バカと私と召喚獣   作:勇忌煉

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第十問

 

「まずは皆に礼を言いたい。俺達Fクラスがここまで来れたのは、他でもない皆の協力のおかげだ。感謝している」

 

 いよいよAクラスと戦うところまでたどり着いた私達Fクラスは、らしくない雄二の感謝の言葉と最後の作戦の説明を聞いていた。

 あの雄二が素直にお礼を言うなんて普通ならあり得ない。アキ君もその事には驚いている。まあ、いつも扱いが雑だったもんね。

 それにしてもFクラスがよくここまで来れたと率直に思うよ、私も。

 

「ここまで来れたんだ。絶対Aクラスにも勝ちたい。勝って、勉強だけじゃないって教師どもに思い知らせてやるんだ!」

 

 久々に皆のモチベーションが叫び声として表れる。何だかんだで気持ちは一つだ。

 そして雄二は、昨日私達に説明した一騎討ちの案を発表した。

 もちろん教室中がざわめき、それを雄二が落ち着かせる。

 

「やるのは俺と翔子だ」

 

 これは決定事項だ。Aクラス代表の霧島翔子とFクラス代表の坂本雄二。つまり代表同士の一騎討ちである。

 翔子は一度覚えたことを絶対に忘れないほど記憶力がずば抜けている。完全記憶能力の類いだと疑われても違和感がないレベルだ。真っ向からやり合えば雄二なんて瞬殺だろう。

 

「馬鹿の雄二が学年首席の霧島さんに勝てるわけなぁぁっ!?」

「次は耳ぃぃぃっ!?」

 

 本音を口に出してしまったアキ君に雄二がカッターを投げつけ、それを後ろでキャッチした私が雄二の耳目掛けて投げつけた。

 何というか……今回は特に理由もなくやってしまったわ。

 

「……ま、まぁ、明久の言う通り翔子は強い。まともにやり合えば勝ち目はないといっていい」

 

 そこで認めるならカッターを投げた意味を教えてほしい。

 

「だが、それはDクラスやBクラスも同じだったはずだ。まともにやり合えば負けていた」

 

 何の策もなしにやり合えば負けるのはほぼ確定だったのだ。しかし、現に私達はこうして勝ち進んできている。

 今回も勝ち目がないのは同じである。だが、雄二はそんな現状を覆してクラスを勝利に導いてきた。否定する者は誰もいない。

 

「俺を信じて任せてくれ。かつて神童と言われた力を見せてやる!」

 

『おおぉぉぉーーーっ!!』

 

 全員、覚悟は決まったようだ。クラスの誰もが雄二を信じている。

 具体的な一騎討ちのやり方はフィールドを限定し、教科は日本史で挑むとのこと。内容も小学生レベル、方式は百点満点の上限あり。純粋な点数勝負になるわね。

 この場合、満点が前提になるから学力よりも注意力が優先される。たった一つのミスが敗北に繋がるというのもあり得るのだ。

 ……そう言えば、翔子はある問題を間違えて覚えていたわね。

 

「雄二」

「なんだ水瀬」

 

 これが正しければ、確かに雄二でも充分に勝ち目はある。

 

「彼女は日本史のある問題を絶対に間違える、とかだったり?」

「……その通りだ」

 

 雄二が冷静ながらも驚きの声を上げる。無理もないわね、自分と翔子だけが知っていることを第三者の私が知っているのだから。

 私がこの事を知ったのは本当に偶然だ。去年、暇潰しに翔子と日本史の復習をしていた時に間違えた答えが書いてあった。遠回しに確認もしたが訂正しようとはしなかったんだよね。

 

「して水瀬よ、その問題とは何なのじゃ?」

「『大化の改新』」

 

 秀吉にそう答えてから「だよね、雄二?」と確認を取る。彼も否定することなく頷いた。

 

「誰が何をしたのか説明しろ、とか? でも小学生レベルの問題で出てくるとは思えないし……」

「何年に起きた、とかかのう?」

「ビンゴだ秀吉。その年号を問う問題さえ出たら俺達の勝ちだ」

 

 翔子はその年号――大化の改新が起きた年号を正解の645年ではなく、625年と覚えてしまっている。大方、小学校時代の雄二が無事故の改新と掛けて覚えさせたんだろう。神童の数少ない穴であり、今回の突破口だ。

 ちなみにアキ君は以前、この問題を『()()()ウグイス、大化の改新』と覚えていた。だけど正解は『鳴くよウグイス、平安京』である。

 

「大化の改新が起きたのは645年だ。これは明久ですら間違えない」

「あはは……」

 

 私に指摘されるまで間違えていたとは口が裂けても言えないよね。

 

「だが翔子は確実に間違える。そうすれば俺達の勝ちが決定。晴れてこの教室とはおさらばだ」

 

 おさらばか……ちょっと寂しいなぁ。この卓袱台、結構気に入っているのに。

 しかし、ここまで来ると二人の関係性がどうなっているのか皆は知りたいはず。

 

「坂本君」

「ん?」

「霧島さんとは……仲が良いんですか?」

 

 ついに瑞希が聞いてしまった。やはり皆も気になってはいたらしく、絶対に聞き逃すまいと耳を傾けていた。一応、アキ君も含まれている。

 

「アイツとは幼馴染みだ」

「総員狙えぇぇっ!!」

「なぜ須川の号令で皆が一致団結して上履きを構えるんだ!?」

 

 引き金を引いた雄二に殺してやると言わんばかりに声を上げたのは須川だった。アキ君は苦笑いするだけで傍観を決め込んでいるようだ。

 まあ、ここでアキ君が動けば私との関係を暴露されるはずだしね。仕方ないよ。

 

「黙れ男の敵! Aクラスの前にキサマをあの世に送ってやる!」

「俺が一体何をした!?」

「遺言はそれだけか? ……待て横溝。靴下はまだ早い」

「了解です隊長」

「それを言うならお前ら、明久と水瀬も幼馴染みだぞ!?」

 

『何ぃぃぃっ!?』

 

 あ、バレた。

 

「おのれ雄二! キサマ僕を道連れにするつもりだな!?」

「当たり前だ! お前だけ大人しく逃げられると思ったら大間違いなんだよ!」

 

 二人は怒り狂うクラスメイトなど眼中にないのか、軽い言い争いから軽い取っ組み合いへと発展させていく。面白いわね。

 そんな状況なのに、瑞希は勇気を出してアキ君に話しかけた。

 

「よ、吉井君」

「何、姫路さん? 今ちょっと忙し――」

「吉井君は楓ちゃんじゃなくて、霧島さんが好みなんですか?」

 

 好みの話か。確かアキ君の好みは――

 

「そりゃあ美人だし」

 

 君は美少女なら誰でも良いというのか。それなら瑞希や島田さんもいるでしょうが。

 というか瑞希。君はなぜに私の名前を出したのかな? 幼馴染み=好みとでも思ったの?

 

「なんで姫路さんは僕に向かって構えているの!? それと美波、どうして君は教卓なんて危ないものを僕に投げようとしているの!?」

 

 昨日の屋上に匹敵するほどカオスな空間と化していく教室内。

 それに待ったを掛けたのは秀吉だった。さすがに冷静である。

 

「冷静に考えるが良い皆の衆。あの霧島翔子じゃぞ? いくら幼馴染みとはいえ男である雄二に興味があるとは思えん」

 

 その言葉を聞いて納得したのか、クラスメイトは落ち着き始めた。

 次に皆の視線はなぜか瑞希に向けられていた。彼女が一体何をしたというんだ。あと島田さんはどうした、島田さんは。

 

「とにかく、俺と翔子は幼馴染みで、小さな頃に間違えた答えを教えてしまったんだ。アイツは一度覚えたことは絶対に忘れない」

 

 まさに完全記憶能力。そうとは決まっていないが、断言しても問題はないレベルだ。

 でも今回、その記憶力の良さが突破口にされるとは思いもしないだろう。

 

「俺はそれを利用して勝つ。目指すは――」

『システムデスクだ!』

 

 そこまで欲しくはないなぁ、システムデスク。

 

 

 ★

 

 

「一騎討ち?」

「ああ。FクラスはAクラス代表に一騎討ちを申し込む。試召戦争としてな」

 

 もはや恒例となった宣戦布告。

 今回は代表である雄二を始め、私、アキ君、瑞希、秀吉、ムッツリーニとFクラスの首脳陣と言ってもいいメンバーでAクラスに来ている。

 それに対し、雄二と交渉のテーブルについているのは霧島翔子――ではなく、木下優子。秀吉の双子の姉だ。違いなどヘアピンの位置と……アレがあるかないかぐらいだろう。

 木下さんは訝しみながらも少しずつ話を進めていく。どうやらCクラスとの試召戦争は半日ほどで決着がついたらしい。

 

「Bクラスとやり合う気は?」

「それって……昨日来ていた()()……」

「そう、アレが代表のクラスだ。宣戦布告はされていないようだが」

 

 試召戦争の決まりの一つとして準備期間というものがある。簡単に言えば戦争に負けたクラスは三ヶ月間、自ら戦争を申し込めなくなるのだ。何でも試召戦争の泥沼化を防ぐための処置らしい。

 BクラスやDクラスとの戦争は対外的に『和平交渉にて終結』ということになっているため、両クラスをけしかける事だって可能である。

 

「うーん……その提案、受けるわ。代表が負けるなんてあり得ないからね」

「え? 本当に?」

 

 雄二が少し脅迫じみた事を言うと、意外にもあっさりと受けてくれた。さすがのAクラスも、女装趣味の代表がいるクラスと戦争するのは生理的に無理があるみたいね。

 しかし、そう簡単にはいかなかった。木下さんが一騎討ち五回を提案してきたのだ。先に三回勝った方の勝ちというシンプルなものだが、こうなるとこっちの勝率は低下してしまう。

 

「こっちから姫路が出てくるのを警戒しているんだな?」

「うん。でも、それだけじゃない。あなたもわかってるでしょう?」

「……水瀬か?」

「ええ――代表が一番警戒しているもの」

 

 木下さんが私を睨みながらそう答える。まさかあの翔子がそこまで私をマークするなんてね……さすがに予想外だよ。

 雄二は自分が出ると言うも、木下さんがその言葉を鵜呑みにしなかったので一騎討ち五回という条件を呑むこととなった。

 今度は勝負する内容はこっちで決めるという雄二の案に木下さんが悩んでいると、どこからともなく代表の霧島翔子が現れた。

 

「……その提案を受けてもいい」

「いいの代表?」

「……でも、条件がある」

 

 翔子は瑞希をじっくりと観察し、顔を雄二に向けて口を開く。

 ――その際、翔子が私を睨んでいたのは気のせいだと心底思いたい。

 

「……負けた方は何でも一つ言うことを聞く」

 

 それを聞いて勘違いしたムッツリーニがカメラの準備を始めた。落ち着きなさい。

 負ける気満々なムッツリーニをアキ君が止めている間に、木下さんの妥協案が得られた。

 勝負内容は五つの内、三つだけ選ばせてくれるというものである。

 交渉は成立、勝負する時間も決まったところで翔子が私に声を掛けてきた。

 

「……楓」

「何かな?」

「……あなただけは、絶対に勝たせない」

 

 どういう意味だ? 確かに科目次第で私に勝つことはできる。それに私が負けたところでFクラスの敗北が決まるわけじゃない。

 私はしばらくの間、その事で頭がいっぱいになっていた。

 

 

 

 

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