バカと私と召喚獣   作:勇忌煉

16 / 53
清涼祭編
第一問


 

 私が通っている文月学園では『清涼祭』と呼ばれる行事の準備が始まっている。

 わかりやすく言えば他校の行事に例えるなら文化祭そのものだ。

 本校ならではの『試験召喚システム』を展示するクラスもあれば、普通に焼きそばの調理道具を手配するクラスもある。

 そんな大事な時期を迎えている中、我らがFクラスは――

 

「プレイボール!」

 

 校庭で野球をしていた。『清涼祭』の準備などそっちのけで。

 審判の秀吉の合図でプレイがスタート。とはいってもイニングは結構進んでるけど。

 

「いくよアキ君! 君のへなちょこバットには掠りすらさせないから!」

「言ってくれるじゃないか……! こうなったら意地でも打ってやる!」

 

 マウンドで軽く足で均し、キャッチャーである雄二のサインを確認する。

 

『次の球は』

 

 まずは球種ね。何を投げたら……いや、何を投げてもアキ君なら打ち取れるかな?

 さっきはシンカーで三振に仕留めたが、今度は違う球種で空振りを取ってみたい。

 

『カットボールを』

 

 これまた微妙に難しい球種が来たわね。高速スライダーならまだいけるけど――

 

『バッターの頭に』

 

 え? 頭? つまりビーンボール? それ変化球でやる必要なくない?

 他の人にやるならまだしも、アキ君にビーンボールはちょっと危ないなぁ。

 どうしようか迷っていると、秀吉の後ろに翔子が現れた。雄二は……気づいていない。

 

『雄二の 股間に ストレート』

 

 よしきた。

 

 

 ゴスッ

 

 

「うおおおおおおおッ!? なぜだ水瀬えぇええええッ!!」

 

 だって翔子のサインの方が的確でやりやすかったし、何よりアキ君を殺したくない。

 股間に直球を食らって悶絶している雄二に、チャンスと言わんばかりに翔子が声をかける。

 私はその間にアキ君からボールを受け取り、縫い目に支障がないか確認していく。

 

「……大変。雄二、保健室に行かないと」

「翔子!? なんでお前がいるんだ!?」

 

 雄二、その子が見敵必殺とも言えるサインを出した張本人だよ。

 雄二が大丈夫だと声を荒々しく叫ぶと、翔子がこっちを向いてもう一度サインを出してきた。

 

『楓 もう一度 同じところに』

「お前のせいかこんちくしょう!!」

 

 

 ゴスッ

 

 

「ぐおおおおおおッ!? 水瀬テメエえぇええええええッ!!」

 

 私は悪くない。翔子の的確なサインに従っただけなのだから。

 股間を押さえて悶絶する雄二と何がなんでも彼を保健室に連れていきたい翔子の夫婦漫才を鑑賞していると、物凄い勢いで走ってくる巨人のような何かが目に入った。

 

「貴様ら、何をサボっているか!」

 

 巨人ではなく鉄人だった。

 

「皆! 散らばるんだ!」

 

 アキ君の指示を聞いたクラスメイトが蟻のように散らばり、私はアキ君と復活した雄二の三人グループで逃げている。

 それにしても相変わらず速いわね。全然振り切れないし、距離もだんだん縮まってきてるし。

 

「吉井! またお前か!」

「違いますよ! クラス代表の雄二と楓が野球を提案したんです! どうしていつも僕を目の敵にするんですか!?」

 

 それは君の日頃の行いが悪いからだと思う。というかこの幼馴染み、私のせいにしやがったよ。

 とりあえず雄二の方を見てみると、

 

『フォークを 鉄人の 股間に』

 

 などとアキ君にサインを出していた。変化球よりも直球の方が球威はあるよ?

 アキ君は違うそうじゃないと叫ぶと、今度は私の方に振り向いた。何をさせる気だ?

 

「楓! 今頼れるのは君だけだ!」

「任せてアキ君!」

 

 私はそれを快く承諾し、ほんの少し考えてから雄二と同じようにサインを出した。

 

『ツーシームを 鉄人の 股間に』

「ストレート系の変化球なら良いってわけじゃないんだよ!」

「全員教室へ戻れ! この時期になっても『清涼祭』の出し物が決まっていないのは、Fクラスだけだぞ!?」

 

 鉄人の魂の恫喝が響き、必死に逃げていた私達はみかん箱のある教室へと連れ戻された。

 ちなみに翔子は鉄人の登場と共に姿を消していた。なんか地味に怖いわね。

 

 

 ★

 

 

「さてと。春の学園祭、『清涼祭』の出し物についてだが――とりあえず議事進行と実行委員に誰かを任命する。全権を委ねるから後は任せた」

 

 良いところで野球を中断されて連れ戻された後、代表の雄二は心底どうでも良さそうな態度でそう言うと、眠いのかあくびをし出した。

 正直に言うと、私も学園祭にはそこまで興味がない。だからさっき雄二と共に野球を提案したのだ。その方が楽しそうだったし。ほら、こういう時期に堂々とサボって野球をするのってなんか刺激的だと思わない?

 せっかくなので私も寝ようとみかん箱に突っ伏そうとしたら、Fクラスの清涼剤である姫路瑞希が少し暗い表情で話しかけてきた。

 

「あの……楓ちゃんも学園祭には興味がないんですか?」

「ない。私としてはさっきの続きをやりたいわね。あそこで鉄人が止めていなければ三振が八つに増えていたというのに……!」

「それ僕が三振するの前提になってない?」

 

 当然である。

 

「そ、そうなんですか……」

 

 瑞希はさらに暗い表情になってしまった。これ私のせいじゃないよね?

 その瑞希で思い出したが、最近彼女はよく咳をしている。この教室の環境の悪さが原因だろう。

 学園祭実行委員に島田さんが選ばれたが、彼女は瑞希と組んで『試験召喚大会』という企画に参加するので困るとのこと。すると雄二は副実行委員を選出すると言い出した。

 島田さんも、その副実行委員次第で良いらしい。絶対にアキ君が選ばれるんだろうけど。

 

『吉井だろ』

『いや坂本がいいかと』

『姫路さんと結婚したい』

『水瀬さんと付き合いたい』

『あえての須川で』

 

 そろそろキレても良いかなと心底思う。

 

「ワシは明久が適任じゃと思うがの……」

 

 木下秀吉からアキ君に清き一票が投じられたが、当のアキ君は面倒だとパス宣言した。

 そりゃそうだ。面倒な役をわざわざ引き受ける理由などないのだから。

 

「じゃあ島田。今挙がった連中から二人選んでくれ」

「それじゃあ……」

 

 島田さんは唸るように考えながら、ボロボロの黒板に候補者の名前を書き連ねた。

 

『候補①……吉井』

『候補②……水瀬』

 

 待てやコラ。

 

『あの二人か。どうする?』

『水瀬さんはともかく、吉井はクズだからなぁ』

『けど水瀬さんには負担を掛けられないから吉井で良くね?』

『そうだな。吉井ならどうなっても良いしな』

 

 私が選ばれないことには感謝だけど人の幼馴染みを酷く貶すのはやめてもらいたい。

 まっ、こんなクラスメイト達の意見もあって副実行委員はアキ君に決定した。

 とりあえず寝よう。寝て起きたら本でも読んで知識を溜めましょう。さっそくみかん箱に突っ伏し、現状を把握しようと耳だけを傾ける。

 聞こえてきたのはムッツリーニのボソリとした声と横溝の下心丸出しな声、そしてお前誰だと疑われるほどガチな熱弁をかます須川の声だった。

 

「お前ら、清涼祭の出し物は決まったか?」

 

 鉄人の声が聞こえたので一旦顔を上げる。そういえばあの人はこのクラスの担任だったわね。

 

「今、候補が三つ挙がっています」

 

【候補① 写真館『秘密の覗き部屋』】

【候補② ウエディング喫茶『人生の墓場』】

【候補③ 中華喫茶『ヨーロピアン』】

 

 どうしてこうなった。

 

「……補習の時間を倍にした方が良いかもしれんな」

『ち、違うんです先生!』

『僕らじゃなくて、吉井がバカなんです!』

『吉井が勝手に書いただけなんです!』

 

 酷い言われようである。主にアキ君が。

 

「馬鹿者! みっともない言い訳はやめろ!」

 

 鉄人はクラスメイト全員の抗弁を一喝して黙らせる。やっぱりちゃんとした教師なんだね。

 

「先生はバカな吉井を選んだこと自体が頭の悪い行動だと言っているんだ!」

 

 事実とはいえこれまた酷い。私だったら問答無用でガチギレしていたところだ。

 そんな発言をかました鉄人は、稼ぎを出せばクラスの設備を向上させられると言い出した。

 ちょっと嬉しい知らせではあるが、私としては卓袱台で事足りるので活気はつかない。

 その知らせを聞いたクラスメイトの活気はどんどん溢れていき、色々な意見が飛び交い始めた。

 ……うん、寝ましょう。

 

「ねぇアキ、坂本か水瀬さんを引っ張り出せない?」

 

 あまりにもまとまりが悪いクラスメイトを見てアキ君に耳打ちをしてるっぽい島田さん。

 私は人より聴覚が良い方なので多少のコソコソ話も聞き取れる。

 まあそれは置いといて、どうして私の名前が出たのか凄く気になるわ。

 

「無理だと思うよ。雄二は興味のないことにはめちゃくちゃ冷たいし、楓も刺激的だと思ったことでないと動こうとしないから」

 

 アキ君の言う通り、私は私の基準で刺激的かどうかを決めている。学園祭だからといって動くわけではないのだ。

 業を煮やした島田さんによりクラスメイトが無理やり動かされた結果、

 

「Fクラスの出し物は中華喫茶に決定!」

 

 あっさりと出し物が決まってしまった。この連中を動かすなんて凄いわね。

 言い出しっぺの須川とムッツリーニがお茶と飲茶を引き受けることが決まり、それ以外は厨房班とホール班に分かれることになった。

 

「私は厨房班に――」

「瑞希はホールじゃぁぁぁぁぁっ!!」

「ひぃっ!?」

 

 瑞希の死の宣言を聞いた瞬間、私は条件反射でそう叫んでいた。

 

「ど、どうしてですか?」

「ほ、ほら、姫路さんは可愛いから接客した方がお店として利益が――」

「ここっ!」

 

 私に代わってアキ君が必死に理由を説明していたところに背後から島田さんが彼を殴ろうと拳を突き出したので止めさせてもらった。悪いけど、私の前で奇襲は許さないよ。

 

「か、可愛いだなんて……。そういうことならホール班()()頑張り――」

「ホール班()()で頑張りなさい」

「…………は、はい」

 

 しょんぼりしている瑞希には悪いが、あんな劇物を客に食わせるわけにはいかない。下手すれば死人が出るからね。

 

「あ、私は名目上だけど厨房班にしといて。見た目がこんなんだからホールは無理だし」

「うん。でも、それなら前髪を退かせば――」

「アキ君。地獄突きって痛いのよ?」

「何でもないです」

 

 私の生命線である前髪を退かすなんて冗談じゃない。それにあくまでも名目上。別に参加したいわけじゃないし、何より刺激が足りない。

 もっとこう、今回の件で革命が起こせる的な刺激がほしいのよ。

 

「ワシも厨房にしようかの!」

「気合いを入れているところ悪いけど秀吉はホールの方がみぎゃあぁっ! 腰骨がぁ!?」

「……ウチもホールにするわ」

「そこは両方引き受けなさいよ」

 

 君は料理できるんだから。……アキ君、腰骨が無事で良かったわね。

 さてと、学園祭の出し物とその当番も決まったところで……寝る! とりあえず寝るわよっ!

 

 

 

 




 バカテスト 『清涼祭』アンケート

 学園祭の出し物を決めるためのアンケートにご協力ください。
『あなたが今欲しいものはなんですか?』



 姫路瑞希の答え
『クラスメイトとの思い出』

 教師のコメント
 なるほど。そういった出し物も良いかもしれませんね。写真館とかも候補になりそうです。


 土屋康太の答え
『Hな――成人向けの写真集』

 教師のコメント
 書き直したことに意味はあるのでしょうか。


 吉井明久の答え
『カロリー』

 教師のコメント
 この回答に君の生命の危機が感じられます。


 水瀬楓の答え
『刺激』

 教師のコメント
 ……程々にお願いします。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。