バカと私と召喚獣   作:勇忌煉

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最終問題

「次の方は?」

「あ、私ですっ」

 

 Aクラスとの一騎討ちも終盤を迎え、いよいよ瑞希が出陣する。

 私と違って彼女は穴のない万能型だ。大体の相手とやり合っても勝てるだろう。

 対するAクラスからは予想通りと言うべきか、現学年次席の久保利光が出てきた。

 彼は瑞希に次ぐ学年三位の実力者。しかし理由はどうであれ、今は学年次席だ。実際のところは瑞希とほぼ互角と言っていい。

 

「総合科目でお願いします」

 

 Aクラスが最後の科目選択権を使った。最初の選択権は私の時に使われているからね。

 特に空間がカオスになっているわけでもないので、それぞれの召喚獣が喚び出され――

 

 

『Aクラス 久保利光 VS Fクラス 姫路瑞希

  総合 3997点 VS 4409点    』

 

 

 一瞬で決着がついた。さっきのムッツリーニよりも早かったわね。

 そこら辺から驚愕の声が上がり、久保も悔しそうに瑞希になんでそんなに実力が上がったのかを尋ねていた。

 

「ひ、姫路さん……どうやってそこまでの実力を身につけたんだ……?」

 

 そんな久保の問いに、彼女が返した答えは『人のために一生懸命に頑張る皆がいる、このFクラスが好き。だから頑張れる』というものだった。

 アキ君達からすればこんなに嬉しいことはないだろう。一般的にはどうかと思うが。

 ともかく、これで二対二の振り出しだ。次の勝負で全てが決まる。

 

「最後の一人、どうぞ」

「……はい」

「俺だな」

 

 最後の勝負なので、言うまでもなく代表同士の対決になる。

 向こうからは最強の敵、霧島翔子。こちらからは坂本雄二。

 高橋先生が何の教科にするか雄二に問い、彼は私達に説明した通りのことを口にした。

 

「日本史の限定テスト対決。内容は小学生レベル、方式は百点満点の上限ありだ!」

 

 その宣言でAクラスがざわめくも、Fクラスは事前に知っていたこともあり落ち着いている。

 高橋先生は了承すると、問題を用意するために教室から出ていった。

 さてと……負け犬な私だけど、雄二に一声くらい掛けましょう。

 アキ君、ムッツリーニ、瑞希との会話が終わった雄二にシンプルな言葉を伝える。

 

「雄二。――いってこい」

「……ああ」

 

 彼は私の方に視線を向けると静かに、それでいて自信に満ちた返事をくれた。

 意外と早く戻ってきた高橋先生に代表二人は声を掛けられ、教室を出ていく。

 泣いても笑っても怒ってもこれが最後。決着と同時に試召戦争は終了だ。

 

「皆さんはモニターを見ていてください」

 

 壁のディスプレイに視聴覚室の様子が映し出され、雄二と翔子が席につく。

 日本史担当の飯田先生が軽く説明していき、二人に問題用紙を配る。

 

『では、始めてください』

 

 その掛け声と共に、二人は裏返しにされていた問題用紙を表にした。

 私達は静かにそれを見守る。やることが全くないからね。

 例の問題が出ていれば雄二の勝ち、出ていなければ翔子の勝ち。問題が出ていないか、ディスプレイに映し出されている問題に目を配っていく。

 

 

 (  )年 大化の改新

 

 

 あった。翔子があの問題を今も間違えて覚えているのなら雄二の勝ち。そうでなければ負け。

 後は雄二の学力次第である。彼が満点を採ればいいのだ。

 Fクラスの皆が歓喜の声を上げる中、テストが終了した。さーて結果は――

 

 

《日本史勝負 限定テスト 100点満点》

 

《Aクラス  霧島翔子     97点》

           VS

《Fクラス  坂本雄二     53点》

 

 

 Fクラスの卓袱台がシステムデスクではなく、みかん箱になった。

 

 

 ★

 

 

「「雄二ぃぃぃっ!!」」

 

 私とアキ君は怒りのあまり、叫びながら視聴覚室に殴り込みをかます。その後、すぐにFクラスの皆がなだれ込んできた。

 少し悔しそうに膝をつく雄二に、安定した無表情の翔子が歩み寄っている。

 

「……殺せ」

「良いだろう、望み通り殺してやる!」

「ぶべらっ!?」

 

 アキ君がそう宣言し、私が膝をついている雄二に踵落としを入れる。まだだ、まだ私は怒り足りないんだ……!

 

「雄二……テメエのせいで寝心地の良い卓袱台とおさらばじゃねえかゴラァ!!」

「ま、待て! それは勝ったとしても同じことだろ!? ていうか口調が変わってないか!?」

 

 卓袱台はもう、戻ってこない……もう二度と戻ってこないのよっ!

 

「吉井君、楓ちゃん、落ち着いてください!」

 

 追撃を加えようとするも、私とアキ君は後ろから瑞希に手首を掴まれた。

 放すんだ瑞希。このバカには死よりも恐ろしい制裁が必要なんだよ!

 

「53点ってなんだよ! この点数だと――」

「い、いかにも俺の全力だ……」

「「このアホがぁーっ!!」」

「少しは落ち着きなさいアンタ達! 水瀬さんはともかくアキ、アンタだったら30点も採れないでしょうが!?」

「三ヶ月前の僕だったら否定しない!」

「今は採れるんですか!?」

 

 まあ、私がある程度教え込んだからね。小学生レベルのテストで百点は楽勝だろう。

 まだまだ雄二をボコり足りないが、瑞希と島田さんがそれを許してくれない。やむを得ず、制裁は中断することにした。

 

「……雄二が小学生の問題だと油断していなかったら負けていた」

「まあな」

「……それに、形はどうであれ楓を倒せたのはかなり大きかった。こっちのモチベーション向上にも繋がったから」

 

 私からすればAクラスのモチベーションが向上しているようには見えなかったが、翔子がそう言うのなら間違いはないんだろう。

 雄二が惨めに図星になっているところで、翔子が例の『負けた方は何でも一つ言うことを聞く』という約束を切り出す。

 ムッツリーニがカメラの準備を始め、アキ君や他の皆がそれを一生懸命に手伝う中、翔子は呟くように言い放った。

 

「……雄二、私と付き合って」

 

 それは大胆かつストレートな告白だった。

 アキ君を含む他の皆は何が起きているのか状況を呑み込めず、唖然としている。

 私は去年、翔子から散々聞かされていたので一応知っていた。でもまさか、こういう形で雄二に交際を迫るとはね。彼女は雄二を一途に想っている。だから他の男には目もくれなかったのだ。

 

「拒否権は?」

「……ない。今からデートに行く」

「放せ! やっぱこの件はなかったことに――」

 

 威圧感溢れる翔子は雄二の首根っこを掴むと、女性のそれとは掛け離れた力で彼を引きずりながら、教室を出ていった。

 あまりの出来事に沈黙が訪れるも、一人の教師によってそれは打ち破られた。

 

「お遊びの時間は終わりだ」

「あ、鉄村先生」

「西村先生と呼べ」

 

 条件反射で返事をする私。その相手は生活指導を務める鉄人こと西村先生である。

 一体何しに来たのかと思ったが、鉄人の補習に関する説明と聞いてその疑問は吹っ飛んだ。

 

「まずは喜べ。お前らが戦争に負けたことで、今日よりFクラスの担任が福原先生から俺に変わることが決まった」

『何ぃっ!?』

 

 鉄人が担任になると宣言し、ほぼ同時にFクラス全員が悲鳴を上げる。

 なんせこの人は補習担当にして生活指導の鉄人。その厳しさは尋常じゃない。

 そんな鉄人が説教くさい説明を終えると、アキ君と私に視線を向けた。

 

「吉井、水瀬。お前らと坂本は念入りに監視してやる。なにせ開校以来初の《観察処分者》とA級戦犯だからな」

「そうはいきませんよ! 絶対に監視の目をかい潜って、楽しい学園生活を過ごしてみせます!」

「やれるものならやってみるんですね。どんな手段を使ってでも、今まで以上に刺激ある学園生活を送ってみせますから!」

「……お前らには悔い改めるという考えはないのか」

 

 私とアキ君のやる気のなさに呆れてため息をつく鉄人。それでも私の決意は揺るがない。

 ちなみに補習は明日から二時間ほど設けられるとのことだ。

 アキ君は島田さんにクレープという約束の件で捕まり、瑞希が話題にすら上がっていなかった映画鑑賞を引き出して二人に食らいついた。

 

「助けて楓! このままだと僕の生活費が消えて次の仕送りまで塩水一択になってしまう!」

「……アキ君。今回は諦めたら? それに今は両手に華だよ? もっと喜びなさい」

「食費が食費だから喜べないよ! こうなったら卒業式当日、伝説の木の下でトンファーを持って貴様を待つ!」

「そこは普通、私じゃなくて鉄人でしょうが」

「なぜ俺に白羽の矢を立てるんだお前は」

 

 その方が面白そうだから。

 

「楓のバカ! このまま無事に学園生活を送れると思うなよぉーっ!!」

 

 物騒な捨て台詞を残し、アキ君は島田さんと瑞希に連行されてしまった。

 やることがなくなった私も教室を後にし、どうやって鉄人(と補習)から逃れるか考えることにしたのだった。

 ……そうね、とりあえず秀吉の様子でも見に行きますか。

 

 

 

 


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