないか?さすれば余は貴様らを明友(とも)として遇し、世界を制する快悦を共に分かち合う所存でおる」

 

 

 ――――ランスロットとクー・フーリンの両者が、ここでキレた。

 

 

 どんなに鈍感なものであろうとも理解できる――――させられてしまうほどの怒気溢れた顔。怒りを隠す気はない二人は容赦なくその憤怒を目の前の「阿保(イスカンダル)」にぶつける。

 

 二人は戦士だ。ただ己の誇りのために戦う以外何も望まない。その戦いを邪魔された挙句「世界征服のために軍門に下れ」とは。もはや怒りを降り越して呆れも通り越し、二人に更なる憤怒を生ませた。むしろ今すぐ殺されないだけ有情だ。もし相手が悪ければ征服王は即座に襲い掛かられていただろう。

 

「……それを言いたいためだけに、俺らの戦いの邪魔をしたってのか?」

「うむ、そうなるな!」

「――――ああ、そうかい」

 

 清々しい笑顔を向けられて、クー・フーリンは静かにその朱槍の矛先を征服王へと向ける。ここまで虚仮にしてくれたのだ。即座に宝具で纏めて吹き飛ばしたい気持ちで、彼は獰猛な目ギラつかせる。

 

「むぅ……ではそこの黒いのは――――」

「――――お断りする。私が従えるのは過去現在未来通して変わらん。例え修羅に変貌しようと、私は三度も我が主に背を向けるつもりは毛頭ない。そんなことをするならば、この場で首を撥ねる方が幾分マシというもの」

「……待遇は要相談だが?」

「「くどい!!」」

 

 呆気なく交渉決裂。ライダーは残念そうな顔で、最後の勧誘相手である白髪の少女へと視線を向ける。

 

 だが、その少女の様子を見て彼は顔に汗を垂らし始めた。

 

 

「――――聖杯、譲る? 譲る、譲る譲ル譲ル譲ル譲譲譲譲譲譲譲譲譲譲譲譲■■■■■■??? あり得ないあり得ないあり得ないアリエナイアリエナイあり得ナいあリ得なイあり得ナイ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッ!!! ―――――貴様もォォォォオオォッ、貴様モ私ノ邪魔ヲォオオォォオォオオォオォォ…………ッ!! 殺すゥッ!! 殺す■す殺ス■■■ス殺ス■■殺ス■ス殺■殺ス■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ゥゥゥゥゥッッ! 私の邪魔ヲするナアァァァァ■゛■アァア゛ア゛ァあぁアア゛ァあァァ゛ァ■ァ■■ア゛アぁァアア゛ア■アァァア゛■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッ!!!!!」

 

 

 濃密な殺気は世界最高峰。一級のサーヴァントでさえ言葉を失うほどの狂気を当てられ、流石の征服王も顔を引きつらせて押し黙ってしまう。既に言語さえまともに発せられないほどの激情を見せられ、これは英雄では無く悪霊かなにかの類ではないかと征服王は疑い始めた。

 

「……なぁ、アレはもしやバーサーカーというやつか?」

「本人曰く復讐者(アヴェンジャー)だとよ。だが狂気の質だけでいえばバーサーカーより性質が悪くて酷ェよ」

「貴方が現れなければ、あそこまで刺激することは無かったのですがね。征服王」

「…………そりゃ面目ない」

 

 あの征服王も謝るレベルだ。アルトリアの状態はそこまで酷いのだろう。

 事実、溢れ出る狂気がもはや筆舌し難いほどにどす黒くなっている。大地を、星を蝕むほどにまで肥大化した憎悪は、高名な英雄であろうとも震えあがってしまうほどの深淵。

 狂気そのものを体現者であると言っても、信じてしまうほどにその憎悪と絶望は深すぎた。

 

 

 ――――しかし、その身は黄金の波紋から現れた漆黒の鎖により拘束されてしまう。

 

 

「ッ、な、にヲ……ッ!?!」

 

 その問いに答えるのは、いつの間にか折れ曲がった水銀灯の上に現れていた――――絢爛に光る黄金の甲冑を身に付けた男だった。その人ならざる覇気は、間違いなくサーヴァントであるとこの場全員に認識させるほどの強烈。

 黄金のサーヴァントは赤い目から発せられる威圧を黒い鎖に縛られた少女に向けながら、逆立った金髪を風に揺らしながら愉快気に口を動かし始める。まるで見て愉しんでいるかのように。

 

「――――道化の様に狂うのは一向にかまわんがな、雑種の風情でそのような汚らしい汚物を(オレ)の庭にまき散らすでないわ。小娘」

「こ、ンナ、鎖などォッ……!」

「諦めよ。それは我の宝物庫に眠っていた神獣さえ縛る妖精共の一品。またの名を『狼獣封じる神魔の黒鎖(グレイプニル)』。狂犬の様な貴様には、実にお似合いだな! フハハハハハハッ!!」

「貴ッ様ァァァァアアアアアアアアッッ!!」

「騒がしい。王の前で騒ぐなど、本来ならば首を貰わねば割に合わんが……その前に裁く者が居るのでな。感謝しろ小娘。貴様は後回しだ。それまで静かにしておけ」

 

 一瞬で表情を冷徹な物に変えた黄金のサーヴァントが軽く指を鳴らすと、アルトリアの頭上に幾つもの黄金の波紋が生まれ、巨大な杭が顔を出す。それは間髪入れずにアルトリアを囲むように突き刺され――――囲んだ空間を超高重力を発生させた。

 地球の重力と比べて凡そ二百倍近い重力を一身に受けて、アルトリアは地面に埋まる。呻き声一つ上げられずに。

 

「ッ!? 貴様、王に何をした!」

「ん? なんだ貴様、あの狂犬の従者だったのか? クッハハハハハ! これは傑作だ。主よりその犬のほうが理性的とは! 思わず腹がよじれそうになったぞ! ハッハハハハハハ!!」

「貴様ァァァアアッ!!」

 

 ランスロットが激情を露わにしながら、近くに存在した街灯の残骸である鉄柱を手に黄金のサーヴァントへと駆けだした。その瞬発力、五十メートルを三秒足らずで詰めるほどの速度。ランスロットの宝具で疑似的に宝具化された鉄柱は黄金のサーヴァントへと容赦なく振り下ろされる。

 

「――――フン、狂犬の従者も結局狂犬だったわけか」

 

 しかしその超人的な行いを黄金のサーヴァントは鼻で笑い飛ばし――――背後の黄金の波紋から出現させた宝剣をランスロットへと射出した。銃弾並の速度に加速されたその宝剣は、例えるならば超高級超高威力の砲弾。このサーヴァントはあろうことか宝具を使い捨ての矢の如く弾き出したのだ。

 

 その行動に驚愕するランスロットであったが、持前の技量を発揮し空中でその宝剣を宝具化した鉄柱で弾き飛ばし―――更に弾き飛ばしたそれを手でつかみ取る。

 そして、それを見て黄金のサーヴァントが初めて怒りを顔に浮かばせる。

 

「――――その汚らわしい手で我の宝物に触れるとは……そこまで死に急ぐか、狗ッ!!」

「ハッ、コレを飛ばしてきたのは貴方だろうに!」

 

 不敵な笑みを浮かべて、ランスロットは手元にあった鉄柱を地面に突き刺し固定。新たな足場(・・・・・)を得たランスロットはその鉄柱を蹴って黄金のサーヴァントへと再加速した。今度はBランク並の宝剣を手にして。

 

 繰り出された一撃は最上。人がたどり着ける技術を集約した一閃が、確かに黄金のサーヴァントの首筋を捕えて――――

 

 

「――――疾く失せよ、狂犬が!!」

 

 

 しかしその一撃は黄金のサーヴァントの背後から現れた波紋から伸びる剣によって防がれる。そして隙すら与えず、その波紋は数を増やしていき――――四十ほどにまで増えるとその全てから一級品の宝具を出した。

 危機感知本能のまま、ランスロットは黄金のサーヴァントの顔面を蹴って(・・・・・・)後方へと撤退。その瞬間四十もの波紋から出てきた宝剣宝槍が一斉掃射される。

 

 だが――――ランスロットからしてみれば、生前『回避の特訓』と言ってアルフェリアが繰り出してきた数千の魔力砲一斉掃射の方がまだ恐ろしかった。故にランスロットは冷静に己に飛んでくる宝具を見切り、致命傷となる物以外を全て無視し、必要な攻撃だけを弾き、逸らし、時には飛んでくる宝具をつかみ取って、他の宝具に投げつけるなどして耐え切る。

 五秒にも満たない時間で行われた超絶攻防。ランスロットはスーツの所々を破かれ、血を流す個所も見受けられたが戦闘の続行に支障が出るレベルの怪我は皆無。黄金のサーヴァントも血を流してはいるが、健在。

 

 ただし、流血は鼻からだが。

 

 ……そう、ランスロットに踏まれた顔から鼻血を出していたのだ。

 

 黄金のサーヴァントは、見るからに激怒していた。プライドの塊のような存在が顔を踏まれて喜ぶわけも無いが。

 

「……我の財に触れ、剰え壊した挙句、この我の顔を踏み台にするとはなァ…………!! いよいよもって死にたいと見た……!! 喜べ狂犬、数千の宝剣宝槍が貴様の相手をしたいと言っているぞ!!」

 

 怒気が最高に高まったような顔で黄金のサーヴァントは腕を広げ、ランスロットの周囲に波紋を展開。その数――――数千。煌びやかな黄金色の死の結界は、たった一人に向けて広がったのだった。

 しかしランスロットの顔に恐怖は無く、ただ冷静にそれらを見据えていた。

 出現させた張本人に「全て躱せるぞ(・・・・・・)?」と挑発するように、ニヤリと笑みを浮かべて。

 

「……ここまで我を虚仮にしてくれた輩は貴様が初めてだ。誇るがいい。故に散れ。肉片一つ、この世に残ると――――」

 

 

 

「―――――――――『卑王鉄槌(ヴォーティガーン)』ッッ………………!!!!」

 

 

 

 前兆も無く、黄金のサーヴァントの台詞の途中でアルトリアは自分に絡まっていた鎖と周囲に刺さっている杭を残らずぶち壊す。己の宝具、攻防一体の『卑王鉄槌(ヴォーティガーン)』を限界まで圧縮し、一気に解放することで全てを吹き飛ばして破壊しつくしたのだ。

 

 地面は抉れ、風は泣く。押さえつけられていた狂気が再度漏れ出したことで、半径数キロの生命が一斉に逃げ出した。神獣さえ繋ぎ止める鎖を、怨念だけで振りほどいた少女は狂気しか存在しない目で黄金のサーヴァントを睨みつける。

 

「よくも、やってくれたな――――よくも、よくもよクもヨクもヨくもヨクモォォォオオオオォォォオッッ!! 私の邪魔をしてくれたなアァアァァァアァァァアッッ!!」

「ッ…………騒がしい小娘風情がッ……!」

 

 彼女の周囲に吹き荒れる『卑王鉄槌(ヴォーティガーン)』の黒い旋風が、黄金のサーヴァントが展開している宝剣宝槍を吹き飛ばす。咄嗟に数十丁の宝具を打ち出す彼だったが――――その全てが悉く弾き飛ばされ、念のために打ち出した最上級のAランク宝具は黒風の防御を貫通できた。が、それは本人の手で切り払われ弾き飛ばされるに終わる。

 

 この時点で黄金のサーヴァントの怒りは限界点に達していた。

 散々虚仮にされた挙句自慢の宝物は玩具を扱うがごとく弾き飛ばされ――――もはや黄金のサーヴァントにランスロットとアルトリアに掛ける慈悲は一切存在していなかった。

 

 彼の慢心も原因の一つなのだが。

 

「おのれェ……おのれおのれおのれおのれェッ!! この王の中の王に犯した罪、その命一つで償えると思うなよ雑種めがァ!! もはや塵一つ残さんぞ、雑種ゥッ!!」

 

 一度全ての波紋が閉じられる。

 

 直後、倉庫街の上空に数千の波紋が再展開された。そして顔を出す宝具の切っ先全てが真下に向かっている。

 辺り一面への絨毯爆撃。その全てがBランク以上の一品。防げるものなら防いでみろと、黄金のサーヴァントは腕を上げ――――降ろした。

 

 途端始まる黄金の豪雨。一撃でも直撃すれば即死確定の攻撃が雨の如く倉庫街へと降り注ぎ始める。

 

 その光景は美しいと評するに値する。だが内に秘めたる凶悪さは世界最高。全ての生を許さない破壊の雨は、王に盾突いた哀れな者達へと降りかかる――――

 

 

 

 ――――寸前、その宝具ら全てが黒い孔へと吸い込まれる。

 

 

 

「――――何ッ!?」

 

 そしてまた別の黒い孔が黄金のサーヴァントの周囲に展開された。更に、そこから見えるのは先程吸い込まれた数々の宝剣宝槍。極上の武器の矛先は、なんと所有者である黄金のサーヴァントに向いたのだ。

 孔に入り込んだ速度のまま打ち出される宝具。間一髪で黄金のサーヴァントは波紋から別の宝具を取り出し、その場から瞬間移動して宝剣宝槍の群れが狙った場所から離脱する。

 

 他のサーヴァントたちが立っている地面へと。

 

「痴れ者が! 天に仰ぎ見るべきこの我を……同じ大地に立たせるかァッ!!」

 

 黄金のサーヴァントは眉間に縦皺を作り――――何もないはずの空を見上げた。

 

 何もない。

 そのはずなのに――――こちらへ向かってくる銀色の流星が、見えた。

 

 音速すら越えた速度で「ソレ」は倉庫街のど真ん中に着弾した。恐らく先程「黒い孔」を作り出した張本人だろう。そうでなければあの黄金のサーヴァントがあそこまで怒りを「ソレ」に向けるわけがない。

 大規模な粉塵を巻き上げ、正体不明の「ソレ」は姿を徐々に露わにさせていく。

 

 月光でその銀髪を煌めかせる、絶世の美女が――――金髪の鎧騎士片手にクレーターの中央で笑顔を浮かべていた。

 

 

「――――やぁ、皆さん。初めまして、かな?」

 

 

 天からの福音にさえ勝るとも劣らぬその声を投げかける者は誰だろうか。

 

 その声を聞いたランスロットは顔を青くし、

 その姿を見た黄金のサーヴァントは「ほぅ」と怒りを収めて肢体を眺め、

 その覇気を感じたクー・フーリンは思わず口角を釣り上げ、

 その衝撃ある登場の仕方にイスカンダルが感嘆の呟きを漏らした。

 

「あ、姉上っ……俺、吐きそう……」

「ああ、ごめんモードレッド。ちょっと揺らしすぎちゃったかな? やっぱり魔力放出での強引な飛行は一人の方がいいかなぁ……」

 

 だがその女性は己の調子を狂わさず、連れてきた金髪の少女と普通のやり取りをしていた。

 サーヴァントが五体以上いるこの場でこの肝の太さ。余りの豪胆な傑物さに、何人かのサーヴァントが思わず「欲しい」と思ってしまう。

 そんなことを知ってか知らずか、銀髪の女性は金髪の少女を宥めた後に軽く周りを見渡して――――遥か遠方の鉄塔にその視線が留まった。

 

 

「――――こっちに来なさい」

 

 

 銀髪の女性が軽く手招きしたかと思いきや――――彼女から離れた場所に黒い孔が出現し、そこから黒ずくめ姿の少女が落ちてきた。

 髑髏の仮面。そこから周りにいる全ての者がアサシンのサーヴァントだと悟る。

 

 つまり――――あの銀髪の女性は高ランクの気配遮断スキルを持つアサシンの居場所を見破り、剰えこちらに引き寄せたという事になる。何という規格外さだろうか。

 

 その不条理に見慣れたランスロットからして見れば、呆れの表情しか浮かべられない光景であったのだが。

 

「ッ――――!? クッ……!」

「まぁ、そう警戒しなくていいよ。別に倒したいから引き寄せたわけじゃないし……折角みんなこうやって揃ったんだから、姿ぐらい見せても――――い、い…………………………………ぇ?」

 

 ふと、銀髪の女性の視線が固まった。

 その視線の先には、先程の様に殺気と憎悪を垂れ流して――――おらず、まるで普通の少女の様な雰囲気に様変わりしてしまったアヴェンジャーの姿があった。

 

 先程の落下で起こった爆風によって頭巾に隠された顔が露わになった、アルトリアの顔を銀髪の女性は茫然と見ていたのだ。死んだ家族にでも再会したような顔で。

 

 ――――しかしその顔には喜びでは無く、困惑の色の方が強かった。

 

 

 

「…………………………アルフェリア、姉さん?」

「…………………………アルトリア、なの………?」

 

 

 

 アルトリアは予想もしなかった出会いに歓喜の表情を浮かべ――――

 

 

 ――――アルフェリアは変わり果てた最愛の妹の姿を見て、ただ狼狽した。

 

 

 

 最低最悪の再会が、此処で起こった。

 

 起こってしまった。

 

 

 

 




AUOの小物感が・・・!もうちょっと大物らしく振舞わせたかったのに・・・!
ホント、AUOっていざ書こうとすると凄まじく難しいキャラなんですよね。何というか、いろんな意味で・・・(遠い目


てか、アヴェトリアさんちょっと強すぎじゃない?僕はそう思ってしまった(´・ω・)。・・・いや、ENTAKUが化け物ぞろい過ぎてるだけか。こいつ等人間じゃねぇ!
代わりに戦うたびにケリィの寿命が凄まじい勢いで削られているんだろうけどネー(適当

余談ですが、執筆している時にアヴェトリアさん絶叫しすぎて川澄綾子さんの喉が弾け跳びそうだなぁ・・・とか思ってました。いやホント。



・・・つか、まだ聖杯戦争一日目なのにとんでもないことになってませんかねコレ?


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