バカと私と召喚獣   作:勇忌煉

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バカと私とオリエンテーリング

 

「アキ君。何かやるみたいよ」

「え?」

 

 いつものようにギリギリの時間に登校した私は、教室の掲示板に貼られていた一枚の用紙を見て遅れてきたアキ君に伝える。

 そこには豪華商品を争奪戦で勝ち取る『オリエンテーリング大会』と書かれていた。文月学園主催らしい。

 その隣には景品が書かれた用紙が貼られていた。ふむふむ、景品は……

 

「…………へぇ」

 

 学食一年分の食券に新作ゲームの引換券、さらにはフィーとアインとノイン限定ストラップセットなど、なかなか豪華な内容だった。

 暇潰しにはちょうど良いわね。それにこの大会、Fクラス限定じゃなさそうだし。

 ちなみにアキ君は今、景品の中に限定ストラップセットがあると知って猫のように興奮している。お願いだから落ち着いて。

 

「これが学園内の地図じゃ」

「……私の目には大昔の宝島の地図に見えるのだけど」

 

 そう言いきれるほど、地図は古くさいものだった。にも関わらず、地図自体はかなり正確に描かれている。ちょっと腹立たしい。

 アキ君は地図を見てゲームの宝探しに例えていた。現実を見ようね。

 しかし、秀吉が山積みにされた試験問題の用紙を持ってきたことでアキ君の表情が変わった。

 どうやら試験の答えがチェックポイントの座標になっているらしく、その位置に隠してあるチケットが商品の引換券のようだ。

 

「テストが解けなきゃ貰えないじゃないかー!」

 

 そもそもどうやって入手しようとしていたのか心底気になるわ。ただで簡単に手に入れられるわけがないのに。

 それに加え早い者勝ちで、他のチームとぶつかったときは召喚獣勝負で奪い取るのもアリだとか。Fクラスには圧倒的に不利なゲームね。

 アキ君が何か考えていたようだが、担任の鉄人が来たので聞き出せなかった。

 

「何気に、オリエンテーリングのチーム分けを発表するぞ」

 

 そう言うと、鉄人は私達の名前が書かれた巻物みたいな用紙を黒板に貼った。

 えーっと私のチームは――

 

 

『水瀬楓 吉井明久 坂本雄二 木下秀吉』

 

『姫路瑞希 島田美波 土屋康太 須川亮』

 

 

 大丈夫だろうか、このチーム。

 

「問題児は一ヶ所に集めておいた。何をしでかすかわからんからな」

 

 それならどうしてムッツリーニだけ違うチームなのだろうか。

 おそらく鉄人なりに均等に分けたのね。というか私がアキ君や雄二と同列扱いなのはさすがにムカつく。秀吉は可愛いから許す。

 制限時間は放課後のチャイムが鳴るまでで、これもまた授業の一環らしい。

 

「不安で仕方がないわ」

 

 ちなみに服装は全員、体操服らしい。動きやすいからいいけどさ。

 秀吉はどこか顔がニヤついているが、アキ君と雄二は睨み合っていた。……心配だわ。

 

 

 ★

 

 

「問題は三問で一セットか……」

 

 私のチームは始まった直後に屋上を確保。今はチームの皆で考え込んでいる。

 一問目の答えがX座標、二問目がY座標、三問目がZ座標。最後の座標は高さを意味している。つまりそれをこの学校で言うなら何階にあるか、ということになるだろう。

 アキ君は選択問題だとわかるや否や得意気になり、いきなり鉛筆転がしを始めた。

 

「……一瞬でも期待した俺がバカだった」

「そもそも期待すること自体が間違いだよ」

 

 アキ君の説明によると三本の専用鉛筆があり、数学には今転がした『ストライカー・シグマⅤ』、現国には『プロブレムブレイカー』、歴史には『シャイニングアンサー』とのこと。

 彼が言うには正解率が高いらしいが、もしそうだとしたら『ストライカー・シグマⅤ』をぜひとも譲っていただきたい。

 ……アキ君。まさか君の人生はサイコロの結果に左右されてきたわけじゃないよね?

 

「唸れ! ストライカー・シグマⅤ!」

 

 アキ君は派手に叫ぶと、再び数学用の『ストライカー・シグマⅤ』を豪快に転がした。

 気のせいだろうか。脳内イメージだと物凄い勢いで巨大な鉛筆が転がるシーンに見える。

 鉛筆を転がし終わり、間違った答えをサラサラと書いていくアキ君。

 

「X座標、652! Y座標、237! Z座標、5! ターゲット発見! あそこだぁっ!」

「……空中じゃな」

「お前取ってこい」

「言っとくけど手伝わないよ」

 

 するとアキ君はあろうことか問題が間違ってると言い出した。間違ってるのは君の答えだよ。

 

『あったぁーっ!』

 

「ん?」

 

 グラウンドから喜びの声が上がったので見てみると、工藤さんと木下さん、そして翔子が商品の引換券を堀り当てていた。

 あの位置は……なるほど。X座標とY座標は合っていたのね。

 

「アキ君……それ頂戴!」

「ダメだよ!?」

 

 なぜだ。

 

「騙されるな水瀬。コイツが正解率高いと言っただけで実際はただの鉛筆だぞ」

 

 そっか……ただの鉛筆なのか。それなら仕方ないわね。諦めましょう。

 翔子達の会話に耳を傾けていると、どうやら翔子のお目当ての商品ではなかったらしく彼女だけ無反応だった。

 

「……今、悪寒がした」

 

 雄二も苦労が絶えないのね。

 

 

 ★

 

 

「砕け! プロブレムブレイカー!」

 

 現国用の『プロブレムブレイカー』を、アキ君ではなく私が転がすことになった。

 何というか、グラウンドから巨大な鉛筆が出てくるイメージね。

 そして導き出された答えを基に、私達はFクラスの教室にやって来た。

 

「何だろう?」

 

 そう言ってアキ君がみかん箱の下から取り出したのは小さなカゴだった。

 ……なぜだろう。嗅ぎ覚えのある臭いが漂っているのだけど。

 アキ君が『プロブレムブレイカー』を軽量化すべきか考えていると、たまたまやって来た瑞希とムッツリーニに出会った。

 二人は良い雰囲気になっているが、私としてはまずそのカゴから発せられる異常な気配に気づいた方がいいと思う。瑞希の話によれば、カゴに入っているのは手作りのシフォンケーキらしい。

 

「……ってまさか!?」

 

 そこでアキ君もようやく事の重大さに気づいたが、私達は瑞希に好かれている彼を犠牲にすることで頭がいっぱいになっていた。

 私も含め、その場にいた雄二達が一人ずつアキ君に別れの言葉を述べていくが、そこで瑞希がとんでもないことを言い出した。

 

「良かったら、皆さんで召し上がってください」

「「「「え……?」」」」

 

 まさかの殺る気宣言に思わず固まってしまう私達。そして瑞希は地獄への扉を開くかのように、シーツを取ってシフォンケーキを見せて一言。

 

「さあ、どうぞ」

 

 その一言に、私達は涙を流すしかなかった。

 

「あ……五人だと一つ足りませんね……」

「「「!?」」」

 

 間髪入れずに呟く瑞希。絶望的な状況の私達にわずかな希望の光が差し込んだ。

 シフォンケーキは全部で四つ……私達は五人。生き残れるのは一人だけ……!

 

「第一回!」(雄二の声)

「最強王者決定戦!」(アキ君の声)

「ガチンコジャンケン対決――っ!」(私の声)

「「イェーッ!」」(秀吉とムッツリーニの合いの手)

 

 直後、私達は西部劇のガンマンのように右手を構えた。負けたら……命はない……!

 

 

 ――しばらくお待ちください――

 

 

「…………」

 

 一分後。教室にはシフォンケーキを口に含み、力なく倒れた私とムッツリーニ、そして互いにシフォンケーキを口に押し込み合う雄二とアキ君の姿があった。生き残ったのは――

 

「…………(ガクガクガク)」

 

 教室の窓側で一人、震えながら体育座りをしている秀吉だ。

 一人だけ生き残るなんて癪だわ。ちょっとイタズラしてあげましょう。

 

「ひ、秀吉……」

「な、なんじゃ水瀬!?」

「あーん……!」

「むぐっ!?」

 

 最後の力を振り絞り、秀吉の口に食べかけのシフォンケーキをブチ込んだ。

 それがシフォンケーキだと気づいた秀吉だが、対処する前に倒れ込んでしまった。

 ……女の子に食べさせてもらえたんだから幸せに思いなさい。

 

 

 ★

 

 

「輝け! シャイニングアンサー!」

 

 歴史用の『シャイニングアンサー』を、今度は秀吉が転がしている。

 彼が転がすと魔法少女のイメージが浮かんでくるわね。可愛らしいこと。

 導き出された答えを頼りに、私達が向かったのは男子トイレだった。……私女子なんだけど。

 

「あったよ!」

 

 どうやら引換券の入ったカプセルを見つけたらしい。やっと一つ目……

 

「は、ハズレ!?」

 

 カプセルを開いた瞬間、出てきたのは『ハズレ』と書かれた一枚の紙だった。

 紙を破るアキ君をよそに、雄二が真面目に問題を解いていく。

 

「これでどうだ?」

「へぇ。珍しく真面目に解いたのね」

「一言余計だ」

 

 彼が持っていた解答を覗いてみると、アキ君のデタラメなそれとは違って正確に解かれている。

 

「不安だなぁ……大丈夫なの? 答えが違って変な場所に行くのはヤダよ?」

「「お前が言うな」」

 

 人のことを言えないアキ君は放っておき、私達は地図が示す場所へ向かう。

 数分ほど歩いてたどり着いたのは体育倉庫。するとアキ君が中にあった跳び箱へと駆け寄り、隠されていたカプセルを見つけ出した。

 カプセルの中身は……

 

「喫茶『ラ・ペディス』2000円分の商品券?」

 

 喫茶店の食券だった。なんだ、遊園地の無料券じゃないのか。

 もしも無料券なら雄二か翔子に譲るべきだが、これさえも嫌がった雄二は――

 

「――お前らで行ってこいっ!」

 

 などと言い出した。お前らとは私と秀吉のことだ。喫茶店か……。

 

「女の子同士で!?」

「ワシは男じゃ!」

 

 このあと秀吉と話し合った結果、食券は一応秀吉が持つことになった。

 

 

 ★

 

 

「これといった商品はなかったな」

 

 あれから問題も解けなかった雄二達は屋上に舞い戻っていた。

 ……これくらいならいけたわね。ちょっと真面目にやれば良かったかな?

 しかし、残っている問題は彼らにとっては難しいものばかりだ。

 

「それなら、手当たり次第に探し出す!」

 

 何かを思いついたのか、アキ君がいきなり叫んで試験問題を解いていく。

 その内容は、問題のX座標とY座標を全て塗り潰し、高さは自力で探すというまるでゲームの基本を再現したものだった。

 秀吉は戸惑っていたが、雄二はアキ君の意図に気づいて賛成した。もちろん私も賛成だ。

 

「俺は四階を回る。明久は三階、二階は秀吉、一階は水瀬が回れ!」

「「「了解!」」」

 

 バカにはバカなりのやり方がある。それで見つかるのならやるに越したことはない!

 

 

 ――二時間後――

 

 

「何にもなかったね……」

 

 あれから本当に手当たり次第に探し回ったが、引換券どころかカプセルすら見つからなかった。

 その過程で私の服装が、体操服から白のワンピースに変わっていたが気にしない。

 早く終わってほしいと思っていると、アキ君がやっとカプセルを見つけた。が、

 

「あら、秀吉じゃない」

「姉上!?」

 

 木下さんと工藤さん、そして翔子のチームとぶつかってしまった。

 確かルールによれば召喚獣勝負で奪い合うのもアリ……よし。

 

「「「試獣召喚(サ  モ  ン)!」」」

 

 

『Aクラス 霧島翔子 VS Fクラス 坂本雄二

  日本史 341点 VS  73点     』

 

『Aクラス 工藤愛子 VS Fクラス 吉井明久

  日本史 309点 VS  66点     』

 

『Aクラス 木下優子 VS Fクラス 木下秀吉

  日本史 322点 VS  54点     』

 

 

「不味いぞ明久。戦力が違――」

 

 

『Fクラス 水瀬楓

  日本史 505点』

 

 

「「「イケる!」」」

 

 今回の教科は日本史だ。数学じゃないのなら負けはしない!

 

「水瀬さん……!」

 

 木下さんが私の点数を見て苦しげな声を上げる。工藤さんも驚愕しており、翔子も珍しく顔を少し歪めていた。

 さてさて、それじゃあまずは木下さんからぶっ倒しましょう。借りを返してやる。

 

「いくわ――」

 

 

 キーンコーンカーンコーン

 

 

「――よ?」

「時間切れです」

 

 社会担当の福原先生はそう言うと、展開していた召喚フィールドを消してしまった。

 アキ君は手に入れた引換券を守れたことに喜んでいるが、私は素直に喜べない。

 

「リベンジぃ……!」

 

 試召戦争のリベンジがしたかった。あと、あと一分でも時間があればできたのに……!

 ちなみに彼が手に入れた引換券は例の限定ストラップのものだった。良かったわね。

 

 

 

 

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