薄暗い蔵の中はハッキリ言って異様な光景が広がっていた。
蔵の中に人影が二つ。パーカーを着、顔の半分が変形した白髪の男とその近くにしわ塗れの顔をしているが、歪んだ笑みを浮かべその男を見ている老人。
人影だけならまだ異様とは思えないが、その近くに開いた穴には悍ましい数の蟲がギッシリと詰まっていて、鳴き声を上げていた。
さて、男と老人の間には魔法陣が描かれていた。その陣に男は手を伸ばし、
「----告げる」
何かの呪文を詠唱し始めた。
「----告げる。汝の身は我が下に、我が運命は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
詠唱を続けていると、男の血管が浮き上がり、何かが男の体内を動き回っていた。だが男は痛み故に顔を歪めながら詠唱を続ける。
「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」
ここで男は一度間を空け
「されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手操る者ーーー」
詠唱を続けていくと魔法陣が光輝き、蔵の中の魔力も濃密になっていく。その光が強くなっていくのと同じタイミングで男の皮膚等から血が流れていた。それでも男はその詠唱を終わらせようとしていた。
「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よーーーー!」
そしてその詠唱が終わると同時に魔法陣から今まで以上の光が放たれ、蔵の中を明るく照らした。
光が収まると、男と老人は魔法陣を見た。すると、その陣の中に人が立っていた。
その人物は赤い外套を纏い、同じ色のフードを被ったパッと見十代の青年がそこにいた。だが、二人の人物から見てその青年は本来自分たちが呼ぶはずだった者と違うのは当然だが、その青年から狂気を感じられなかった。
「ふん、上手く行ったかと思えば失敗。所詮は落ちこぼれの様じゃのう雁夜よ」
雁屋と呼ばれた男は顔を歪め、老人は鼻を鳴らし、笑った。だが、その青年が老人の方を見たことに気付くと、
「どうかしたかのう?サーヴァント殿・・・」
何か言おうとした時、突然
ドン!! 「がっ…!?」
老人は青年に頭を鷲掴みされ、壁に叩きつけられた。雁夜もそうだが、突然壁に叩きつけられた老人は驚きを隠せなかった。すると、
「私が殺す。私が生かす。私が傷つけ私が癒す。我が手を逃れうる者は一人もいない。我が目の届かぬ者は一人もいない」
青年はノイズに塗れた声で何かを詠唱し始めた。雁屋は何が何やら分からない状況で何も出来ていないが、老人は青年は詠唱している術に覚えがあるのか、妨害しようとしたが、
ドコン!!! 「ごほっ……!!?」
その青年は空いている方で拳を作り、老人の腹を殴っていた。その状態で
「打ち砕かれよ。敗れた者、老いた者を私が招く。私に委ね、私に学び、私に従え。
休息を。唄を忘れず、祈りを忘れず、私を忘れず、私は軽く、あらゆる重みを忘れさせる」
青年は詠唱を続けた。絶対にこの者を殺すという気迫が伝わってきたような気がした。
「装う事なかれ。許しには報復を、信頼には裏切りを、希望には絶望を、光あるものには闇を、生あるものには暗い死を」
「か、雁夜!!何をしておる!!!早く令呪でこのサーヴァントを制御するのじゃ!!」
詠唱が終わりに向かっているのを感じたのか、老人は男に命令をしていた。だが、雁夜は
「殺せ……」
「は?」
雁夜の言葉に老人が呆けていると、
「そいつを……臓硯を殺すんだ!!!!」
その言葉に老人、臓硯は何かを言おうとしたが、
「休息は私の手に。貴方の罪に油を注ぎ印を記そう。永遠の命は、死の中でこそ与えられる。
-----許しをここに。受肉した私が誓う」
「い、嫌じゃ。儂は永遠の命、不老不死を得るんじゃ!!!こんな所で」
「------”
その詠唱が終わると同時にその老人は消えた。
洗礼詠唱。
『神の教え』は世界に固定された魔術基盤の中でも最大の対霊魔術であり、肉の身より離れ、鎖狂いながらも世に迷う魂を『無に還す』摂理の鍵。
それを赤い外套を纏った青年は唱えた。本来は教会に所属していなければ唱える事の出来ない術をこの青年は普通に唱えた。それがどれだけ異常な事なのか雁夜は知らない。
消えたことを確認すると青年はフードを外し、契約した人物に振り返った。そして、
「じゃあ改めて確認しよう。貴方が俺のマスターかな?」
十代の、されど歴戦の戦士が醸し出す雰囲気を出す青年は良く澄んだ声で確認をした。
またまた思いつきで書きました。連載の方も少しづつですが書いていますのでそちらも宜しくお願いします。