Fate/argento sister   作:金髪大好き野郎

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あけましておめでとうございます(恒例。

いやぁ、FGOアニメは正直期待半分で見ていましたが、予想以上にしっかりしていてビックリしました。そして追撃の如くApoアニメ化。アニメーター殺しのキャラたちが動く様が実に楽しみです(原作の方一巻しか持ってないのは内緒)。

ガチャ?ああ、通信エラーで一万が虚数へと吹き飛びました。死ねばいいのに(´・ω・)

話を戻して、ようやく聖杯戦争三日目終了です。

三日目です。


三 日 目 で す。


<被害一覧>
・倉庫街消滅(一日目)
・円蔵山一部消滅(二日目)
・アインツベルンの森消滅&ついでに周辺異界化(三日目)
・超級宝具衝突で起こった衝撃波でビル上部が十数単位で崩壊(三日目)
・冬木ハイアットホテル倒壊&近場の廃ビル上部消滅(三日目)
・サーヴァントの乱戦で廃車大量製造(三日目)
・F15J二機スクラップ化(三日目)
・未遠川防波堤一部倒壊(三日目)

(´・ω・)・・・神秘の隠匿?なにそれおいしいの?(すっ呆け

追記
設定齟齬の個所を修正しました。

※今回の話にはFGOにおける盛大なネタバレが組み込まれています。見たくない方はマスコット同士の乱闘時にある程度場面を飛ばすことを推奨します。


第三十話・水星の王と災厄の獣、ついでにロクデナシ

 第四次聖杯戦争監督役、言峰璃正にとっては、まさに疲弊の極みにある夜だった。

 

 彼に取って聖杯戦争の監視はこれで二度目だが――――まさか、まさかここまで騒ぎが収拾不可能なレベルにまで膨れ上がるとは、想像もつかなんだ。

 

 最早この問題の規模は聖堂教会だけで御せられるような物では無く、魔術協会も最大限協力することで『ようやく』希望が見えてきた程度には収拾できた。当然だが、目撃者は数知れず。

 これではもうUFOなどの馬鹿みたいな噂でもでっち上げるか、冬木市全域に幻覚作用のある薬品が広がったなど素っ頓狂なことを言い張らねば隠蔽どころでは無い騒ぎだ。

 

 何という、何という惨事だろうか。

 

 倉庫街が跡形も無く消滅し、円蔵山の一部が爆発で消え、挙句の果てにそこかしこでサーヴァント同士の乱戦祭りだ。これをどうやって社会に隠しきれというのか。無茶ぶりにも程がある。

 程があるが、やるしかないというのが現状の最も辛い所である。もう自分が何度ため息をついたのかわからない璃正。既に三桁を越える電話のコールが彼の精神を一々蝕んでいく。

 

 高層ホテルが一つ消滅し、余波で離れたビルの上部が大きく抉れ、自動車の被害は二桁を越える件数。挙句の果てに戦闘機が二機オジャンだ。一体どうしてこうなったと悲鳴を上げたいが、弱音は許されない。やることは山積みだ。

 

「……此度の仕事で、引退しても良いか」

 

 冗談抜きでそう思う璃正であった。

 

 彼ももう歳だ。体は衰え、顔も皺だらけ。そろそろ一線を引いても可笑しくない。幸い、後を託せる息子がいる。ならば快くこの座を明け渡すのが老齢者の務めだろう。

 

 絶え間ない電話の応酬がひと段落着いて、璃正はこめかみを揉みながら椅子へと深く背を預ける。もう深夜だ。不眠不休で働き続けたせいか、凄まじい疲労が身体に重石のように圧し掛かるのを璃正は感じる。

 

 これは少し休んだ方が良いか――――そう思い始めた頃、教会の大扉が静かに音を立てた。

 

「む……?」

 

 この言峰教会とその周辺は不可侵領域である。下手に誰も近づけない場所ゆえに、来るモノは参拝客か――――協力者である遠坂時臣と息子である言峰綺礼ぐらい。一体誰だと深く息を吐きながら席を立ち、招かれざる客の姿を見る。

 

「――――……綺礼か?」

 

 教会に入ってきていたのは息子である言峰綺礼。そう認識して璃正は安堵の息を漏らした。

 息子ならばここに来ても可笑しくは無い。大方定期報告だろう――――しかしその考えは綺礼の手の甲を見て変わることとなった。

 

「……綺礼、アサシンはどうした」

「この通り全ての令呪を使い果たしました故、報告に参りました。教会の保護を頼みに」

「そう、か。それは、ご苦労だった」

 

 よく頑張ったと励ましの言葉を贈る璃正だったが、彼は異様な違和感を肌で感じ始める。

 一体なんだ? と璃正は長年の勘の正体を探る。不気味なほどにねっとりとした視線、まるで獲物を狙い定めた様な猛獣が目の前に居るような感覚。

 いやまさか、目の前にいるのは深き信徒たる我が息子。そんな視線など持つはずがない。

 

 だが、これは、余りにも――――

 

「父上、一つ頼みがあります」

「……頼み、だと?」

「はい。何、大した頼みではありません。ただ――――その腕の令呪を頂きたいだけですよ」

「何――――?」

 

 何を言う、そう言い切る前に既に綺礼は動き始めていた。

 

 一気に離れた距離を詰める『活歩』。何の足さばきも見せず綺礼は父である璃正の懐へと死神の如く滑り込み、八極拳が最大限発揮される至近距離にて拳を放つ。

 狙いは心臓。一撃必殺、金剛八式・衝捶。高性能爆薬の炸裂に等しき衝撃を綺礼は遠慮なく璃正へと叩き込もうとした。

 

「ぬゥッ――――!?」

 

 だがそう簡単にやられる璃正では無い。彼は老齢の身ではあるが昔は歴戦の執行者でもあった身。その名残は未だに残り続けている。

 

 咄嗟に腕を交差させその一撃をガード。同時に後退することで衝撃を苦そうとするが、不意打ち同然の攻撃ゆえに完全に逸らし切れず骨に罅が入る結果となってしまう。しかし、死を免れただけ最良の結果と言えた。

 

「綺礼! 一体何を!?」

「そうですね。有体に言えば――――必要だから、でしょうか」

「必要、だと……? 己が父を殺めることが必要だというのか……?」

「安心してください父上。抵抗せねば、苦しむ必要は無い」

「何を馬鹿なことを……!!」

 

 勘は間違っていなかった。

 蝋燭の明かりで、今度こそはっきりと認識できる。すっかりと変わり果ててしまった――――いや、目覚めてしまった言峰綺礼という破綻者の笑みが。

 人間性など欠片も存在せぬ顔が。

 

「あ、あぁ、なんと、なんという……!」

 

 信じたくは無かった。啓蒙たる信徒の息子が、こんな獣を内に秘めていたという事を。

 

 一体、一体どこで間違えたというのか――――!!!

 

「何故だ、何故だ綺礼! 一体何がお前をそこまで歪ませたのだ!?」

「……父上、貴方は勘違いしている」

 

 嘲笑うかのような笑み。これでようやく璃正は確信する。これは、もう――――

 

 

「――――私は、最初から歪んでいたのですよ。貴方は何も間違っていない。……いや」

 

 

 ――――戻せない。

 

 

「貴方の間違いは――――私と言う人間を理解できなかったことだ、父上」

 

 

 間髪入れずに放たれる震脚。衝撃が床を伝わり璃正の足を麻痺させる。身動きが取れない。それはつまり、この殺し合いの勝者が今確定したという事。

 

 無慈悲に、実の父であるにもかかわらず綺礼はその拳を頭部を破壊せんと引き絞り――――

 

 

 

 

「――――Intensive Einascherung(我が敵の火葬は苛烈なるべし)――――」

 

 

 

 

 直前、二人の間にうねる炎の蛇が振り下ろされる。

 

「――――!?」

 

 突然の攻撃に驚いた綺礼は流石に不味いと判断したのか璃正から距離を取り、背後に居る新たな敵――――遠坂時臣へと視線を移した。

 予想外の来客。思わぬ展開だが、これはこれで面白いと綺礼は薄く微笑む。

 

「数日ぶりです我が師よ。体の調子はいかがでしょうか?」

「……綺礼、これは一体どう言う事か、説明してもらえるかな?」

「質問を質問で返すとは、あまり優雅では無いと――――」

 

 

「――――Schwert Glanzflamme(剣を模るのは栄光の炎に他ならない)

 

 

 時臣は最後まで台詞を聞くことなく、かつての弟子の眼前へと容赦なく杖の先から出した炎の剣を叩き付ける。

 今のは威嚇、最終通告だ。これ以上戯言を述べ立てるなら、此処で殺し合いをするという警告。

 

 だが綺礼は笑みを崩さ素、軽く肩をすくめるのみ。

 

「何故私が実の父に牙を剥いているか、ですか。何、簡単なことですよ。私が父や師を『裏切った』。考えこむまでも無い答えだ。それに何かご不満でも?」

「一体何が君をそうさせた。私だけならまだしも、璃正神父にまで何故……?」

「――――私の目的は地獄の具現。全ての生物の死。その先にある新たな誕生。そのために父の持つ預託令呪が必要だった。故に殺害しようとした」

「預託令呪は聖言により守られている。それを知らないわけでは無いだろう、綺礼」

 

 璃正の持つ預託令呪はその強奪を防ぐために聖言というプロテクトによって防護されている。故に魔術による奪取は事実上不可能であり、もし神父がそれを誰にも伝えず骸と化せばその令呪はただの死斑と化す。

 

 だが、綺礼は嗤い続ける。

 

「聖言? ああ、そんな物は彼の者(・・・)には無意味だ。創世神話の者たる彼の言葉一つでどうにでもなる問題を、何故気にする必要があるというのです」

「……綺礼、私は君が何を言っているのか理解出来ない」

「理解させるつもりは毛頭ございませんが」

「…………そうか」

 

 最早対話は不可能と断じ、時臣は杖を構えた。

 

 が――――

 

「ぐぅッ!!?」

 

 綺礼は時臣の相手などせず素早く魔力強化した黒鍵で璃正の右腕を切断。余りの速さと手際の良さに璃正は反応もできずその右腕をあっさりと奪われてしまう。

 

「綺礼!!」

「さらばだ我が父、我が師よ。その死は穏やかであることをお祈りしていますよ」

 

 そう言って綺礼は一瞬でこの場から消え去ってしまった。

 

 消える直前に見えた物は複雑怪奇、幾何学模様の未知の魔法陣。起こった現象からして、恐らく転移。しかも規模からして長距離転移だ。現代の魔術師なら血眼でその研究成果を奪い取ろうとするほどの超高難易度の魔術。

 だが魔術を学んで数年の綺礼が扱えるようなモノでは無い。それはつまり、それをあっさりと他者へと渡すような者がこの冬木に居るという事であり――――魔術師であるが故に遠坂時臣はぞっとした。

 

 あんなものがある限り、自分たちに逃げ場などどこにもないという事を知ったのだ。

 

 こんな物、悪夢以外にどう言い表せというのだろうか。

 

「神父! 腕を――――」

「……すまんが時臣君、治療を頼めるか」

「……わかりました」

 

 璃正の狼狽ぶりは尋常なものではない。

 

 だがその原因は信頼していた息子が裏切ったことでも、自分の腕を切り飛ばして奪っていったことでもない。――――何年も共に過ごしてきたにも関わらず、息子のことを何一つ理解していなかった自分への失望。それが今璃正の心を一番揺らしている感情であった。

 

「私は……何と愚かな……!」

 

 腕から滝のように溢れ出ていた血は時臣の宝石魔術により止まった。それに反比例するかのように璃正の感情はどんどん外へと溢れ出ていたが。

 無理も無い。彼は責任を感じている。

 

 自分が少しでも息子の事を理解出来ていれば、こんな惨劇は起こらなかったのではないかと言う自責に蝕まれているのだ。

 

「神父、落ち着いてください。監督役である貴方がそんな調子では、ここから先の行動に支障が出る」

「何……? 時臣君、一体何を……?」

「先程魔術協会から通達がありました。『セカンドオーナーとしてこの事態を早急に鎮静化せよ』と。ここから先、私はマスターでは無く冬木を管理する者として正式に聖堂教会へ協力を要請します」

「だがそれではマスターとしての動きが阻害され……ま、まさか」

「……恐らく私が最初の脱落者となったのでしょう。英雄王は私を見限り、令呪はこの通り私の手から消えました。故に、もう動きを自重する意味はありません」

 

 その手に存在していた痣は既に消えている。それはつまり、時臣は公的に一番最初に脱落したマスターということである。ならばもう裏でコソコソと手を回す必要は無い。此処からはセカンドオーナーとして全霊を賭して事態を落ち着かせなければならない。

 

 むしろ変に制限がないので都合がいい。不幸中の幸い、とでも言えばよいのか。

 

「監督役として、明日の朝至急全陣営の集合を呼び掛けてください。無期限の停戦を宣言し、聖杯戦争を掻き回している者どもを全力で叩く必要がある。冬木全市民の避難も場合によってはしなければならなくなる」

「……時臣君、一体この冬木で、何が起こっているというのだ……?」

「…………わかりません。しかし確実なのは――――」

 

 開いた扉から入り込む夜風が、酷く不快だと感じる時臣。まるで死神の抱擁の如く、風はねっとりと体を包み不穏な空気を教会に満ちさせる。

 

 最悪の日々が始まると言うように。

 

 

「――――最早、聖杯戦争どころでは無い」

 

 

 事実上この瞬間、聖杯戦争は終了した。

 

 新しい戦争の合図代わりに。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 景色が変わった。

 

 知っている。今では大切な思い出の場であり、帰るべき場所。

 

 そう理解した瞬間、ボロ屑のようになった四肢が雑巾の様に床に叩き付けられる。

 全身を駆けまわる激痛。連続の激戦で疲弊しきった身体と精神がやすりに削られるような不快感を、私は味わった。

 

 無事な個所は、一体幾つ残っているのだろうか。

 

「ね、姉さん……! 大丈夫ですか!」

「あ、あはは……ちょっとやばいかも……」

 

 実際はちょっとどころか死ぬ一歩手前だが。

 

「――――――――ッ、ぐ、ごはっ……!」

 

 喉から込み上げる血が口から飛び出し床を濡らす。同時に、私の体から光が漏れ出てきた。

 出てきた光は少しずつ形を形成し、やがては人間の姿を現出させる。人間形態のハクだ。英雄王と戦ったときからずっと私の心臓と同化していたのだ。

 

 人間の姿になったハクは力無く体を倒れさせる。意識が無いのだろう。全身傷だらけに心臓停止(・・・・)寸前だ。自前の再生力で数分すれば目覚めるだろうし、問題は私の方か。

 

 大体二、三十分は同化していただろうから、ああ、これは相当高くつくな(・・・・・・・)――――

 

 

「ご、ぁあが、は――――ッ!!?」

 

 

 心臓が潰れたかと錯覚する。いや、実際に潰れかけた(・・・・・・・・)。血流が一気に不安定になり手足の感覚が一気に消滅する。

 

 不味い。不味い不味い不味い。

 

 意図せず口から壊れた蛇口の如く吐き出される赤黒い血。反動で動脈が弾け跳んだか、畜生め。

 

 力が入らない手元から『紅血啜りし破滅の魔剣(ダーインスレイヴ・オマージュ)』が零れ落ちる。最早剣一本保持する力すら残っていないらしい。

 

 剣の状態から直ぐにルージュは人の形へと変形。これ以上ないほど焦燥とした顔で私の胸に手を当てる。

 

「姉さんッ!」

「だ、いじょ、うぶ……大丈夫、だか――――ぼごっ」

「全然大丈夫じゃないわよ馬鹿! 何なのよこの脈拍……! 人間、いや生物がしていい物じゃないでしょ!?」

 

 本来なら一定の間隔で鳴るはずの心拍音は凄まじく不安定になっている。小さかったり大きかったりとさながら波のように激しく変化し、無駄に血管に負担をかけている。そのせいで体内の血管のほとんどがほぼ同時に破裂した。

 

 証拠として口、鼻、目、耳。ありとあらゆる穴から血がとめどなく溢れる。

 

 ああクソ、死ぬ。たださえ体を構成するエーテル体の維持に全力を注いでいるというのに、現実は容赦なく私の体から体力をそぎ落としていく。私にここで果てろとでも言いたいのか。

 

 だがその要望は、死んでもお断りだ。

 

 ようやく、ようやく愛しの妹と再会できたのだ。

 

 ようやく、その手の温もりを手に取れたのだ。

 

 なのにここで死ぬとか、ふざけるな。私を舐めているのか。

 

 死んでも、死んでたまるか――――ッ。

 

「ふーっ、ふーっ…………!」

「姉さん、姉さん……!」

「死ね、ない……! 誓った、んだ……生きることから、逃げない、って――――皆と、一緒に――――」

「ダメっ、私の魔術じゃ、時間稼ぎが精一杯……! もう、これじゃ――――!」

 

 脳に血液が回らない。

 考えることすら難しくなってきている。

 

 流石にこれは、本気で――――不味っ――――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――。

 

 

 

 ―――――――――。

 

 

 

 ――――まだ、果てるな。

 

 

 

 ――――お前は、私を撃退してみせた。星を降ろした(・・・・・・)のだ。そんなお前がこんな所で終わっていいわけがない。

 

 

 

 ――――私を倒して見せた褒美だ。

 

 

 

 ――――力を貸そう。我が強敵()よ。

 

 

 

 ――――其方に、水星の加護を――――――――。

 

 

 

 

 

 目を、開く。

 

 割れたガラス破片の様に散乱している空間の欠片(・・・・・)。さながら内側から無理やり抉じ開けたかのような惨状だ。いや、間違っていない。何せその空間を自由に出入りできるのは私の許可なしでは不可能なのだから。

 

 ――――だがやはり、星を千年単位で封じ込めるのは中々無理があったらしい。

 

「……姉、さん? え……?」

「ッ――――そんな、まさか……!」

 

 この場に現れた『ソレ』を見て、アルトリアは茫然とし、ルージュは氷漬けになった様に固まった。

 

 仕方ないだろう。ルージュにとってはアレは己が最愛の親友の死因でもあり、そしてアルトリアにとっては姉とブリテンが滅ぶ一因となった忌むべき最凶最悪の敵。

 かつてその巨体で島国の環境を容赦なく侵食した水星の王。

 

 

 

 最強の一(アルテミット・ワン)水星の体現者(タイプ・マアキュリー)、ORT。

 

 

 

 虚数空間という永久の牢獄に閉じ込めていたはずの大蜘蛛は、千五百年という時を経て現世に再臨した。

 

 ……ただし、(アルフェリア)という姿を模って。

 

「ね、姉さんが……二人……?」

「――――肉体的な話ならばその問いには『そうだ』と答えよう。だが精神的な話ならば『違う』と言う。この肉体は、かつてこの身を半分以上殺して見せた者の細胞一つ一つを再現して作り上げた触覚だ。中身は違う」

「何、を……」

「そこを退け、楔の王。真祖の虚像。その者の命を助けたければ」

「「っ…………!」」

 

 威圧。

 

 それだけでアルトリアが全身を握りつぶされたような息苦しさを感じた。

 目の前に居るのは星その物。この圧力に耐えられるのは同じアルテミット・ワンか、かつて水星の王と刃を交えた超越者のみ。超一級の英霊や元とはいえ真祖でも、耐えられるはずもなかった。

 

「あな、たは――――」

「動くな。危害を加えようと言うわけでは無い。ただの治療だ」

「な、んで」

 

 姿は自分の物だが、その気迫は知っている。忘れるわけがない。努力によって極地に至った私でも終ぞ叶わなかった相手にして、己の身を滅ぼした神をも超える水星の代弁者。それが何故、自分を助ける。

 

 殺す理由はあれど、助ける理由など無いはずなのに――――。

 

「――――■■■■■■■■――――」

 

 人の脳では理解不能な言語が紡がれる。それと同時にORTの手が私の肌に触れ、そこから水晶が生え広がっていく。侵食? 違う、埋めている(・・・・・)。身体の欠損をORTが作り出す水晶によって補完しているのだ。

 

 水晶が全身を埋め尽くした瞬間、パリンという軽やかな音と共に水晶が弾け砕ける。

 後に残ったのは、まるで何事も無かったかのように傷一つ無くピンピンしている私の体。

 

 本当に、ただ直してくれただけの様だ。

 

「……どうして?」

「――――長き時を平穏に過ごせる寝床を与えてくれたのだ。確かにあの時は……体の半分以上を吹き飛ばされたが、水星がある限り私は死なない以上、大したことでは無い。私に取っては感謝する理由はあれど、害をなす理由は無い」

「えぇ……」

 

 こいつの基準がよくわからない。

 

 えっと、体の欠損はどうせ治るから別にどうでもいいけど、静かな寝床を与えてくれたことには感謝しているってこと? そ、それでいいのか水星のアルテミット・ワン…………。

 

「っ――――まさか、あなたは……あの大蜘蛛っ……!!」

「そうだ。私が貴様らの国を襲った」

「…………ッ!!!」

 

 アルトリアの手がこれでもかというほど震えていた。何せ故国滅亡における最大の一因が目の前に居るのだ。今にも切りかかりたい気持ちだろう。

 

 だが、叶わないと本能と理性が理解してしまっている。

 

 星の聖剣を振るう彼女だから嫌でも理解せざるを得ないのだ。相手の強大さを。

 

「恨むなら恨め。貴様にはその資格がある」

「…………言われずとも、恨んでいる……!!」

 

 そう吐き捨てるように言い、それきりアルトリアはORTから視線を逸らした。

 せめてその姿を目に入れないことだけが、彼女にできる精一杯の反抗だったが故に。

 

「えっと、それよりどうやって此処に……? 虚数空間に閉じ込めていたはずなのに……」

「お前の死骸から取り込んだ知識を解析することで、人一人が通れるぐらいの孔は作れた。肝心の本体が通れなかったが故に、捕食した貴様の肉体を再現し、触覚として現世に放っただけのこと。割と快適で気に入っている」

「そ、そう。ならよかった」

 

 全然よくないけど。

 

「そして、私はお前に『褒美』を渡さねばなるまい」

「へ?」

「私は貴様を取り込むまで、何も知らずにいた。人を知らず、感情を知らず、本能のまま動いていた。お前のおかげで、私は色々な物を知れた。お前の人生を見て、憧憬した。人の世は素晴らしい物だと、教えてくれた。……それに、この私を倒したのだ。何の見返りもないのはいささかつまらないだろう? 故に――――」

 

 ぐいっっと、ORTは理由は不明だがその顔を私に近付ける。鼻と鼻が触れ合いそうなほどに近い距離だ。改めて考えると自分と同じ顔が近くにあるって、中々に不気味だな。

 

 しかし、い、一体何をするつもりなのだろうか……? 褒美? まさか金銀財宝でも恵んでくれるのか……?

 

 

 

 

「――――我が伴侶になることを許そう」

 

 

 

 

 

 ――――ズキュゥゥゥゥゥゥゥウン!!!

 

 

 

 ……は?

 

「なぁぁぁぁあああああッ!!?!?」

「あらあら。随分激しいスキンシップね」

「安心しろ、悪いようにはしない。ちょっと水星まで行き永住するだけだ。簡単だろう? ――――ああ、そうか。これが『恋』か。ふむ、悪くない」

「えっちょ待っ、は? は!?」

 

 どうしてこうなった。

 

 なんで私は自分のそっくりさんに接吻されてるんだ。いやそもそも相手アルテミット・ワンなんだけど。ナニコレ。私の幸運A+なのにどうしてこんな意味不明な事態に巻き込まれているんだ。やっぱり私の幸運パラメータって悪運的な何かだったんだね(白目)。

 

 ……そんなことよりアルトリア=サン、どうして纏っている空気がアヴェンジャー時代に回帰しているんでしょうか。

 

「貴様ぁ……私から国だけでなくよもや姉さんまで奪う気かァ……!」

「ふん、私程度に奪われるのならば、貴様は所詮それまでの器。大人しく諦めるがいい」

「――――ブチ殺ス」

「――――フッ、いいだろう。かかってこい」

 

 そしてどうして二人は臨戦態勢になっているのでしょうか。待って、私のために争わないで。冬木どころか日本が吹き飛ぶ。

 

 流石にこれは不味いので私はすぐに止めようとする。

 しかしふと自分の体に何かが乗っかっていることに気付いて、自分の視線を下の方に向けた。

 

 よくわからないモフモフがお腹の上に乗っかっていた。

 

 えーと、何これ?

 

「フォーウ」

「え? ええ?」

 

 その変な生き物は私の体をよじ登り、頬ずりしてくる。不思議と良い感触だ。ずっと撫でていたいと思えるほどには。ていうか可愛い。可愛いよこの子。

 

「あははっ、くすぐったいよ~」

「フォウ! フォウフォーウ!」

「――――なぁッ!!? キャ、キャスパリーグ!?!?」

「ん? どうしたの、アル?」

「姉さん直ぐに離れてください! それはエクスカリバーが直撃しても死ななかった災厄の獣ですよ!!?」

「? あー、あのケイ兄さんの部隊がボコボコにされたっていう?」

 

 確か百八十人ぐらいボコボコにされたんだっけ。ついでにあるのエクスカリバーで斬りつけても致命傷負わなかったり、鎧を爪で引き裂いたりと中々の怪物だったらしい。私は討伐に向かわなかったので(というか料理の普及で忙しかったので)面識はないんだが。

 

 ……いや、待て。どこかで会った気がする。どこでだっけ……?

 

「で、でもキャスパリーグはマーリンが引き取って無力化させていたはず……。どうしてここに……?」

 

 え? マーリン?

 

 その名を聞いた瞬間酷く嫌な予感が脳裏をよぎる。いや、まさかまさか。あのアンポンタンで頭の中お花畑のロクデナシ魔術師がこんな所に現れるわけがない。わけない……つか来るな。来るなよ? 絶対に来るなよ? 絶対だぞ?

 

 

 

 

『フゥーハハハ! 言われて飛び出て只今参上! 観客の皆さまの声にお応えして、花びらと共に現れましょう! 歓声と拍手を以てお迎えいただきたい! ブリテンが花の魔術師! アヴァロン在住、千五百年間引き籠りという記録は此処で打ち止め! さぁ、いざ行かん我が友の元へ!』

 

 

 

 

 この場が光で包まれる。

 

 どうやら、嫌な予感は的中した様だ。自分の勘の良さが偶にホント、心底嫌になる。寄りによってこいつの来訪を予知したのだから。

 いや、こう言う場合は心の準備ができることを感謝すべきか――――。

 

 光が収まると、無数の花びらが舞う光景が眼前に広がった。そして爆心地――――失礼、その中心には白いローブを着込んだ白髪の青年(?)が手を広げて立っている。

 

 間違いなくブリテン一のキング・オブ・クソヤロウ。世界を見通す千里眼の持ち主にして、今はアヴァロンに引きこもっているニートメイガス。

 

 

 ――――ブリテン産キングメーカーにしてトラブルメーカー、マーリンがやってきやがった。

 

 

「うわっ」

 

 思わずそんな声が出てしまった私は絶対に悪くない。むしろ妥当な反応だ。ほら、行き成りゴキブリが視界の中に入ったら顔が引き攣ってくるでしょう? それと大差ない。つまり私は全然悪くない。むしろ普通なのだ。

 

「ははっ、久方ぶりの再会の第一声が『うわっ』って、酷くないかい? まぁなんだ、君と私は親友だからね。そんな細かいことは流すとしよう」

 

 少なくとも私は貴方を友人と思ったことは一度も無いんだがな。腐れ縁と思ったことは何度もあるが。

 

「では、初対面の方もいるようなので改めて自己紹介しよう。私はみんなの頼れるお兄さん、人呼んで花の魔術師。マーリ「マーリンシスベシフォーウ!!」ドフォーウ!?」

 

 自己紹介の途中でマーリンが謎の生物の超電磁ス○ンでふっ飛ばされた。

 ナイス攻撃。いいぞ、そのままノックアウトしてしまえ。

 

「フォーウ! フォウフォウフォウファ――――!!(訳:人が快適に過ごしていたというのに、よくも庭から追い出してくれやがったなこのノータリン!)」

「なんてことをするんだこの凶獣! 長年世話してやった恩も忘れて! この! この!」

「フォウフォーウ! フォフォフォフォウフォウフォーウ!(訳:その場の気分でほっぽり出した挙句この様じゃねーかこのマヌケ!)」

「ぐっ……反論できない……!」

 

 な、なんだろう。全然言葉がわからないのに、なんとなくわかる気がする。ていうかあの変な生き物と同レベルの戦いをするマーリンって……いや、ある意味小動物と同レベルと言えば同レベルだが。その場のノリと快楽で動くところとか特に。

 

 ――――が、いきなり場の空気の温度が一気に下がる。

 

 物理的には一切の変化が無いが、濃密な殺気が場に満ちたことで全員が押し黙ってしまったのだ。ORTは涼しそうな顔をしているが。

 

 そして、そんな殺気の持ち主とは――――。

 

 

「お、前っ……あの時の犬っコロかぁぁぁぁぁっ!!」

「フォウ! フォ――――――――ウ!!」

 

 

 何と予想外にも、ハクが放ったものであった。この変な可愛い生き物とは初対面のはずなのに、どうしてこんなに怒った顔をしているのだろう。

 確かにあの犬(・・・)と雰囲気が似てはいるけれども――――。

 

「うがぁ――――っ!!」

「ファ―――――!?」

 

 事態がよく把握できないが、私の理解を待たずにハクは白いモフモフと格闘戦を始めた。床の上でゴロゴロと転げまわりながらお互いの頬を引っ張り合っている様は、微笑ましい……のか?

 

「ちょ、ちょっとハク!? どうしたのいきなり!?」

「ごひゅひんはは! こひふあふぉふぉひほ!」

「はい?」

「ぷはっ――――あの時の、あの犬ですよ! ご主人様の背中を狙い、私の右腕を持って行きやがった抑止力の怪物!」

「…………は?」

 

 抑止力の、怪物? いや、そんな、まさか――――。

 

 その事実を否定しようとする私。だが隣でマーリンが清々しい顔をしながら、有り難くも無い爆弾を落としてくれた。しかも最悪級のを。

 

「キャスパリーグ。かつてブリテンで猛威を振るった異形の怪物。また、その身に持つ異名は、『白い獣』、『ガイアの怪物』。朱い月の候補であり黒血の月蝕姫の二つ名を持つ真祖と死徒の混血、死徒の王、アルトルージュ・ブリュンスタッドの忠実な猛犬でもあり――――我々人類がいつか討つべき悪の一つでもある七つの獣の内一匹」

「…………マーリン、貴方、何言って」

 

 こんな時に限ってふざけるなよ。そんな私の心の声は――――次の言葉で完全に掻き消された。

 

 

「人類悪、『比較』の理を持つ第四の獣、キャスパリーグ。平行世界では死徒二十七祖、第一位。とも呼ばれているね。またの名を――――『霊長の殺人者(プライミッツ・マーダー)』。因みに、私の元使い魔でもある奴だ」

 

 

 …………何を、言えば、いいんだろうか。

 

 

「あっはっは、まさか無力化を図ったはずなのに最悪の結果で帰ってくるとは思わなかったよ! 僕は『美しいもの』を見てこいと言ったはずなのに、まさか死徒の王と接触してしまったとは。いやはや、これは実に予想外! 不幸中の幸いなのはキャスパリーグがまだ半覚醒状態なこと――――」

「マーリン」

「ん? 何だい?」

 

 

 

 

 

 

「何しとんじゃテメェェェェェェェェェェェエエエエエエエエエエッ!!!!!」

「うぼあぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああッ!?!?!?」

 

 

 

 

 

 

 

 私は衝動のままにクソヤロウ(マーリン)の顔面を蹴り飛ばした。

 吹き飛んだ先には壁があったが、それを容易く突き破ってマーリンは夜空の白い流れ星と化す――――わけも無く、草だらけの庭に頭から突っ込んだ。

 

 ――――庭は庭でも、拠点防衛のために用意した侵入者撃退用魔術がはびこる魔境だが。

 

『ちょっ、頭が埋まって動けな――――うひゃぁぁぁぁぁ!? 待って! お尻! お尻に魔力砲はらめぇぇぇぇぇぇぇえ!! アッ―――――――――!!』

 

 アホの悲鳴を無視して、私は過去最大級の疲労を味わって四つん這いになって嘆く。

 

 何であんな奴を早々にブリテンから追い出さなかったんだろうか。過去の自分が一体何を考えていたのかよくわからなくなった。まさかあいつに情でも移ったのか? あの? ブリテンナンバーワンの悪辣さを持つ遊び人に? HAHAHA! ……死にたい。

 

「姉上! なんか帰ってきて早々クソヤロウの悲鳴が聞こえるんだが!」

 

 そんな私に癒しが登場。モードレッドがランスロット、雁夜、桜、氷室、ヨシュアを抱えて帰還してきた。どうやらやられて気絶した味方たちを回収してきてくれたらしい。ああ、何と頼りになる姪、もとい妹であろうか。見ているだけで心が安らいでいく……。

 

「姉さん! 私も! 私も見てください! そして癒されてください! さぁ、新鮮なアルトリウムですよ!」

「んなぁーっ! 父上ずるいずるい! 俺が先だぞー!」

「馬鹿を言え。アレは私の伴侶だ。まずは私が先に抱きしめる」

「誰だよテメェ! ――――って姉上と同じ顔ー!?」

「……カオスね」

 

 最後のルージュの台詞に心底から同意した。

 

 まぁ、騒がしいが、それは平和が戻ってきたという事と同義だ。此処は感謝して、この騒々しさを楽しもう。

 

 

 

 これで、やっと――――

 

 

 

「姉さん?」

「姉上?」

「ん? おい、どうした我が伴侶」

 

 

 

 ――――また、あの日常が――――戻っ、て―――――――――

 

 

 

「ね、姉さん!? お、起きてください! 姉さん――――ッ!!」

「姉上! クソッ、気絶してる!」

「過労に、魔力切れの兆候だ。直ぐに魔力を供給せねばならない。このままでは――――」

 

 

 

 

 ――――私、色々、頑張った、から……今、だけ…………今、だけは――――

 

 

 

 

 

 ――――休んで、いいよ、ね…………?――――

 

 

 

 

 

 

 私の意識は、そこから途切れた。

 

 

 

 

 

 




<悲報>
チート姉貴、ついに過労(+魔力切れ寸前)でぶっ倒れる。

英雄王戦で既に消滅一歩手前の満身創痍だったのに、そこに致命傷入れられればそりゃ倒れますわな。

しかし今回もまたカオスな回だったなぁ・・・。
ドジっ蜘蛛ORTちゃん(人間形態&触覚)脱獄&求婚、プライミッツ・マーダー再来、ブリテンナンバーワンの性質悪い魔術師マーリン登場(尚速攻でボッシュート)。

星のアルテミット・ワンと人類悪とグランド候補が畳みかける様に出てくるという混沌具合。ナニコレ?(;´∀`)

マーリン「手助けに来たけど蹴り飛ばされた挙句肛門に魔力砲を叩き込まれた件について」
フォウさん「他人の迷惑にならない様に人里離れた場所に籠っていたら追い出された挙句人類悪覚醒一歩手前にまでなっている件について」
アルフェ「そして第一ブリテン決戦時にソレが襲来していた件について」
アルトリア「ちょっとそこに座れマーリン(無言のエクスカリバー構え)」
マーリン「」

FGO時空ならともかく、月姫時空でこいつがやらかしたことは色々とアレ過ぎると思うの(小並感。

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