Fate/argento sister   作:金髪大好き野郎

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色々ゴタゴタしすぎて遅くなってしまいました、申し訳ありません!
いやホント、正直短期間で色々予定が敷き詰まり過ぎてまともに書く時間がなかったんです・・・しかもクソ暑くてやる気は削がれるわストレスで気は滅入るわ・・・まあなんであれ、無事完成しました。

今回の話はアルフェリアの苦悩とその吐露を書きました。話的には殆ど進んでいませんが、「彼女が初めてヨシュアに己の弱さを見せる」話でもあるので、重要・・・かも?

とりあえずこれだけは言って置きます。



水着イベ来たァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!ヒャッハァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!Fooooooooooooooooooooooooooooooooo!!!!!!(狂喜乱舞の踊り)

さぁ、行くぞ読者たち。諭吉の貯蔵は十分か―――――――――!!!!

追記
誤字修正しました。


第十五話・正否の問い

 ――――夢を見た。

 

 普通であることを願いながらも、その生涯を終えるまで普通でなかった女の背中を。

 

 ――――夢を見た。

 

 ただ家族との平穏を願い、世界に斬り捨てられた女の涙を。

 

 ――――夢を見た。

 

 何万人もの人を殺めた道の果てで、己の幸せを取りこぼした女の手を。

 

 ――――夢を見た。

 

 家族と共に生きたいと願い、孤独に死んだ女の最期を。

 

 

 

 

 彼女は最初、己の事を知らなかった。親も、兄弟も、何もかもが彼女の記憶にはなかった。

 

 父も母も知らない子供の身でありながら、己の『真実』を知らない身でありながら、彼女は希望の星の後を着いて行くように進み続けた。星は彼女を導いた。彼女も笑顔でそれに着いて行った。

 

 しかしやがて彼女は星を追い越した。彼女自身が輝ける星となった。全ての人々に希望という光を照らす太陽に。全ての外敵から愛する民を守る守護者へと。

 

 それを女は笑顔で受け入れた。そして行うことはただ獣を殺し、人を殺し続けること。『敵』を殺し続けること。一切の容赦なく、慈悲もなく、冷徹に、残酷に。――――何処まで行っても『殺し合い』をした。それでも彼女は折れなかった。進み続けた。『愛している』から。『護りたい』から。

 

 献身の極地に至った彼女は己の全てをかけて『家族』を守り続けた。その身が朽ち続ける痛みを味わおうとも、別物に変質していこうとも、折れず曲がらずただただ他者へと幸せを与え続けた。聖母の如く愛を振りまいた。

 それが――――彼女の存在を示せるただ一つの行動だったから。

 

 民はそれを称えた。彼女は『勝利の女神』だと、『守護神』だと。しかし女に取ってそれはどうでもよかった。彼女にとっては『人々の笑顔を守れた』という結果があればよかった。ただ彼女は、彼らを守りたかっただけなのだから。

 力・名声・富。そんな物は彼女は欲しなかったのだ。

 感謝などされなくてもいい。影の存在でも構わない。自分はただ、護りたい者の笑顔が見られればそれでいいのだから、と。

 

 願ったのは家族の幸せ。体に剣が突き立てられようとも、その手が血で染まろうとも、それだけは決して揺らぐことのない決意と誓約。事実、彼女は死ぬまでそれを貫き続けた。

 

 

 だが――――彼女は己の存在がその幸せの基盤だということを理解出来なかった。

 

 

 自分は愚鈍だ。

 自分は馬鹿だ。

 自分は愚図だ。

 

 そんな限りない自己謙遜が彼女の自己評価を限りなく下げ続ける。結果的に生まれたのは果てしない自己犠牲。己に価値はなく、価値があるのは己の周りだと、彼女は信じてやまなかった。

 

 そう、信じ続けた。

 

 信じ続けてしまった。

 

 周りに取って彼女は希望の星だという事を、彼女は死後になっても理解することが出来なかった。

 

 生涯で最後の聖なる献身。国を滅ぼそうとする災厄の権化たる大蜘蛛を道連れに、彼女は国を救った。人々は称えた。災厄から国を救った聖女だと。彼女以上の存在はないと。彼女こそがこの国を支え続けていた者だったと。

 

 

 故に、彼女が居たことで均衡を保っていた国は崩れ始めた。

 

 

 彼女を愛した魔女は国に価値を見いだせず暴走し、彼女を慕った騎士は狂気に駆られて血に塗られた剣を振り、最愛の妹の心は壊れ果ててもなお進み続け――――結局、彼女が守り通した国は彼女がいなかったために滅ぶことになる。

 

 それがブリテンを救いし救国の聖女、アルフェリア・ペンドラゴンの生涯通して唯一の失敗だった。

 

 しかしその後も、魂だけになり果てようとも、彼女は願い続ける。

 己を慕ってくれた者全ての幸せを。

 

 だから求める。求め続ける。

 

 奇跡を起こす聖杯を。

 

 その中身が、どんな物なのかを理解していながら。

 

 

 

 

 

 泥の中に居たような感覚だった。

 酷く陰鬱とした夢。見たもの全てに悲しみを与えるような、孤独に進み続けた女の夢。意図せずたいした心構えもできないままそれを見せつけられ、俺の目覚めは最悪の物へと転じていた。

 この時ばかりは清明な目覚めが忌々しく感じる。もう少し心が泥酔していたならば、幾分か心はマシになっていたかもしれないのに。

 

 悲痛に顔を歪ませながら俺は上体を起こし、かぶっていた布団を捲る。冷たい外気が触れて、今度こそ意識が完全に目覚めた。

 同時に、陰鬱とした気持ちの質が上がってしまったのだが。

 

「……あんな人生を、歩んでいたのか……」

 

 俺は相棒であるアルフェリアの伝承を、聖杯戦争の発祥地である冬木に来る前の準備期間中に読み直していた。そのおかげか彼女についての物語は酷く鮮明に覚えている。

 

 アルフェリア・ペンドラゴン。身を挺して国を救った聖女。

 その出生こそ謎に包まれているが、絶世の美女であったこと、アーサー王の義姉であったこと、凄まじく腕の立つ一騎当千の戦士だったこと、国の食文化を単独で改変させた偉人であることはどんな文献でも共通している。だが、逆に言えばやはり出生についての情報は一切存在していないという事だ。

 

 期待半分で令呪のパスから流れ込む夢でその秘密を見れるかと思いきや――――この様だ。まさか、本人すら自分の正体を把握しきれていなかったとは、完全に予想の斜め上を通り越した結末だ。しかもその壮絶な人生は、決して輝かしい物では無い。人生の合間にかけがえのない『日常』が輝いていたことは認めるが――――それでも、その人生は決して『良い』と言えたものでは無かった。

 

 彼女は日常を愛した。普通の家庭の様な、そんな生活に憧れた。しかしその願いが果たされることは終ぞなかった。彼女が特異すぎただけでは無い。彼女が家族として愛した者達もまた普通では無かったから、それは果たされなかった。

 

 義弟であるアーサー王はブリテンを統べる王。

 義姪であるモードレッドはそのクローン。

 義姉であるモルガンは悪名高い魔女。

 義兄であるサー・ケイは目立ちこそしないが、自己意思で肉体改造が可能な超人的能力の持ち主。

 

 全員、普通で無かった。それ故に、普通の生活などできるはずもなかった。しかも当時のブリテンは外敵から攻められ続けた波乱の時代の真っただ中。そんなことができるはずも、そして許されるはずもない。

 それでも彼女は願い続けた。信じ続けた。そして、戦い続けた。いつか必ずそんな生活ができると。家族全員で、笑顔で過ごすことができると。その末に――――世界に裏切られ、捨てられた。

 

 果たしてこれが、『良い人生』などと言えようか。俺は口が裂けても言えないと断言できる。

 平和を願い、笑顔を望み、己の体を削りながら戦い続けた彼女が、あんな結末を迎えた。ふざけるな、と叫びたくなるほど胸が痛い。

 

「――――そうか、だから、あの願いを……」

 

 彼女が聖杯に掛ける願いは『もう一度家族全員と、平和な暮らしをすること』。

 当り前だ。生前、あそこまで願い続けても尚叶わなかった物なのだから。むしろ必然と言える。

 

 あの時疑問など持ってしまった自分を殴りつけたい気分になる。その願いは、あれだけ巨大な力を持った彼女が叶えられなかった唯一つの願い。自分の願いに疑問を持たれた彼女の心境は、一体どんなものだっただろうか。

 ……少なくとも、良い物で無いのは確かだ。

 

 確かに英雄と称えられたものとしては小さい願いなのかもしれない。だがそんな下らない理由で否定されていいわけがない。

 ずっと、家族の笑顔を望み続けた彼女の優しい願いが否定される道理などないし――――俺が否定させない。

 

 改めて己にそう誓い、俺は近くにあった水差しの水で乾いた喉を潤す。

 

「よし、今日も元気に――――……………ん?」

 

 此処でようやく、俺は自分以外の気配を感じ取った。

 

 襲撃か? と訝し気な表情を浮かべたが、違う。それなら俺は寝ている間に死んでいるし、そもそもアサシンでさえ容易に近づけないこのアルフェリア特製の『神殿』を警報も鳴らさずに突破できるサーヴァントなど居るはずがない。

 居たとしても俺などに気配が悟れずはずもないので、恐らく寝ぼけて誰かが俺のベッドに入ったのだろう。

 

 大方氷室か桜辺りが、夜にトイレか何かした後寝ぼけたまま俺の部屋に入ってきたか。

 

 小さなため息を吐きながら、俺は少し大きく盛り上がった布団を捲る。しかし、氷室や桜にしては随分大きな盛り上がりなような……まぁ、大きなぬいぐるみを抱き枕代わりに持ってきただけだろうけ―――――

 

 

「すー……すー……ん、ぁ」

「…………………………………………………………………………………………………………」

 

 

 布団に包まっていた「それ」を見て、俺の全身から汗が噴き出し始める

 

 何かの間違いだ。幻覚だ。錯覚だ。きっと俺の重症化した妄想の産物だ――――誰でもいいからそう言ってくれと叫びたくなる気持ちで、俺は何度も目をこすりながら「それ」を見る。

 

 本物の白銀以上に輝いて見える美麗な銀髪。

 真っ白なネグリジェから覗く、雪のように白くさらさらで柔らかそうな美肌。

 人体の黄金比と言っても過言では無いほどに整えられた最高のプロモーション。

 微かに聞こえる寝息すら天上の福音だと錯覚してしまうほどの心地よい声。

 

 

 

 アルフェリアが、俺のベッドで、寝ていた。

 

 

 

 その事実だけで脳内の情報が処理現界を迎えてコンマ一秒で思考がフリーズ。タイムラグ無しで思考が真っ白になる。

 何故?どうして?一体何がどうなったらこうなった?――――再起動後すぐにそんな考えで埋め尽くされた頭のまま、俺は急いで上着を脱ぎ捨ると同時にパンツの中を確かめた。

 

 そして――――安心していいのか駄目なのかは知らないが、どうやら行為をしたような痕は見受けられなかった。

 

「っ……はぁ…………」

 

 どうやら間違いは起こってない様だと、俺は肺にたまった空気を吐きながら額の汗を拭く。

 よくわからないが、寝ぼけて俺のベッドに入ったのだろう。流石にアルフェリアが来るとは予想すらできなかったが、間違いが起こっていなかったのならばそれでいい。

 

 それより、早急に対策を練らねば。もし彼女に好意を寄せる者達に見つかったらどうなるかわかったもんじゃない――――

 

 

「――――おい」

 

 

 一瞬で顔から血の気が下がる。

 だって、その声はとても聞き覚えのある声だったから。

 

 青白くなった顔のまま首を動かすと――――赤雷の騎士、モードレッドが凄まじい形相で部屋の入り口に立っていた。

 

 銀の剣、王剣クラレントを片手に。

 

「……その、モードレッド、さん? どうか、どうか話を……」

「るせぇ! 姉上がっ、おおおおおお前のベッドの上でっ! しかもお前はっ、はははは半裸ッ! これはもうどう言い繕っても言い訳できねぇぞコラァ!!」

「違うッ! 絶対に違う! 俺は『まだ』やってない!! ……あ」

 

 ついポロッと、本音が出てしまう。人生の中で一番の痛恨のミスであっただろう発言は、見事状況を悪化させることに成功する。畜生め。

 

「ま、だ……? ふっ、ふふふふふふふっ……――――ブッ殺す!!」

「ちょぉぉぉぉぉっと待てぇぇぇぇぇぇぇ!?!? 話を聞けぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「問答無用ォッ! 吹っ飛べ、有象無象!! 『絢爛に輝く銀の宝剣(クラレント)』ォォ――――ッ!!!!」

「なんでさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?!?!」

 

 俺の理不尽に対する叫びと共に、赤雷が空へと延びていった。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「……という次第でございます。はい」

「あ、あははー……ご、ごめんね?」

「ぐぬぬぬ……」

 

 その後何とかモードレッドの『絢爛に輝く銀の宝剣(クラレント)』を紙一重で躱し切った俺は、目覚めたアルフェリアに色々説明してもらってモードレッドの誤解を解き、後から騒ぎを駆けつけてやってきた皆にリビングへ移動して事の顛末を語っていた。

 

 ホント、正直対軍宝具を出されて生き残るとは。自分の運が久々に働いたなと、涙を流す勢いで感謝する。余波で左半身が若干麻痺状態なのはさておき。

 

「ホントになんで俺に部屋に忍び込んだんだよ、お前……」

「いや、その。実は寝起きドッキリでも仕掛けようかなと思って……でもヨシュアを抱き枕にしてたら思いの他抱き心地が良くて。そのままぐっすり熟睡してしまったというか……」

「ちょ、おまっ」

「ぬぎぎぎぎぎぎ……!!」

 

 騒ぎを収めるどころかなんかこいつ自分から燃料投下してないか。しかも特大級。挙句の果てに自覚なしときた。本物の天然の恐ろしさが垣間見えた気がする。そのせいで今、モードレッドが凄まじい眼光を俺に飛ばしてきていた。冗談抜きで怖いんだが。

 

「まぁ、モードレッドが朝から対軍宝具の目覚まし号砲で皆の目を覚まさせてくれたと思えば良いのではないでしょうか。吹っ飛んだ天井や壁については存じませんが」

「そ、そうだぞ! たまにはいいこと言うじゃねぇかランスロット卿!」

「俺は死にかけたんだがな……」

 

 当り前だが俺はただの人間だ。よほどの耐久でもなければ英霊でも即死しかねない対軍宝具を向けられたこちらの身にもなってほしい。いや、実戦で何度も向けられるであろうサーヴァントに言えた物では無いが。

 

 せめて俺に対抗できる切り札などがあれば、最低限の安心は確保できるのだが……それは少し高望みという奴だろう。身に余る力は、逆に身を滅ぼしかねない。

 何事も分を弁えるべきだと、俺は自身に言い聞かせながら朝食であるハムとレタスとトマトを挟んだ簡素ながらも美味なサンドイッチを頬張り、心の高ぶりを静める。

 

 勿論このサンドイッチはアルフェリア作。スキルだけでなく彼女のあり余らんばかりの家族愛が込められているおかげで、スキルの補正が無くとも一流シェフ顔負けだろうと断言できる美味さであった。事実、皆(慣れた者は除く)涙目でサンドイッチを頬張っている。

 

 そうして朝食をしていると、視界の端で「それ」が元気よく跳ねだした。 

 

「――――アルフェリア様! 私、外に行ってみたいです!」

「ハク、とりあえず貴女はパンツを履きなさい」

 

 明るい声ではしゃぐ白髪の幼女がアルフェリアの服の裾を掴んでピョンピョンと跳ねている。これが彼の竜王、最強の幻想種の姿だと言ったら、一体誰が信じるだろうか。少なくとも俺は絶対に誰も信じないだろうと予想している。

 むしろそんなこと言って来る奴が居たら「お前は何を言ってるんだ」という顔でそいつに精神外科か眼科を紹介してやれる自信がある。

 

 そして何より問題なのは――――そんな美幼女がノーパンでワンピース一枚で跳ねているという事だ。そのせいで大事な場所が見えかけている。目を逸らしても、周りの女性陣から白い目で見られるのはちょっと理不尽すぎやしませんか。

 

「外、外かぁ……と言っても、この冬木市はそこまで観光名所があるわけでもないし、何処に行けばいいんだろ」

「私は何処でも構いません! 貴女様と一緒なら!」

「それじゃ外に行く意味ないでしょ……。うーん、じゃあ食材の買い出しついでに商店街付近を回ろうか」

「……? そこまで備蓄が足りていなかったかしら?」

 

 昨日の夜の様に優雅な仕草で紅茶を飲むのを止め、ミルフェルージュが懸念そうな表情を浮かべながら、そうアルフェリアに問う。

 そう言えば確かに、俺の記憶ではそこまで備蓄は少なくないはずだが。

 

「備蓄っていうか、この家に住む人数が増えてきたからね。流石に追いつかなくなるかなと思って。一応虚数空間に食材はあるけど、殆ど神代の空気に触れた代物だから、普通の人が食べるとどうなるかわからないから、できれば使いたくないんだ。だから、買い出しついでに街を回ろうかなって」

「なるほどね、悪くはないと思うわ。私も現代の街を見て回りたかったし」

 

 そう言われて、俺はこの家に居る者の人数を数える。

 俺、アルフェリア、雁夜、桜、氷室、モードレッド、ランスロット、ミルフェルージュ、ハク。九人もの人数がこの一軒家にぎゅうぎゅう詰めになっていることになる。

 この屋敷自体はかなり広いので十分許容範囲内だが、やはり問題は食料管理か。九人もの人数に毎日三食を提供するとなると、確かに今の供給ペースでは心持ち不足かもしれない。

 

 サーヴァントは食事の必要がない――――と言うのは簡単だが、それはアルフェリアが納得しない。彼女はサーヴァントだろうが人間だろうが別け隔てなく接している。必要がないからと言って自身の家族に食事を与えないなど、彼女にとっては許されざる行為そのものなのだから、説得自体が無意味だ。

 

 幸い資金は潤沢にあるので、その辺は問題ない。強いて言えばかなりの量になるので目立ってしまうが……そんなことは彼女(アルフェリア)にとっては些細な問題。少し悪目立ちしたところで揺らぐほど、アルフェリアの気持ちの強さは軟じゃない。

 

「ん? でも、どうやって行くんだ? ここから商店街って、結構遠いだろ」

 

 九人での大移動がそう容易に行くはずがない、と雁夜が主張した。確かに歩きで行くには徒歩で二時間と、少々遠いだろう。

 だが、行けないわけでは無い。俺たちに九人も載せて移動できるような移動手段は存在していない以上、徒歩は確定だ。金は掛からないし、朝の運動にもちょうどいい。しかし、未だボロボロの体が回復しきっていない雁夜にとっては少し厳しいかもしれない。

 

「えっと、無理そうなら休んでいていいよ?」

「……いや、俺も行くよ。何時までも休み続けているわけにはいかないからな。少しは運動もしないと」

「よし。そうと決まれば早速行きましょうか! 皆、着替えて着替えて~」

 

 予定が決まり次第、アルフェリアはパンパンと手を軽く叩いて皆に行動を促す。他の皆もそれに従い、残っていたサンドイッチを口に押し込みながら行動を始め出した。これもカリスマというやつだろうか。

 

 俺も促されるまま、外出用の服に着替えるため行動を開始する。

 今日は少し冷え込むそうだし、ダウンジャケット辺りがいいかな――――などと、後から思えば聖杯戦争らしからぬ思考だと呆れてしまうほど、俺は『日常』と言う物に馴染み始めていたのだった。

 

 数年前では、考えられもしなかった『日常』を、楽しんでいる自分を感じた。

 それを自覚し、俺は――――久々に、笑った。

 

 

 

 

 十月の冬木市はかなり冷え込んでいる。耐えられないぐらい寒い、というほどでもないし雪が降っているわけでは無いが、それでも夏服で出かけたら軽く風邪は引けるぐらいの寒さだ。

 なので俺たちはできるだけ暖が取れる格好で、具体的には少々モコモコした服で出かけることにした。

 

 勿論――――と言うのも可笑しい話だが、竜種であるハクは着服を拒否。曰く「服を着る意味がない」だという。

 確かに人間形態でも竜種の耐久力は失われておらず、その柔らかそうな肌はミサイルの直撃すら耐えるであろう耐久力を持っている。だが世間一般的に幼女を、こんな冬季到来直前の環境に裸で出すとなると本当に通報されるので、なんとかできない物かと悩んだ。

 

 そして悩んだ末に――――

 

『服着てくれたらなんでもひとつ言うこと聞いてあげる』

『今すぐ着ます!!』

 

 アルフェリアが頼み込んだことで全ての悩みが吹っ飛んだ。一部の人間(主に円卓)が「何でも」という部分に反応したが、スルー安定だ。気にしたら色々負けな気がするからね、うん。

 

 そんなわけで一瞬で手のひらを返したハクはモコモコした子供用冬服を着ることになる。隠しきれていない角や尻尾はアルフェリアの作った不可視の薬で隠し、アルフェリアと並んで歩けば髪の色も相まって、まるで姉妹に見えるほどにカモフラージュは完璧。横でモードレッドは「俺が姉上の妹なのに……!!」と言ってるのは何故だろうか。お前姪だろうに。

 

「うわぁ……! 不思議な建物がいっぱいです!」

「やっぱり五世紀と比べれば、色々変わっているわね」

 

 聖杯から何の知識も与えられていないハクとミルフェルージュが深山町の街並みを見てそう呟いた。今まで忘れていたが、やはり彼らも過去の人物だと再認識する。

 

 サーヴァントたちは聖杯によって現代の最低限の知識を与えられるので驚くような反応が少ないのですっかり忘れていたが、やっぱり過去の偉人が現代によみがえったらと想像すれば、こういう反応になるのだろうか。

 そう言うことなら、アルフェリアの見たことも無い物を見て驚く姿が見れないという事なので、少々残念な気持ちになった。

 

「――――っと、着いたぞ。此処が冬木市深山町の商店街、マウント深山だ」

 

 置いて行かれない様に先頭に立っていた雁夜がそう言って歩を止める。

 

 着いたのは美味そうな匂いが漂う商店街。見る限り食事関係の店が多く娯楽施設などは見当たらなかったが、何処か昔ながらの懐かしさ漂う風情のある場所だ。

 

 皆が目を輝かせながら商店街を眺め、それぞれのやりたいことを言いだし始めた。それだけ色々あるのだから、好奇心が程よく刺激されたのかもしれない。

 

「わぁ……美味しそうな匂いがします!」

「ええ。キナコモチ……これはどんな料理なのかしら。……気になるわ」

「姉上! タイ焼きってヤツ買ってもいいか!」

「アルフェリア、私は骨董品を見て回ってみたいのですが……」

「わ、私……ぬいぐるみとか」

「その……古本屋に行っても、いいでしょうか?」

 

 まぁ、好奇心旺盛なのは別に良いが、もうちょっと協調性と言う物を身に付けられないものか。

 

 苦笑を浮かべながら俺は財布を取り出して、万札を幾つか全員に配る。一つの要望に九人全員で移動するより、金を持たせて好き勝手やらせる方がいいだろう。資金の心配は無用。先代が残した遺産や魔術関係の特許申請で腐るほどあるので、渋る理由も無い。

 

「え、いいのか? っしゃあ! 食べ比べしてやんぜ!」

「あ、私も一緒に~」

「うーん、みたらしにするか餡子にするか……せんべい? って言うのも中々……」

 

 食い気のあるモードレッド、ハク、ミルフェルージュは菓子関係の店へと直行した。気になるのはわかるが先程朝食を食べたばかりなのに、それは女としてどうなんだろうか。

 

「では私は……そうですね、たまには古本など漁ってみるのもいいでしょう。この国の昔の文化は少し興味がそそられますから」

「あっ、じゃ、じゃあ私が案内します!」

「ええ。よろしくお願いします、氷室」

 

 そしてランスロットと氷室は古本屋に向かった。異国の男性と年端もいかない幼女が向かう先が古本屋というのは中々に言い難い何かを感じたが、あちらは気にしなくとも平気だろう。流石のサー・ランスロットも子供には手を出さないはずだ。……はずだ、よな?

 

「それじゃあ、俺は桜ちゃんと一緒に店を回ってみるよ。あの子を一人にさせるわけにはいかないからね」

「ええ、頼みます。くれぐれも体には気を付けて」

「わかってる。じゃあ行こうか、桜ちゃん」

「うん……おじさん、無理しないでね?」

「大丈夫。おじさん、前よりは元気になったから。そう言えば、桜ちゃんはどんなぬいぐるみが――――」

 

 残った間桐二人組も手をつなぎながら、まるで本物の親子の様に目的地へと向かっていった。

 それを見ると、やはり彼らを助けて正解だったと思う。あの二人は、光が当たる場所で過ごすべき者達なのだから。

 

 最後に残ったのは俺とアルフェリアの二人だけ。最初の頃の様に久々に二人きりになった俺たちであったが、互いに何と声をかければいいのかわからず互いの顔色を窺い続けるという、何とも言えない感じになってしまった。

 俺は彼女の夢を無断で見てしまったという、多少の罪悪感から来るものなのだが――――アルフェリアは、どうしてだろうか。俺はそれが、よくわからなかった。

 

 結局俺たちはお互い無言のまま歩き出す。ただ目的など定めず、フラフラと。

 

「――――アルフェリア、朝の事なら別に気にしなくてもいいぞ?」

「え? あ、その……そうじゃ、ないんだ。ええと……どう言えば、いいのかな」

 

 困ったような顔だった。

 何かを抱えているのは確かだが、迷っている。俺に話すべきなのかどうか。それはつまり――――彼女自身の問題だ。俺がどうこう口出しするようなモノじゃない。

 しかし今の状態では聖杯戦争に支障が出るのも確かだ。せめて相談に乗る程度の事ぐらいはしなければ、マスターの名が泣こう。

 

「お前が悩むことと言ったら――――アヴェンジャーか?」

「……うん」

 

 予想通り、彼女はアヴェンジャー。――――彼女の義弟にして義妹であるアーサー王について、何かしらの悩みを抱えていたようだった。

 

 アーサー・ペンドラゴン。五世紀に存在していたブリテンの王にして――――またの名を、アルトリア・ペンドラゴン。多くの騎士を率いて国に攻め込んできた侵略者と戦い続けた名君である。

 

 しかし騎士王と称えられるほどに名高き存在である筈のアーサー王は、昨日見た限りではそんな高潔さなど欠片も残していなかった。

 狂気に身を染め、憎悪の雄たけびを上げながら敵を殺す。そんな様子を見て誰が『騎士王』などという二つ名を授けようか。

 

「あの子を、アルトリアを見て……ちょっとだけ不安になった。自分の行いは、正しかったのかって」

 

 一瞬、何を言っているのか理解出来なかった。

 

 自分の行いを――――あの、万人が称えた雄姿を、献身を、愛を、彼女自身が疑い始めたというのだ。それが本当に正しいことなのか、と。寄りにもよって、彼女が。

 

「私は……誰の事も見ずに、自分が信じた道を走り続けた。その道の果てに何があろうと、後悔だけはしない。そう決めていた。だけど――――気づかなかった。気づけなかったんだよ、自分の隣に居たいって言う子がいることに。馬鹿な私はその声も聞かずに、走り抜けた。勝手に、あの子の前から居なくなった」

 

 まるで罪を告白するようにアルフェリアは苦渋に歪めた顔で、震える声で呟く。

 その姿にかつての勇敢さはなく、今の彼女は普通の少女の様だった。裁かれることを恐れ、何時か来る時を震えながら待つ罪人のようにも見える。

 

「私が、あの子を歪めたんだ。笑っちゃうよね。守りたいって願っておきながら、私は全員を置き去りにした。その結果、大好きな家族をあんなになるまで苦しめた。本当に……何やってるんだろ、私」

 

 酷く暗い顔で告げられる自嘲。聞いているだけでこちらの心が抉られそうなほど悲痛な呟きは、いかに彼女の誓いが固く――――そして今、その固い誓いを揺さぶられるほどのショックにアルフェリアが襲われているのかが垣間見える。

 

 ずっと守りたいと思っていた存在が、自分のせいで歪んでしまったのだ。

 

 何時の間に、知らぬ間に、傷つけていた。

 

 その事実は、アルフェリアの心に綻びができるには十分すぎるほどの深い意味を秘めていた。

 故にアルフェリアは、今まで一度も見せるのことがなかった悲しみに満ちた顔を浮かべてしまっている。「それでも」と、こちらを気遣って必死で笑顔を取り繕うとしているのが、逆に俺の心を針で刺すような痛みを味わわせて来る。痛々しすぎて、心臓が握りしめられるほど苦しい感覚が脳を刺す。

 

 彼女は英雄でも、心は人間だ。怒りもすれば、悲しみもする。

 

 だけど彼女は無理をして、その感情を抑え続けようとしている。他人に迷惑がかからない様に。家族に余計な心配を抱かせない様に。

 

 俺にはそれがとても、悲しいことに思えた。

 

 誰にも己の本心を見せることなく、苦悩を外に出すこともせず、ただひたすらに耐え続ける。

 勿論そんなこと何時まで続けられるはずがない。今こうしてその苦悩を零してしまうぐらいに、感情を押し隠す仮面は剥がれ落ちてしまっているのだから。

 

 だから――――俺は、それに応えるべきだ。

 落ち込んでいる大切な相棒(サーヴァント)を励ますのも、(マスター)の役目だろうから。

 

「――――お前は、間違っちゃいない」

「……え?」

 

 俺の言葉を聞いて、俯いていたアルフェリアが顔を上げて俺を見る。それを見てまだ言葉は届くようだと小さく安心し、俺は言葉を続けた。

 

「たとえどんな結果になったとしても、お前の抱いてきた理想は間違いじゃない。家族の幸せを願ったお前の思いは――――絶対に、間違いなんかじゃない。少なくとも、俺はそう思っている」

「ヨシュア……」

「まともな望みを考えたことも無い俺が言うのもアレだがな。……でも、お前は周りを笑顔にしてきた。皆が笑っていた。皆が楽しんでいた。皆が、幸せを感じていた。それだけは、知っていてほしい。お前のおかげで笑顔になれた奴らがいるんだってことを」

 

 彼女の夢を見た。その夢の結末は決して良い物では無かったが――――それでも、笑顔はあった。幸せは存在していた。結果がどうあれ、それだけは変わらない。彼女が人々に笑顔を与えていたことは、間違いなんかじゃない。決して、間違ってなどいない。

 

 だから――――

 

「もし、お前の行いで歪んでしまった奴が居るなら――――お前が救い上げればいい。自分の手で、正せばいい。お前になら、それができるはずだろ?」

 

 自分を否定するな。

 己の行いで歪みが出てしまったのなら、自分で正せ。

 お前には、それができる『力』があるんだから。

 

 俺は、そんな思いを込めた助言を、彼女に投げた。

 

 それを受け取ったアルフェリアは、少しだけ茫然とした顔で俺を見て――――微笑を浮かべた。

 

「自分の手で、救い上げる……私に、できるかな」

「できるできないじゃない。やるんだよ、お前が。自分の失態ぐらい自分で何とかしろって事だ」

「……ふふっ、あははははは! うん、その通り。正論過ぎて、何も言い返せないや」

 

 アルフェリアは小さく笑い、その目の端に涙を浮かばせながらもいつもの様な笑顔を浮かべた。

 太陽の様な、見てるだけで心が満たされるような笑顔を。

 

「ヨシュア」

「……何だ?」

「ありがとね。励ましてくれて」

「礼を言われるほどの事じゃねぇよ。……お前はいつもの姿が一番いいんだ。落ち込んでいたら、いつものお前が見れないからな。ちょっとだけ、頑張ってみたよ」

「いつもの私か……そうだね。ヨシュアが頑張ったんだから、私も頑張ってみる」

「……ああ、それがいい」

 

 少しだけ照れくさくて、つい俺は顔をアルフェリアから背けてしまう。流石にちょっと張り切り過ぎたか。

 

 その時不意に、手を暖かい感触が包む。

 見れば、アルフェリアが俺の右手を握っていた。手を繋いでいる状態、と言えばいいか。

 しかもなんか握り方が恋人みたいな――――

 

「――――ぶふぉぁ!??」

「ん? どうしたの、ヨシュア」

「い、いや、おまっ……手っ、手ぇっ!?」

「? こっちの方が暖かくていいよ? それとも、私と手を繋ぐのは……」

「いや、嫌じゃない! 嫌じゃないが……せめて一声かけてくれ。心臓に悪い」

「えっと……うん、わかった」

 

 彼女の手の温かみが自分の手を包んでいる。そう意識すると頭の中がミキサーでかき混ぜられたように滅茶苦茶になって、細かいことが全く考えられない危険な状態になってしまう。前にも一回あったが、どうしてこいつはこうも恥じらいもなく異性の手を無遠慮に握れるのだろうか。

 

 こう言う無遠慮さは、ある意味彼女の魅力ではあるのだろうが……やられる側からしてみれば、心臓に悪すぎる。嫌いでは、ないのだが。

 

「暖かいねー」

「……そうだな」

 

 こちらの気も知らずに、アルフェリアは満面の笑顔で歩き続ける。もう細かく考えても仕方ないと俺は半分諦め、大人しくこの手の温もりを楽しむべく思考を切り替え始め――――

 

 

 ――――ふみゅっ、っと。不意に何か不思議な感触を足元から感じた。

 

 

「……は?」

 

 己の足元に目を向けてみれば、信じられない者を踏んでいる自分の足が見える。

 踏んでいたのは、柔らかい人の頬(・・・)。どうして地面にそんな物が転がっているのか――――そう考えながら、俺は自分が踏みつけた者の姿を凝視する。

 

 腰まで伸びているであろう長い金髪はさながら純金。それを激しい動きの邪魔にならない様に三つ編みに纏めており、しかしそれでも魅力は薄れさせず、黄金の髪は日光を反射し絢爛に輝いている。

 着ている服はノースリーブのシャツに紫色のネクタイ、ショートパンツ、ハイソックス。どう考えても冬季に着るような服で無いソレは、見事着用者のボディラインを艶めかしく強調し――――しかしこの時期では凄まじく寒そうな格好なので、ぶっちゃけ色気もクソも無い状態になっている。

 

 しかし何より頭に浮かぶのは、昨夜多数のサーヴァントの交戦を防ぐために現れた『裁定者(ルーラー)』と名乗った審判役のサーヴァント。この少女は外見的特徴が、ルーラーによく似ていた。というか瓜二つだった。

 

 これは、もしかしなくても……いや、そんなはずは――――などと考えていると、頬を踏みつけられたまま少女は呻く様に呟く。

 

 

 

 

「お、お腹が空いて、もう一歩も…………動けませ、ん…………」

 

 

 

 

 …………こう言う時、何と言えばいいのだろうか。

 

 答えを返してくれるものは、当然ながら居なかった。

 

 居ても困るが。

 

 

 

 




というわけで、ヨッシーのイケメン度とアルフェリアの好感度がアップした回、どうでしたか。私は書いていて思わず砂糖を吐き捨てそうになりました(・ω・)
誰か、ブラックコーヒーをくれ(半ギレ

最後の最後にダメ聖女登場・・・事後処理に励むあまり、魔力消費は過度なカロリー消費に繋がることをど忘れして魔力を使いまくり、疲労のあまりうっかり財布を無くし、結果空腹で道端に倒れるという残念コンボ三連打。
ああ、やっぱりぽんこつ聖女はぽんこつ聖女だったよ・・・。

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