蒼の軍人   作:星月

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道が重なる時

 藤堂やその部下達が中華連邦軍との合流を果たしたとの情報が入って数時間。

 黒の騎士団のアジトではゼロが司令室にこもり、作戦を立てていた。

 

(中華連邦軍はナイトメア性能ではブリタ二ア軍に大きく劣る。しかし物量で勝ることに加え、キュウシュウ海域は大荒れの状況。コーネリアは上陸作戦の強行に二の足を踏んでいる。藤堂達も合流した以上、簡単に落とすことは難しい)

 

 中華連邦軍はキュウシュウの要塞と呼ばれるフクオカ基地を占領。瞬く間にキュウシュウ全域へと支配領域を広げ、ブリタニアから独立。旧日本政府の官房長官であった澤崎が日本の再興を宣言していた。

 これ以上中華連邦の介入を許せないブリタ二ア軍。

 エリア11本土のコーネリアは討伐軍を編成するも連合軍の抵抗と悪天候が重なって攻略に失敗してしまう。

 この間に日本国軍はキュウシュウの備えを完璧にするだろう。日本国を攻め落とすことはより困難となる。

 だが独立したといっても兵も装備も全て中華連邦の借り物。それを使って独立した日本も所詮は借り物に過ぎない。

 ゼロは再興した日本をそう斬り捨て、黒の騎士団全軍を率いて中華連邦軍を討伐することを決定。

 潜水艦に搭乗してキュウシュウへと向かっていた。

 

「待っていろライ。俺の策を無駄にさせた報い、受けてもらう」

 

 仮面を外した本当の顔、ルルーシュが一人呟いた。

 かつての友という感情はすでになくなっている。ライによって今まで漏洩を防いでいた作戦の真意が読まれ、藤堂達との合流を阻まれたばかりかカレン達からの求心力も減ったのだ。これほどの妨害を受けてはルルーシュもライに容赦を出来るはずがない。

 仮に藤堂達が黒の騎士団に下ろうとも、ライだけは合流を許さない。そう考えてしまうほどに。

 ライは優秀な戦力だが、藤堂のように人望を持っているわけではない。反抗心をもった力を持ちすぎる部下というのは危険なものだ。

 できることならばこの戦いで排除してまおう。

 そう冷酷な思考を浮かべた直後、部屋の扉がノックされる。

 

「私だ。誰だ?」

「カレンです。今、お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」

「カレン? 少し待ってくれ。……入っていいぞ」

「失礼します」

 

 相手を確認するとルルーシュはゼロの仮面を被りなおし、入出の許可を与えた。

 カレンが重苦しい表情を浮かべていた。無理もない。彼女が少なからず大切に想っていた相手と戦うのだ。しかも今までとは違い、相手も覚悟を決めている。

 これが最後の出会いとなるかもしれない。そう理解しているのだろう。

 

「どうした? キュウシュウでの戦いでは君の働きは必要不可欠となるだろう。今はゆっくりと鋭気を養ってもらいたいのだが」

「ライのことです」

「……ああ。そうだろうな」

「どうしても、彼を、討たなければ、ならないのでしょうか?」

 

 ゆっくりと紡がれた問いに、ゼロは即座に頷いた。

 彼女の迷いを打ち消すように。覚悟を固めさせるように。

 

「それが必要な事だ。君も以前のフジプラントで交わした会話でわかっただろう? すでに彼の気持ちは固い。ライが我ら黒の騎士団に加わるということはもうないのだ」

「ですが、ゼロは藤堂さんや四聖剣の方々を迎える準備はあるとも仰いました」

「当然だ。彼らとライでは影響力が違う。奇跡の藤堂、その直属の部下として日本人に慕われている彼らが黒の騎士団に加われば、戦わずとも存在だけで日本人へ与える希望がある。それはライにはないものだ」

 

 その人物が持っている知名度のようなもの。

 藤堂達はこれまでも多くの戦果を挙げて日本人を勇気付けてきた。彼らが黒の騎士団に属することとなればその恩恵は黒の騎士団にも向けられる。

 しかしライが加わったところでそれはないとゼロは考えている。

 命令に忠実に従うならば貴重だが、そうでなければ魅力は半減以下。無理してまで迎え入れる価値はない。

 

「いえ、彼にもあります」

「何?」

「ゼロ。これから私の話すことで、どうか考えを改めてはいただけないでしょうか?」

「……いいだろう。聞かせてもらおうか。君が懐いている彼の力というものを」

 

 だがカレンはそう思ってはいない。

 まだ機会はなくなっていない。もう一度ライを引きいれようと、カレンはゼロに意見する。

 納得できる材料があるというのならば、再考の余地は十分ある。

 ゼロはどっしりと構えてカレンの進言を受け止めた。

 

 

 

――――

 

 

 キュウシュウを選占拠した日本国軍。

 ようやく手に入れた独立に加え、ブリタニアの第一陣の猛攻を防ぎきったことで士気はさらに高まった。

 藤堂達は喜びも束の間にすぐさま次の防衛に備えて準備を進めている。

 戦歴豊富な彼らは気づいているのだろう。この独立は真の日本開放ではなく、しかも長く続くものではないということに。喜びに浸っている首脳陣を冷ややかな目で見据えていた。

 そしてその予感は的中する。

 コーネリア率いるブリタ二ア軍が悪天候に苦しむも上陸作戦を強行。ランスロットを先頭にキュウシュウへの上陸を成功させたのだ。

 さらにゼロが黒の騎士団を率いてこの戦いに参戦。日本国軍の本陣目掛けて突撃を仕掛けた。

 

「黒の騎士団までこのキュウシュウに!?」

「ゼロ……」

 

 日本国軍は両軍の迎撃に全力を注ぐ事となった。

 

 

 

 主戦力が集うフクオカ基地を中心に、キュウシュウ北部の各地で激戦が行われた。

 ブリタ二ア軍と黒の騎士団の波状攻撃を前に上陸軍の防衛体制は長く保つ事はできなかった。

 ナイトメア性能に劣るガンルゥは次々と落とされていく。次々と防衛計画が破綻していく中では唯一の対抗手段であった解放戦線の残存戦力の活躍は焼け石に水であった。

 散り散りとなっていく友軍を纏めている藤堂も、この戦局を覆すだけの策は見出すことが出来ない。

 戦力を当てにされている為に戦力が分散してしまい反攻するだけの戦力が整っていないのだ。

 

「藤堂中佐!」

 

 付近のブリタ二ア軍を一掃し、戦局を見定めていると蒼い月下が近づいてくる。ライの専用機だ。

 

「少尉か。無事だったか」

「はっ。中佐、すぐにこのキュウシュウ地区より脱出を。まもなく敵軍が迫ってまいります」

「撤退だと? まだ片瀬少将達も残っているというのにか?」

 

 合流するや否や撤退を促すライ。

 苦戦が続き、本陣も未だにこの戦地から脱出していないのが現状だ。

 まだこの場から離れるわけにはいかない。そう続ける藤堂にライは説得を試みる。

 

「先ほど我が本陣にガヴェインと白カブトが向かっていると情報が入りました。本陣は間もなく落ちるでしょう。そうなれば撤退も容易ではなくなります」

「しかし……!」

『報告! 西の連絡棟がブリタニア軍に落とされました!』

「なにっ!?」

『敵は勢いに乗じてさらに進軍しています!』

 

 まだ決断に至れない藤堂の下にさらに状況が悪化した知らせが入った。

 西の防衛拠点が落とされた。これで各部隊との連絡が困難を極まったばかりか、敵が西から防衛網を突破し挟撃を可能となってしまう。

 これ以上この場に長いはできない。ライの言うとおりとなっていた。

 

「中佐は四聖剣の方々と連絡、合流してください。南下すればまだ残存兵力との合流、脱出は可能であります」

「少尉、君はどうするつもりだ?」

「僕は西から進撃を続けている部隊の迎撃に向かいます。時間稼ぎにはなるでしょう。その間に、どうか脱出を!」

 

 ライは蒼の月下を西へと向けた。その動きに迷いはない。

 本当ならば自分が向かいたいところだが部隊を纏める能力は藤堂の方が上だ。ライもそれをわかっていて殿の任務を引き受けたのだろう。正しい選択を即座に決断できるその力を頼もしく、悲しくも思った。  

 

「少尉」

「はっ」

「このような所で命を落とすなよ」

「……全力を尽くします」

 

 せめて生き残るようにと命令し、藤堂は単騎味方の元へ走る。

 ライも背中を向けてブリタ二ア軍の部隊へと突進した。

 まず目に移ったのはサザーランド五機で編成された小隊だった。

 拠点を陥落したことで浮かれているのか勝利を確信しているのか、最高速度を維持して進んでいる。

 

(弾薬ももう残りわずか。エナジーフィラーも多くはない。しかし!)

「舐めるなよブリタ二ア軍。――日本開放戦線少尉、ライ。推して参る!」

 

 廻転刃刀を逆手に持ち、サザーランドを迎撃する。

 接近に気づいた敵がアサルトライフルを月下へ向けて銃撃を開始。

 ライは左右に最小限の小刻みな動きで銃弾を全て回避するという荒業を見せると、怯んだ敵に刃を振るった。

 廻転刃刀が先頭の一機の頸部を刎ねた。さらに振り返り様に右に立つサザーランドの胴体を真っ二つに切り裂く。

 立ち直った他の機体がアサルトライフルを向けると、ライはスラッシュハーケンを発射。アサルトライフルを叩き落して懐に潜り込む。刃を突き刺し、敵を無力化した。

 そして沈黙した機体を盾として残った機体の銃撃を防ぎきる。

 今度はスラッシュハーケンを壁に打ち込み、一気に巻き取って急速発進。壁を蹴って相手の目の前に迫る。突然の出来事に反応しきれなかった残りの敵機全てを斬り捨てた。

 

「日本に残された希望を、ここで消させはしない!」

 

 ブリタ二ア軍の第一陣を撃破したライはさらに西進。

 奇跡の藤堂、そして四聖剣が死地を脱する為に。新たに迫ったサザーランド十五機の部隊の真只中へ飛び込んでいった。

 

 

 

「中佐! 進路啓開、完了しました!」

「連絡が取れた部隊も合流を果たしました」

「わかった。よし、ブリタ二ア軍の包囲網を崩せたか。後は――少尉! 応答しろ、少尉!」

 

 藤堂は無事、四聖剣との合流に成功していた。

 防衛作戦を破った敵軍をライがひきつけてくれたおかげで多くの部隊を撤収している。

 本陣が落とされたとの情報が入った時はどうなるかと思ったが、被害を最小限に収めていると言えるだろう。

 後は殿を務めているライがこちらへ向かうのみ。

 労を労う意味も兼ね藤堂自らライへと通信を入れた。いまだ戦いが続いているのかつながるまで数秒を要した。

 

「こちら、ライ。まだ健在です」

「そうか。よくやってくれた少尉。こちらの勢力は一掃した。もう十分だ。少尉もすぐに引き上げてくれ」

 

 無事を知り、安堵する藤堂達。

 最悪の展開も予想したがどうやらその心配は杞憂だったようだ。

 息を零す藤堂達に、しかし命令を受けたライは了承を返すことはなかった。

 

「藤堂中佐!」

 

 緊張感の篭った、強い声だった。彼らしからぬ語気に違和感を懐いて藤堂は問いを返す。

 

「何だ?」

「……武運長久を祈っております。どうか日本をよろしくお願いいたします」

「なにっ。おい、少尉! 少尉!?」

「少尉! 早まるな!」

「すでに銃弾が尽き、エナジーフィラーも底を突きます。脱出は不可能です」

 

 藤堂が何度呼びかけようと、千葉達が声を荒げようともライの現状は変わらない。

 すでに月下は長時間の戦闘により活動の続行が不可能となっていた。

 敵の攻撃を受けて補給もままならない今となっては、脱出は現実的に不可能なものなのだ。

 

「中佐と、四聖剣の方々と共に戦えたことを光栄に思います」

 

 とても最期の会話とは思えない清々しい言葉でライは通信を終えた。

 

「少尉! 少尉!!」

「藤堂さん! すぐに救出を!」

「わかっている!」

 

 死を覚悟して戦いを続ける部下を無視はできない。朝日奈に言われずとも藤堂の方針は決まっている。

 即座に救出部隊を編成、出撃させようと指示をだす、その瞬間。

 最悪の知らせが藤堂の耳に響き渡った。

 

『伝令! 白カブトが高速で接近! 間もなくこちらへたどり着きます!』

「なんだと!?」

「白カブト。スザク君か」

「よりにもよって、こんな時に!」

 

 ユーフェミアの騎士になったというスザク。そしてランスロット。

 これまでもゼロの策の最大の難関として立ちはだかり、幾度もブリタ二ア軍の窮地を救ったナイトメア。

 その機体がこちらへと迫っている。まさに藤堂達にとっては悪夢(ナイトメア)そのものだった。

 

「藤堂さん。ここであなたを捕まえます」

 

 相手がかつての師匠であろうと関係ない。スザクは固い決意の元、藤堂の部隊に接近していた。

 

「――全軍、迎撃準備を整えろ!」

 

 強敵を前に藤堂達は迎撃を余儀なくされる。

 これによりライの救出作戦は完全になくなってしまった。

 

 

 

「悪いな月下。お前を巻き込むことになってしまって」

 

 月下の中でライは一人呟いた。

 周囲にはサザーランドの包囲網が完成されている。

 指示があればすぐに月下を仕留めるため攻撃を開始するだろう。

 もはやエナジー切れは目前だ。長く戦う事は出来ない。

 せめて藤堂達が逃げ切るための時間を稼ぐ。一機でも道ずれにしてやろうと意気込むライ。

 だがその意志を引き裂くものが、ライの視界に映った。

 

「……カレン、か」

 

 真っ赤に染まる機体はゼロの親衛隊隊長であるカレンの専用機。

 目前に迫る紅蓮弐式を見て、ライはうっすらと笑った。

 

「君で最期を迎えられるならば本望だ」

 

 死が近づく中月下の両腕がゆっくりと下がる。

 この戦況で紅蓮とサザーランドを凌ぎきる術はない。ならばせめて紅蓮の手で。彼女の手で。

 サザーランドも紅蓮の動きに乗じて動き始めるが、そちらには目もくれずに、紅蓮の動きだけを目に焼き付けた。

 紅蓮の輻射波動が紅く光る。

 あれが直撃すれば確実に機体ごと葬り去ることだろう。

 自分の結末を感じ取ってライは体の力を抜いた。

 すると紅蓮弐式はライの予想に反し、月下の横を疾駆していった。

 

「ん?」

 

 予想外の動きに戸惑うライ。

 まさか自分を無視して藤堂達の方へと向かったのか。

 驚き、視線を後ろへ向けると紅蓮はサザーランドの一角を攻撃していた。

 包囲網の一部が崩れたブリタ二ア軍。さらに紅蓮の後続機であった無頼もサザーランドを横撃。

 空中からゼロが乗るガヴェインも攻撃を仕掛け、瞬く間にブリタ二ア軍を殲滅した。

 

「ゼロ。黒の騎士団。どうしてブリタ二ア軍を? ……いや、どうして僕を」

 

 先ほどまで同調して日本軍を攻めていたはずの黒の騎士団。

 そんな彼らがブリタ二ア軍の包囲を受けていたライを救出した。

 理解が追いつかずライが混乱する中。

 

「黒の騎士団総員に告げる!」

 

 ゼロがオープンチャンネルで黒の騎士団へ号令を発した。

 

「中華連邦と結託し、日本解放戦線を私物化していた片瀬と澤崎は捕らえられた! もはやここにいるのは彼らに利用されていた、日本を想う我々の同志だけである!」

「何……?」

「奇跡の藤堂。四聖剣。そして日本貴族の末裔。真に日本を憂える者達がいまだこの戦地に取り残されている。ここで彼らを失うわけにはいかない。黒の騎士団はこれよりブリタ二ア軍を攻撃。同胞をこの窮地から救い出すのだ!」

「同志? 同胞だと?」

「黒の騎士団が、我々を守ろうとしているのか……?」

 

 この放送は藤堂の耳にも届いていた。

 見ると、どうやら藤堂達を攻撃しようとブリタ二ア軍も黒の騎士団の足止めを受けているようだ。

 言われてみれば黒の騎士団は最初から中華連邦軍やその首脳陣ばかりを狙っていて解放戦線の面々を攻撃していなかった。ライが戦闘を繰り広げていたのもブリタ二ア軍のみ。

 はじめからゼロは解放戦線の面々を中華連邦軍から切り離し、救出することを狙っていたのかもしれない。

 

「随分と遠回りをしてしまったが、ようやく我々の進み道が重なるのだ。ブリタ二ア軍を駆逐し、真の日本の姿を取り戻せ!」

 

 そう締め括ってゼロの命令は終わった。

 突然の黒の騎士団と日本解放戦線の共同戦線。ブリタニア軍は混乱し、黒の騎士団は勢い盛ん。

 戦況変化についていけないブリタ二ア軍は次々と落とされていく。

 ゼロの一声で戦況は大きく変わっていた。

 

「ライ」

「ゼロ……」

 

 今度はオープンチャンネルではなく、ゼロがライに直接通信を繋げた。

 

「安心しろ。カレンからお前の話は聞かせてもらった。お前という存在がここで消えるのは惜しい。日本人にとってお前が黒の騎士団に加わることが大きな意味を示す」

「だからもう一度、君の下に着けというのか?」

「お前なら考えずともわかるだろう。自分の一存で、藤堂達が再び窮地に陥ることくらい」

「……ッ!」

「それにお前が望まずとも、黒の騎士団への加入を心より願っているものが一人いる」

 

 そういい残してガヴェインは飛び去っていく。

 方角を見るとランスロットと藤堂達が小競り合いを続けている戦地だ。おそらくはその援軍として向かったのだろう。

 エナジーフィラーの残量が尽きた今、ライが彼を追う事は出来ない。

 じっとガヴェインの背中を見据えていると。

 

「ライ」

「カレンか」

 

 真っ先に駆けつけ、ライの危機を救ったカレンが近寄ってきた。

 

「月下は、まだ動くかしら?」

「……エナジーフィラーが尽きた。もう戦うことは出来ない。捕虜にするなら今のうちだよ」

「そう。わかった」

 

 そう話すライに、カレンは短く答えると紅蓮の懐からある者を取り出し、月下へ差し出した。

 紅蓮の掌に乗っているのはナイトメアのエネルギー源となるエナジーフィラーだった。

 

「これは、エナジーフィラー?」

「黒の騎士団はこれより、ブリタ二ア軍の掃討ならびに藤堂中佐以下日本解放戦線の救出に向かうわ。あなたはどうする?」

「カレン……」

 

 手を取って、カレン達と肩を並べて仲間を救出するか。

 手を拒んで、何もせずに自分の意地を貫き通すか。

 しばしの沈黙が流れる。

 ライは数秒の間紅蓮越しにカレンの姿を見据え、そして笑みを見せた。

 

「了解した。僕はこれより黒の騎士団に協力させてもらう。君の指示の元、共に中佐達を救出しよう」

 

 カレンからエナジーフィラーを受け取って、月下は再びその力を取り戻す。

 紅の機体と蒼の機体。カレンとライ。二人が久々に同じ旗の下、共に戦いへ挑んでいった。

 

 

――――

 

 

「……ようやく、ね」

「ああ」

 

 二人は互いの背を預け合うようにしてその場に座り込んでいた。

 紅蓮と月下の両機が二人を覆い隠すように聳えているので周囲の人間から気づかれる事はない。

 ライとカレン。二人だけの空間で、このゆったりとした静寂を満喫していた。

 

「また、あなたと一緒にいることが出来て。日本を取り戻して。本当に夢みたい」

「長かった。だけど確かに、ようやく取り戻せた」

「予想していなかったのはあなたが私の部下になることくらい? 私、あなたはもっと上の役職につくと思っていたけれど」

「僕は黒の騎士団に戻った。でもまだゼロを信じたわけではない」

「ライ……」

「でも、だからこそ僕はもう一度君を信じることにしたんだ」

 

 ライはカレンの掌にそっと手を伸ばした。

 優しく、包み込むように握り締める。

 

「君がゼロを守るというのならば、僕が君を守ろう。だから、君は君が信じる道を進んでくれ。僕もカレンと歩んで行く」

「……うん。……うん!」

 

 

 

 激しい戦闘の末に黒の騎士団は藤堂率いる旧解放戦線の面々を救出。キュウシュウからブリタ二ア軍、中華連邦軍を一掃した。

 藤堂達は中華連邦軍と決別し、新たな出発を期して『真・解放戦線』と名前を改め黒の騎士団に合流を果たす。ゼロと藤堂、そしてカレンとライが手を交わす姿はメディアをリークして日本各地に伝えられた。奇跡の藤堂がゼロの元で部隊を指揮し、貴族の血筋を引くライがゼロを立てたことにより黒の騎士団の求心力は大幅に増加。

 その後ゼロは制圧したフクオカ基地に拠点を設け、『合衆国日本』の建国を宣言。

 藤堂を軍事の総責任者に任命し、ライを親衛隊である零番隊副隊長に任命するなど対ブリタニア戦に向けて準備を重ねていく。

 長く、遠い回り道を経てようやく一つにまとまった二つの組織。

 道が重なった今、これからは取り戻した日本の為に力を合わせることだろう。




ゲーム本編で黒の騎士団合流時にライが語っていたように、ライも自分の感情をいつまでも口やかましく言うよりも情勢を優先する。今回は黒の騎士団入団時と同様、カレンを信じることで大きな目的に向かって同じ道を進む事となりました。

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